友希那と香澄は世界を守る事が出来るのか--
高嶋「来い!"酒呑童子"!!!」
香澄は角が生え、両腕が鬼の様に武骨な手甲で覆われる。
友希那「降りよ!"大天狗"!!!」
友希那には羽が生え、修験僧の様な衣服を見に纏い、生大刀は鍔が錫杖を模した形状に変化する。
"大天狗"--
それは大社が来たる最後の総攻撃の為に友希那に用意した"酒呑童子"と同様の力を持つ精霊の1体。"義経"を超えるスピードと羽を羽ばたかせる事で発生する衝撃波は辺り一帯を破壊する程の威力を持つとされている。一説では天上界を一夜にして灰燼に帰したとされている。
直後、"魚の完成型"が樹海に潜行し神樹へと向かおうと行動を開始した。
高嶋「友希那ちゃん、あれは私が!」
友希那「分かったわ。こっちの敵は私が食い止める!!」
2人は二手に分かれて戦闘を開始した。
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香澄サイド--
"魚型"は樹海から顔を出さずそのまま神樹へと突き進む。
高嶋「出て来なきゃ倒せない…。」
香澄は少し考え、
高嶋「…こうなったら!」
香澄は飛び上がり、"魚型"の進行方向へ先回りし樹海を思いっきり殴りつけた。
高嶋「おりゃあぁぁぁっ!!!」
振動で"魚型"の動きが止まる。
高嶋「まだまだぁぁぁっ!!」
ここぞとばかりに香澄は樹海を殴りつけ、
高嶋「見つけたよ!」
"魚型"を引きずり出す。
高嶋「こっのおぉぉぉぉ!!」
"魚型"が宙に舞う。
高嶋「これでどう!?」
香澄は"魚型"へ一撃を食らわせようとするが、
高嶋「っ!?」
突如横から爆弾が飛んできて香澄の周りで爆発したのだ。
高嶋「ぐうっっっ!!」
香澄は爆弾が飛んできた方向を睨んだ。そこにいたのは"スカーフの様な触手を持った完成型"だった。
高嶋「くっ、ならそっちから先に!」
香澄は爆弾を投げてきた完成型へ矛先を変更し突っ込む。
高嶋「勇者パーーンチ!!」
だが、そのパンチを巨大な板が防いだのだ。
高嶋「っ!?」
その完成型は巨大な板に加え、下部に鋭い鋏を持っていた。
高嶋「あこちゃんと燐子ちゃんを倒したのが"蠍型"で紗夜ちゃんと3人で戦ったのがライオンの様な形をしていた…。そして今回、"魚型"と板を持ってるのは"蟹型"って事…?星座を象ったバーテックスなんだね…。だとしたら爆弾を投げてきたのがさしずめ"乙女型"ってやつかな…。」
香澄は戦いの中でも冷静に分析する。
高嶋(まるで燐子ちゃんが側にいるみたいな感じだ…。)
3体の完成型バーテックス達は神樹への進行を止め香澄の周りを囲んでいる。
高嶋「私を倒してからゆっくり神樹様へ行こうって事か…。」
香澄は呼吸を整え構え直す。
高嶋「行くよっ!!」
香澄は再び"乙女型"へと向かって飛び出していった。
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友希那サイド--
"上下に口が付いている完成型"と"水の玉を持つ完成型"はその場で留まっているが、"角を持つ完成型"が先行して神樹へと進行していた。
友希那「行かせない!!」
友希那は速さを生かし生大刀で完成型を真っ二つにした。
友希那「これでまず1体……っ!?」
友希那が振り返るとなんと"角を持つ完成型"が2体に増えていた。
友希那「増えている…どうして!?」
友希那は再度斬りつけた。
友希那「っ!?」
次の瞬間、切られた箇所から"角を持つ完成型"が再生して分裂したのである。
友希那「くっ…あの時の蛇の進化型と同じって事ね…。」
丸亀城の決戦の際に出てきた蛇の進化型も切られたら分裂する同様のタイプだった。
友希那(あの時はあこの"輪入道"で一気に燃やして対処したけど、今回は…。)
友希那は対処を考えるが、その時"上下に口を持つ完成型"の下の口が開き、そこから無数の針が友希那目掛けて飛んでくる。
友希那「っ!?」
だが、友希那は"大天狗"のスピードを生かして針を躱していく。
友希那「考えてる暇が無い…。」
3体に増えた"角を持つ完成型"はその隙に神樹へと向かって動き出していた。
友希那「これじゃあ…。」
両者撃破には困難を極めていた--
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香澄サイド--
高嶋「はぁ…はぁ……。」
香澄は"魚型""乙女型""蟹型"の完成型を前に満身創痍の状態だった。香澄が攻撃しようとすれば"蟹型"が巨大な板で攻撃を受け止め、"乙女型"は爆弾、"魚型"は水流を放ち遠距離から攻撃してくる。バーテックス達の連携は完璧であり、香澄との相性は最悪だったのだ。香澄は水流を避けるが、
高嶋「あっ!!」
長時間の"切り札"の使用のツケが足に来てしまい、体制を崩してしまう。それを待っていたかの様に"乙女型"は香澄に爆弾を放ち、爆風が香澄を襲った。
高嶋「ぐあああああああああああっ!!!」
遂に香澄は樹海に倒れてしまう。
高嶋「あ…うぅ………。」
3体の完成型はトドメを刺すまでも無いと言わんばかりに神樹へと進んで行く。
高嶋(神樹様が……世界が…終わっちゃう……。)
香澄の意識が朦朧とする。
高嶋(勇者なんてただ痛いだけ…苦しいだけだよ……。あこちゃん…燐子ちゃん……紗夜ちゃん……。私…何で今まで一生懸命戦ってきたんだろう……。)
香澄が諦めかけたその時だった--
高嶋「くっ……!!」
香澄は立ち上がる。
高嶋(……何で?そんなの決まってるよ!!)
高嶋「勇者だからだよ!!!理由なんてそれで充分だ!!!」
高嶋香澄は勇者である--
勇者だからどんなに怖くても危険を顧みず--
勇者だからどんなに痛くても仲間がピンチなら敵陣だろうと駆けつける--
そして勇者だからどんなに苦しくても敵に立ち向かう--
高嶋「行かせないっ!!!」
香澄は自分の体に鞭打ち3体の完成型へと向かって行く。
高嶋「私はみんなが、みんなが大好きなんだ!!!」
香澄は"魚型"に狙いを定める。
高嶋「だから絶対にこの世界を!!守るんだああああああっ!!!!」
香澄渾身の正拳が炸裂し、"魚型"は粉々に粉砕された。
高嶋「次っ!!!」
"蟹型"に狙いを定める香澄。だが、パンチは板に阻まれ手甲にヒビが入る。
高嶋「っ!!」
だが、
高嶋「関係ない!!」
香澄はそのまま連続でパンチを繰り出し、手から血を流しながらも次々と板を壊していった。
高嶋「何度だって何度だって私たちは立ち向かう!!!」
全ての板を壊した香澄はそのまま"蟹型"も粉砕に成功。
高嶋「お前達なんかに、これ以上奪わせない!!!」
香澄はその勢いのまま3体目の"乙女型"に迫る。"乙女型"は香澄を近づけさせまいと爆弾の雨を降らすが、香澄は減速する事無く躱し、
高嶋「私は勇者!!」
"乙女型"に勇者パンチを叩き込んだ。
高嶋「高嶋香澄だあああああああっ!!!」
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ボロボロで傷だらけになり、右手の手甲が砕け散ってまでも香澄は3体の完成型に勝利を収めた。
高嶋「はぁ……はぁ………くっ!!」
香澄は樹海に仰向けで倒れる。香澄の真上にそびえ立つのは神樹--
香澄が倒れた場所は神樹の根の部分だった。
高嶋「神樹…様……。」
高嶋「……よかっ………た………。……間に…………合っ………。」
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友希那サイド--
友希那「はあああっ!!」
"角を持つ完成型"はどんどん増えていき、6体にまで増えていた。
友希那(無闇に切ってもダメね…奴らの動きを良く見て弱点を…。)
その時、分裂した内の1体が他の分裂体の影に隠れたのを友希那は見逃さなかった。
友希那「そいつねっ!!!」
友希那は"大天狗"の力を使って高速で近づき隠れようとした1体を斬りふせると他の分裂体が一斉に砂の様に崩れ去ったのだった。
友希那「これが当たりだったようね…。っ!?」
だが次の瞬間、友希那は"水の玉を持つ完成型"の水の玉に閉じ込められてしまう。
友希那(しまっ…!!)
水の玉の中で激しい水流が渦を巻く。
友希那(くそっ!!水流の所為で動けない!!!)
そこに"上下に口が付いている完成型"の上の口が開き、友希那目掛け巨大な針を飛ばさんと狙いを定め始めたのである。
友希那(まずい……っ!このままじゃ……。…殺してやる………っ!!!)
友希那の心の内にバーテックスへの敵意が、憎悪が溢れ出す。
友希那(1匹残らず殲滅して、奴らが犯した非道の報いを…!!)
友希那は怒りで歯を食いしばるが、
友希那(………っ!?)
その時ふと浮かんできたのは、
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あこ「さっすが友希那さんです!今度あこにもカッコいいセリフ教えて下さい!!」
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浮かぶのは、束の間の休日でのあこの笑顔--
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友希那「戦う事だけが勇者じゃない。作戦を立てて、しっかりとした指示を出す。これも立派な勇者って言えるんじゃない?」
燐子「……はいっ!!」
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浮かぶのは、壁の外で語り合った燐子の笑顔--
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友希那「時間は掛ったけど、本当の意味で自分の弱さに気付く事が出来た。」
リサ「そっか。」
友希那「私を信じてくれたリサのお陰ね。」
リサ「何言ってるの。自慢の幼馴染の為じゃん。」
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浮かぶのは、いつも支えてくれたリサの笑顔--
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友希那「聞かせてちょうだい、香澄の事。香澄の事をもっと教えて欲しい。」
リサ「もちろん、後で私達の事も聞いてよね。」
高嶋「……うん!ありがとう!!」
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浮かぶのは、自分の事を話してくれた香澄の笑顔--
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燐子「この卒業証書を受け取って下さい…です……。」
紗夜「そう…ですか……。お願いなら……仕方ないですね…。」
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そして、浮かぶのは卒業証書を受け取った紗夜の笑顔だった--
友希那は我に返る。
友希那(ダメよ!!精霊の影響に囚われてはダメ……!!過去の復讐の為ではなく、四国の人々や友を守る為--)
友希那(今を生きる人の為に戦うと私は決めた筈よ!!)
突如水の玉が爆発し、火の玉が現れる。そしてその火の玉は"水の玉を持つ完成型"を飲み込み更に爆発--
火の玉の中からボロボロの友希那が現れる。背中の羽は炎を纏っていた。友希那は"上下に口が付いている完成型"から発射された巨大な針を真っ向から打ち砕き、そのまま突っ込んで行く。
友希那(人間は弱いわ…臆病で脆く、悪意に落ちやすい……。)
途中幼生バーテックスが行く手を阻むが、友希那はそれを諸共せず翼に宿った炎で焼き尽くしながら進んで行く。
友希那(…だけど、人は守るべき者の為ならば無限に強くなれる--)
友希那(守るべき人の為なら、どれ程傷付こうとも戦う事が出来る--)
友希那は生大刀を振り上げ--
友希那「それが私達、弱き人間がお前達に勝てる理由なのよ!!!」
最後の1体を真っ二つに斬り伏せた。6体全ての完成型バーテックスが倒され樹海に静けさが戻る--
友希那「はぁ……はぁ……はぁ………。」
"切り札"を解いた友希那は膝からうつ伏せに崩れ落ちる。
友希那「はぁ…これで……平和な日常が…みんな……に…。」
友希那の目が霞み始める。
友希那「私達は……守り切った…生き……残ったのよ……。………そうよね…………香澄…………。」
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香澄サイド--
神樹の根元に香澄の姿は無く、血の跡が付いているだけであった--
消えてしまった香澄。
それは後の神婚の様に……。