区切りがいいので今回も少し短めになります。
現れたのは、3人もの勇者を殺したあのバーテックス--
防人達の新たな任務が始まる--
灼熱の大地を進む防人達の中に、普段とは異なる装束を身に纏った彩の姿があった。その特殊な装束は"羽衣"と呼ばれるもので、戦衣の様な防御力や身体強化機能は無いが、結界外の過酷な環境に耐えられるように遮熱性能が優れている。だが、結界外では大赦も予期せぬ事態が起ころうとしていたのだった。
千聖(…今回は…いつもより結界外の熱気が強く感じる……。)
千聖の額から汗が流れ落ちる。周りを見渡すと、他の防人達や彩も汗を流しながら歩き続けている。
千聖(戦衣の調子がおかしい…?それとも本当に熱気が強まってるの……?)
千聖は彩を気にかける。
千聖「大丈夫?彩ちゃん。」
彩「大丈夫だよ。これくらいで弱音を吐くわけにはいかないよ。私のせいでみんなが速く進めないんだから、これくらいは頑張らないと。」
そう言いながら彩は笑顔を見せた。彩は防人ではない。普通の少女と身体能力は変わらない為、彩のペースに合わせて防人達は進んでいかなければならない。
彩「みんなはいつも、こんな大変な世界で御役目を果たしてるんだね…。」
千聖「そうね。私達はその為に鍛錬を積んでるから。」
千聖(彩ちゃんと日菜ちゃんのお陰ね…。)
千聖の口調に迷いは見られない。今は前向きに任務に望んでいた。千聖はずっと1人で何事も成してきた。だが、今は仲間がいる。千聖は今周囲の者の支えと存在を、生まれて初めてその身に感じているのだった。
彩「千聖ちゃんは、羽衣伝説って聞いたことある?」
彩が羽衣の裾を掴みながら口にする。
千聖「いいえ、知らないわ。」
彩「天女の羽衣を人間が盗んじゃう話なんだ。」
彩は足を引きずる様に歩きながら、その伝説を説明した。
彩「ある湖で、天から降りてきた天女が水浴びをしていました。それを見た男は、彼女の羽衣を盗み、隠してしまうのです。羽衣を失った為に天女は天に帰れなくなってしまいました。彼女は地上で暮らし始め、羽衣を盗んだ男と夫婦になり、4人の子供を産んで家庭を持ちました。しかしある時、天女は隠してあった羽衣を見つけ出しました。彼女は男と子供を残して天にかえってしまいます。そして残された男と子供は嘆き続けました。」
千聖「随分と身勝手な話ね。」
彩「私もそう思うよ。盗んだ男も身勝手だし、みんなを置いてった天女も身勝手だよ。だけど、とある伝承によれば、天女は帰った後も、泣き続ける男と子供を愛おしく思って、1年に1度だけ会える様にしたんだって。愛おしく思ってたなら…天女は、本当に天に帰りたいと思ってたのかな。」
神話伝説では多くの場合は登場人物の心情は語られない。だから天女の気持ちなど誰にも分からないのだ。
千聖(だったら何故、大社は巫女が身に纏うものに、天に帰る為の神具の名を付けたのかしら…?)
千聖はそこに微かな不吉さを感じるのだった。そこへ、
花音「ふ、ふえぇぇぇっ!!き、来たぁ〜!!」
いつも通り花音の悲鳴が聞こえる。どうやら星屑が襲ってきたようだ。
千聖「護盾隊は彩ちゃんを中心に盾を展開!!私たちの任務は、巫女を目的地まで無事に届ける事よ!!」
千聖の呼びかけに、護盾隊は盾を展開する。
花音「千聖ちゃーん!星屑は防ぐからぁーー!デッカいのが来たら守ってねぇーー!!」
相変わらず花音は他人頼みだが、"星屑は防ぐ"という言葉が出るあたり、花音も変わってきているのかも知れない。
日菜「私は盾の外で戦うよー。良いよね?」
イヴ「俺も外で戦わせてもらうぜ!良いだろ、白鷺!!」
日菜とイヴが盾の外へ出て星屑を倒し始める。日菜の猪突猛進ぶりに千聖はもう苛立ちは覚えなかった。日菜も千聖と同じ様に、自分の夢に必死なのだと分かったから。そしてイヴも以前交わした約束を守って、千聖の指示を聞いていた。それを見て千聖は思うのだった。
千聖(このチームは…この仲間達は、案外悪くないんじゃないかしら?)
そう思いながら千聖は部隊全体に指示を出す。
千聖「日菜ちゃんとイヴちゃんに戦闘を許可するわ!番号1〜6、及び2人は盾の外で星屑と戦闘!!他の銃剣隊は盾の中で援護して!!」
それぞれが千聖の指示で動き出す。盾を展開したまま、少しづつ防人達は目的地へと進んで行った。
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そして防人達は種を植える予定地へと辿り着く。初任務である今回は、壁から然程離れてはいなかった。護盾隊が展開する盾の中で、彩は羅摩に入れていた種を取り出し、地面に落とし、祝詞を唱え始める。
彩「
厳かな声と共に、種を落とした地面から緑の芽が現れた。そして、一粒の種から発生したとは思えない程の大量の芽が地面を覆っていく。盾の外で戦っていた千聖もその変化に気付いた。本来なら植物が生える筈もない灼熱の大地に、緑の生命が次々に生まれていく。
千聖「成功したの……!?」
植物の目が大地を覆っていき、緑で覆われた部分からは熱気を感じなくなっていたのだった。
大地が再生していく--
かなりの広範囲が、瑞々しい草花に覆われ、防人達も思わず目を奪われてしまう。
だから、気付かなかった--
神々しい光景に目を奪われた為に、本来なら気付くであろうその巨体に不用意な接近を許してしまったのだ。
イヴ「うおおあぁっ!!?」
イヴの体が宙に舞った。彼女は球体を無数に連ねた様な大きな尻尾に殴り飛ばされてしまったのだ。そして現れたるは、凶悪な針を備えた尾を持つ、巨大な"完成型"のバーテックス。
千聖「"蠍型"……。」
千聖はその名を口にする。黄道十二星座の名を冠した12体の1つ、蠍座のバーテックス。西暦の時代、そして2年前に勇者に甚大な被害をもたらした"勇者殺し"の異名を持つと大赦からは聞かされていた。
防人達が抱いた僅かな希望は、一瞬にして絶望へと塗り替えられたのだった--