戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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"進化型"を超える"完成型"バーテックスが勇者達を襲います。

どれだけ神世紀の勇者システムが優れているかが解るでしょう。




世界で一番の姉妹

 

 

友希那達がバンド"Roselia"を結成した日の夜--

 

燐子「じゃあ、電気消すね…あこちゃん…。」

 

あこ「良いよー。」

 

2人はあこの部屋で同じベッドに入って寝ようとしていた。

 

あこ「こうしてると本当の姉妹みたいだね、りんりん。」

 

燐子「そうだね…。」

 

あこ「でも、その時はもちろんあこがお姉さんだよ。」

 

燐子「そうかな…?私の方が、背が高いよ…。」

 

あこ「ぐっ…。あこの方が先輩だもん。だから、りんりんは妹!」

 

燐子「そうだね…。」

 

燐子は笑った。

 

燐子「きっと、私が妹で…あこちゃんがお姉さん…。」

 

あこ「でしょー!」

 

あこは燐子に抱きついた。

 

あこ「あことりんりんは世界一の仲良し姉妹だよ!!」

 

燐子があこの袖を掴む。

 

燐子「次のバーテックスの襲来…あんまり無理しないでね…。」

 

あこ「新しくあった、"今までに無い事態が起こる"って言う神託があったから?」

 

それはバンドをやると決め、練習をしていた1週間の間にリサから言われた新しい神託の事だった。

 

燐子「うん…。それに…あこちゃん……名古屋で"切り札"を使ってから調子良くないでしょ…。」

 

あこ「っ!?」

 

あこが少し動揺した。

 

燐子「"切り札"は人の身に人外である精霊の力を宿す力…どんな悪い影響があるかまだ解明されてない…。だから……。」

 

そこで、あこが燐子の話を遮る。

 

あこ「分かってる。だからそんな顔しないで。みんなで力を合わせればきっとなんとかなるよ。」

 

あこは包み込む様な笑顔で燐子に笑いかけた。

 

燐子「…うん。」

 

そうして2人は眠りについた--

 

 

---

 

 

2019年3月末日--

 

勇者達のスマホがけたたましい音を立てる。

 

 

 

 

--樹海化警報--

 

 

 

 

勇者達5人とリサは天守閣へと向かう。

 

高嶋「とうとう来たね…。紗夜ちゃんは大丈夫?」

 

紗夜「ええ…。こちらの準備は整ってます。」

 

燐子「……。」

 

あこ「大丈夫?りんりん?」

 

前回の戦い以上の激闘が予想される今回の出撃--

 

 

 

そしてリサが受けた神樹からの新たな神託--

 

 

 

燐子の呼吸が早くなり、動悸が激しくなる。

 

燐子「はぁ…はぁ……。」

 

だが、そこへあこが燐子の側までやって来て、

 

あこ「落ち着いて、りんりん。深呼吸だよ。」

 

燐子「…うん…。すぅーっ…はぁーーっ…。」

 

燐子(あこちゃんの声を聞くと、不思議と気持ちが安らぐ…。)

 

あこ「落ち着いて来たね!」

 

燐子「うん…ありがとう、あこちゃん…。もう大丈夫だよ…。」

 

 

 

燐子から恐怖が取り除かれる--

 

 

守る為の力が湧いてくる--

 

 

友希那「それじゃあみんな…行くわよ!!」

 

高嶋・あこ・燐子・紗夜「「「はいっ!!!」」」

 

5人は勇者システムを起動し、勇者へと変身する--

 

 

 

同時に、世界が樹海へと変わっていった--

 

 

---

 

 

樹海--

 

友希那「今回は燐子の提案通り、出来る限り"切り札"の使用は控えようと思う。」

 

燐子は勇者になってから今まで"切り札"を使った時に人体に与える影響を調べていた。そうしていく中で、何かしら悪影響を与えるのではないかという予測を立てていたのだった。

 

紗夜「しかし、状況次第では使わざるを得ない場合もあります…。」

 

紗夜の言う事も最もである。

 

燐子「でも…大社からも出来る限りの使用は控えると言われましたし…。」

 

高嶋「私は燐子ちゃんの案に賛成だな。」

 

香澄が2人に割って入った。

 

高嶋「使わないに越した事はないよ。みんなで力を合わせて頑張ろう?ね?」

 

紗夜「高嶋さんがそう言うなら…。」

 

あこ「あこ、みんなで何処か行きたいです!みんなで勝ってお花見でも行きましょう!!」

 

高嶋「それ良いね!近くの公園の桜、今見頃だもんね。」

 

燐子「私も、お弁当作るよ…。」

 

友希那「そこまでよ。」

 

友希那が手を叩き、注意する。

 

友希那「作戦方針も決まったところで、気合いを入れましょう…。」

 

5人は武器を構える。

 

友希那「散会!!」

 

友希那と香澄、紗夜は前衛で敵を殲滅。あこと、燐子は遠距離からのサポートで幼生バーテックスの一群を蹴散らしていく。

 

あこ「数は前より少ないみたいだね、りんりん。」

 

燐子「そうだね…これならみんな大丈夫…。後は…。」

 

燐子は金弓箭で次々と撃ち落としていく。

 

燐子(この前の様な"進化型"を阻止すれば…。)

 

勇者達は戦況を有利に進めていた。だが、一群が勇者を引き付けている内に、二群が、少し離れた場所で融合し進化を始めていたのである。

 

あこ「っ!?まずいっ、りんりんあっち!?」

 

あこが融合し始めている幼生バーテックスの群れに気付く。

 

燐子「くっ…!」

 

燐子は金弓箭でバーテックスを倒していくも、数が多く進化を止められない。

 

燐子「数が多い…。」

 

あこ「りんりん!"切り札"を使うよ!!」

 

あこが"切り札"を使おうとしたその時、

 

燐子「あこちゃん、待って…!!」

 

あこ「!?」

 

燐子「あこちゃんは手を出さないで…私が行く…。」

 

そう言うと燐子は金弓箭を構え、

 

燐子(願うは殲滅……あらゆるものを凍らせる雪と冷気の具現化にして死の象徴…。)

 

燐子「お願い!"雪女郎"--」

 

 

 

次の瞬間、燐子の勇者装束が変化し真白き着物を着たかの様な姿へと変わった。

 

燐子「あの敵は…私が倒す…!!」

 

燐子は金弓箭を構えた先に広範囲に渡る吹雪を放出し、幼生バーテックスを融合途中の個体含め氷漬けにしていった。同時に樹海内の温度が下がっていく。

 

高嶋「さ、寒いよ〜。」

 

紗夜「これが、白金さんの力…。何も見えないわ…。」

 

燐子「皆さん…!危険ですから動かないでください…。」

 

友希那「良いの?"切り札"を危険視していたのは燐子自身だったのに。」

 

友希那がそう言うのも無理はない。戦闘前に燐子が"切り札"の使用を控えるという提案をしたのだから。

 

燐子「…私はまだ1回だけ、それもほんの少しの間しか"切り札"は使ってません…。ですから、他の皆さんよりは安全だと思います…。」

 

あこ「全く、りんりんも無茶するなー。」

 

辺り一面の幼生バーテックスを凍らせ一掃した燐子は吹雪の放出を止めた。

 

燐子「…ふぅ。」

 

あこ「やったね、りんりん!ほとんど片付いたよ。後は残りの奴らを--」

 

 

 

その時だった--

 

 

 

紗夜「何ですか、あれ…!?」

 

高嶋「あんな"進化型"今まで見た事無い…。」

 

 

 

霧の向こうから"それ"はやって来た--

 

 

 

 

燐子「あれは……"蠍"…!?」

 

あこ「前の"進化型"よりデカイよ、こいつ…。」

 

友希那「今までのバーテックスとは違う…。」

 

幼生バーテックス、最初の襲撃で現れた角付きの"進化型"を複数引き連れて巨大な"蠍型"のバーテックスは勇者たちの前へやって来た--

 

 

--

 

 

突如現れた"進化型"を凌ぐ巨体のバーテックスを前に、友希那達勇者に緊張が走る。

 

紗夜「"進化型"の更に上だとでも言うの…。」

 

友希那「長い尻尾に先端の針…。まるで蠍ね…。」

 

燐子「"進化型"以上のバーテックス…。"完成型"とでも言うの……。」

 

燐子が手をこまねいている間、前衛の3人からスマホに通信が入る。

 

高嶋「この数はまずいよ、燐子ちゃん!!」

 

友希那「迷ってる場合では無さそうよ…。」

 

紗夜「使います…"切り札"!」

 

燐子「皆さん、待ってください…!!」

 

だが、燐子の説得虚しく、

 

高嶋「行くよ、"一目連"!!」

 

友希那「来い、"義経"!!」

 

紗夜「来なさい、"七人御先"!!」

 

友希那、香澄、紗夜はそれぞれ"切り札"を使用し、"完成型"の周りのバーテックスを倒し始めてしまった。

 

燐子(結局、みんな力を使ってしまった…。)

 

あこ「りんりん、危ないっ!」

 

燐子「っ!?」

 

"完成型"が燐子目掛けて針を突き刺してきたのである。

 

燐子「間一髪…。」

 

だが、ギリギリのところであこが"切り札"の"輪入道"の力で旋刃盤を巨大化させ、燐子をそこに乗せて攻撃を躱したのだった。

 

燐子「あこちゃん…っ!」

 

あこ「ギリギリだった…。一旦距離取るよ。」

 

燐子「うん……うっ!!」

 

急に燐子が左腕を抑え痛み出した。

 

あこ「り、りんりん!?」

 

さっきの"完成型"の針が燐子の左腕を掠っていたのだ。傷口が段々と紫色に変色し始める。

 

燐子「…あの針、毒があるみたい……。」

 

あこ「あいつ…!!」

 

燐子「大丈夫…。右腕だけでも戦えるよ…!」

 

あこ「くっ…分かった。」

 

2人は辺りを見回し体制を立て直す。

 

あこ「くっ…友希那さん達はこっちまでカバー出来無さそうだよ。りんりん、2人で行くしかない!!」

 

燐子「うん…なら2人の同時攻撃で…!!」

 

あこは旋刃盤に炎の力を、燐子は矢に冷気の力をそれぞれ込める--

 

 

 

 

あこ「これがっ!!」

 

燐子「私たちの…っ!!」

 

あこ・燐子「「最大火力だーーーーーっ!!!!!」」

 

2人の全身全霊の攻撃は"完成型"に命中し、煙が立ち込める--

 

 

 

 

だが、"完成型"には傷一つ付いていなかった。

 

あこ「そんなっ!?」

 

燐子「効いてない…!?」

 

あこ「くっ…また一旦距離をとってもう一度--」

 

 

 

 

その刹那--

 

 

 

あこ・燐子「「っ!?」」

 

2人の頭上から"完成型"の尻尾が振り下ろされ、2人は樹海に激突する--

 

 

 

 

あこ「うわっ!!」

 

燐子「きゃあっ!!」

 

友希那「あこ!!燐子!!」

 

友希那が2人の元へ向かおうとするも、その行く手を"進化型"の群れが遮ってしまう。

 

高嶋「これじゃあ、2人を助けに行けないよ…!!」

 

高嶋(無事でいて、あこちゃん…燐子ちゃん…。)

 

 

--

 

 

燐子「う……。」

 

樹海に叩きつけられ気絶していた燐子は大きな音で目を覚ました。

 

燐子「くっ…"切り札"が解除されてる…。」

 

落下のダメージで燐子の"切り札"は解除され元の勇者装束に戻っていた。

 

あこ「気が…ついたね……りんりん……。」

 

燐子「っ!?あこちゃんっ!!」

 

燐子が顔を上げると、そこでは"切り札"が解除されたあこが旋刃盤を構え、必死で"完成型"の針突攻撃から燐子を守っている状況だった。

 

燐子「あこちゃん!?」

 

あこ「りんりん…早く逃げて……!!!」

 

"完成型"は息つく暇も与えずに攻撃を繰り返している。

 

燐子「何言ってるの…!!逃げるなら、あこちゃんも一緒に!!」

 

あこ「はぁ…はぁ……。もう、無理なんだよ…。足が……動かないから……。」

 

あこの足は度重なる"完成型"からの攻撃を旋刃盤で受けていた為に、骨が折れていたのである。

 

あこ「だから…りんりんだけでも…。」

 

燐子「出来るわけ無いよ!!」

 

あこ「でもこのままだと2人とも死んじゃう!!」

 

それでも燐子はその場から動こうとはせず、"完成型"に攻撃し続けていた。

 

燐子「嫌だ…っ!絶対に嫌だよ!!」

 

あこ「分からず屋め…。」

 

逃げずに留まり続ける燐子を見て、あこは心に誓う。

 

あこ(りんりんが逃げないなら--あこが守るしか無いじゃんか!!!)

 

あこ「ぐうぅ……っ!!」

 

燐子「あこちゃん!!」

 

 

 

"完成型"の針突攻撃は勢いを増していく--

 

 

 

 

 

燐子は必死で攻撃を加え--

 

 

 

 

燐子(私も一緒に戦うんだ…!!たとえ、一撃一撃は効かなくても…攻撃を続けていれば必ず…!!!)

 

 

 

 

あこは必死で燐子を守り続ける--

 

 

 

 

あこ(あこは盾!!りんりんの盾なんだ!!絶対に傷付けさせるもんか!!!)

 

 

 

 

あこの旋刃盤に亀裂が走る--

 

 

 

 

燐子(倒す!!何としても倒すんだ…!!あこちゃんが守ってくれるなら、私が倒す!!)

 

 

 

あこ(あこがっ!!)

 

 

 

 

燐子(私が…っ!!)

 

 

 

 

あこ・燐子((絶対に………っ!!!))

 

 

 

 

 

だが、"完成型"の針は旋刃盤を砕き--

 

 

 

あこ「えふっ……。」

 

 

 

 

燐子「がはっ……。」

 

 

 

 

無情にも2人の身体を貫いた--

 

 

 

 

"完成型"は針を振り抜き、その血が友希那に飛び散る。

 

友希那「っ……!?あこ………燐子………。」

 

2人は並んで横たわっている。

 

高嶋「あこちゃん!!!燐子ちゃん!!!」

 

"進化型"を退けた香澄と紗夜が急いで2人の元へ駆けつける。

 

 

 

 

 

あこ「り…ん…り……ん…。」

 

微かに意識があるあこが燐子へ手を伸ばす。

 

燐子「あ…こ……ちゃ…ん……。」

 

燐子も僅かに意識がありあこへ手を伸ばした。2人の手が重なる--

 

 

 

燐子(そうだね…あこちゃん……。)

 

 

 

 

あこ(そうだよ……りんりん…。)

 

 

---

 

 

あこ「大丈夫!?」

 

?「…………。」

 

あこ「安心して。あこが必ずあなたを…えーっと…。」

 

燐子「燐子…。白金燐子…です…。」

 

あこ「じゃあ、りんりんだね!安心してりんりん、これからはあこが守ってあげるから!」

 

 

---

 

 

あこ「あこはそんな事はさせないよ!」

 

燐子「あこちゃん…?」

 

あこ「どんな事があってもあこはりんりんを守るから。初めて勇者になった時…りんりんに会った時そう誓ったんだ!」

 

 

---

 

 

燐子「きっと、私が妹で…あこちゃんがお姉さん…。」

 

あこ「でしょー!」

 

燐子「ふふふっ……。」

 

あこ「あことりんりんは世界一の仲良し姉妹だよ!!」

 

 

---

 

 

あこ・燐子((生まれ変わっても…また…。今度はきっと…本当の……姉妹…に。))

 

 

互いの手を握り合い、2人は生まれ変わっても2人一緒に居たい、姉妹になりたいと願いながら息を引き取る--

 

 

 

友希那と紗夜はただ立ち尽くす事しか出来なかった--

 

 

 

しかし--

 

 

 

高嶋「あこちゃん…燐子ちゃん……。」

 

 

 

 

高嶋「あっ……うああああああああああああああああっ!!!!!!」

 

 

 

 

香澄はただ怒りに身を任せ、禁忌の力を口にする--

 

 

 

 

高嶋「来い!!"酒呑童子"!!!」

 

 

 




彼女達は来世できっと仲が良い姉妹に生まれ変わった事だと思います。


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