戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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紗夜は誰よりも人間らしい勇者だった、それだけは絶対に変わりません。

人は誰かに押し付けて自分の身を守る、それはいつの時代も同じですね。




紗夜の選択〈中編〉

 

 

高知--

 

紗夜は実家の前に立っていた。今朝、大社からメールが来ていた為に高知の実家を訪れていたからだ。

 

 

ーーー

 

 

TO:氷川紗夜

--

FROM:大社

--

SUBJECT:丸亀市移住の件について

--

 

健全な心身育成の為に、両親を丸亀市に移住させ一緒に暮らしてはどうでしょうか。

 

 

ーーー

 

 

紗夜「移住…私に拠り所を与える為…ですか。」

 

その時、頭の中でもう1人の紗夜が話しかける。

 

紗夜?『大社はあなたを道具として失いたくないだけ…誰もあなたの味方ではないわ……。』

 

紗夜「…るさい……。うるさいうるさいうるさい…っ!!村の人達も両親も言ってくれた……!勇者である私が誇らしいと!!価値を認めて、愛してくれてると…!!!」

 

紗夜はもう1人の自分を振り払い実家の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

部屋では母親が寝たきりになっており、側で父親が力無さそうに座っている。父親の姿は前に会った時よりかなり頬が痩けやせ細っていた。

 

紗夜父「なぁ…紗夜……今更家族3人で暮らす?…冗談だろう?」

 

紗夜「でもそれは…大社が決めた事で……。」

 

この言葉を聞いた途端紗夜の父親は怒鳴り始めた。

 

紗夜父「ああ、大社から聞いたさ!!でも母さんは入院させとくのが一番だろ!確かに引っ越すのは賛成さ!!すぐにでもこんな村離れたい!今すぐにでも出て行ってやるさ!!!」

 

紗夜「一体どうしたの…?」

 

紗夜がそう言うと、父親は側にまとめてあった紙束を紗夜に投げつけた。

 

紗夜父「これだよっ!!」

 

紗夜「っ………!?」

 

紗夜は目を疑った。

 

 

[村の恥さらし]

 

[クズの娘はクズ!!]

 

[お前の娘がもっとちゃんとしてたら]

 

[とっとと倒せよ!早く!]

 

[勇者は役立たず!]

 

 

数々暴言が書き殴られたメモの山だったのだ。

 

紗夜「何よ…これ………。」

 

紗夜父「毎日毎日家に投げ込まれていくんだよ!!全部お前のせいだ!役立たずのクズめ!!」

 

立ち尽くす紗夜にもう1人の紗夜が追い打ちをかける。

 

紗夜?『勇者が苦戦するようになったらこの様ですよ……。』

 

そして紗夜はあってはならない殴り書きを目にしてしまう。

 

 

[宇田川あこと白金燐子は無能!!]

 

 

それはあろう事か市民の為にその命を散らした2人への罵倒であった。

 

紗夜「身を削る様に戦って…最後には命を落として……その報いがこれだっていうんですか……。」

 

紗夜?『ふざけてるわよね…。』

 

紗夜「そうよ…ふざけてる……!」

 

紗夜?『勇者の犠牲の上に暮らしている癖にね…。』

 

紗夜「その通りじゃない…。」

 

紗夜?『許せないわね…。』

 

紗夜「っ………!!」

 

紗夜は耳を塞ぎ玄関へと歩き出す。

 

紗夜「何故褒めてくれないの…?」

 

紗夜?『許せない…。』

 

紗夜「何故讃えてくれないの…?」

 

紗夜?『許せない…。』

 

紗夜「何故愛してくれないの…。」

 

外へ出ようとした時だった--

 

 

村人「きゃっ!」

 

紗夜は今まさに暴言が書かれた紙を投函しようとしている少女とぶつかったのだ。

 

紗夜?『あの娘を見てごらん…今まで散々頼っておいて、状況が悪くなったら手のひらを返す……。』

 

紗夜「………許せないっ!」

 

紗夜は勇者システムを起動し、大葉刈を取り出してその少女へ裁きをくだそうとゆっくり近づいた。

 

紗夜「私の価値を認めてくれないのなら…。」

 

少女は泣きながら後ずさりをする--

 

 

 

紗夜「私を愛してくれないのなら…。」

 

そして紗夜は大葉刈を振り上げ--

 

 

 

紗夜・紗夜?「『そんな奴らなんていっその事……殺してやる--』」

 

紗夜は少女目掛け大葉刈を振り下ろした--

 

 

 

 

 

 

 

紗夜は怒りのままに大葉刈を少女へ降り下ろす。だが、大葉刈は少女を傷付ける事は無かった。

 

紗夜「湊…さん………。」

 

間一髪で友希那が2人の間に割って入り、紗夜の大葉刈を生大刀で止めたのである。

 

友希那「早く離れて!!」

 

友希那に言われ、少女はその場を離れる。

 

紗夜「邪魔…しないでください……!!」

 

友希那「止めなさい紗夜…冷静になって!!その怒りはあなたの感情じゃない!精霊の力の影響よ!!」

 

紗夜「精霊!?…そんなの関係ありません!!」

 

友希那の言葉に耳を貸さずに紗夜は大葉刈を振り回した。

 

紗夜「許せないのよ!!命をかけて戦ってきたのに、何故蔑まれないといけないの……!?あまつさえ市民の為に、一生懸命戦い抜いた2人にまで侮辱するなんて…!!」

 

紗夜は攻撃の手を緩めない。

 

紗夜「こんな事になるなら……人間を守る意味なんて無いじゃないですか…………っ!!!」

 

友希那は紗夜の攻撃を耐えるだけで、こちらから攻撃する事は無かった。

 

紗夜「どうして…どうして反撃しないんですか……!?本気を出せば私より強い筈なのに。」

 

友希那「仲間に向ける刃なんて無いわ!!」

 

紗夜「そんな綺麗事、強くて自分に自信があるから言える事じゃないですか!!!」

 

そう言うと再び紗夜は友希那に牙を剥く。

 

友希那「……頼まれたのよ、あなたを助けてくれと………。」

 

友希那は構えを解き、生大刀を投げ捨てた。

 

友希那「だからあなたを止めてみせる!!あなたの為にも!そして…誰よりもあなたを心配していた香澄の為にも!!!」

 

その言葉を聞き紗夜の足が止まる。

 

紗夜「……高嶋さん………。」

 

紗夜「っ!?」

 

周囲の騒めきに紗夜は周りを見回した。そこには睨む人、恐れる人、蔑む人、様々な人たちが集まり紗夜を見つめている光景だった。

 

紗夜「止めて……止めて…そんな目で私を見ないで………。」

 

紗夜は大葉刈を落とし、力無くその場にへたり込んだ。

 

紗夜「…お願いです……私を嫌わないでください…お願いだから……。」

 

紗夜は頭を抱え、震えながら人々に訴えかける。

 

紗夜「お願いだから…私を好きでいてください……。」

 

 

 

 

 

 

 

その夜、紗夜の元に一通の手紙が届いた。

 

[大社の名において、氷川紗夜の勇者システムを使用する権利を剥奪し、謹慎を命ずる。]

 

 

 

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