あのツンデレ少女が久々に出てきます。
白鷺千聖は香川県に生まれ、物心ついた時から片親でありずっと父親と暮らしていた。
父は大赦関連の社殿建造と修復を生業とする宮大工であり同業者からは尊敬されていたのだが、一方で真面目で頑固な性格の為建造物の事となると周囲が見えなくなってしまう事もあり、そのせいで母親と離婚したのであった。父親は四六時中仕事の事ばかりを考えており、娯楽にも興味は無く時間があれば自らの研鑽に時間を費やす。千聖は小さい頃からそんな父親の背中を見て育ってきた。
そんな父が千聖は誇りだった。だから千聖は小さい頃から父親と同じ様に己を高め全ての時間を自らの研鑽に注いだ。今では勉強も運動も彼女の右に出る者はいなかったのである。父親の様に尊敬される--それが千聖の夢である。そして6年生の頃、大赦の使いが白鷺家を訪れ言った。
使い「素養のある彼女に、重要な御役目を任せたいのです。」
と。話し終えた際に父親は、
千聖父「お前は私の誇りだ。」
と始めて千聖を褒めたのだ。そして千聖は父親と親戚達に送り出される。次々に激励の言葉が掛けられる中で千聖はある一言が頭の片隅に強く残っていた。
親戚「大赦でも弛まずに努力するんだよ。"車輪の下敷き"には決してならない様にね。」
誰が言ったのかは今となっては覚えていないが、言葉自体は千聖に楔の様に刻まれていたのであった。
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千聖が連れてこられた場所は、学校と訓練場が併設された大きな施設だった。そこには千聖の他にも同年代の少女たちが20人程いた。どうやらこの中の1人だけが"勇者"と呼ばれる御役目に就く事になるらしい。大赦の神官と呼ばれる者が"勇者"ついて説明を始める。
神官「勇者とは国家で最重要の、人類を守る御役目を持つ者達の事です。今から298年前、神世紀の始まりの時代に人類の大半は凶悪なウイルスによって滅びました。残された人々は四国を囲む壁を作り隔離する事で今まで平穏を保っています。」
千聖はこの事は当然知っていた。学校で教えられた為だ。神官は話続ける。
神官「ですが、その歴史の中でしばしば人の手に余る事件や天災が発生します。そんな時に神樹様から力を授かり人々を守る者、それが勇者なのです。勇者は一般には知られてはいません。ですが"湊家"や"花園家"という名前は有名ですよね?」
"湊家"、"花園家"--
大赦内で"今井家"と並ぶ最高位の名家の1つである。
神官「"湊家"は西暦の時代に存在した初代勇者の家系であり、"花園家"は神世紀の始まりに"湊家"が家名を変えたものです。この様に、勇者は歴史の陰から人々を守って来ました。そして先日……。」
その時、ほんの一瞬だけ女性神官の言葉が詰まる。
神官「当代の勇者の1人が御役目を退きました。しかし、彼女の使っていた"勇者の力を得る為の端末"はまだ残されています。それを使う事で新たに1人が勇者へとなれます。ですが、勇者の御役目は決して軽いものではありません。ですので、優秀なあなた達から更に選別し、勇者に相応しい力を持つ者に勇者の御役目を担っていただきます。」
こうして千聖達勇者候補生の競争の日々が始まっていく--
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千聖達は普段の学校の授業に加え勇者となる為の訓練を始めていく。体力作りや精神面の修行、そして剣術の訓練。この選抜で勇者になる者は双剣を使って戦うそうだ。どうやら御役目を退いた勇者が使っていた武器が双斧だかららしい。勇者候補生たちは誰もが懸命だったが、その中でも千聖は群を抜いていた。
日が昇る前から訓練場に入り、放課後は日が落ちて体が動かなくなるまで剣術を磨く。寮に戻った後はトレーニング器具で基礎体力をつけ、その後は実際の剣術家の動きの映像を見てイメージトレーニングを欠かさずやっている。
食べ物にも気を使った。アスリートの食事や栄養の取り方を参考にしてこれと決めた物しか口にはしなかった。強さだけが勇者の基準では無いと考え、授業中も気を抜かずその場で全てを覚えていく。それが集中力のトレーニングにも繋がると千聖は考えていた。
必然的に千聖は孤立していったが、千聖はそんな事は一切気にせず己をただただ研鑽していったのだった。
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1年が過ぎた頃、候補生の数は半分程に減っていた。その中でも"2人"の候補生が突出していたのである。
1人は千聖--
もう1人は市ヶ谷有咲--
剣術や運動能力を見てもこの2人はほぼ同等。当然千聖は有咲を意識する。有咲も自分に厳しく1人で自己研鑽するタイプだったが、千聖程徹底はしていなかった。訓練中でも困っている人を放っておく事が出来なかったからだ。
?「うーん…右手だけ動かしてると左手何にもしなくなっちゃうなー。」
今も有咲は訓練しながら悩んでいた水色のショートカットの少女に剣術を教えていた。
有咲「日菜さん、両手の剣を無理して同時に動かさない方が良いですよ。利き腕の剣を中心に、逆の手は補助程度で充分です。」
日菜は有咲の教え通りに剣を振るってみる。
日菜「おースムーズに動かせる!ありがとね!」
他にも有咲は体調を崩した人がいれば、自分の訓練を中止して医務室へと連れて行く。千聖はその姿を見て、
千聖(そんな事をしてる暇があるなら自己研鑽すべきだわ…。これは選抜なの、他の人に構っている時間は無いのよ…。)
そんな事を思うのであった。
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ある日の放課後、千聖と有咲だけが訓練場で鍛錬をしていた際に千聖は有咲に話しかける。
千聖「有咲ちゃん。他人と触れ合っていたら、選抜に勝ち残れないわよ。自分の時間を犠牲にしてまで他人を気にする……正直甘いと思うわ。」
有咲「……っ!」
有咲も自覚はしていたのか、千聖に指摘されて顔が赤くなる。
有咲「べ、別に馴れ合ってる訳じゃねーし!人に教える事は自分の鍛錬にもなるし、それは全部結局は自己研鑽に繋がってるの!」
千聖「まあ、良いわ。けどその甘さがある限り、勇者に選ばれるのは私よ。」
有咲「あ、甘くねーし!!」
そう言って有咲は訓練場から出ていったのだった。
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そしてまた1年が過ぎた。この頃になると、施設に残っているのは千聖と有咲を含めて5人程になっていた。ある時、女性神官が残りの候補生に伝える。
神官「近く、四国に危機が訪れる旨の神託がありました。間も無く最終選考が行われ、あなた達の中から1人が勇者となり、御役目を担う事となります。」
成績で判断すれば千聖か有咲のどちらかが選ばれるのは目に見えていた。だが、最終選考は明確な試験は行われないので選ばれる基準は誰にも分からなかった。有咲を横目で見ながら千聖は思う。
千聖(多分、これからの生活の中で採点が行われて、高い方が勇者として選ばれるのね…。)
誰よりも己を磨き続け、不必要なものは全て削ぎ落としてここまで千聖やってきた。千聖には自信があったのだ。この中で誰よりも鍛錬を積んできたという絶対的な自信が。千聖はその後もこれまで通りの生活を崩す事なく続けていったのだった。
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最終選考の通達から1ヶ月が過ぎた頃、千聖は教師兼神官の女性から呼び出しを受ける。
千聖(きっと勇者の御役目の事に違いないわ。)
千聖はそう思いながら部屋へと入る。だが、女性神官は告げる。
神官「勇者の御役目には、市ヶ谷さんに就いてもらう事となりました。」
千聖「…………えっ!?」
呆然とする千聖を他所に神官は話を続ける。
神官「あなたは誰よりも努力していたし、市ヶ谷さんとどちらが選ばれてもおかしくない状況だった。ですが、これは神樹様の御意思です。」
千聖の視界が歪み、足元がふらつく。
千聖「な……なん、で………。せ、成績では負けていなかった筈です!私は市ヶ谷さんより優秀だった!!なのに…何でっ!」
神官「落ち着いて、白鷺さん!」
神官が必死で千聖をなだめるも、
千聖「落ち着いてなんていられる訳が無いわ!!選考の基準は何ですか!?これじゃあ納得なんて出来ないです!!!」
神官「選考に間違いはありません。あなたの努力も優秀さも私達は充分に分かっています。」
千聖「だったら、どうしてっ!!私は絶対に認めない!!私の方が勇者に相応しいのよっ!!!」
今にも殴りかかりそうな千聖を見て、神官たちは数人がかりで千聖を押さえつけ、1人の医務院が千聖に注射を打った。するとすぐに千聖の思考がボヤけて、体から力が抜けていったのだった。
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勇者が有咲に決まった為、千聖達他の候補生は故郷へと帰された。勇者に関する事は他者には漏らさないように口止めされる。だが、他の人に言ったところで誰も信じないだろう。大赦もそれを分かってて口止めだけに留めたのだった。
千聖が実家に戻った際、父親は何も言わなかった。責める事も無いし褒める事も無い。自分の娘が自分で選んで懸命に頑張ってきた事に対して口を出すべきでは無いと思ったのだろう。
そして、千聖は地元の中学校へと編入する事となる。誇りと夢を持っていた時間は終わったのであった。
千聖はクラスに溶け込む事が出来なかった。当たり前の事だ。このクラスの雰囲気は千聖が全て不必要だと自ら切り捨てたものだったのだから--
友達との会話や接し方、楽しめる趣味、同世代のトレンドなど千聖に分かるはずもなかった。全てを犠牲にしてきた2年間の努力の末に千聖が手にしたものは--
何も無い空っぽの自分だったのだ。
千聖(あの血を吐くほどに努力した結果がこれなの……!?)
夜眠る際にはその事が常に頭をよぎり自分を苛めるのである。
千聖(どうすれば良かったの…!?どうすれば私が勇者に選ばれたの…!?成績では決して負けていなかった。だったら何で……!?)
無意味な行為だが、千聖はそうと分かっていてもふとした瞬間に考えてしまうのだった。そして、千聖は思い出す。"車輪の下敷き"と言う言葉を--
それを調べてみて千聖は直ぐにこの言葉の意味に納得する。
千聖「"落ちぶれる"……そうね…私は車輪の下敷きになったのね……ふ、ははは………。」
施設に行く際誰かが言った言葉--
千聖はまさにその言葉通りになってしまったのであった。
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やがて季節は移り変わり、大赦の使者が再び白鷺家を訪れてきた。
使い「白鷺千聖。人類を守る御役目の為に、あなたの力が必要になりました。」