ここまでで導入は終わり、次回から本格的な物語が進んでいきます。
防人の戦衣のモチーフは薺(なずな)です。
千聖が連れてこられたのは、海沿いに聳え立つ、高さ158メートルの建造物“ゴールドタワー“。西暦の世界から存在する建物であり、現在は大赦の管理下に置かれている。
千聖は1階のエレベーターから展望台まで一気に上がっていく。ゴールドタワーには中間層のフロアは無く、鉄骨のみで構成されている。外壁は金色のハーフミラーになっていて、上がっていくエレベーターの中から青く広がる海が見える。
千聖(大赦の御役目……いったい何だというの……?)
勇者として不合格の烙印を押された千聖には、自分がどうしてここに連れて来られたのかが分からないでいた。展望台に到着し、エレベーターの扉が開く。その先にいたのは千聖と同年齢ほどの少女達が集められていた。中にはかつての訓練施設で勇者を争った者までいた。
千聖(これは……新たな勇者の選考に違いない!)
千聖はそう考える。
神官「全員揃ったようですね。」
彼女達の前に現れたのは女性の神官だった。仮面で素顔は見えないが、千聖は声で神官がかつて勇者選考の時に神官兼教師として接していた人物だと見抜いた。
神官「今ここに集まっているのは、かつて勇者という御役目の候補生だった者達です。
神官は話を続けていく。彼女の話によると、勇者の候補生には2種類存在したらしい。1つは、千聖達の様に先代勇者の力を引き継ぐ為の候補者達。もう1つは、四国各地の“勇者適性の高い少女達を集めたグループ“に所属していた者達。
大赦は、神世紀298年から2つのプロジェクトを同時進行させていた。一つは、四国中の少女達の勇者適性を調べ、適正値の高い者を集めたグループを各地に作る計画。非常事態の際はそれらのグループのいずれかが神樹に選ばれて勇者として御役目を果たしていく。しかし、いくら適正値が高いとは言え、戦いにおいては彼女達は全くの素人である。故に彼女達の先頭に立ち彼女達を導いていく“完成した勇者“が必要となってくる。それが“勇者適性が高く、御役目を退いた先代勇者に精神面が近い為、その力を受け継げる者“--
即ち千聖や有咲の事である。今ここに集められているのは、神樹に選ばれなかった各地の勇者候補グループの者達、そして先代勇者の力を受け継ぐに値しなかった者達--
つまりは、勇者になれなかった落第者なのだ。
神官「あなた達は皆、勇者適性が高い。その素養を生かして、新たな御役目についてもらいたいのです。」
神官はそう言うと、設置されたスクリーンに映像を映し出した。そこに映し出されたものは、赤く爛れた大地に真っ黒な空、そしてその空を蠢く白い化け物。少女達がざわつくのも無理はなかった。
神官「これはこの世界の真実です。」
神官は話すが、千聖含めこの場に居る全員が理解できずに呆気にとられていた。神官はそれでも話を続ける。
神官「四国を囲む壁……。ここに映っている映像は、その壁の外を映したものです。」
少女「これが……壁の外?何を言ってるんですか!?」
一人の少女が疑問の声を上げる。
少女「確かに壁の外の世界は、致死性のウイルスによって滅びたと聞いています。ですが、この状況は…ウイルスによって大地が、空がこんな風になるものなんですか?それにあの化け物は……?」
その質問に女性神官は答える。
神官「あなたの疑問はもっともです。人類がひた隠しにしてきた真実の歴史を話しましょう……。西暦の時代--後に“7.30天災“と呼ばれる事件が起こりました。それにより空から異形の存在“バーテックス“と呼ばれるものが出現し、人類を滅亡寸前まで追い込んだのです。」
神官「“勇者“とはそれ即ち、バーテックスが神樹様へ攻め込んでくる際にそれを撃退する御役目を持つ者たちの事なのです。神樹様がいなくなってしまえば人類は滅亡する--“勇者”は命を懸けてそれを防ぐ者達の事を指しています。」
女性神官がスクリーンを切り替えると、そこに映っていたのはバーテックスと戦うボロボロの少女達の姿が。
千聖「あっ…………。」
その時、千聖は全てを理解した。かつて神官が言っていた”御役目を退いた勇者“という言葉の意味。
千聖(引退なんかじゃ無かった……。先代勇者はアレに……殺されたのね………。)
神官「神樹様は地の神の集合体であり、バーテックスは天の神が人類を滅ぼす為に送り込んだ存在です。壁の外の世界は、天の神の力によって理を書き換えられてしまいました。神樹様の結界によってかろうじて四国だけが人間の住める状態のまま残っているのです。」
神官「ですが、このままではいずれ神樹様が力尽き、結界が消え四国も炎に包まれてしまいます。事態を打開する為に人類も自らが打って出なくてはならない時が来たのです。そこで、壁の外に出て外界を徹底的に調査し、反撃の準備を整える御役目をあなた達に頼みたいのです。」
話を聞き終えた時、一人の少女が顔を青くして叫ぶ。
?「ふえぇぇぇ!む、無理ですよ…。あんな化け物と戦うなんて到底出来ないですよっ!!」
神官「松原さん!勝手に帰ろうとしないでください。もちろん、危険な御役目を生身でやらせようなんて事はしません。戦う為の力を用意しています。」
そう言って、神官は再びスクリーンに映像を映した。そこには薄い黄緑を基調とした鎧の様なスーツが映し出されている。
神官「勇者は神樹様から力を得てバーテックスと戦っています。大赦はその加護を科学技術で管理して任意のタイミングで神樹の力を引き出せる様にシステムを作りました。あなた達にはそれを改良量産化したものが与えられます。パワーは勇者と比べて落ちますが、使用できる人数は大幅に増えたのです。」
一通りの説明が終わると、千聖達は“防人“としての訓練をこのゴールドタワー内で受けながら生活していく事となったのだった。
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防人達は銃剣と盾を使う者に分かれて訓練を開始していく。千聖はかつて双剣の鍛錬を受けていたが、銃剣は双剣とは全く違う戦い方の武器である。狙撃や槍術が必要となってくる。また、数が多い点を生かして集団戦を用いていく。千聖はまた一から技術の学び直しとなったのだった。技術の学び直しは千聖にとってそれほど苦悩ではなかった。ただ、彼女の胸の奥には怒りが渦巻いていた。
千聖(大赦は私を失格にした……そのくせ今になって、勝手な都合で呼び戻した…。都合のいい道具のような扱いだわ!しかも、私達は“勇者“では無い。量産型のくだらない役目…。勇者でなくともそれくらいは出来るでしょって事!?)
千聖は考える。
千聖(良いわっ!だったら認めさせてあげる!この御役目で大赦の連中の想定以上の成果を上げて、勇者に相応しかったのは私なのだと教えてあげる!!)
千聖は凄まじい勢いで教えを吸収していった。
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やがて、訓練も一通り終えた頃、部隊の隊長を選出する事となった。
神官「立候補者は手を挙げてください。」
女性神官の言葉で千聖が挙手をし、他にも数名手を挙げた。
神官「ならば実践の成績で決めましょう。」
そして銃剣での模擬戦、狙撃能力の測定、基礎体力測定等様々なテストが行われ、千聖は他の追随を許さない程にトップの成績で隊長へと選抜された。他の少女達も納得したが、ただ一人だけ異議を唱える者がいた。
?「千聖ちゃん!今回は惜しかったけど訓練と実践は違うからね。実際の御役目じゃ私が千聖ちゃん以上の手柄を立てるんだから!!」
千聖「えっと………誰だったかしら?」
?「うっそーーーーーー!?えっ?ちょっと待って!もしかして私千聖ちゃんに認識されてなかったの!?」
氷河日菜と名乗った少女は驚く。
千聖「ええ、ごめんなさい……。」
千聖は気まずそうに頷く。防人は全員で32人もいる。まだ会って1ヶ月も経っていない。まして千聖は生活の全てを鍛錬に注いできたのだ。仲間の顔もほとんど覚えていないのは当然である。
日菜「そんなーーーー!前に勇者の候補生として、千聖ちゃんや有咲ちゃんと一緒に競い合ってきたのにーー。」
その言葉を聞いて千聖は思い出す。勇者候補生の頃に有咲が教えていた人の事を。
千聖「あっ、思い出したわ。そう言えばいたわね、日菜ちゃん。」
日菜「えええええええっ!本当に覚えてなかったのーーー!結構ショック…。」
日菜はガックリと肩を落とした。そんな騒ぎがあったものの、千聖は防人の隊長として御役目が始まるまで訓練に勤しんだ。日菜はやたらと千聖に突っかかってきて、自分に自信が無い松原花音は一番強いのが千聖だと分かった瞬間から、
花音「ふえぇっ!御役目の時は私を守ってね!絶対だよっ!」
と涙目でいつも訴えてきている。若宮イヴという少し無口な少女は、どういう訳か千聖に懐き、いつも千聖の傍にいた。また、防人たちの御目付け役とも言える少女もいた。彼女は神樹から神託を受け取る事が出来る“巫女“という存在の一人である丸山彩。
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そして、時間は現在に戻り、今日が防人としての最初の任務だった。星屑が少女達を執拗に襲い続けている。負傷や恐怖で動けない者もいるが、今回の任務は壁外の土や溶岩を少しでも採取する事で動けなくても問題はなかった。
問題は敵の数が多すぎる事だった。護盾隊の盾だけに頼っていては、さっきの様に力押しで防御を崩されてしまう。千聖は一瞬考え、指示を出した。
千聖「護盾隊は隊全体の防御を継続して!2番から8番の防人は盾の外で星屑を迎撃して護盾隊の負担を減らして、それ以外は採取を!!」
千聖の指示で防人達が動き出す。2~8番の番号を持つ防人は能力の高い指揮官型であり、盾の外で星屑たちと対峙する。そして採取を任された防人たちは
千聖(私は、絶対にこの御役目を完璧にこなして、勇者に昇格してみせる……!今までの人生を…全てを捨てて積み上げてきた努力を、無為にされてたまるもんですか!!)
怒りをぶつけるように千聖は星屑を殲滅していった。だが、敵の数は多く、千聖の背後から隙をついて一体の星屑が接近してきた。
千聖「くっ……まずいっ!!」
しかし、
日菜「させないよっ!!」
日菜が護盾隊の守りの外に飛び出してきて、千聖を襲ってきた星屑撃退した。
日菜「忘れないでよ!今千聖ちゃんを助けたのは私なんだからねっ!!」
そう言いながら日菜は再び星屑と戦い始めたのだった。
千聖「日菜ちゃん、指示に従って、採取作業に戻って!!」
日菜「私はあんなチマチマした作業は性に合わないよ!!」
指示を無視して日菜は意気揚々と戦い続けている。
千聖「………はあ。」
千聖はため息をつく。だが、日菜の性格上採取よりも戦う方が合っているのは確かだった。
千聖「……臨機応変な戦い方も必要ね…。」
千聖はそう思い、日菜を放置した。その時、
花音「千聖ちゃーん!」
花音が他の護盾隊を離れて、千聖の前で盾を構えた。花音のお陰で星屑の攻撃が阻まれ、千聖は一体ずつ確実に星屑を撃破していったのだった。
千聖「助かったわ、花音。」
花音「千聖ちゃんが死んじゃったら、誰が私を守ってくれるの!?絶対に生きて私を守ってくれなきゃダメなんだから!!」
花音も千聖の指示から外れた行動をとっているが、それに助けられた事もまた事実である。一方イヴは千聖の指示通り、淡々と採取を続けていた。そんな防人達の姿を見て千聖は思う。
千聖(大赦の連中も、神樹様も、私達を“勇者になれない力不足な者達“とでも思っているのでしょうね…。でも、私達はやれるわ!!私達は落第者なんかじゃ無い!!)
車輪の下敷き--
その言葉が脳裏によぎる。
千聖(上等だわ!私達は下敷きになんかされない!!そんな車輪なんか壊してあげるわよ!!!)
そして、千聖は採取が充分に完了した事と防人達の体力に限界が来たと判断し叫んだ。
千聖「撤退を開始します!怪我人と動けない人には、無事な人が肩を貸してあげて!死者は絶対に出さないわ!!全員で生きて帰るのよ!!」
ボロボロになりながらも、防人達は結界の中へと戻ってきた。初めての御役目で防人達は全員生還する事に成功したのだった。
千聖(私は、必ず勇者になってみせる…。その為だったらどんな事でもやってやるわ……!!)
千聖を突き動かしているのは怒りである。自らの誇りの為に彼女は戦い続ける。
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これより語られるのは、美しく華麗に咲く花達の物語では無い--
名も知られず誰の目にも止まらず、人に踏みつけられながら、それでも地を這うように必死で生きる雑草達の物語--
勇者でない者達が、勇者に成る物語である--