ここで出てくるのはとある名家のお話--
"氷河家"の漢字が違うのは仕様です。後々明らかになります。
ある日の事--
香澄達勇者部6人は、いなくなった猫を探して山の深くまで探しに来ていた。そこであんな事が起きるとは、誰も想像していなかったのである--
とある山中--
有咲「最近、いなくなった動物の捜索依頼が多いな。」
りみ「動物達も何か感じるものがあるんじゃないかな……まるで何かから、逃げているような…。」
ゆり「こらこら、りみ。怖い事を言うのは止めて。」
沙綾「目撃情報を分析すると、この奥が怪しいけど…どうしましょうか先輩?」
ゆり「山の中かぁ……あんまり深入りすると危ないしね。」
香澄「行くだけ行ってみて、日が暮れる前に戻るっていうのはどうですか?」
香澄が提案する。
ゆり「うん、それが良いかもね。ここまで来たんだし、やるだけやろうか。」
こうして6人は山の奥へと進んでいった。
りみ「随分と奥まで来たね…。」
有咲「まだ電波は繋がるぞ。」
その時、微かな物音を香澄が察知する。
香澄「今何か物音が…。」
香澄は音のする方へ進んでいく。そこには--
香澄「あれ?洞窟があるよ。」
りみ「本当だ。大きい洞窟…。」
たえ「地図にはそんな事書いてないんだけどなぁ。」
たえはスマホを見ながら言った。
沙綾「猫が付近にいた形跡がありました。」
沙綾は洞窟の周りを調べ、ゆりに伝える。
ゆり「これはもしかして、洞窟に入っちゃったのかもね…。」
りみ「中に呼び掛けてみようかな。プリンちゃーーん。」
りみは洞窟に向かって大きな声で猫の名前を呼んだ。だが、反応は帰ってこず、りみの叫びが反響しているだけだった。
ゆり「これは…やむを得ないかもね。中に入って探してみようか。」
たえ「……。」
ゆり「どうしたの、たえちゃん。何か嫌な予感でもする?」
沙綾「おたえの直感は意外と頼りになりますから。」
たえ「んー嫌な感じというか、不思議な感じがします。」
有咲「なら、慎重にちょとだけ行ってみるか。」
香澄「洞窟に潜るなんて、まさに勇者!…でも。」
ゆり「はしゃがず、十分に気を付けて行こう。」
こうして6人は謎の洞窟へと足を踏み入れたのだった--
洞窟内--
香澄「おぉ、中は結構広いねー。」
ゆり「というか、これは人の手が入ってるね。」
ゆりの言う通り、壁には配線が通っており、中は明かりで照らされていた。
たえ「パイプとかも落ちてる。トンネルの工事現場かも。」
たえは落ちているパイプを拾って呟く。
有咲「ある意味、自然の洞窟より不気味だな。一体何があるってんだ。」
香澄「うーん…仔猫いないねぇ。」
香澄は周りを見回すも、それらしい姿はなかった。
沙綾「進んでみたい好奇心もあるけど、ゆり先輩…そろそろ。」
ゆり「そうだね。仔猫は心配だけど…大事をとって引き返そうか。」
ゆりの言葉で全員が引き返そうと後ろを振り返った時--
そこには得体のしれないものが、立っていた--
香澄「う、うわーーーーーーーー!?」
香澄は思わず叫び、すかざず有咲が最前線に立った。
有咲「なんだあれ!」
ゆり「こ、この雰囲気……バーテックスじゃない!」
りみ「なんだか、雰囲気的には精霊に近い…?」
りみの言葉に全員が納得する。
ゆり「精霊なら、一応味方……だよね。」
香澄「もしもーし、聞こえますか?私、戸山香澄って言います。敵意ありません。友達友達。」
?「………。」
香澄は声をかけるが、精霊のようなものは沈黙したままだったが、異形は何も言わずにいきなり襲い掛かってきたのである。
香澄「ちょ、ちょ……!」
有咲「こら!!なにすんだ!!」
有咲は鋭い蹴りをお見舞いし、異形は倒れてしまった。
有咲「お、おい…そこまでするつもりは……。」
だが、異形はすぐさま立ち上がり、ふわっと霧散してしまった。
ゆり「これは…小さい光の集合体?」
やがて、その光は散り散りになっていった。
沙綾「どうみても、霊的な存在…。」
沙綾は推測する。
たえ「人の手が入った洞窟。そして霊的な存在…これは大赦の何かだね。」
たえが言い放った。
ゆり「とにかくまずは出口まで行きましょう。」
そこへりみの声が響く。
りみ「お、お姉ちゃん!出口が扉で塞がれちゃってる!」
ゆり「なんですって……いつの間に。」
有咲「端末の電波は…くっ、全然繋がらねー。」
沙綾「私の改造型なら……ダメか。ギリギリ繋がらない。」
有咲「貸して沙綾。そっちが繋がる可能性高いなら、そっちで試し続けてみる。大赦絡みってなら身内に1人いるから。」
沙綾「分かった。お願い。」
沙綾は有咲に自分の端末を手渡した。
たえ「わー!また出たよ。」
たえの前にまたしても異形が現れた。
ゆり「ちょっと、あなた精霊じゃないの?こっちは戦う気ないの--。」
ゆりの言葉を遮って、異形が再び襲い掛かってきた。
ゆり「くっ……さっきより早い!?」
たえ「せやー!」
その時、たえが手に持っていたパイプで、異形を薙ぎ払った。そして再び、異形は霧散していく。
ゆり「あ、ありがとう、たえちゃん。」
たえ「うーん、手応えがない。それにバーテックスと違って今一つ殺気を感じないというか…。襲ってきてはいるんだけど。」
沙綾「霧散するにしても、バーテックスの様に天に還らないしね。」
有咲「何なんだコイツら…。」
ゆり「とりあえず、別の出口を探しましょう。」
6人は別の出口を探す為に、洞窟内を進んで行く。
香澄「おかしいな。怖い筈なのに、落ち着いてる私がいるよ。」
香澄がふとそんな事を呟いた。
ゆり「みんなバーテックス見てきてるからね…ん?」
ゆりが何かを見つける。
ゆり「今度は2匹!?」
そこにいたのは、横の穴から出てきている2匹の異形の姿だった。
香澄「何はともあれ説得開始!」
香澄は前へ出て異形に向かって話し出す。
香澄「はいはーい!仲良くなる為に、私たちは話し合いを……って、うわぁーーー!!」
異形は香澄の話に耳を傾ける事無く襲い掛かってきた。
たえ「また襲ってくる…。」
有咲「大丈夫、私達に任せろ!!」
たえと有咲が香澄の前に立ち、異形を迎撃する。
たえ「せいっ!」
有咲「たぁ!」
2人が、それぞれ異形を薙ぎ払い、そして異形は霧散していったが、またすぐに新しい異形が現れる。
有咲「意思疎通が出来ない奴等ばっかで困る。くっ、また来たか…!」
その時、異形から光の玉が発射された。
有咲「何か打ってきたぞ!?」
有咲はそれをギリギリで回避した。光の玉はそのまま壁にあたり壁を壊すでもなく消えてしまった。
有咲「…痛くはなさそうだけど。」
沙綾「遠距離型なら私が……それっ!!」
沙綾が有咲の前に出て異形に石を投げつける。石は次弾を打つ前の異形を粉砕し、霧散する。
りみ「また消えってったね。」
ゆり「それより、出て来る度に相手の攻撃がエスカレートしているような…。」
沙綾「そうですね、露骨に強くなっています。」
沙綾が異形を倒しながら答えたその時だった、
たえ「っ!!私、分かったかも。」
たえが何かを閃いた。
たえ「多分、これは訓練用の精霊なんじゃないかな?」
ゆり「そんなのがあるの?」
たえ「だって少しずつ難易度があがってくる……いかにもゲーム的でしょ?」
りみ「そう言われれば…確かに。」
たえ「それでいて、こっちを攻撃するけど、そこまで痛くなさそうなのが、トレーニングモード的な感じがするし。」
たえの推測は実に言い得て妙だった。
有咲「っ!兄貴に繋がった!!返信来たぞ!」
そこへ有咲がずっと試してきた端末の電波が繋がり、大赦にいる有咲の兄から返信が届いた。
有咲「詳しい事は後で説明するから、とりあえず出てきた異形は全部倒せだって。そうすれば、扉が開くみたいだ。」
たえ「やっぱ大赦絡みだったんだね。」
ゆり「遠慮なく戦える情報で良かった。」
その言葉を機に、異形がぞろぞろと集結し始めた。
有咲「相手もここぞとばかりに沢山出て来たぞ。」
たえ「よーし、やるよー。」
香澄「私も頑張るよー!!生身だって、私は勇者なんだから!」
そうして勇者部6人は異形を全て倒す為に戦い始めた。
洞窟外--
ゆり「はぁ、はぁ、はぁ、やっと出られた…。」
りみ「本当に全部倒したら、扉が開いたね、お姉ちゃん。」
香澄「ふー。………ん?」
香澄が一息ついてあたりを見回すと、そこには探していた仔猫がいた。
香澄「あー、見つけた!やった!!おいでおいで!!」
ゆり「不幸中の幸いって事かな。このまま撤退しよう。」
こうして仔猫を無事保護した勇者部一同は謎の洞窟を後にした。
翌日、勇者部部室--
事の真相は、大赦から話を聞いたたえによって明らかになる。
ゆり「本当にあれは、大赦の秘密訓練施設だったの!?」
ゆりが驚く。
たえ「そうみたい。ずっと昔に封印されたやつ。200年以上昔に、"赤嶺家"の人達が使ってたんだって。」
有咲「"赤嶺家"って……大赦内部じゃ中々有名な名家だな。」
"赤嶺家"--
神世紀72年に"氷河家"と共に大規模テロを解決したといわれる英雄の一族である。その大規模テロは一切の情報が載っていなく、"正常な思考を失ったカルト教団が、四国の全人民を巻き込んで集団自殺を図った"としか書かれていない。香澄たちが昨日足を踏み入れた場所は、その"赤嶺家"の人々がかつて使っていた訓練施設だったのである。
たえ「あの動いていたのは、精霊の一種みたい。」
香澄「やっぱり精霊だったんだ!」
沙綾「にしても物騒な話だね…。」
たえは説明を続ける。
たえ「入り口は厳重に封印してたみたいなんだけど、勇者の力に反応して開いちゃったんだね。」
りみ「ほっ…普通の人はそもそも入れない場所だったんだね。」
りみが安堵した。
ゆり「でも何者なんだろう…洞窟で訓練していた"赤嶺家"って。」
たえ「"赤嶺家"は治安を維持するのが御役目らしいよ。」
有咲「ああいう訓練施設を用意するんだから、よっぽどの事があったんだろうな。」
みんながそれぞれの不安や疑問を話す中、香澄だけは様子が違ってた。
香澄「不思議な場所だったなぁ…。」
ゆり「どのみち、もう封印されているから必要とはされてないんだろうけど。」
香澄「封印されてる……んだよね。なのに、あの精霊たち、中でずっと…可哀想だな…。」
たえ「もともと精霊は回収した筈なんだけど、今回まだ残ってた事が分かったんだって。ちゃんと対応するみたいだよ。」
香澄「そっか!なら良かったぁ!!」
沙綾「治安維持……か。色々な御役目があるんだね…。」
沙綾は御役目の多彩さに感心していた。
たえ「そうだ。大赦が、この事は内密にだって。」
ゆり「はいはい、いつものやつね。」
大赦のいつもの隠蔽体質にゆりは素っ気ない返事を返した。
有咲「ま、この件に関しては秘密の方が良いかもな。」
たえ「どのみち、さらに厳重に封印するらしいから、もう誰も入る事は出来ないよ。」
こうして香澄達の大冒険は、幕を閉じる。だが、あの場所で香澄ただ1人が"居心地が良かった"と、他のみんなとは違う感情を心の中で思っていたのだった--