友希那とリサが未来にかける想いを感じてください。
友希那と香澄の激闘によって6体の完成型は倒され樹海化が解けていく。が、次の瞬間結界の外に鎮座していた"獅子型"が太陽の如く光り輝き、四国を残し世界は炎に包まれた--
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友希那「うっ……ここは…?」
病室のベッドで友希那は目を覚ました。
リサ「友希那っ!!良かった、やっと目が覚めたんだね!!」
友希那「リサ……。」
リサ「1週間も眠ってたんだよ。」
リサが友希那の手を握る。
友希那「そんなに眠ってたの…。心配かけたわね。」
友希那は身体中に包帯が巻かれている状態だった。
友希那「それで…戦いはどうなったの?香澄は……無事なの?」
リサ「っ!?」
友希那の言葉にリサが反応する。
リサ「進行してきたバーテックスは友希那と香澄の活躍で撃退されたよ。でも、香澄は…………交戦中に生体反応が途絶えたんだ……。」
友希那「っ………!?」
友希那(それじゃあ、もう勇者は私以外誰も……。)
リサ「遺体は発見されてないけど、生存の可能性は……無いって……。」
友希那(…みんな……みんな死んでしまったっていうの…。)
友希那は顔をしかめ4人の姿を思い浮かべる。その様子をリサが見つめていた。
友希那「まだ…何かあるの?」
リサ「いや、失ったものは大きいけど、みんなのお陰で四国の防衛は強化されたんだよ。だから友希那も早く元気になってね。」
そう友希那に言ったリサの目は何故だか悲しげな雰囲気を見せていた。
友希那「…ええ、そうね。」
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そして月日は経ち2019年12月。友希那はリサを抱えて再び壁の近くまで来ていた。
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友希那「調査任務?」
リサ「壁外で起きた未知の事象の調査をして欲しいんだって。任務の危険度を鑑みて、友希那の退院まで先延ばしにしてたみたい。」
退院までに5ヶ月も掛かったのはこれが理由だったようだ。
友希那「本当に一緒に来て良かったの?壁外は危ないわよ。」
リサ「大丈夫、覚悟は出来てるよ。」
壁上でリサを降ろし2人は手を繋ぐ。
友希那「分かったわ。じゃあ、行くわよ。」
結界を越えた先で2人が目にしたものは--
草木は枯れ果て、建物は崩壊し、炎が渦巻き、無数の幼生バーテックスが飛び回る地獄の様な光景だった。
友希那「世界が…破壊されたっていうの……?」
リサ「違う…破壊なんてものじゃ無い。世界の理そのものが書き換えられたんだよ……。もう世界に残ってるのはここ四国だけだと思う……。」
友希那は俯き拳を強く握った。
リサ「帰ろう友希那。」
友希那「リサ…。」
リサ「この光景を中の人達に伝えないと。」
友希那「……ええ。」
友希那(結界が強化されたとはいえ、奴らが攻めてきたら例え1人でも立ち向かう……。仲間達の戦いを、想いを、命を無駄にしない為にも…私が……っ!!)
そう心に誓い友希那はリサと結界内へと戻っていった。
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3日後--
友希那は1人になってもこれまで通り鍛錬を続けていた。そこへリサがやって来る。
友希那「戦う必要が無くなったですって!?」
リサ「そう、友希那はもう戦わなくても良いんだよ。」
友希那「そんな訳ないでしょ!?もし強化された結界を越えて奴らが攻めてきたらどうするつもりなの!?」
友希那が言う事は最もである。結界の外には無数のバーテックス。そしてこちらにはたった1人しかいない勇者。御役目を放棄などあり得ないと思うのが普通であった。だが、リサは淡々と話し続ける。
リサ「今は強化された結界で"星屑"も四国に入って来ないけど、神樹様の力が尽きた時、私達は炎の海に飲み込まれて全てが終わってしまう……もう人類の根絶は完了したも同然なんだよ。」
友希那「……。」
友希那は反論する言葉も出てこなかった。
リサ「でも、だからこそそこに活路があったんだ。」
友希那「活路……?」
リサ「奉火祭。」
友希那「奉火祭?」
リサ「神代の時、土地神の王が天の神に自らの住み処から出ない事を代償に、その地を不可侵として赦して欲しいと願った神話--"国護り"。奉火祭は大社がその故事を模倣した儀式なんだ。地に棲まう者が天の神に願いを伝えたんだよ。」
友希那「神に伝えるって…そんなのどうやって……?」
そしてリサは友希那に衝撃の事実を伝える。
リサ「炎の海の中へ、6人の巫女が選ばれた……。」
友希那「っ!?まさか…生贄って事……!?」
リサ「……そこに私も選ばれる筈だった。」
友希那「筈……?」
リサは後ろを向き話し続ける。
リサ「……上手く立ち回って人選から外れたんだ………。だって死ぬのは嫌だし……。ズルいんだよ私は……。」
友希那「リサもう止めてっ!!!」
友希那がリサの肩を掴んで振り向かせると、リサは涙を流していた。
友希那「リサは私を気遣って残ってくれたんでしょう!?そんな言い方しないで!!あなたまでいなくなったら私は……!………儀式は成功したの?」
リサ「さっき神託が来たんだ。勇者の力を放棄すれば、もう攻められる事は無い………って。向こう側からすれば人が神の力を使うって事は禁忌なんだろうね……。」
友希那「だからさっきリサはもう戦わなくても良いって…。」
友希那(私は何も守れなかったっていうの…?何も取り戻せなかったというの……?)
友希那「…そう………。」
友希那が震えだす。
友希那(私は……私はなんて無力なの……。)
友希那「ううう………。」
友希那の目から涙が溢れる。
友希那「うああああああ………っ!!」
泣く友希那をリサは優しく抱きしめたのだった。
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夕方、丸亀城天守閣--
2人は街が一望出来るこの場所で今後の対策を考えていた。
友希那「私達は多くのものを失ったわ…。」
リサ「そうだね。」
友希那「だけど命は繋いだ。」
リサ「うん、私達の戦いはまだ終わってない。」
友希那「敵は天の神。バーテックスを、用いて人間を根絶しようとし、人が神の力を使うのを嫌っている。」
リサ「対する土地神は力を合わせて神樹様となり、人に神の力を与えた。」
友希那「しかし、既に大勢は決し人類は辛うじて命を繋いだ状態。勝つ為にはまず力を蓄えないと…。」
リサ「じっくり対抗策を見つけていこう。幸い結界は300年程は保つみたいだし。香澄に感謝しないとね。」
友希那「香澄?」
リサは香澄ついて新たに分かった事実を伝える。
リサ「香澄は生体反応が消えた後、神樹様の一部になったんだって。大社の調査だと結界強化の成功の一因としてあるんじゃないかって。」
友希那「まさか神にまで力を与えるなんて、さすが香澄ね。」
リサ「そうだね。まるで
友希那「……。」
リサ「どうしたの、友希那?」
友希那「もしかしたらいつかまた…と考えてしまう時があるわ。」
リサ「これから色んな事が変わると思う。その中でそんな事が起こると素敵だよね。」
リサ「今回の事で大社は名前を"大赦"--「敗れ赦された者」って意味を込めた名前に変って、そして私はそこで一番上の地位に立つんだ。そこで秘密を守る神託の巫女になるよ。」
リサは世界を救った巫女、"今井家"のトップとしてこの先の大赦を率いていく事となったのだ。
リサ「だけど……。」
友希那「どうしたの、リサ。」
リサ「その代わりに紗夜は勇者を除名しなくちゃいけなくなるんだよ。」
友希那「っ……!?そんな…どうして……。」
リサ「大赦の大部分の人達があの事件以来紗夜を勇者としては認めないって……。私が大赦の上に立つのなら紗夜の除名保留を取り消せって……。」
友希那「………。」
リサ「ごめんね、友希那……。」
俯くリサの頭に友希那は優しく手を乗せた。
友希那「リサは悪くないわ…。リサは私の信念を貫き通してくれたんでしょ?"今を生きる者の為に戦う"と。」
リサ「……うん…ありがとう、友希那。」
少しの間沈黙が続き、何か思いついた様に友希那が立ち上がり走って天守閣を後にした。
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そして10分程して、再び友希那は戻ってきた。手には花束を持っている。
友希那「私……名前を変えようと思うの。」
リサ「えっ?それどういう事。」
友希那「紗夜が存在していた記録が全て抹消されるのなら、私の中に紗夜が生きていた証を残す。」
リサ「氷川になるって事?」
友希那「それじゃあ大赦はすぐ分かってしまうわ。」
友希那「………"花園"。それがこれからの湊家の新たな名前。」
リサ「何か意味があるの?」
友希那「私達勇者は花がモチーフになってるって以前紗夜が言っていたでしょ?私が桔梗、あこが姫百合、燐子は紫羅欄花、香澄は桜、紗夜は彼岸花……私達の後にも勇者はこの世界を守っていく。勇者が集まり花園になっていく…そんな意味がこもってるのよ。花園がある限り私は紗夜の事をずっと心に思っていられるわ。そしてもちろん民心を安心させる導き手にもなる。そうして天の神を欺き、私達は密かに力を蓄えていきましょう。」
リサ「まず何から手を付けていこうか?」
友希那「最初は精霊システムね。体内に入れた時の負担を無くす為に外部に精霊用の人造の体を与えるなんてどうかしら?」
リサ「良いね!!もしかしたら友希那も"義経"の様な精霊になれるかもしれないよ!」
こうして2人は勇者システムの改善案に華を咲かせていった。
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あらかた話し終えた2人は天守閣から夕暮れの街並みを見下ろす。
友希那「いずれ人間は力を蓄えて奴らと対等な存在まで昇りつめるでしょうね。」
リサ「そうだね。」
友希那「今は和睦する。だけど……いつか必ず。」
リサ「必ず取り返そう、人々の日常を。」
友希那「ええ…失った者達の意思を継いで、未来の道を開くのよ!!」
2人は沈みゆく夕日を見つめいつか来る未来の為に進んでいくと誓うのだった。
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--勇者御記--
私達は国を護ったわけではない。
これは休戦にすぎない。
自らの国土を必ず取り戻す。
そして復興させる。
必ず。
何代かけようとも。
神世紀元年 湊友希那 記
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こうして西暦での勇者達の戦いはここで幕を降ろす。
"今井家"はリサを長として大赦内での地位を確実なものとしていき、元号を西暦から神世紀へと改める。
"湊家"も"花園家"と改めたが、リサの尽力もあり、後世には両家名が残っていく事となった。
そして2人の努力の結晶は、それから300年程の未来に神樹館小学校の3人の少女達、花咲川中学の5人の少女達へと受け継がれていく事となる--
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神世紀300年、勇者部部室--
たえ「これ、なんだろう?」
りみ「勇者御記…?」
りみが表紙を読み上げる。
りみ「これは…日記?」
有咲「大丈夫か?それ。」
有咲は謎の本を怪しんだ。
たえ「実家から持ってきた本に混ざってたみたい。」
たえは勇者御記を捲った。
たえ「湊…友希那……。ご先祖様の日記かな?」
たえが捲っていくと1枚の写真が落ち、香澄がそれを拾った。
たえ「どうしたの?」
香澄「この写真の人、最後の戦いの後私が意識を失ってた時に会ったような……?」
沙綾「もしかしたら過去の勇者様が励ましてくれたのかな?」
沙綾が推測し、
ゆり「こうして見ると、西暦の時代の勇者様も大変だったんだね。」
ゆりが答えた。
香澄「私達の今があるのはそのお陰なんだね。ずっと昔からの沢山の人達の積み重ねのお陰、今度お礼しないと。」
香澄は写真を胸に当て、湊友希那の姿を思い浮かべながら話したのだった。
香澄「よーし、私達もご先祖様に負けてられないねー!」
ゆり「良いよー。後輩がやる気に溢れてるねー。ここはみんなで掛け声行こうか。」
ゆり「せーのっ!」
全員「「「勇者部ーーーーーふぁいっ!!!」」」
その勇者部達の姿を1羽の青い烏が外から見ている。そしてそのカラスは晴れ渡る青空へと飛び立っていったのだった。
「第4章 湊友希那の章」を最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
そして物語は進み、いくつかの番外編を挟んで「第5章 白鷺千聖の章」へと進んで行きます。
引き続き宜しくお願い致します。