かつて助けた人が、別の命を育み、その子供がまた別の命を育む--
友希那はあの時未来を守ったのです。
樹海--
友希那「バーテックスの数がいつもより多い…。」
高嶋「何なの!?この数は!」
あこ「りんりん!」
燐子「目算で千以上…、今までの十倍ってところでしょうか…。」
紗夜「対してこちらは5人…。数で押されたら元も子もないです。」
5人は今までに無いバーテックスの大群に驚いていた。
友希那(リーダーである私が弱気になってどうするの!)
そう心で思い友希那はバーテックスの大群へ駆け出した。
友希那「私が先頭に立つわ!」
高嶋「友希那ちゃん!!」
友希那「ふっ!はっ!!」
友希那は修羅の如くバーテックスを次々に切り裂いていく。
友希那(敵陣の中心に自らが飛び込み、追従する者も共闘する者も要らない。大きな負担は私だけで充分!)
友希那「私が守る!」
友希那は1人敵陣を駆け巡る--
残った4人は--
高嶋「友希那ちゃん、1人で行ったけど大丈夫かな…。」
あこ「いつもの事だよ、香澄。」
高嶋「うーん。やっぱ心配だ!私行ってくる!」
紗夜「あっ、高嶋さん!」
紗夜の制止も聞かず、香澄は友希那の元へ飛び出した。
紗夜「……。」
紗夜は香澄が飛び出した方向を見つめ唇を噛み締めていた。
紗夜(湊さん…あなたは……。)
燐子「!?」
その時、スマホで敵の動向を探っていた燐子が何かに気付く。
燐子「バーテックスの動きが、止まった…!?」
あこ「神樹様への侵攻を止めたって事?」
あこが燐子に尋ねる。
燐子「違う…これは、まさか…。」
紗夜「どうしたんですか、白金さん。」
燐子「友希那さんが危ないです…!!」
友希那サイド--
戦闘の中心であるこちらでもバーテックスの動きが急に止まった事に友希那も気付き戦いの手を止めた。
友希那「敵の進行が止まった…?」
友希那は周りを見回す。他の4人とは随分離れたようだった。
友希那「…違うわね。大群の一部が他の4人を引きつけ、残りで私を取り囲んだのね……。」
バーテックスは"進化"する。それは攻撃面だけでは無い--
友希那「"戦術面での進化"…。まずは私を潰す気なのね…。」
バーテックスは勇者として突出している友希那を誘き出し、集中攻撃で最初に潰そうとしてきたのである。
紗夜、あこ、燐子サイド--
燐子「バーテックスは友希那さんを集中的に攻撃するつもりです…!」
紗夜「何ですって!?」
燐子「最初の進行で、私達の動きを止め…次に友希那さんをおびき寄せて分断させた…。」
あこ「そんな難しい事をバーテックスがやったって言うの?」
燐子「バーテックスは想像以上の速さで"進化"してるのかもしれない…。」
紗夜「!?じゃあ、高嶋さんが危ない!!」
紗夜が香澄を追いかけようとするが、
あこ・燐子・紗夜「「「!?」」」
そこへ別のバーテックスの群れが3人に襲いかかってきた。
あこ「まさか、コイツらあこ達の足止めしようってゆーの!?」
紗夜「くっ…これじゃあ高嶋さんを……。」
紗夜(気を付けて…高嶋さん。)
友希那サイド--
バーテックスが周りを含め一斉に友希那へ襲いかかってくる。
友希那「くっ!」
友希那は攻撃を躱しながら何とか戦線維持しているが、
友希那「ぐうぅぅ!」
流石の友希那でも全ては捌ききれずに、右ひじを噛まれてしまう。
友希那「この程度で…やられはしない!!」
友希那も負けずにバーテックスを倒して行くが、
友希那「うっ、しまった…っ!
友希那の意識外からバーテックスの攻撃が--
高嶋「勇者、パーーーーーンチ!!!!」
決まらなかった。
友希那「香澄!?」
敵陣を無理矢理通り抜け、ボロボロになった香澄が駆けつけて来たのだった。
高嶋「はぁはぁ…危ない…所だったね…はぁはぁ……。」
友希那「何故来たの!?私は1人でも戦える!!それよりも…。」
友希那には分からなかった。何故香澄がボロボロになってまで自分の所に来たのかが。だが、香澄は傷だらけの顔で笑って答える。
高嶋「友達だから。友達を放っておくなんて私には出来ないよ…。」
友希那は少し微笑んで呟いた。
友希那「友達……そうね…。」
友希那と香澄を取り囲むバーテックスの大群。だが、2人は自然と背中合わせになる。
友希那「香澄、必ず生き残るのよ。」
高嶋「友希那ちゃんもね。」
そう言うと、2人はバーテックスの大群へと向かっていった。
激闘が終わり、樹海に静けさが戻る。辺りにはバーテックスの無残な残骸が転がっていた。
友希那「はぁ…はぁ……。」
友希那はボロボロになりながら生大刀を杖代わりにし、肩で息をする程の状態ながらも全てのバーテックスを殲滅したのだった。
友希那「はぁ…他の、みんなは……?」
友希那は辺りを見回す。
友希那「!?」
紗夜、あこ、燐子サイド--
こちらも何とかバーテックスを退け、友希那と香澄に合流しようと鞭打ちながら走っていた。
あこ「紗夜さん、あんな傷だらけになりながらも凄い速さで走ってるよ…。」
燐子「そうだね…。それだけ2人が心配なのかもね…。」
紗夜は走り続けた。
紗夜(高嶋さん、無事でいてください…。
紗夜は遠くに人影を見つける。
紗夜「あれは…はっ!?」
友希那サイド--
友希那「香澄!!」
香澄は駆けつけた時よりもボロボロの状態で樹海に倒れていた。
友希那「香澄…。」
友希那は香澄を抱えた。その直後、
紗夜「高嶋さん!!!」
紗夜も香澄を見つけ合流し、少し遅れてあこと燐子も合流した。そして、樹海が消える--
4人は心に様々な感情を抱きながら現実の世界へ戻っていった。
病院--
香澄は集中治療室て眠っていた。友希那がガラス越しに香澄の様子を見ている。そこに検査を終えた3人とリサがやって来た。
紗夜「これが…あなたの引き起こした結果です。」
紗夜は点滴を持ちながら友希那に詰め寄る。
紗夜「何故こんな事になったか…あなたは分かっていますか!?」
友希那「私の突出と無策が原因よ…。」
友希那は力無く答える。友希那は思っていた。怒りに任せた暴走とも言える突貫。1体でも多くの敵にあの日の報いを受けさせる事だけを考えた結果だと。
紗夜「違います…!」
だが紗夜はそれを否定した。
紗夜「やっぱり、まだ分かってませんか!?1番の問題はあなたの戦う理由…。」
友希那「……。」
他の3人は紗夜の言葉を黙って聞いている事しか出来ない。
紗夜「怒りで我を忘れるのも!周りの人間を危険に晒して気付きさえしないのも…!!」
そして紗夜は友希那に事実を突き付ける。
紗夜「あなたが復讐の為だけに戦っているだけだからです!!!」
その日の夜--
友希那は眠れなかった。
友希那「関節の炎症に疲労骨折…。訓練は出来そうにない…か。復讐の為だけに戦っている…ね……。」
友希那の頭の中で紗夜に言われた言葉がぐるぐる巡る。バーテックスを全て倒す事、それが友希那の行動原理だった。殺された人々の悲しみと怒りを返す、その一心で彼女は今まで戦い続けてきたのだ。だが、紗夜にそれを否定されてしまった--
友希那「……なら、私はどうやって戦っていけばいいの…?」
しばらく考え、友希那は起き上がる。
友希那「まだ…起きてるかしら……?」
友希那は隣の部屋のドアをノックした。
リサ「友希那。どうしたの?」
友希那「夜遅くにごめんなさい…。少し良いかしら…。」
友希那は隣のリサの部屋にやってきた。リサは何処かへ行くのか荷物をまとめている最中である。
友希那「何をしてたの?」
リサ「あぁ。明日この寮を出るんだよ。」
友希那「えっ……急にどうして…。」
友希那が珍しく動揺する。
リサ「ぷっ、あはははっ!動揺し過ぎだって。大社本部に呼び出されただけだよー。」
友希那「そ、そうだったのね…。」
友希那はホッと胸を撫で下ろした。
リサ「友希那こそ、どうしてこんな時間に来たの?」
友希那「そ、それは…。」
友希那は狼狽えるが、リサは何故ここに来たのか薄々気付いている様子である。
リサ「友希那、ちょっとこっち来て。」
リサは友希那を隣に座らせ膝枕をした。
リサ「友希那の悩みは、病院での事…だよね。」
友希那「教えて……。私には…もうどうすれば良いのか分からない…。」
涙目になりながら友希那はリサに弱音を吐く。
リサ「友希那…。」
だが、リサの答えは--
リサ「その答えは自分で探すしか無いよ。」
前に旅館で言った事と同じだった。
友希那「どうして…。」
友希那は愕然とするが、その時リサが友希那を抱きしめる、
リサ「信じてる。友希那なら乗り越えられる。きっと自分自身で答えを見つけ出せるよ。私はそう信じてるから…。」
次の日、教室--
友希那は昨夜の事でずっと悩んでいた。その様子を紗夜とあこ、燐子の3人が見ていた。
あこ「紗夜さんがあんな事言うからー。」
紗夜「そ、そんな事言われても…。」
すると、友希那の元に燐子がやって来る。
燐子「友希那さん…。」
友希那「?」
燐子「ちょっと良いですか…。」
燐子は友希那を外へと連れ出した。
友希那は燐子に連れられ、とある住宅街を散歩していた。
友希那「燐子…どうして急に…?」
燐子は歩き続け、ある一軒家の前で足を止める。
燐子「この家のお姉さんは、3年前に天空恐怖症候群を発症して以来苦しんでいましたが…勇者の活躍を聞いて、症状が改善してきたそうです…。」
友希那「えっ…?」
そしてまた少し歩いた先の家の前で止まった。
燐子「昔からここで暮らしていた、この家のご家族も…。」
燐子は奥のアパートを指差す。
燐子「四国外から避難してきた、このアパートに住む人達も…みんな私達の戦う姿を見て、バーテックスへの恐怖を乗り越えて…前向きになれたそうです…。」
友希那「そう…だったのね……。」
そうして散歩を続ける2人にベビーカーを押した1人の母親が声を掛けてきた。
母親「もしかして、友希那様…ですか?」
友希那「あなたは…?」
母親「私、3年前のあの日、島根の神社で救っていただいた者です。」
その母親は3年前の"7.30天災"の際、友希那が初めて生大刀を手にし共に四国へと避難した生存者の1人だったのである。そして、その母親はベビーカーの赤ちゃんを抱えて2人に見せた。
母親「この子は四国に避難してから生まれた子なんです。勇者様の名前にあやかって"友希那"と名付けました。」
そう言うと、その母親は自分の子供を友希那に抱っこさせた。
友希那「可愛い…。」
友希那(沢山の命が奪われた惨劇の中、私がかろうじて救えた命…。その命から新たな命が生まれていたのね…。)
母親「あの時助けていただいて本当にありがとうございました。」
そう言うと、母親は帰っていき、2人は笑顔で見送った。
友希那「私は何も見えて無かった…。この街やそこに住む人々の事、自分の周りの人達の事を…。あの日の記憶に囚われて、何も見えなくなっていた…。死者の復讐を求め、怒りに我を忘れてしまう程に…。」
友希那は胸に手を当て考え、1つの答えに辿り着く。
友希那(やっと答えが見つかった…。私が背負うべきなのは過去では無く…今現在なのだと!)
友希那「ありがとう、燐子。」
燐子「ふふっ…。私は何もしてませんよ…。」
友希那「でもお礼は言わせて…。あなたがきっかけで私は大切な事に気が付けたのだから。」
燐子「はい…!そろそろ戻りましょうか…。」
友希那「そうね、あこあたりが心配してそうだし…。」
するとそこへ、
あこ「あこがどうしたんですか?」
あこが2人の間に割り込んできたのである。
友希那「あこ!?」
燐子「あこちゃん…!?」
あこ「2人とも深刻そうな顔して出てったから……。」
友希那「ごめんなさい。あこにも心配かけたみたいね…。」
あこ「あこは気にしてないよ。ねっ、紗夜さん!」
あこはそう言いながら、電柱の陰に隠れていた紗夜を呼んだ。
紗夜「っ!?」
友希那「紗夜…。」
紗夜「わ、私は無理矢理宇田川さんに連れてこられただけで…。」
あこ「えーー。2人を気にしてそわそわしてましたよねー!?」
紗夜「し、してません!」
あこと紗夜の禅問答が始まった。
友希那(みんな…私を気に掛けてここに……。)
友希那「みんな!」
友希那は3人に声を掛け、深々と頭を下げた。
友希那「ごめんなさい。過去に囚われ、復讐の怒りに我を忘れて…1人で戦っている気になっていたわ…。だけど…これからはもうそんな戦いはしない!今を生きる人々の為に、私は戦う!!」
あこ・燐子「「友希那さん…。」」
紗夜「……。」
友希那「だから、これからも一緒に戦ってくれる?」
少しの沈黙の後、
燐子「もちろんです…。友希那さんはリーダーですから…!」
あこ「当然です!あこに任せてください!!」
友希那は紗夜を見た。
紗夜「……言葉では何とでも言えます…。だから、ちゃんと行動で示してください…。側で…見てますから……。」
紗夜も顔を赤らめながら答えたのだった。
友希那「ええ、お願いするわ。」
病院--
香澄が意識を取り戻したのを聞いて、友希那は自分が見つけた答えを伝える為に香澄の病室へと来ていた。
高嶋「私が寝てる間にそんな事があったんだね。なんか大事になっちゃって心配かけてごめんね。」
友希那「いえ…悪かったのは私の方よ。意識が戻って本当に良かった。……香澄。」
高嶋「なに?」
友希那「今までの事、本当にごめんなさい。まだ心身ともにリーダーとして未熟な私だけど…これからも一緒に戦ってくれる?」
友希那の質問に香澄は満面の笑顔で答える。
高嶋「もちろんだよ!これからもよろしくね、友希那ちゃん!!」
友希那「ええ、ありがとう。香澄…。」
大社本部--
その頃、大社に赴いていたリサは--
神官「これから神託の儀を始める…。」
リサ「……はい。」
--勇者御記--
私のせいだ。
共に戦う者を傷つけてしまった。戦って勝ち続けているうちに、◾️◾️してしまったのだろうか。 今の自分のままで良いのだと思い込んでいた……。
リサが言っていた。
そもそも世界がこんな事態に陥ってしまったのは、人類の◾️◾️が原因だと。神樹様がそう告げている、と。
私もその一人だということなの……?
2018年10月 湊友希那 記
気づいたことがある。
敵たちはどんどん進化していく。でもあこも進化していくから問題ない。心技体。すべてにおいてあこは成長している。数年後のあこのしなやかさに、皆が驚くと予言しておこう。
でも、そもそも敵達が出てきたのって、神樹様とは----のせいだったりするのかな?
2018年11月 宇田川あこ 記