過去の章との繋がりが垣間見えてきますので、遡って読んでみるとより楽しめると思います。
少女「ごめん…本当にごめんなさい…。」
千聖の前で、少女はうなだれながら呟いた。
千聖「あなたはそれで良いの!?せっかく防人として訓練してきたのに、ここで諦めたら何にもならないわ!!」
千聖は説得するが彼女の意見は変わらなかった。心が完全に折れてしまっているからだ。少女は謝罪を繰り返しながら部屋から出ていった。
千聖「これで3人目ね…。」
千聖はため息混じりに呟いた。初めての任務が終わった後、3人の少女が防人を続ける事は出来ないと言い出したのだった。事前に外の世界の惨状は聞かされてはいたが、いざ目の当たりにするとその少女達にとっては想像以上の絶望の連続だったのである。
延々と広がる爛れた大地に倒しても倒しても減らない化け物の群れ。前回の任務で死者は出さなかったものの、負傷者や手術が必要な傷を負った者はいた。その被害を目の当たりにすれば、次は自分がそうなるのではないかと考え竦む者が出てきても全くおかしくない状況である。辞めたいと言い出した3人と千聖は話をしたものの、1人は何とか思い留まらせたが、他の2人に千聖の言葉は全く届かなかった。
千聖「情けない…勇者にも選ばれなくて、ここでも逃げてどうするのよ!!」
千聖は苛立っていた。勇者が戦っているバーテックスの強さはコレの比では無い。千聖にとってそれは勇者の格の違いをむざむざと見せつけられている様なものだった。千聖は拳を握りしめて誓う。
千聖「私は落第者なんかじゃない…必ず勇者になってみせる!!」
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ゴールドタワー展望台--
千聖は展望台に来ていた。展望台は他と比べて手を加えられていない。海側を見れば、2年前に崩れた大橋と四国を覆う壁が目に入る。反対を見れば、西暦の時代の勇者が拠点としていた丸亀城が見えた。黄昏ていた千聖の背後から声が聞こえる。
神官「防人の御役目を辞退したいという者が2名出たと聞きました。」
千聖「っ!?」
千聖は振り返ると、そこにはあの女性神官が立っていた。脱退の声は大赦にも伝わっているようだ。
神官「また、戦闘不能な重傷者が2名。次回の御役目まで回復を待つ時間はありませんが、すぐに補充出来るでしょう。」
そう淡々と続けると、神官は去っていった。
千聖「補充…?」
千聖は神官が言った言葉に引っかかり、心がざわついた。
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次の日--
千聖の朝は早い。日が昇る前に起きて、近くの公園から走り始め、駅に向かって線路沿いを走り、再び臨海公園に戻るマラソンを週2回走る。防人になって以降、千聖の日課となっているジョギングである。その後、訓練場へと向かい木製の模擬銃剣を使って技の訓練を行う。3時間ほど汗を流した千聖は朝食をとる為に食堂へと向かうが、今日は食堂の入り口にあの女性神官が立っていて千聖に話しかける。
神官「朝食の前に、あなた達に伝える事があります。展望台へ向かいなさい。」
千聖は着替えをする暇も無く展望台へと向かった。
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展望台には既に千聖以外の全員が集まっていたが、昨日辞めたいと言っていた2人の少女の姿はそこに無かった。代わりに見覚えの無い少女が4人いる。
神官「今日から彼女達が新たに防人の御役目に着きます。」
女性神官は淡白に説明する。千聖は昨日女性神官が言っていた言葉を思い出す。
千聖(補充……私たちは消耗品って訳ね…。)
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ゴールドタワー教室--
花音「千聖ちゃーん!!やっぱり私も防人辞めるって言えば良かったよーーー!」
千聖は教室に入っていきなり花音に泣き付かれる。だが、千聖はそれをスルーして自分の席に座り教科書を広げる。防人達にも申し訳程度に授業は行われる。御役目が終わってから彼女達が普通の生活に戻れるようにする為か、はたまた大赦が防人を人間扱いしていると自らに言い聞かせる為か。花音はしつこく千聖に泣き付いてくる。
千聖「花音、何度も言っているでしょ。あなたには充分実力があるの。自信を持ちなさい。」
花音「でも、辞めていった人達は私よりも成績良かったんだよ!?」
千聖「訓練はあくまでも訓練。実戦ではあなたの方が優秀だっただけよ。」
花音は自己評価も大赦からの評価も低いが、千聖は彼女の能力を充分認めていた。現に最初の御役目でもしっかりと自分の役目を果たしていたのだから。負傷者が多く出た中でも花音は無傷で帰ってきたのだ。
千聖「花音はもっと自分に自信を持たなきゃダメよ。」
花音「自信なんて持てないよ。」
千聖「ならどうして防人を辞めたいって直接言わなかったの?」
花音「そ、それは……。」
花音が言葉に詰まる。
花音「あの神官さん何か怖いし…。何でずっと仮面してるんだろう。」
千聖「そうね……。」
千聖は勇者候補生の頃からあの女性神官が仮面を外したところは一度も見た事が無かった。
千聖(何か理由でもあるのかしら……。)
そんな事を考えていると、女性神官が教室に入ってくる。
神官「では、教科書の156ページを開いて。」
授業が始まるとさっきまでの考えは千聖の脳裏から消え、千聖は授業に集中したのだった。
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授業の後は昼まで訓練が行われる。前回の壁外でのデータを元に、防人たちの動きに改良が加えられていく。目下の問題は護盾隊だ。盾で防げば星屑の突進は防ぐ事が出来るが、奴らの執念深さは桁外れで何度も突進を繰り返し予想より早く防御が破られてしまう事が分かったからだ。本日の訓練は護盾隊の基礎体力の強化が中心となって行われた。
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訓練の後は昼食である。1人で食べている千聖の横に花音がやって来る。
花音「次の御役目はいつになるのかな…。」
千聖「大丈夫よ。私の部隊で死者は出さないわ。」
その言葉を聞いた花音は千聖に抱きついた。
花音「千聖ちゃん!!やっぱ千聖ちゃんは頼もしいよ!次の御役目でも絶対に私を守ってね!!約束だよ!絶対だよ!!」
花音の過剰な反応はやり過ぎだが、頼られるのは不思議と悪い気持ちではなかった。そこへ、
日菜「食事は静かに摂らなきゃダメだよー。」
日菜がやって来て千聖と同じテーブルに着いた。
日菜「次の御役目こそ、私の大活躍…。」
千聖「花音は何度も死ぬ何て言ってるけど、壁の外に出た時も私は一度もあなたを守ってないわ。花音が生き残ったのはれっきとした自分自身の力よ。」
花音「何言ってるの、千聖ちゃん!ずっと千聖ちゃんが守ってくれてたよ。」
千聖「花音の頭の中ではどんな記憶改変が行われてるの…。」
日菜「ちょっとー!2人して私を無視しないでよーー!」
千聖「あっ、ごめんなさい日菜ちゃん。私に話しかけてたのね。」
日菜「んなっ!?」
こんなやりとりが昼食中は日常茶飯事であった。
彩「仲良しなのは良いけど、喧嘩はダメだよ。千聖ちゃん、日菜ちゃん。」
そこへ巫女の彩がやって来る。
日菜「私と千聖ちゃんは言わばライバル!仲良しなんかじゃないよー。」
日菜は彩に悪態を突くが、
彩「ふふっ、そういうところが仲良しに見えるんだよ。」
彩は屈託の無い笑顔で日菜に笑いかけ、毒気を抜かれてしまった。
千聖「そういえば彩ちゃん、午前中は姿を見なかったけど何かあったのかしら?」
千聖は気になり尋ねてみた。教室での授業は彩も一緒に受ける事になっているからだ。
彩「新しく防人になった人達の為に神樹様にお祈りをしてたんだよ。みんなが無事に帰って来れますようにってね。」
千聖「そう……。」
巫女は大赦の厳しい管理下に置かれると以前聞いた事があった。神樹の神託を受けるという事は国家の中枢に関わる事であり、必然的に外の世界やバーテックスの事を知ってしまうからだ。
彩は幼い頃から巫女としての訓練を受けているらしい。幼くして残酷な世界の真実を知らされ、家族にも会う事が出来ない。不平も何一つ言わずに巫女としての役割を全うして身を粉にして祈りを捧げている。千聖はそんな彩に敬意を持っていた。
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食事もしばらくしたところで、千聖はトレーを持ったままウロウロしていたイヴを見かける。
千聖「イヴちゃん!場所が無いならこっちに来たら?」
その言葉を聞いたイヴは駆け足でやって来た。彼女は口数が少なく無口な為、考えが分かりづらい。しかし判断力には眼を見張るものがあり、千聖はそれを評価していた。イヴに与えられた防人番号は9番。1〜8番は指揮官型なので、イヴは指揮官以外では最も能力が高いと大赦から認められているのである。
千聖(確かに、判断力の高さは認めるわ…でも、それを加えても過大評価なのではないかしら……。)
千聖が思うのも無理はない。判断力は確かに高いが、それ以外の能力は平均以下。9という番号はいささか高すぎるように思えたのだ。そんなこんなで千聖の周りに集まった彩、日菜、花音、イヴ。この5人はよく一緒に行動しており、周囲からも一つのグループとして認識されていた。
千聖(なんだか妙な感覚ね…。)
千聖はこの状況にまだ慣れていない。勇者候補生の頃からずっと彼女は1人だったから。周囲を気にする事は無かったし、何でも1人で完結していたから。けれど、今は隊長になったせいもあり周囲の人間との交わりが出来始めている。
千聖(だけど…悪くないかもね。)
千聖はそれも悪くないんじゃないかと思い始めていた。気付けば千聖とイヴを除く3人で話が盛り上がっていた。
花音「何か日菜ちゃんってあまり名家の出って感じしないよね。」
花音が日菜に言う。
日菜「そんな事無いよー。氷河家は立派な名家なんだよ!」
そこへ彩が詳しく説明を加える。
彩「私知ってるよ、氷河家の事。神世紀70年頃、赤嶺家と共に世界を救った氷河家の話は良く聞いてるし。」
そんな彩を日菜は抱きしめる。
日菜「彩ちゃんっ!!理解してくれるのは彩ちゃんだけだよ!!」
機嫌が戻った日菜はイヴに話を振る。
日菜「せっかくだからイヴちゃんの事も詳しく知りたいな。どんな家庭で育ったの?両親は?」
少しの無言の間がありイヴが答える。
イヴ「両親は心中しました。」
千聖・花音・日菜・彩「「「………。」」」
5人の間に気まずい空気が流れる。
千聖(どうするの日菜ちゃん、この空気!)
そんな事を思いながら千聖は日菜を睨んだ。
日菜(わ、私のせいじゃ無いよー!知らなかったんだもん!)
日菜は目を晒す。千聖は頭をフル回転させ話題を絞り出す。
千聖「イ、イヴちゃん、小学校はどこだったの?」
イヴ「小学校は神樹館です。」
それを聞いて彩が目を丸くした。
彩「神樹館!?確か2年前、神樹館の生徒の中に勇者様がいたんだよ。イヴちゃんは当時の勇者様達と年齢が一緒だし、もしかして知り合いじゃなかったの?」
そんな彩の問いかけにイヴは頷いた。
イヴ「でも隣のクラスだったからそこまでは…。」
彩「はぁーー何だか驚いたよ。先代の勇者様の知り合いがいるなんて。」
勇者と聞き、千聖は真剣な眼差しでイヴを見つめて質問をした。
千聖「どんな人だったのかしら、先代の勇者って。どんな人が勇者になれたの?」
千聖は今でも考えていた。何故自分が勇者になれなかったのか。成績では有咲には負けていなかった。責任感も充分にあったと自負している。だが、選ばれたのは千聖では無かった。勇者と自分は何が違うのか千聖は知りたかった。だが、ここで午後の訓練開始のチャイムが鳴ってしまう。結局、イヴから答えは聞けなかったのだった。
そして翌日、2回目の御役目が行われる事となる--