戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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襲いかかる3体の"完成型"--

その時、日菜が……。




日菜の生き様

 

 

奉火祭--

 

 

それは人類が天の神に赦しを乞う為の儀式--

 

 

その儀式の生贄として彩が選ばれてしまう--

 

 

千聖「まだ終わってない……終わらせてたまるもんですか!!」

 

奉火祭まで1週間、彩を救う為に千聖は立ち上がる--

 

 

---

 

 

千聖「花音!」

 

花音「ど、どうしたの!?」

 

千聖は花音の部屋のドアを開けて、飛び込む様に中に入った。

 

千聖「すぐに展望台まで来てちょうだい!」

 

花音「え?う、うん……。」

 

千聖の剣幕に驚き、花音はすぐに部屋を飛び出した。

 

 

--

 

 

千聖「日菜ちゃん!」

 

日菜「いきなりどうしたの?」

 

千聖「展望台まで来てちょうだい!」

 

日菜「分かった。千聖ちゃんならそろそろ動く頃だと思ってたしね。」

 

 

--

 

 

千聖「イヴちゃん!」

 

イヴ「…どうしましたか?」

 

千聖「展望台まで来てちょうだい!」

 

イヴ「………。」

 

イヴは頷き展望台へと向かった。その後も千聖は防人達全員に呼びかけ、展望台まで呼び出した。

 

 

---

 

 

ゴールドタワー展望台--

 

31人の防人達を前に、千聖は声をあげる。

 

千聖「今回の大赦の決定に、私は納得なんてしてないわ!!みんなはどうなの!?」

 

防人達は騒めき、互いに顔を見合わせた。みんな千聖の問いかけにどう答えるべきか迷っているのだ。そんな中で花音が声をあげる。

 

花音「……納得なんて…してないよ。彩ちゃんが犠牲になるなんて…。」

 

花音は俯いたまま話し続ける。

 

花音「彩ちゃんはね、私が防人になったばかりの頃、どんなに怯えてても、情けない事言っても、私の事をバカにしなかったんだよ。防人の御役目に参加してるだけでも凄いって言ってくれたんだ。凄く良い子なんだよ……。」

 

花音の目から涙がこぼれる。

 

花音「なんで犠牲にならなきゃいけないの!そんなの許せないよ…でも、大赦はもう決定したって…。」

 

続けて日菜が言う。

 

日菜「みんなが"氷河家"の事を嘲ったりしていたけど、彩ちゃんだけは違った。彩ちゃんは"氷河家"を、私の誇りを認めてくれたんだよ。犠牲になって良いはずが無いよ!」

 

イヴが呟く。

 

イヴ「彩さんは良い人です…。死ぬなんて、そんなの…ダメです。」

 

他の防人達も次々と声をあげる。

 

防人「納得なんて出来ないよ!」

 

防人「丸山さんが可哀想だよ!」

 

防人「なんでこんな目に遭わないといけないの…!」

 

彩がどれほど防人達に愛されていたか。

 

勇者になれなかった落ちこぼれ達--

 

 

 

大赦からは使い捨ての駒として扱われる者達--

 

 

 

価値を認められない少達--

 

 

 

それが"防人"である。

 

だが、彩はいつも防人達に真心を持って接していた。彼女達1人1人の存在を認め、その苦しみや辛さを少しでも背負おうとしていた。防人達の為に、泣いて、笑って、喜んでくれた。彼女の存在が、防人達にとってどれほど救いになっていたか。防人達は誰一人として、彩の犠牲に納得などしていなかった。

 

千聖「だったら--」

 

千聖は防人達を一瞥し、一際大きな声で叫ぶ。

 

千聖「だったら、私達で彩ちゃんを助ける方法を考え出しましょう!まだ奉火祭が行われるまで1週間あるわ!絶対に何か方法がある!私は諦めない!みんなもそうでしょう!?私が指揮する部隊に、"犠牲"と"諦め"は無いのよ!!」

 

 

千聖は諦めが悪い--

 

 

勇者である事を否定されても、防人という立場を与えられても、勇者になる事を諦めなかった。諦めない為に、無限の努力を重ねる。だから今回も諦めない。理不尽に対する怒りが、心なき大赦への怒りが、千聖を突き動かすのである。31人の防人達は、隊長らしい彼女の言葉に声を上げて同意するのだった。

 

 

--

 

 

それから防人達は、夜通し話し続ける。

 

防人「丸山さんをどこかへ隠しちゃえば良いんじゃない?」

 

防人「私達の誰かが丸山さんを連れ去って逃げるのとかは?」

 

千聖「いいえ、それじゃあ大赦はきっと他の誰かを代わりに生贄にする。犠牲は絶対にゼロよ。彩ちゃんも、他の誰も犠牲にはしない。」

 

防人「やっぱり、奉火祭自体を取り止めさせるしかないんじゃ?」

 

防人「でも、その場合はどうやって天の神様の怒りを鎮めるかが問題だよ。」

 

日菜「天の神を打ち倒しちゃえば良いんだよ。」

 

花音「ふえぇぇっーー!無理だよ!絶対に殺されちゃう……!」

 

防人「犠牲無しで、奉火祭と同じ効果のある儀式があれば。」

 

防人「そもそも神事の専門家の大赦が見つけられなかったものを私達で見つけられるの?」

 

千聖「可能性は薄いけど、それしか無さそうね…。何か資料は無いかしら?」

 

防人「そういうのに詳しいのって、まさに神官か巫女だろうね。」

 

防人「神官は大赦の手先だから、協力してくれるとは思えないよ。」

 

防人「巫女は?彩ちゃん以外の。」

 

防人「どうやってコンタクトするの?」

 

いくら話し合っても、有効な解決策は出てこなかった。そもそも簡単に見つかるのなら、大赦が既に実践しているだろう。しかし彼女たちは諦めない。彩が助かる方法を模索し続けた。

 

 

--

 

答えが出ないまま話し合いは続き、夜が明ける。千聖は女性神官の部屋へと呼び出された。やっている事を叱責させるかと思っていたが、要件は違っていた。

 

神官「先日、結界の外に埋めてもらった種を回収して欲しいのです。」

 

千聖「回収?何故ですか?」

 

種を回収してしまえば、取り戻した緑の大地は再び炎に飲まれるだろう。

 

神官「あの種も神樹様の恵みの結晶です。回収してお返しすれば、神樹様のお力に戻る。国造りの計画を凍結させた今、結界外に種を残しておく理由はありません。神樹様のお力は、人々の生活を守る為、そして結界を炎から守る為に少しも無駄にできないのです。」

 

千聖(あの任務は無駄だったというの…。)

 

 

---

 

 

そして防人達は結界の外へと出る。

 

日菜「知ってる?昔あった刑務所の話でね、"午前中に穴を掘って、それを午後に埋める"ってだけの労働があるんだって。」

 

花音「穴を掘って埋めるだけ?何か意味があるの?」

 

日菜の言葉に、花音が怪訝そうに返した。

 

日菜「意味なんて無いよ。無駄な事を繰り返させて、心と体を消費させるだけの作業だよ。今の私達がまさにそうだね。」

 

千聖(無駄…無意味…徒労……。)

 

千聖はため息を吐く。

 

千聖(結局は…そうなのかもしれないわね。)

 

千聖達が彩を助ける方法を考えているのも、結局は無駄に終わるのだろう。たった1週間で、大赦が思い付けなかった方法を見つけ出せるはずがなかった。だが、それでも千聖は諦めない。例え無駄だと分かっていても、悪足掻きを続ける。

 

 

--

 

 

千聖(暑い…。)

 

千聖は額から流れる汗を拭った。前回に結界の外に出た時よりも、熱気が上がっている。天の神の怒り--炎がより強力になっている事を、千聖はその身に感じた。星屑の数も以前よりも増えている。その一群が、千聖達に向かって来た。

 

千聖「銃剣隊、射撃用意!撃って!!」

 

銃剣隊が星屑に大量の銃弾をお見舞いする。例え徒労でも、穴を掘って埋めるだけの任務でも、敵が容赦してくれる訳では無いのだ。

 

 

--

 

 

種を植えた場所は然程遠くでは無かった為、強まった熱気を除けば大きな障害は無かった。灼熱の大地の中に、一箇所だけ緑に覆われた地域がある。千聖は中央へ行き、埋まっている種を取り出して摩羅に収めた。直後、草花は炎に飲まれて、元の灼熱の大地へと戻っていく。

 

千聖「さて、長居をする必要は無いわね。帰りま--」

 

花音「ふ、ふえぇぇぇぇっ!!出たよ〜!!」

 

花音の絶叫が千聖の言葉を遮った。千聖が振り返る。

 

千聖「っ!?」

 

油断していた訳では無い。脆弱な装備しか持たない防人達は、いつだって危険に晒されていると自覚している。しかし、この自体は想定していなかった--

 

 

 

"完成型"バーテックスが3体も同時に出現するなどとは。現れたのは、白い布の様な器官と膨らんだ下腹部を持つ"乙女型"--

 

 

 

4本の足の様なものを有する異形の"山羊型"--

 

 

 

3本の青いヒレと半円状のものに守られた"魚型"--

 

 

 

勿論、正確には"御霊"を持たない不完全なバーテックスだが、それでも1体だけで防人部隊を壊滅させ得るほどの敵である。それが3体--

 

花音「どうしよう、どうしよう!?」

 

千聖「決まってるわ!逃げるわよ!!」

 

既に種の回収は終わっている。後は結界内に戻れば良いのだ。

 

千聖「総員撤退!!一切の反撃は考えず、逃げる事だけに専念して!!」

 

防人達は一斉に壁に向かって走り始める。

 

千聖(3体とも"射手型"の様な驚異的な速度の遠距離攻撃や、"蠍型"の様な一撃で即死の攻撃方法は無かった筈…。)

 

だが次の瞬間、地面が凄まじい勢いで揺れ始めたのだ。

 

花音「ち、千聖ち、ち、ちゃん〜!?な、何が、が、起こって、てて、るの〜!?」

 

立っていられない程の揺れが千聖達を襲った。千聖は背後を振り返る。"山羊型"が、4本の足の様な器官を地面に突き刺し、揺らしていたのだ。

 

千聖(まずいわ…この揺れの中じゃ、まともに走る事も跳躍する事も出来ない…。)

 

揺れによって防人達の移動速度が一気に落ちる。

 

千聖「銃剣隊、射撃用意!"山羊型"を狙って、撃って!!」

 

銃剣隊はその場で立ち止まり、銃口を"山羊型"へ向けた。ダメージを与えて地震を止めなければ、逃げ切る事は不可能に近いのだから。銃剣隊は一斉に発射する。しかし、1・2発程度は命中したが、大半の銃弾は滅茶苦茶な方向へと飛んでいく。この激しい揺れの中では、まともに狙いをつける事が出来ないのだった。

 

イヴ「銃弾じゃ無理だ!俺が銃剣で直接叩っ斬ってやる!!」

 

千聖「イヴちゃん!?この揺れの中じゃ危険すぎるわ!!」

 

イヴ「いいや、俺なら出来る!」

 

もう1人のイヴは強気な笑みを浮かべた。

 

イヴ「お前は俺に勝ったんだ。そして俺はお前に従うって約束した。だったら、お前の目標は俺の目標だ。犠牲ゼロにするんだろ?」

 

千聖「イヴちゃん……。」

 

イヴ「ううううおおおぉぉぉぉ!!」

 

イヴは大地を蹴る。彼女は宣言通り、凄まじい揺れの中でも、普段と変わらない速度で駆けていく。千聖はその姿に感嘆さえ覚えた。千聖が鍛錬によって力を得た秀才であるなら、イヴは優れた直感と本能によって生まれつき強い天才である。

 

そして天才の真骨頂は、あらゆる状況に最短で適応し、最良の行動を取れる事にある。卓越したバランス感覚と動体視力で大地の揺れに自分の身体を適応させ、強い踏み込みで1歩づつ確実に進んでいった。

 

イヴ「足、貰ってくぜ!!」

 

"山羊型"が大地に突き立ててる4本の足。その1本の細くなっている部分を、銃剣の刃で切る。1撃では切断出来ず、何度も斬撃を加えてようやく切断出来た。足を1本失った"山羊型"は体制を崩して倒れ、同時に揺れが収まる。

 

イヴ「どうよ、やってやっ--」

 

イヴは言葉の途中で、白い帯によって吹っ飛ばされる。バーテックスは"山羊型"だけではない。"乙女型"の攻撃でイヴは宙を舞う。"乙女型"は更に下腹部から卵型の爆弾を射出し、イヴを迫撃する。

 

イヴ「くっ…!!」

 

イヴは空中で銃剣を構え、爆弾を撃つ。銃弾による相殺で、直撃は免れたものの、爆風がイヴの体を大地に叩きつけた。

 

イヴ「ぐあぁぁぁっ!!」

 

イヴは受け身を取る事も出来ずに、灼熱の大地へ墜落した。"乙女型"は容赦無くイヴに更なる爆弾を射出する。今度は1発では無く、10以上も。この爆撃に、防人の戦衣の防御力では耐えきれない。

 

 

イヴは死んでしまう--

 

 

 

イヴ(仕方ねえな……けど、悪くない。)

 

一先ず"山羊型"の地震は止めた。これで防人達は逃げ切る事が出来るだろう。イヴが死ねば、千聖が掲げる"犠牲ゼロ"にはならないが、それでも被害は最小で済む。

 

イヴ(頼むぜ、白鷺…。後は上手く部隊を率いて、結界の中まで逃げろ…。白鷺ならやれるだろ……。)

 

死ぬ直前であるせいか、過去の思い出が走馬灯の様に頭をよぎっていく。

 

 

---

 

 

思い出すのは2人分の記憶。しかしそのほとんどが、ゴールドタワーに来た後の記憶だった。家庭環境が悪かったせいで、家族の事で反芻した良い思い出は無い。学校でも友達はいなかったから、やはり思い出は少ない。

 

 

ただ、このゴールドタワーに来てからは--

 

 

花音と日菜という騒がしい友達がいた--

 

 

喋る事が苦手なイヴでも、一緒にいるだけで楽しく幸せになれた。

 

 

彩という心優しい友達がいた--

 

 

イヴの様に無口で考えてる事が分からないと馬鹿にしたりせず、性格や考えを慮ってくれた。

 

 

そして、千聖--

 

 

粗暴で自分勝手なもう1人のイヴを、真正面から受け止めた。そして初めての対等な友達になれた。2人が戦った時、千聖が勇者として相応しいとは思わなかったが、千聖個人の事は嫌いでは無かった。2人のイヴにとって、彼女たちは大切な人達である。自分が犠牲になって彼女達を生かせるなら--それも良いかもしれない、と思う。

 

 

 

ただ1つ、心残りがあるとすれば--

 

 

 

イヴ(ごめんな、イヴ。お前を守る為に俺が生まれたってのに、結局お前を死なせる事になっちまった……。)

 

 

 

 

 

だが、そうはならなかった。

 

日菜「イヴちゃん!!!」

 

声と共に、イヴと爆弾の間に日菜が割って入ったのだ--

 

 

 

 

イヴ「氷河!!」

 

イヴの叫ぶ様な声と同時に、数発の爆弾が日菜に直撃する。日菜が盾となった為、イヴには1撃も当たらなかった。だが、その代償は全て日菜1人が被るのである。

 

爆風に吹き飛ばされ、日菜の身体はボロ布の様に大地に落ちた。戦衣の隙間から、おびただしい程の血が溢れ、流れていく。

 

イヴ「氷河!!」

 

千聖「日菜ちゃん!!」

 

イヴと千聖が日菜に駆け寄ってくる。"乙女型"は白い帯を振るい、3人を打ち払おうとするが、イヴと千聖は日菜を抱えて、跳躍し攻撃を逃れる。

 

千聖「何やってるのよ、日菜ちゃん!!」

 

千聖が呼びかける。日菜は辛うじて意識を保っていた。声を発する事さえ容易では無く、途切れ途切れの言葉で話し出した。

 

日菜「犠牲…ゼロ……するんでしょ……だったら…イヴちゃ…も…死……せ…げほっ。」

 

日菜は血を吐いた。もう喋る事さえ難しい。千聖とイヴは、日菜に肩を貸して壁へと走る。地震は収まったから障害は無い。壁まで辿り着くのは難しくない。だが、日菜の怪我はあまりにも重すぎる。例え壁の中まで戻れたとしても、助かるかどうかは分からない。それでも、日菜は後悔していなかった。

 

日菜がここで死ねば、大赦の御役目の中で活躍して家名を上げる目標は果たせなくなる。仲間を助けて殉職した事で、多少賞賛はあるだろうが、"赤嶺家"などの名家に並ぶには遠く及ばない。それでも、日菜は後悔していなかった。

 

彼女にとって"氷河家"の名前を上げる事は、重要な目標である。その為なら命を捧げても構わないと思っている。しかし、もっと大切なものがある。命よりも、家名を上げる事よりもさらに大切なもの--

 

 

それは、"氷河家"の娘としての生き様である。かつて多くの人々を救ってきた英雄の末裔であるという使命感。

 

 

故に"氷河家"の娘として、彼女は人を守る--

 

 

必ず守るのだ--

 

 

だから、後悔などしていなかった。

 

日菜(そこだけは…千聖ちゃんと同じだったね……。)

 

犠牲ゼロを目指す千聖。

 

人を守ると決めていた日菜。

 

日菜は千聖に突っかかってばかりだったが、進んでいる方向は同じだった。だから仲が良い訳でも無いのに、2人は傍にいられたのだ。

 

日菜「千聖…ちゃ…勇者に、なっ…そしたら…傍に……いた…氷河…名……も………残……から………。」

 

日菜は意識を失う。最後の言葉は、ちゃんと言えていたかどうか、分からなかった。

 

 

 

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