天の神を退けた後のお話です。
会話描写が多くなる事をご了承ください。
神世紀301年春--
今日も今日とて勇者部に明るい声がこだまする。
香澄「戸山香澄、ただいま到着しましたーーーー!」
沙綾「同じく、山吹沙綾到着だよ。」
りみ「あっ、香澄ちゃん、沙綾ちゃん。こんにちは。」
香澄「こんにちはー。りみりん"部長"!」
沙綾「今日もよろしくね。"部長"。」
りみ「あぅ~中々慣れないよ、その呼び方……。」
ゆりが卒業し勇者部の部長は妹であるりみが引き継いだのである。
沙綾「部長就任おめでと、りみりん。」
沙綾が少し笑ってりみに言った。
香澄「そして、有咲が副部長になったんだよね。」
香澄はそう言いながら有咲を見る。
有咲「まー、任されたからにはちゃんと補佐すっから。」
りみ「頼りにしてるよ、有咲ちゃん。」
有咲「でも、りみも頑張んないとだぞ。どうせだったら最高の部長を目指さないとな。」
有咲の目は輝いていた。
沙綾「うんうん、私も手伝うよ。」
沙綾も嬉しそうに乗っかる。
りみ「が、がんばります……。」
たえ「あははっ、りみが大変だ。」
少し離れた所で、たえが笑っている。
りみ「おたえちゃん……。なんだったら、変わってくれても良いんだよ?」
たえ「ん?それは私が次期部長って事?」
りみ「先代勇者のリーダーだったって言ってたし…。」
りみが言っている事は神世紀298年--
小学6年生だった頃にたえ、沙綾、そして夏希の3人が御役目をしていた頃の話である。その時、勇者部部室のドアが開いた。
ゆり「ダメだよ、りみ。」
りみ「あっ、お姉ちゃん。」
そこに入って来たのはりみの姉、前部長のゆりであった。
りみ「ねぇ、お姉ちゃん。本当に勇者部の部長は私で良かったのかな?」
ゆり「その質問はもう20回目だよ。」
りみ「うぅ~だってぇ~。」
ゆり「こんな状態でしょ。たえちゃんや有咲ちゃんは、大赦からの呼び出しが多いでしょ。」
勇者部の活躍で天の神が打倒され、神樹もいなくなった。そして四国外の世界は西暦時代の状態のまま元に戻った為、大赦はその後の対策に追われているのである。
たえ「うん、今夜も行くよ。」
ゆり「香澄ちゃんは身体の検査が時々あるし。」
香澄「みんなのお陰で、健康面は今のところ問題無しだよ。」
沙綾「良かったね、香澄。」
香澄「ホント、健康に有難みを感じる1年だったよ。」
大満開--
香澄が使った満開を超えた満開--
その力は未知数の為、香澄は時々大赦の病院へ検査に行っているのである。
ゆり「沙綾ちゃんは………沙綾ちゃんだし。」
沙綾「あははっ、私が部長よりはりみりんの方が良いと思います。人をまとめる事って難しいし……小学生の頃に痛い程経験したから。」
沙綾も3年前に御役目をやっていた際、他の2人をまとめるのに苦労した事があり、それを機に支える方に徹するようになったのである。
ゆり「こんな感じで言うと、消去法みたいに聞こえちゃうけど、私はりみの秘められた才能を買ってるんだよ。」
沙綾「実際ここで慣れておけば、私達が卒業した後、楽になると思うよ。」
ゆり「とは言え身内を指名したからには、こっちも責任重大だよ。ちゃんとやってるかしっかり見ておかないとね。」
ゆりはりみに近付きまじまじと見つめる。
りみ「ち、近いよお姉ちゃん~。」
少し経ったところで、有咲が口を開く。
有咲「で、だから毎日部室に顔出してるって事?」
ゆり「そうなるね。」
有咲「………。」
ゆり「まぁ、新部長も新副部長も安心してね。高校始まってからも私、たびたび来るから。」
有咲「まっ、いないと落ち着かないかもな。」
香澄「神樹様がいなくなっても、みんな変わらなくて良いね。」
香澄はみんなの笑顔を見ながらそう言った。
有咲(……そう。神樹様はいなくなった。あの後の混乱はすさまじいものだった。)
有咲は笑顔の裏で、あの日の事を思い出す--
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天の神が倒されてすぐの頃--
テレビ「大火災より1週間、消火活動は今も続いております。長引く避難所生活で住民の疲労も蓄積しており、今後の対応が取られています。」
テレビ「ご覧ください、廃墟、廃墟、廃墟。本州に人間の気配はありません!」
テレビではこの様な報道が後をたたなかった。
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りみ「報道された本州の廃墟、凄かったよね、有咲ちゃん。」
有咲「そうだな。あそこまで壊滅的にやられてたとはな。」
ゆり「改めて感じるね…。西暦の時代は大変なんてものじゃなかったって事を。」
香澄「でも、炎の海は無くなった訳だし!」
沙綾「神樹様が行う樹海化と同じ理屈を、天の神は大規模に壁の外でやっていた…だから天の神が退いた後に神樹様が理を再び書き換える事が出来たんだよね……。」
沙綾は外が元に戻った理由を詳しく説明する。
有咲「物理的に炎の海になるまで破壊されてたら、復興なんて夢のまた夢だった……。そこはある意味で良かったのかもな。」
そこへ、ゆりが疑問を投げかける。
ゆり「ん?でも待って。樹海化が終わった後に生きていた人たちは普通に戻ってきたんだから……同じ原理で、炎の海にされる時に生きていた人がいたのなら、元に戻ってる可能性はないのかな?」
その疑問にたえが答える。
たえ「炎の海にされる前に、四国の外は全滅状態だって言われてる…その状況で生き残りがいたかどうかは難しいかも。」
ゆり「そっか……。」
ゆりは肩を落とす。
たえ「だけど、希望はあるかも。今は壁の外に魚や鳥がいるかどうか調査しているみたいだけど…。」
たえの話の途中で香澄が入ってきた。
香澄「もしかしたら別の地域で、別の神様に守られていた場所だってあるかもしれないよ。」
有咲「これからは、そういう人を見つける為にも少しずつ本州へ戻っていくみたいだぞ。」
たえ「"スクラップ&ビルド"。再興しましょうっていうのが今のスローガンだよ。」
たえが両手を広げながら言う。
ゆり「混乱も落ち着いてきたし、良かったよ。」
沙綾「インフラが当分はどうにかなるって分かった事が一番大きいね。神樹様の亡骸から色々と抽出出来るみたい。」
ゆり「最後の最後まで人間の見方をした……って事なのかな神樹様は。」
りみ「これから大変とはいえ、めでたしめでたし……に見えるけど、天の神はもう来ないと良いなぁ。」
そう言いながらりみは少し震えた。
香澄「だねぇ…。」
沙綾「その事で、大赦の人と話してみたんだけど…。」
そこに沙綾が入ってきた。
ゆり「大赦の……その人って、香澄ちゃんが神婚する時に英霊之碑で私たちと一緒にいた人の事?」
沙綾「はい。その人は、私とおたえの元担任だった安芸先生です。」
安芸先生--
3年前は神樹館小学校の教師であり、1年前は防人と呼ばれる部隊の監督だった者である。
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英霊之碑--
安芸「あなた達の活躍で天の神を撤退させる事に成功しました。状況的には詰みに近かった…。神樹様の寿命が近付き、もう時間が無い中で、防人というシステムを作り、"国造り"による逆転を狙ったのですが…。」
沙綾「"国造り"…類感呪術と呼ぶものの一種だって聞きましたけど…。」
安芸「神樹様の一部である土地神の一柱を、旧近畿地方にあった霊山に祀る儀式。神代の時代に、土地神の王が同じ事を行いました。すると、この国は豊かに葦が生い茂り、瑞々しく稲穂が実る土地--
沙綾「土地神の王……神樹様の中心となってた神ですね。」
安芸「色々と学んだようですね……。」
安芸は沙綾の知識に感心する。
沙綾「友達が祟られれば、調べもしますよ。香澄を神樹様から取り返す時も、呪的逃走なら逃げられるかも、とか色々考えてましたし。」
安芸「そうですか……。話が逸れましたね。天の神そのものが顕現するという驚きの事態で、その国造りの計画も頓挫してしまった。しかし古来、不利な戦を覆す逆転の一手として、大将の首を狙う、というものがあります。神婚を行う事によって天の神を激怒させ、我ら陣地深くまで誘き出し、そこに痛手を食らわせる事が出来た。総大将の敗北で、敵は撤退。その隙に、炎の海は神樹様の手で元の世界に書き換えた。」
沙綾「何だか、そう言うと全部計算通りに聞こえますけど…結果そうなってるだけの気が……。」
大赦全体にそういう思惑があったかどうかは今になっては誰にも分からない。
安芸「そうですね…。大赦としては神婚という結論を出していました。でも……人は人として生きる道を選んだ。天の神はいなくなった訳ではありません。同じ様に土地神様もいなくなった訳ではありません。天の神は、天より我らを見ているでしょう。何かまた神の怒りに触れるような事があれば、再びやって来るかもしれません。また土地神様も、風と水と土と、万物に宿り私達を見守ってくれる事でしょう。」
沙綾「天の神の怒りは……人が神に近付き過ぎた為なんでしょうか?」
安芸「神婚であそこまで怒るという事はそうなんでしょう。」
沙綾「どうすれば再度攻められないんでしょうか?」
安芸「人として、真っ当に生きれば良いんではないでしょうか。勇者と巫女の力を併せ持つ者は救世主となりてこの状況を打破する…古の予言の通りとなりましたね。」
沙綾「私はただ、友達を助けただけです。いつもいつも助けてくれた、大切な友達を……。」
安芸「それで良いんです。私達は仮面を外します。今度は、私達大人が責任を取る番です……。」
沙綾「先生……。」
そう言うと、安芸は沙綾に背中を向けて去っていったのだった。
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勇者部部室--
沙綾「という感じだったよ。」
たえ「私と話した時もそんな感じだった。だけど、こんな会話もあったな。」
たえも安芸先生と話した事を思い出す--
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大赦本部--
安芸「こちらから1つ聞いても良いですか?」
たえ「何でもどうぞ。」
安芸「ある日突然、御役目として多くの料理を出された事があったのですが…。」
たえ「あぁ、それは私が祀られて動けない時に、働いている先生に差し入れをって思ったから。」
安芸「そうだったんですか……。」
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たえ「なんて会話もしてたよ。」
沙綾「おたえ、そんな事してたんだね。」
ゆり「沙綾ちゃんの会話で終わってたら、これからは大人が責任をとるってカッコいい言葉で終わってたのに……。」
ゆりが肩を落とした。
りみ「私達以外に、大変な御役目を背負っていた人達は無事なのかな?」
有咲「大丈夫だよ、りみ。防人って呼ばれてた連中だろ。あいつらも色々大変らしいけど、補佐してた巫女含めてちゃんと全員生きてるし、元気にやってるぞ。」
そう言いながら有咲は少し笑っていた。
ゆり「それを聞いた時はホッとしたよね。」
有咲「天の神が来た時には、私らとは別の場所で戦ってたみたい。私たちの様な直接戦闘じゃ無いけど。」
ゆり「最後の敵、辺り一面覆ってたからね…。」
香澄「みんな、頑張ってたんだね……。」
有咲「今度会って、ゆっくり話してみるつもり。」
りみ「でも良かったね。こうして色々と明るい話になって。」
りみが笑う。
沙綾「今までが大変過ぎたんだよ、りみりん。これからは明るくないと。」
沙綾が笑う。
ゆり「よし!!気持ちを新たにする意味で、勇者部6箇条いってみよう!」
ゆりが笑う。
香澄「良いですねー!やりましょう!!」
香澄が笑う。
たえ「何かこういうのって良いね。」
たえが笑う。
りみ「挨拶はきちんと!」
有咲「なるべく諦めない!」
たえ「よく寝て、よく食べる!」
ゆり「悩んだら相談!」
沙綾「成せば大抵なんとかなる!」
香澄「無理せずちゃんと自分も幸せである!!」
ゆり「よーし!それじゃあ部長、本日の指示出してどうぞ!私も手伝うよ。」
りみ「え、えーと…それでは今日も、復興のボランティアに向かいます。」
全員「「「おーーーー!!!!」」」
勇者部は今日も続いていく--