戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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精霊には上位種が存在します。それが三大妖怪と呼ばれるものです。


"酒呑童子"、"大天狗"、"玉藻前"がそれにあたります。





諸刃の"切り札"

 

 

高嶋香澄--

 

彼女の生まれは奈良。奈良は古くから神話の里と呼ばれ、"それ"を祀る神社が数多くあった。

 

幼き頃、香澄は"それ"に出会い力を授かる--

 

 

"それ"は振るってはいけない力--

 

 

三大妖怪と呼ばれし禁忌の力--

 

 

その名は--

 

 

 

 

 

 

 

高嶋「来い!!!"酒呑童子"!!!」

 

友を失った悲しみと怒りで香澄は禁断の精霊をその身に宿す。周囲の大気が震え、激しい嵐が香澄を包み込んだ。

 

高嶋「うああああああああああっ!!!」

 

嵐が止み現れた香澄は、正に鬼と呼ぶべきの姿をして"完成型"を睨みつけていた。そして--

 

高嶋「うおおおおおおおっ!!」

 

香澄は鬼の腕を模した"天の逆手"を思い切り振りかぶって"完成型"に殴りかかる。

 

高嶋「ぐぅっ……!」

 

たった一回のパンチをした反動で、香澄の腕が悲鳴を上げ、血が吹き出す。だが--

 

 

高嶋「ああああああっ!!!」

 

威力はこれまでのどの"切り札"より凄まじく、あこと燐子の最大出力の"切り札"でも傷一つつかなかった"完成型"を、ものの1発のパンチで粉々に粉砕し消滅させたのである。

 

紗夜「あれが…高嶋さんだって言うの……!?」

 

友希那「破壊力が桁違いね…。」

 

友希那と紗夜は香澄が"完成型"を蹂躙する様に圧倒されていた。

 

友希那「これが、大社に禁じられていた"切り札中の切り札"……肉体を顧みず、ただただ力のみを求め宿し得た…鬼の力……。」

 

高嶋「っ!?」

 

"完成型"を一撃で沈めた香澄は怒りの矛先をまだ残存していたバーテックスに向け、飛び出した。

 

高嶋「うああああっ!!!」

 

友希那「もう止めなさい、香澄!!残りは私達が…。」

 

友希那の制止も聞かず、香澄は自分の身体を犠牲にしてバーテックスを倒していく。

 

友希那「くっ……。」

 

友希那が下を向いた時、樹海の異変に気付く。

 

友希那「樹海の侵食がここまで…!!」

 

長時間の樹海化に加えダメージ許容量の超過により、樹海が変色し出していたのだ,

 

友希那「紗夜、力を合わせて敵を速やかに排除しましょう。このままだと樹海化が解けた後に四国に影響が出てしまうわ!」

 

紗夜「ええ……分かってます…。」

 

2人も戦闘に加わり、残り全てのバーテックスを倒していく--

 

 

 

 

 

 

 

圧倒的な香澄の力もあり、友希那たちは辛くも勝利を収めた--

 

 

 

だが、その勝利には大きな代償があった--

 

 

 

"仲間の死"という大き過ぎる代償が--

 

 

 

 

 

 

 

告別式場--

 

2つの棺の中にはあこ、燐子が丁重に清められ眠っていた。友希那はあこの棺には姫百合、燐子には紫羅欄花を収め、

 

友希那「2人の仇は取ったわ…。ゆっくり休んで…。」

 

そう言うと、先に献花を済ませていたリサの隣に座った。

 

友希那「2人とも、綺麗な顔だったわ…。」

 

リサ「私には丁寧に清めるくらいしか…。私は…何も…出来無かったよ……。」

 

友希那「それは、私も同じよ…。」

 

現実の世界では、樹海の侵食が許容範囲を超えた為とうとう一般市民にも死者が出てしまった。自然災害の名目でニュースに流れはいるが、あこと燐子2人の勇者が亡くなり、香澄は"切り札"の反動で倒れ入院している事。この事実は大社により公表はされていないのである。

 

紗夜「寂しいものですね…。」

 

友希那「紗夜…。」

 

紗夜「命を懸けて戦ったのに、悼む人がこれだけだなんて…。」

 

友希那「勇者の死は公表されてないの…私達の存在は人々の拠り所だから…。」

 

紗夜「そんなのっ…大社の勝手な都合じゃないですかっ……!!」

 

紗夜が怒りを露わにするが、

 

明日香「バカっ!!!」

 

明日香があこと燐子の棺の前で崩れ落ち大声で怒鳴る姿に2人は気を取られた。

 

明日香「なんで…なんで死んじゃうのよ……!!」

 

明日香は涙を流しながら、もう動かない2人に訴え続ける。

 

リサ「明日香…。」

 

明日香「こんな事なら…無理を言ってでも…もっと2人と一緒に…。」

 

紗夜「………。」

 

紗夜は横たわる2人の顔を無言で見つめる。

 

紗夜「っ!?」

 

 

 

紗夜の脳裏に"死"がフラッシュバックする--

 

 

 

紗夜「うぐっ……。」

 

突如、紗夜はトイレへと走り出していった。

 

友希那「紗夜!?」

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「はぁ…はぁ……。」

 

洗面台に駆け込み、紗夜は吐いた。

 

紗夜「また、あんなものが現れたら…私は……。」

 

"死"を考えると紗夜の体の震えが止まらなくなる。

 

紗夜「嫌…私は……死にたく…ない……。」

 

 

 

 

 

 

 

2人の死から数週間が経過した頃--

 

友希那達は大橋の壁の前にやって来ていた。

 

友希那「香澄、体の方はもう大丈夫なの?」

 

高嶋「退院してから結構経ってるし問題ないよ。」

 

香澄も退院し元気そうな姿を見せていた。

 

高嶋「でも、壁外の敵の討伐なんて珍しい任務だね。」

 

これまで大社は壁外調査の名目で四国外に出る指令を与えた事はあるが、明確に敵の討伐を指示するのはこれが初めての事であった。

 

友希那「大社の方針が変わったのかもしれないわね。」

 

2人が話している間、紗夜はスマホの画面をずっと見ていた。どうやら紗夜は大社からのメールを見ているようだ。

 

 

ーーー

 

 

TO:紗夜

--

FROM:大社

--

SUBJECT:カウンセリングについて

--

 

前回の戦闘でPTSDを引き起こしている可能性があります。

確認の為担当医に連絡を取り、至急カウンセリングを受けてください。

 

 

ーーー

 

 

との事であった。

 

紗夜「カウンセラーに…何が分かるって言うの……。」

 

紗夜(怖い…戦うのが…死ぬのが…怖い……。でも…戦わない私に価値なんて……。)

 

そんな事を思いながら、紗夜は身震いする。その様子を見ていた香澄は声をかける。

 

高嶋「紗夜ちゃん?」

 

紗夜「っ!?なんでも…ありません……。」

 

香澄の声に驚き、紗夜は咄嗟にはぐらかす。

 

紗夜「壁の向こうに、行くのよね…。そこに…敵が…っ!?」

 

紗夜が話している途中で香澄は紗夜をギュッと抱きしめた。

 

紗夜「高嶋さん……?」

 

高嶋「何があっても紗夜ちゃんの事は私が守る!もうこれ以上誰1人だって傷付けさせない!」

 

香澄の優しい声に紗夜の震えは治る。

 

高嶋「だから大丈夫だよ!」

 

紗夜「…ええ。」

 

友希那「香澄!紗夜!ちょっとコレを見て!」

 

そこに先に壁の外へ行っていた友希那が2人を呼んだ。

 

高嶋「敵を見つけたんじゃないかな?」

 

紗夜「ですが、こちらからその様な影は……。」

 

2人は壁の外へ進むと、

 

紗夜「これって…。」

 

高嶋「嘘……。」

 

そこにいたのは数多の幼生バーテックスが集まり、蠍の"完成型"のゆうに2倍以上もの大きさのバーテックスが誕生している途中だったのだ。さながら、その姿はライオンの様--

 

 

 

高嶋「こんな大きな敵、向こうからは全く見えなかったよ!!」

 

友希那「おそらく結界の効果で隠されていたのでしょうね…。」

 

紗夜「また…隠すのね……。」

 

友希那「ええ、しかし…。」

 

紗夜「今は全力で敵を倒すのが最優先ですね…。」

 

そう言うと紗夜は"七人御先"を憑依させ、7人に分身した。

 

友希那「その通りよ…!」

 

友希那も"義経"を、その身に降ろす。

 

高嶋「私も…。」

 

友希那「香澄が"切り札"を使うのは危険よ!」

 

紗夜「高嶋さん、ここは私達に任せてください。」

 

病み上がりの香澄をその場に待機させ、2人は"完成型"へと立ち向かった。

 

紗夜「私は左側を。」

 

友希那「分かったわ。なら私は右側ね!」

 

2人は左右に分かれ挟撃する。

 

友希那「八艘飛びっ!!」

 

紗夜「てやっ!!」

 

友希那は高速で動き、紗夜は手数の多さで攻撃していくが、

 

紗夜「全然効いてない…!」

 

かすり傷1つ付いてない状況に紗夜は愕然とする。その時--

 

 

 

高嶋「紗夜ちゃん危ない!!!」

 

紗夜「っ!?」

 

香澄の声に紗夜が後ろを振り向くと、巨大な火球が紗夜に迫って来ていたのだった。火球は紗夜の分身を次々に焼き尽くして進んでいく。

 

紗夜「くっ!!」

 

最後の分身を犠牲にして紗夜は攻撃から逃れた。

 

紗夜「はぁ……"七人御先"が一度に6人もやられるなん……っ!?」

 

紗夜は驚愕した。

 

紗夜「本州が…!!こんなの一体どうやって戦えば…。」

 

分身を消し飛ばした後も火球は進んでいき、本州の大地を抉っていたのだった。

 

紗夜「規模が違いすぎる…。」

 

紗夜の心はこの一撃で折れてしまった。そこに、

 

高嶋「うおおおおおおおっ!!!」

 

香澄は無理矢理"酒呑童子"をその身に降ろしたのだ。

 

友希那「香澄っ!?」

 

紗夜「高嶋さん、無茶です!!」

 

高嶋「う、うぅぁぁぁ……。」

 

香澄は苦しそうな表情を浮かべる。

 

紗夜「高嶋さん!ダメ、無理です……!!」

 

高嶋「絶対に守る……!!あこちゃんと燐子ちゃんの分も!!私がっ!!!」

 

そう言い、香澄は"完成型"に飛び込んでいった。

 

高嶋「勇者パーーーン……」

 

だが--

 

 

 

高嶋「ぐはぁっ!!」

 

"酒呑童子"の圧倒的な力に香澄の病み上がりの体が耐えきれず、全身から血を吹き出し海へ落下してしまった--

 

 

 

友希那「香澄っ!!!」

 

紗夜「高嶋さんっ!!!!」

 

勇者達の討伐任務は失敗し、2人は意識を失った香澄を連れて撤退するしかなかった。

 

 

 




--勇者御記--

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