千聖の活躍により防人は予想以上の成果を上げる事が出来ている。
これが何を意味するのか--
訓練施設内、大浴場--
とある日、千聖は何故か浴場内で彩に抱きしめられていた。幸い周りには誰もいる気配は無い。
千聖「あ、彩ちゃん……?」
千聖は戸惑うも、彩はお構いなしに抱き続ける。
彩「千聖ちゃんは、何度も何度も辛い目に遭ってきたから……。」
そう言って抱き続ける彩の言葉は、どこか悲しみに満ちている。何故、こんな状況になっているのかは、少し前に遡る事となる--
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臨海公園--
日菜「あーー。海を見ながら飲む紅茶は美味しいなぁ。」
日菜はゴールドタワーに近接する臨海公園で紅茶を飲んでいた。彼女は昼食が終わってから、午後の訓練が始まるまでの間、いつもこの場所で紅茶を楽しんでいる。この時間は日菜にとって、心身をリフレッシュする大切な時間なのである。
日菜「こうしてると、何だか風が語り掛けて来る様だよ…。」
その時、日菜は後ろから物音がするのに気づく。
日菜「!?」
日菜が後ろを振り返ると、そこには呆気に取られていた千聖と花音がいたのだった。
日菜「んー?どうかしたの2人とも。」
花音「日菜ちゃんを呼びに来たんだよ。」
日菜「何かあったの?」
千聖「詳しくは聞いていないけれど、防人全員に緊急招集が掛ったのよ。」
千聖にそう言われた日菜はリラックスタイムを中断し、展望台へと向かった。
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ゴールドタワー展望台--
千聖達や他の防人達が続々と集まってくる。32人全員が揃った段階で女性神官が姿を現した。
神官「本日までの結界外の調査任務、大変ご苦労様でした。あなた達の努力のお陰で、壁外の大地と燃え盛る炎の調査は終了しました。」
その言葉に千聖は苛立ちを感じる。千聖は勇者として認められる為に、任務を完璧にこなしているのだ。"あなた達のお陰"などと言われても大赦から評価されている実感が湧かなかったのだった。そんな事は知る由もなく女性神官は話を続ける。
神官「防人達の任務は、調査から次の段階へと進みます。」
そう言うと、女性神官はシャーレを取り出し防人達に見せた。そのシャーレの中にはぼんやりと光を放つ一粒の種が入っている。
神官「この種を壁外の土壌へ埋めて下さい。その後、巫女が祝詞を唱えます。この種は巫女の祝詞による呼びかけに反応し、壁外でも発芽して植物として成長します…想定通りに事が運べば、種を植えた場所に緑が戻る筈です。」
花音「巫女が祝詞をって……まさか彩ちゃんを外に出すんですか!?」
女性神官の言葉に花音が反応する。花音の言う通り、この任務を行う為には巫女の力が必要不可欠--
即ち、それはなんの戦闘能力を持たない彩を星屑が飛び交う結界の外へ連れ出さなくてはならないという事である。
神官「そうです、松原さん。巫女である丸山さんがこのゴールドタワーにいるのは、この任務を想定していた為です。」
神官は冷静な口調で返すが、千聖は反対の声を上げる。
千聖「待ってください。彼女を壁外に連れ出すのは危険が大きすぎます。そもそも巫女では壁外の熱気に耐えれません。」
神官「心配無用です。あなた達の戦衣と同様に巫女専用の装備があります。」
千聖「ですが、星屑やバーテックスは?」
神官「あなた達防人が守ればいいのです。」
神官は淡々と答えていく。防人達でさえ、初めての壁外調査では多くの重傷者を出したのだ。そこに全く戦力を持たない巫女が放り出されればどうなるのか、その危険は計り知れない。だが、
神官「出来ますね?白鷺さん。」
千聖「………。」
神官は千聖に尋ねるが、千聖に選択肢は無かった。どう答えようが大赦はこの計画を推し進めようとするだろう。
神官「白鷺さん。あなたには期待しています。丸山さんをよろしくお願いします。」
神官の言葉には全く心が籠っていない様に千聖は思えた。
日菜「種を植えるって事は、今後は壁の外の大地に緑を復活させていくって事なの?」
日菜の問いかけにの神官は淡白に答えていく。
神官「いいえ。細かくやっていく時間はありませんし、種もそれ程多くありません。植物を植えた場所を通路…いわゆる
日菜「どこなの?」
神官「西暦の時代に"近畿地方"と呼ばれていた場所です。近畿地方に辿り着き、陣地を築く事"まで"があなた達の任務です。」
神官の言葉に千聖は唇を噛みしめる。
千聖「……その後は勇者の任務という事ですか?」
神官「あなた達が知る必要はありません。伝達事項は以上です。今後も全力で御役目に励んで下さい。」
そう言うと神官は背を向けて出て行った。
千聖(毎回同じね…命令だけを告げ、肝心なところは何も話さない。防人という存在が軽んじられている証拠だわ…。)
今回の任務が勇者出撃の際のお膳立てという事ならば、千聖にとってそれはあまりにも屈辱的な事だった。
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午後の訓練中--
千聖「はあっ!」
千聖は荒れていた。千聖は今木銃でイヴと打ち合っている。今のイヴは内に眠る好戦的なイヴである。イヴが振るう木銃を千聖は力任せに打ち払った。
イヴ「くっ!!」
その勢いでイヴは吹っ飛ばされるが、イヴは床に手を付きバク転で体制を整える。
イヴ「あっぶねぇ……。なんだ、今日の白鷺は?気合入りすぎだろ…。」
千聖「次!早く来なさい!!」
千聖はイヴに目もくれず、他の防人に声を上げる。
防人「は、はいっ!」
千聖と同じ指揮官型の少女が千聖と模擬戦を始めるが、開始数秒であっさりと吹っ飛ばされてしまった。
花音「ふえぇぇぇっ…今日の千聖ちゃん何だか怖いな…私はこっそり隅で練習していよう…。」
花音はこそこそと千聖から離れようとするが、
千聖「花音!」
花音「は、はい~!」
そんな花音の姿を千聖は見逃さなかった。
千聖「こっちへ来なさい!盾の訓練は1人じゃ出来ないでしょ。私が立ち合いの相手になるわ。」
花音「わ、分かりました…。」
花音は観念して千聖の前に行くのだった。
千聖「さぁ、盾を構えなさい。」
花音「は、はいっ!」
花音は怯えながら盾を構える。
千聖「はあああああっ!!」
千聖は凄まじい勢いで、花音の盾を木銃で打ち払う。盾が壊れそうな勢いだった。
花音「ふえぇぇぇっ!!」
千聖「花音!しっかり構えなさい!星屑の突進はこんなものじゃないわよ!」
花音「そ、そんな事言われても~!」
花音は千聖の猛攻に耐えきれず、盾を弾き飛ばされてしまった。
千聖「次の任務では巫女を確実に守りながら進まないといけないわ。護盾隊の役割がとても重要になるのよ!」
花音「千聖ちゃんの方がバーテックスより怖いよ…。」
千聖「何か言った、花音?」
花音「な、何でもないです……。」
千聖「次、来なさい!」
千聖の剣幕にほとんどの防人達が怯える中、
日菜「じゃあ、私が行こうかなー。」
不敵に堂々と千聖に近付く1人の少女、日菜であった。
千聖「新しい任務が始まるから、その前哨戦として千聖ちゃんを倒してみせるよっ!」
日菜は意気込み、千聖へと突っ込んで行った。
日菜「てやあぁぁー!」
だが、千聖は日菜の突き攻撃をあっさりと避け、勢い突き過ぎた日菜の背中を木銃で打ち付ける。
日菜「あぐぅ!」
日菜はうつ伏せに倒れた。
千聖「日菜ちゃんは勢いに任せて突っ込み過ぎよ!だから余計な怪我を負うの。」
倒れた日菜を見ながら千聖は訓練場に居る30人の防人達を一瞥した。
千聖「みんな、全然訓練が足りてないわ!そんなんじゃいつか、大怪我するか死んでしまうわよ!大赦は私達を使い捨ての道具としか見ていない。大赦は私達を守ってはくれないの!自分の身は自分で守るしかない……そんなだからあなた達は勇者になれないのよ!!!」
千聖の苛立ちがそのまま口に出る。
日菜「確かに、千聖ちゃんの言う事は正論だと思うよ…。だけど、今日の千聖ちゃんは随分不機嫌だね。」
背中をさすりながら日菜は立ち上がった。
千聖「日菜ちゃんは何とも思わないの?私達の新しい任務は……単なる勇者の露払いなのよ!これまでの調査任務も、これからの任務も…私たちはこれほどの危険を背負っているのに…命を削っているのに……与えられている任務はあまりにも下らない!!日菜ちゃんは悔しいと思わないの!?」
少しの沈黙の後、日菜の口が開く。
日菜「……悔しいに決まってるよ。」
僅かながら日菜の口調に怒りが籠っていた。
日菜「だけど、大赦にとっての私達の今の評価はその程度だったって事じゃない?悔しいけど、駄々をこねたって何にもならないよ。だったら今出来る事を全力でやるべきじゃないの?」
千聖「でも……。」
反論しようとする千聖を日菜が遮る。
日菜「それに私は、与えられた任務が下らないなんて思ってないよ。確かに調査も陣地設営も地味な任務だけど、戦いには必要不可欠な事だよ。それに、実績を積み上げれば、いずれ上が見えてくる筈。いつかは勇者か、それに匹敵するくらいの御役目を任されると思う。そう考えれば、私達にとって"下らない任務"なんて無いんだよ!!」
日菜の言葉に千聖はハッとする。
日菜「私達は調査任務をほとんど犠牲を出さずに終わらせたよね。犠牲を前提とした防人のシステムに対してこれは大赦の想定を超える大きな実績に違いないよ。陣地設営の任務でも、同じように想定以上の実績を出せれば、大赦はきっと私達を無視出来なくなる筈だよ!!」
千聖は言葉を失った。日菜は周囲から勢い任せで考えが足りてないと思われがちだった。だが、彼女は防人という任務に対して地に足を付けた考えを持ち、誰よりも真摯に向き合っていたのだ。そして、千聖は口を開く。
千聖「そうよね……。日菜ちゃんの言う通りだわ。ごめんなさい、みんな。八つ当たりしてしまって……。」
千聖は周りに頭を下げ、日菜の方を向いた。
千聖「ありがとう、日菜ちゃん。日菜ちゃんのお陰で我に返ったわ。」
日菜「礼には及ばないよ。私は千聖ちゃんより1つ年上なんだからね。先輩として当然だよ。」
千聖「ありがとう……あと、ごめんなさい。日菜ちゃんが年上だって事今気づいたわ…。」
日菜「えぇーーーーーーーーそんなぁーーーーー!!」
訓練場に日菜の叫びが響き渡った。