戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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物語の関係上日菜の苗字が変わっていますのでご了承ください。

勇者達が世界を守るお役目に就いていた裏で何があったのか…。

これは地面を這いつくばりながら泥水を啜って生き抜いてきた雑草たちの物語です。




第5章〜白鷺千聖の章〜
雑草の烙印


 

 

神世紀300年、秋--

 

海の上にそびえ立つ巨大な壁に32人の少女達が集まっていた。この壁は植物の蔦で出来ていて"結界"と呼ばれるものである。人類を守る為に必要な最後の砦なのだ。

 

彼女達が見つめる先には1人の仮面を着けた神官とピンク色のツインテールが特徴の少女。少女達の中心に立つ白鷺千聖は、隊長として全員に号令をかける。

 

千聖「総員、戦闘態勢に入って!」

 

千聖の号令を聞いた少女達は一斉にスマホのアプリを起動する。着ていた服が一瞬で淡い緑色の装束へと変化しある者の手には銃剣が、ある者には大きな盾が出現した。

 

千聖(これが神樹様の力…。)

 

千聖は一瞬で起こった出来事に内心関心するが、胸の奥では悔しさと苛立ちの感情が渦を巻いていたのだった。

 

千聖(私が望んだものは"こんな装束"なんかじゃないわ……私が手に入れるはずだったものは……。)

 

神官「この戦衣で"星屑"以上の相手をしてはなりません。あなた達は"防人"なのです。敵を倒す事が目的ではありません。決して無理はしないでください。」

 

千聖がそう思う中、神官が心の中を見透かすように千聖に言った。

 

 

 

"防人"--

 

 

 

それが千聖達に与えられた役目である。

 

 

 

"勇者"では無い--

 

 

 

勇者とは神樹の力をその身に宿して人類を守る役目を担った英雄。ここにいる32人の少女たちは、本来その役目を負う筈だったのだ。巫女である丸山彩が防人達の前に立ち安全祈願の祝詞を唱える。

 

彩「掛巻くも畏き神樹、産土大神(うぶすなのおおかみ)大地主神(おおとこぬしのかみ)の大前に(かしこ)み恐みも(まを)さく、捧奉りて乞祈奉(こひのみまつ)らくを平らげく安らげく(きこし)召して、神樹の高き広き厳しき恩頼(みたまのふゆ)に依り、禍神の禍事なく、身健やかに心清く、守り恵み(さきわ)へ給へと恐み恐みも白す。」

 

唱え終わった彩は千聖達の方に振り向き自らの言葉で話し出す。

 

彩「絶対に、みんな無事で帰ってきてね。絶対に。」

 

本来ならば巫女はこの作戦には参加しないのだが、彩の表情はどこか辛そうだった。

 

千聖「それじゃあ、行くわよ!!」

 

千聖が先頭に立ち、少女達は壁の外へと歩みを進めた。

 

 

---

 

 

壁外--

 

結界を越えたとたんに世界が一変する--

 

千聖「…ここが、結界の外……。」

 

結界の内側からは青々と広がる瀬戸内海が一望出来ているが、一歩でも結界を越えれば地獄の様な光景が広がっていた。大地は赤く爛れ、炎があらゆる個所から吹き上がっている。爛れた大地の一部には巨大な卵の様なものがびっしりと覆いつくされ、空は夜中の様に真っ暗なのだ。だが、千聖は怯むこと無く指示を出す。

 

千聖「みんな、壁から降りるわよ!離れずに一か所に纏まって進んでいきます!!」

 

防人達は壁から飛び降り爛れた大地へ足を踏み出す。防人の戦衣は勇者の装束より耐熱性に優れており、炎渦巻く大地でも比較的自由に動く事が出来る。その点だけでは防人は勇者をも上回っている。

 

?「ふえぇぇぇぇぇ!?赤いよ怖いよ!!聞いてたよりずっと危なそうだよ、千聖ちゃん!!」

 

松原花音が叫んで千聖に縋り付いてきた。

 

千聖「花音、離れて、動けないわよ。」

 

花音「だって、何か白いのが沢山飛んでるし…。」

 

上空には白く巨大な化け物が無数に漂っていた。

 

千聖「あれが"星屑"よ。習ったでしょ。」

 

花音「想像以上に気持ちが悪い…。あれが全部だなんて無理だよ!」

 

千聖「私達の任務は討伐じゃないわ。あくまで採取なんだから。」

 

花音「そんな事言ったって絶対襲って来るよ……ふえぇぇぇ!来たよ!!」

 

星屑の一群が防人達に向かって飛んでくる。星屑を見た花音は千聖から一向に離れようとしない。

 

?「恐れる事なんてないよ。今こそ活躍するチャンスだよ!」

 

そう言って最前線に躍り出てきたショートカットの少女、氷河日菜。彼女は銃剣を握り星屑へ飛び掛かった。

 

日菜「ここで頑張って、氷河家の名を……。」

 

臆病すぎる者と猪突すぎる者、両極端の2人に千聖は苛立ちを募らせていく。

 

千聖「花音は怯えないで!日菜ちゃんは出過ぎない!」

 

日菜・花音「「っ!!」」

 

千聖の叫びに花音は叫ぶのを止め、日菜は不満げに踏みとどまった。

 

千聖「銃剣隊は射撃用意、構えて!!」

 

千聖の指示で他の防人達が"星屑"に向けて一斉に銃剣を構えた。

 

千聖「撃って!!」

 

号令と共に一斉掃射し、近付いてくる"星屑"は銃撃を受け消滅する。

 

花音「た、倒した…倒したよ千聖ちゃん!」

 

花音が目を輝かせる。

 

千聖「きちんと対策さえしていれば意外とこんなものよ。」

 

日菜「近くの敵も倒しておこうか?」

 

千聖「日菜ちゃん、私たちの役目は調査と採取よ。無闇に戦火を広げなくても大丈夫よ。」

 

銃剣を構える日菜に千聖は注意するが、

 

日菜「だけど、1匹でも多く倒しておいて損はないよ。あっ、もしかして千聖ちゃんは私に手柄が取られちゃうのが嫌なのかな?」

 

冗談交じりに日菜は千聖に答えた。千聖の苛立ちが加速していく。それと同時に千聖の服を引っ張る少女がいた。若宮イヴである。

 

千聖「どうしたの、イヴちゃん。」

 

イヴ「あそこに倒れている人達がいます。」

 

イヴが指さす方向を見ると3人の少女が腰を抜かして倒れていたのだ。

 

日菜「怖いなら結界内に戻ってれば良いのにね。」

 

日菜がため息交じりに呟くが、

 

千聖「私達に撤退なんて無いわ。みんな、一か所に固まって!」

 

千聖は首を横に振って、恐怖で腰を抜かした3人を守るように指示を出す。千聖達32人の防人達は今日が初めての任務だった。任務の内容は"壁外の土及び溶岩を僅かでも持ち帰る事"である。おそらく防人達を壁の外の環境に慣らす事も目的の1つなのだろう。そんな最初の任務から脱落する者や、まして死者を出す事はあってはならない。千聖はそんな考えが頭の中を駆け巡っていた。完全に一纏まりになった防人達に再び"星屑"が襲い掛かってくる。

 

千聖「銃剣隊は射撃の用意!!護盾隊は盾を構えて!!」

 

花音「護盾隊って私達の事だよね、千聖ちゃん!?」

 

千聖「そうよ、花音!あなたが手に持ってるのは盾でしょ!!銃剣隊、一斉発射!!」

 

千聖の合図で再び"星屑"を砕いていくが、今回は全て倒す事が出来ずに何匹かが迫ってきた。

 

千聖「盾!!」

 

花音「ふえぇぇぇぇ!!殺されちゃうよ~!!」

 

花音は喚きながらも盾を前面に押し出し盾を構える。その他の護盾隊も同様に押し出し盾が巨大化し組み合わさって全体を囲う様にがっしりとした巨大な壁を作り上げ、"星屑"の攻撃は壁に阻まれた。

 

千聖「今よ!突いて!!」

 

護盾隊が意図的に壁に隙間を作り、その隙間から銃剣隊は銃剣の切っ先を突き出し"星屑"を串刺しにしていく。これが彼女達の戦い方なのだった。

 

防人には3種類のタイプが存在する。銃剣を持って外敵を排除する銃剣型、大きな盾を持って防衛に特化した護盾型、そしてそれら2つを束ねて指示を出す指揮官型。指揮官型の武器も銃剣だが、銃剣の威力と戦衣の防御力は一般の防人よりも高いのが特徴である。防人達の構成は、日菜やイヴを含めた16人が銃剣型、花音などの8人が護盾型、千聖含めた8人が指揮官型となる。

 

先ほどの連携で"星屑"の一群を倒したものの、敵たちは次から次へと防人たちに襲い掛かり、護盾隊はそれを防いでいく。

 

花音「危ないよ~千聖ちゃん!!」

 

千聖「自分で自分を助けるの!自信を持って!!」

 

花音「む、無理だよ~!!」

 

花音は叫ぶが、本能からか動きは的確であり、"星屑"の攻撃をしっかりと防いでいた。しかし、猛攻にいつまでも耐えられる訳では無かった。護盾隊の一人が突進の圧力に耐えきれずに弾き飛ばされてしまったのだ。銃剣隊の一人がその隙間から突くも"星屑"はそれより早く切っ先を巨大な口で咥えてその銃剣隊の少女を放り投げた。

 

防人「うわぁぁぁぁ!!」

 

悲鳴を合図に無数の"星屑"が放り出された少女に群がろうと集まってくる。

 

千聖「誰も殺させる訳にはいかないっ!!」

 

千聖は飛び出し単独で"星屑"に切り込んで行った。そして次々と倒していき少女を救って盾の内側へと戻って行った。

 

防人「はぁ……はぁ………。」

 

戦衣の防御力のお陰で、放り出された少女は噛み跡こそ沢山あるも、大きな傷は負っていなかった。千聖をここまで突き動かしているものは誇りと情け、そして怒りである。汗を拭いながら千聖は、ここに至る過程を思い出していく--

 

 

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