戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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珍しい有咲とゆりのお話。


第3章も残り3話で終了です。





休む事の大切さ

 

 

ある日の街中--

 

ゆり「あれ、有咲ちゃん?」

 

ゆりは街中でばったりと有咲と出会った。

 

有咲「ああ、ゆりじゃねーか。」

 

ゆり「一応先輩なんだからね。」

 

有咲「はいはい。」

 

ゆりと有咲。一応先輩後輩なのであるが、その前に2人とも大赦の人間なのである。

 

ゆり「それにしても偶然だね。待ち合わせもしていないのに、こんな所で会うなんて。」

 

有咲「そんなに大きな街じゃないし、行動範囲も限られるから。」

 

ゆり「それで、有咲ちゃんは何やってたの?この休日中に。」

 

有咲「ちょっと海辺にね。あそこは場所も広いし、剣の訓練をするのに丁度いいから。」

 

有咲はいつもその砂浜で鍛錬をしているのである。

 

ゆり「……ダメだよ!!!」

 

突然ゆりが有咲を叱った。

 

有咲「な、なんだ急に!?」

 

ゆり「よし、有咲ちゃん。これから映画を観に行きましょう。」

 

ゆりは突然有咲に提案した。

 

有咲「は?」

 

ゆり「映画の割引チケットを貰ったんだけど、2人分あるの。私はこれから見に行こうと思ってたんだけど、1人分余っちゃうから。」

 

有咲「何で私が…りみと行けばいいだろ?」

 

ゆり「りみは今日クラスの友達と楽器の練習しに出かけてるんだよ。りみ、指が動かなくなった時ライブの手伝い断っちゃったでしょ。だから少しでもその時の恩を返すんだって張り切っててね。」

 

有咲「でも私、これからトレーニングが…。」

 

ゆり「良いから良いから!」

 

有咲「ち、ちょっと……。」

 

そんなこんなでゆりは有咲を半ば強引に連れて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

映画館--

 

有咲「結局、来てしまった…。」

 

ゆり「えっと…席は、こことここだね。イネスの映画館はもう少しスクリーンが大きいんだけどね。」

 

有咲「イネスって映画館もあるのか!?」

 

ゆり「有咲ちゃんは余り映画とか見ない?最近はこういうスタイルが多いんだよ。ショッピングモールと一体化してるの。後、入ってるものの凄さといえば、イネスには公民館だってあるんだから。」

 

有咲「ショッピングモールの中に公民館って…。」

 

有咲は驚きを通り越して、若干引いていた。

 

有咲「そう言えば、まだ何の映画見るか聞いてなかった。どんなの?」

 

ゆり「私もタイトルしか知らないんだよ。でも、1番の大ヒットらしいよ。確か…"あの日見た第六の君の名はまだ知らない"だったかな。」

 

有咲「タイトルから全く映画の内容が想像出来ない…。」

 

ゆり「恋愛ものだと思うけど、キャッチコピーが"全四国民が涙した愛の物語"だって。」

 

有咲「げっ、何で恋愛ものの映画なんて見ないといけないんだ…。」

 

ゆり「別に誰と見たって変わらないでしょ。デートじゃないんだから。」

 

有咲「ま、まぁ、そうだな…。そうだ…私はただチケットが余ってたから来ただけで、こんなテンプレなキャッチコピー使う下らない映画なんて見に来た訳じゃないんだから…。」

 

有咲は顔を赤くしながら早口で呟いた。

 

ゆり「あ、始まるよ。」

 

こうして映画が始まった--

 

 

 

 

 

 

上映後--

 

有咲「う、ぐずっ…良かった…。最後の最後であののどんでん返し…恋愛じゃないけど、精神科医と少年の愛の物語だった…。」

 

有咲は泣きながら映画の感想を話した。

 

ゆり「………。」

 

それに対し、ゆりは映画を見終わった後からずっと震えていた。

 

ゆり「あ…うう……。」

 

有咲「どうした、ゆり?」

 

ゆり「怖かった!!すっごく怖かった!!」

 

有咲にとって予想外の反応が返ってきた。

 

有咲「え、どこがだ?」

 

ゆり「だって、あの医者って実は幽霊だったんでしょ?あの子供に霊感があるからずっと普通の人に見えてただけで、実は幽霊!騙された…何が愛の物語よ…がっつりホラー映画じゃない!」

 

有咲「それは、あの医者と子供とがお互いの心の傷を清算する為に…。」

 

ゆり「でも幽霊だよ!?取り憑いてるだけでしょ!」

 

有咲「まぁ…それは否定出来ないけど。」

 

ゆり「うう…。」

 

ゆりは恐怖のあまり、有咲に体を密着させてきた。

 

有咲「ちょまっ…何私の顔触ってるんだよ!」

 

ゆり「有咲ちゃんはちゃんといるよね?実は、私にしか見えてない幽霊とかじゃないよね?」

 

有咲「んなわけあるかーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

10分後--

 

ゆり「ふぅ……。」

 

有咲「少しは落ち着いた?」

 

ゆり「何とか…。ごめんね、取り乱しちゃって。」

 

ゆりは平静を取り戻した。

 

有咲「それより、入場者特典で缶バッジ貰ったんだけど、私の分はりみにでもあげて。」

 

ゆり「いや…見た事無い映画の缶バッジ貰ってもしょうがないんじゃない?邪魔になる物でも無いから持って帰れば?」

 

有咲「…まぁ、そうだな。」

 

有咲は缶バッジをポケットにしまった。

 

ゆり「さて、これからどうしようか?まだお昼だし、時間あるね。」

 

有咲「じゃあ、せっかく商店街に来たんだし、私寄ってみたい所があるんだけど。」

 

ゆり「何か買うの?」

 

有咲「服を買いに行くの。」

 

ゆり「服!?ファッション!?あの有咲ちゃんが!?」

 

ゆりが驚くのも無理はない。有咲は常にラフな格好。特訓の時には上下ジャージが常なのだ。そんなゆりと有咲が話している少し向こうの方で、

 

沙綾「良い映画だったね、香澄。」

 

香澄「うん、最後はびっくりしたけど、泣いちゃったよ。」

 

香澄と沙綾が話していた。2人もゆりたちと同じ映画を見ていたようだった。

 

沙綾「あれ?あれはゆり先輩と有咲。」

 

沙綾が話している2人を見つける。

 

香澄「あ、本当だ!おーーーーい、ゆりせ--」

 

沙綾「ダメだよ!」

 

声をかける為に叫ぼうとした香澄の口を、沙綾は手で塞いだ。

 

香澄「もがっ!ど、どうしたの、急に口を押さえて…。」

 

沙綾「せっかく有咲がゆり先輩と親睦を深めてるんだから、ここは2人だけにしておこうよ。」

 

香澄「そうだね。有咲にはもっとみんなと仲良くなってほしいし。」

 

沙綾「じゃあ、私たちはお昼を食べて帰ろうか。この近くで美味しいうどん屋さん知ってるから。」

 

香澄「やったーー!さすがさーや!」

 

香澄と沙綾は2人が洋服屋に入ったのを見届けた後、お昼を食べに歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

ショッピング後--

 

有咲「うん。目的の服も買えたし、良かった。」

 

ゆり「……そうだよね…。」

 

喜ぶ有咲と反対に、ゆりはため息をついていた。

 

有咲「どうしたの?」

 

ゆり「服っていうか…単なるトレーニングウェアじゃない。」

 

有咲「もうすぐ寒くなる時期だから、冬用のを買っとかないとって思って。」

 

ゆり「えっと…トレーニングウェア以外の洋服は?」

 

有咲「ああ、去年のやつがまだ着れるから大丈夫だろ。」

 

ゆり「逆よ!普通は逆なんだよ!!」

 

有咲「え?」

 

ゆり「ちょっと来て!ちゃんとしたファッションショップに行くよ!」

 

有咲「な、何でだよ!?」

 

ゆりは再び有無を言わさず、有咲をファッションショップへと連れて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

ファッションショップ--

 

ゆり「ほら、これを着てみて!」

 

ゆりが有咲に洋服の試着を促す。

 

有咲「な、何だ!?急にこんな所に連れ込んで…。っていうかスカート!?そんなの動きにくいだろ…。」

 

ゆり「たまには女の子っぽい服装も良いよ。有咲ちゃんは素材が良いんだから。」

 

有咲「は、はあ!?な、何言って…。」

 

ゆり「同じ勇者部員としての贔屓目を抜きにしても、可愛いと思うよ。だから、たまにはこういう可愛い服も着てみたらどう?」

 

有咲「別にいいよ…。」

 

ゆり「全く…最近の勇者部は…"最新のトレーニングウェアは"じゃなくて"今年の最新コーデは"だよ普通は。」

 

有咲「別にどうでもいいだろ…。」

 

有咲の言い分を無視してゆりは話続ける。

 

ゆり「そうだ、ミニスカートはどう?あっ、でもこれからの時期は足を冷やさないようハイソックスかタイツは履いといた方がいいかな。」

 

有咲「やっぱり、去年の服でいいよ。」

 

ゆり「何でーーーー!」

 

 

 

 

 

 

ゆり「結局買わなかったね…。」

 

ゆりは肩を落としていた。

 

有咲「良いだろ、別に。さて、とりあえず私は目的を果たしたし…。」

 

ゆり「あっ、それじゃあこれから夕飯の買い物に行くから付き合ってくれないかな?」

 

有咲「オッケー。私も夕飯買っていかないといけなかったし。」

 

ゆり「有咲ちゃんの今日の晩ご飯は何なの?」

 

有咲「そうだな…コンビニ弁当はほとんど食べ尽くしたから、スーパーのお弁当かな。あと野菜ジュースも買わないと。」

 

ゆり「結局お弁当って事ね…。」

 

有咲「コンビニじゃなくてスーパーのお弁当はバリエーションが豊富で栄養も偏らないと思うな。」

 

ゆり「どっちもどっちだよ!」

 

2人は言い合いながらスーパーへと向かった。

 

 

 

 

 

 

帰り道--

 

ゆり「特売に間に合って良かった。」

 

ゆりは大満足だった。

 

有咲「なるほどな…私は荷物持ちって事か……。」

 

ゆり「それもあるかな。」

 

有咲「にしても、何で私がお弁当を買おうとしたら邪魔してくんだよ…。」

 

ゆり「有咲ちゃんもお弁当ばっかりじゃなくて自炊もしないと。」

 

有咲「どっちにしろ、今日食べるのは用意しないとダメだろー。仕方ないから出前でも取るかなー。」

 

ゆり「うちに来てよ。だから少し多めに材料買ったんだから。」

 

2人は牛込家へ向かった。

 

 

 

 

 

 

牛込宅--

 

ゆり「それじゃあ、準備するから待っててね。」

 

ゆりが夕飯の支度に取り掛かろうとした時、端末にメールが入る。

 

有咲「あっ、りみからのメールだ。」

 

りみ『お友達の家でご飯に誘われたんだけど、食べてきても良いかな?』

 

ゆりは返事を打ち込む。

 

ゆり「えーっと、『良いわよ。遅くなりすぎないうちに帰ってくるのよ。』っと。りみ、今日はご飯に要らないって。」

 

有咲「なら多めに材料買う必要無かったな。」

 

ゆり「いやー、どっちにしろ有咲ちゃんはりみより多く食べそうだし。」

 

有咲「食べる量じゃ、あんたに敵わねーよ…。」

 

そしてゆりは夕飯作りに取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

数分後--

 

有咲「…まだ出来ないの?」

 

ゆり「作り始めてそんなに経ってないよ。せめて30分は待ってて。」

 

有咲「料理って時間がかかるんだな。お弁当ならレンジで5分なのに…。」

 

ゆり「料理っていうのはこの待ち時間も楽しむものなんだよ。」

 

有咲「1、2、3……。」

 

有咲は突然その場でスクワットを始めた。

 

ゆり「何で急にスクワットを!?」

 

有咲「待ち時間何もしてないのは勿体ないから。」

 

ゆり「待ってる時くらい大人しくしてたら?」

 

完全にゆりは有咲の母親である。

 

有咲「…仕方ねー。」

 

 

 

 

 

 

夕食後--

 

有咲「ご馳走様でした。」

 

ゆり「お粗末様。有咲ちゃんって意外と礼儀作法はしっかりしてるよね。」

 

有咲「実家が結構厳しかったからかな。親に気に入られようと必死でやってた。」

 

ゆり「それなのに、何で先輩に敬語が使えないかな…。」

 

有咲「…使っても良いぞ。完璧に先輩として敬意と尊敬さを持って接しても。」

 

有咲は不敵に笑った。

 

ゆり「…やっぱり良いや。想像しただけで違和感が…。そんなの有咲ちゃんじゃない。」

 

有咲「そう言われるのも何か違う様な…。にしても、今日は何だかいつもとは違う1日を過ごしたな。」

 

ゆり「いつもと違うって?」

 

有咲「トレーニング、全然しなかった。休日は休んだ事なんて無かったのにな。」

 

ゆり「有咲ちゃん…自分で言った言葉に矛盾がある事に気付いてる?」

 

有咲「へ?」

 

ゆり「休日は、休むから休日なのよ。努力する事は美徳だけど、過ぎれば悪徳。無理に過酷すぎる生き方をしてたら、人間は心が歪んでいくの。強くなっても、心がボロボロになってたらどうにもならないでしょ。強くなる事よりも、心を健全に保つ事が重要!心が健全じゃない人は、むしろ力なんて持っちゃダメなんだよ。周りも自分も不幸にするんだからね。」

 

有咲「過酷すぎる生き方…か。」

 

ゆり「有咲ちゃんが勇者になるまでの生活については詳しく知らないけど、随分大変な訓練を受けてきたんでしょ?」

 

有咲「まあ…な。でも、ゆりの人生だって相当過酷だろ?小学生の時に両親を亡くすなんてさ。」

 

ゆり「私は、りみがいたから歪まずに生きて来られた。今の勇者部は、幸運にも誰も歪んでない…有咲ちゃんだって心身共に健康でいないとダメなんだからね!とにかく、無理せず気を張りすぎず、適度に自分に優しく生きる事!休日はちゃんと休んで、遊ぶ!」

 

有咲「はいはい、分かったよ。心を健全に…だな。」

 

 

 

 

 

 

有咲が帰った後の牛込家--

 

ゆり「って事があったんだ。」

 

ゆりは帰ってきたりみに今日あった事を話していた。

 

りみ「じゃあ、今日はずっと有咲ちゃんと一緒にいたんだね。」

 

ゆり「確かに。言われてみれば、朝から夜までずっと一緒だったかな。」

 

りみ「有咲ちゃんも大変だったんじゃないかな。お姉ちゃんに振り回されて。」

 

ゆり「別に振り回してた訳じゃないわよ。」

 

ゆり・りみ「「あははははっ!!!」」

 

 

2人の笑い声が部屋に響いた。

 

 

 


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