戸山香澄は勇者である   作:悠@ゆー

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これにて第5章、防人達の物語は完結となります。


第6章もよろしくお願い致します!





始まりの夜明け

 

 

千聖「莎夜殿、防衛形態に変形!莎夜橋、放出!!」

 

5カ所の足場"莎夜橋"のそれぞれに、指揮官型防人1名、銃剣型防人2名、護盾型防人1名の4人1組が配置される。また、ゴールドタワー屋上、展望台、地上1階の3カ所にも同じく4人1組を配置。8組で計32人。この配置で、タワーを死守するのである。

 

千聖、日菜、イヴ、花音の4人はタワー屋上にいた。防人番号1番の千聖を中心とした第1班である。屋上は莎夜砲の発射装置があり、最も厳重に防衛しなければならない為、最高戦力の千聖が配置されているのだ。しかし、他の場所が重要でない訳では無い。地上1階を守っている者が倒れれば、地下に星屑が侵入し、彩が襲われ命を落とすだろう。タワーの壁面と展望台を守っている者が倒れれば、星屑はタワーそのものを食い破って破壊するだろう。

 

32人の防人と1人の巫女全てが重要な任務を担っている。大赦からはただの"大勢"としか見られていない少女達だが、今は1人1人が果たすべき重い任務を背負い、戦いに臨んでいる。戦衣に仕込んだ通信機を通じ、千聖は各所の防人達との通信が可能だ。千聖は仲間達へ、言葉を投げる。

 

千聖「今、300年もの間、人類を苦しめ続けたバーテックスとその親玉の天の神が現れた。天の神が出て来たからには、これが最後の戦いになるでしょう。私達に出来る事は、天の神を倒す事では無い。神を倒す力は、勇者でさえない私達には無いわ。出来る事はこの莎夜殿と共に、僅かでも神に傷を与える事のみ。世の人々も、勇者達も、私達の戦いを知らないでしょう。私達の戦いを称賛する者はいないでしょう……。」

 

千聖「でも、それがどうしたっていうの!!誰に知られずとも、私達はここにいる!!私達32人は、ここで戦ってるの!この戦いの神聖さを、私達の努力を、私達の覚悟を、私達の命を、私達の想いを、私達がここにいる事を、他の誰が知らずとも、私達が知っている!!そして私達が天の神に与えたダメージは、どんなに小さなものでも、神にしてみれば拳1発程度のものに過ぎなかったとしても、必ず後に続く勇者達の助けになるはず!」

 

千聖「それが出来るのは、私たちしかいないの!他の誰にも出来ない!防人の命懸けを、勇者達に繋げるのよ!!」

 

防人達「「「了解!!」」」

 

31人の仲間達の声が、千聖に返ってくる。

 

千聖「総員、戦闘態勢!莎夜砲充填完了まで、残り約10分、タワーを防衛する!!今回も誰1人死なせず、犠牲を出さず、任務を達成してやりましょう!!!」

 

防人達「「「了解!!」」」

 

 

--

 

 

星屑の大群が、ゴールドタワーに到達する。

 

花音「千聖ちゃーん!!出来るだけ頑張るから、守ってよー!!」

 

花音はガタガタ震えながら勇んでいる。千聖達が立っている場所は、地上144階のタワー屋上なのだ。

 

千聖「花音。落ちたら、絶対に引き上げてあげるから、安心して戦って。」

 

花音「が、頑張るよ〜!!」

 

花音は盾を構える。

 

千聖「日菜ちゃん、イヴちゃん!射撃準備よ!!」

 

日菜「任せてー!!」

 

イヴ「やってやるぜ!!」

 

千聖、日菜、イヴらが銃剣を構え、星屑を撃ち抜いていく。防人達を8カ所に分散させた弊害で、銃弾の数は少ないが、射撃の精密さはこの半年の訓練と実戦経験でかなり上がっている。1発1発を正確に星屑に命中させて、駆逐していった。銃弾の間をすり抜けて近付いて来た星屑は、銃剣の刃で斬り倒す。

 

 

天の神--

 

 

その存在のせいで、西暦の時代から多くの人間が死んだ--

 

 

多くの犠牲があった--

 

 

せめて一撃でも、人の命を弄んできた事に対する返礼をしてやる覚悟で千聖達は臨んでいった。

 

 

--

 

 

5カ所の莎夜橋の上にいる防人達も、同じく星屑と戦っていた。各所に1名いる指揮官型の指示の下、銃剣型、護盾型が全力で戦っている。ほぼ全ての星屑はタワーに向かってくるが、時々地上の人間たちに向かっていく星屑もいた。そいつらも放置は出来ない。例え1匹でも、人間達には大きな脅威となるのだから。防人達は、その星屑も1匹残さず銃弾で撃ち抜いていく。

 

防人「ねえ、私達、人を守ってるじゃん!勇者様みたい!」

 

防人「うん、本当に!!凄いよ…!」

 

防人の少女達の任務は、壁外の調査やそれに近い仕事ばかりだった。憧れの"勇者様"の様に人と世界を守る任務では無い。彼女達は命懸けの任務をしているのに、そこには人と世界を守っているという達成感も使命感も無かった。

 

だが、今だけは違う。防人達は勇者達と同じ様に人々を守る為、この世界を守る為に戦っているのである。

 

 

--

 

 

展望台にいる防人達は、窓ガラスを食い破って入り込んできた星屑と交戦していた。ここを守っているのは第5班。指揮官型の防人の中で最年少である番号5番の少女と、彼女の指揮下にある3人の防人達

 

5番「このタワーを…私達の莎夜殿を、星屑などには壊させないんだからね!みんな、気合いを入れて守るよ!!えい、えい、おー!!」

 

防人達「「「おー!!!」」」

 

このタワーは大赦に呼び出されたから半年の間、少女達が仲間と共に暮らしてきた場所だ。彼女達の中には、厳しい訓練に嫌気が差した者もいただろう。恐ろしい任務に怯えて泣いた者もいただろう。

 

しかし苦痛も恐怖も全員で乗り越え、32人で過ごしてきたこのタワーは、防人達にとって掛け替えのない場所になっていった。防人達にとっては、このタワーそのものが、共に戦ってきた仲間の1人なのだ。天の神を攻撃する為の兵器である事を抜きにしても、大切な存在なのだ。だから、星屑などに壊される訳にはいかないのである。

 

 

---

 

 

地上1階は、地下への入り口を守る最後の防衛線である。ここを抜けられれば、地下にいる彩が星屑に殺させる事になってしまう。タワー周辺の地面に落ちてきた星屑達は、タワー内に侵入して、地下への入り口に殺到する。たが、もちろんここにも防人達が死守している。

 

この地上階を守っているのは第2班。防人番号2番の少女と、その指揮下の3名。タワーを守る8班の中では千聖班に続く2番目の総合力の高さである。

 

2番「化け物を彩さんに近付けさせないっすよ!!絶対に死守!人間の意地を見せてやるっす!!!」

 

防人達「「「了解!!」」」

 

防人の銃弾と刃と盾が、星屑の地下への侵攻を防いでいた。彩は防人達にとって、いつも心の支えになっていた。勇者になる為の訓練施設から脱落した者--いわば勇者になれなかった落ちこぼれである防人達を、いつも温かく見守ってくれていた。彩の存在が、防人達にとってどれほど救いになっていたか。

 

だから、皆が必死になって彼女を守り抜く。皆が彼女を殺させないと胸に誓って戦っていた。

 

 

--

 

 

星屑と交戦している中で、千聖の戦衣の胸部に奇妙な烙印な浮かび上がる。

 

千聖「っ!?これは…?」

 

海の向こうを見ると、近付いてくる天の神が、赤く脈動するように光っていた。そして千聖の胸に現れたものと同じ烙印が、日菜、イヴ、花音にも浮かび上がる。

 

日菜「何これ!?」

 

花音「ふえぇぇぇぇっ!!嫌な予感しかしないよー!!」

 

イヴ「これも天の神の仕業かよっ!?ウゼぇな!!」

 

通信機から、他の場所にいる防人達の困惑した声が聞こえる。どうやらタワーにいる者全員に、烙印が発生しているようだ。

 

千聖「莎夜砲充填完了まで、残り3分よ!!耐え凌いで!!」

 

タワーを守っている全防人達へ声をかけつつ、千聖は天の神を睨みつけた。

 

千聖(何が神よ!!)

 

 

--

 

 

充填完了まで、残り2分--

 

千聖は屋上から四国の大地を見下ろした。人々は路上で足を止め、赤暗くなった空を困惑しながら見上げていた。

 

千聖(この何処かに勇者達もいるのね……。)

 

千聖(そして有咲ちゃんも…)

 

昔の千聖であれば、自分が勇者では無い事を--天の神と戦う力が無い事を嘆いていたに違いない。だが、今の彼女は違う。

 

千聖(私は、私のやるべき事を、出来る事をやる!天の神に最初の1発を食らわせて、有咲ちゃん達に繋げてみせるわ!!)

 

 

このバトンを繋ぐ--

 

 

充填完了まで残り1分--

 

 

星屑の数は一向に減る気配が無い。倒せば倒した分だけ、また襲いかかってくるのである。千聖は共に戦ってくれる防人の仲間達の事を想う--

 

タワー地下で頑張っている彩の事を想う--

 

 

何処かにいるであろう勇者達の事を想う--

 

 

--

 

 

彩「千聖ちゃん、発射準備完了したよ!」

 

通信機を通じて、地下にいる彩から千聖に声が届いた。

 

千聖「彩ちゃん、一緒に押すわよ。」

 

彩「うん!一緒に!」

 

千聖・彩「「3.2.1…0.莎夜砲発射!!!」」

 

千聖がスイッチを押す。地下の彩も同時にスイッチを押した。

 

次の瞬間、タワーの壁面や内部の壁など、あらゆる所に祝詞の文言が浮かび上がる。屋上のアンテナ状の設備が青白く光り、唸る様な音を発し出す。そしてタワーの建っている周辺の地面が光り始め、その光は束となって、アンテナから放出されたのだ。その光の束は射線上にいる星屑たちを焼き尽くしながら、天の神へ迫っていき--

 

 

砲撃は命中した--

 

 

莎夜砲命中と同時に、四国を囲む壁の方向から世界の光景が変化していく。千聖も知識として知っている"樹海化"が始まったのだった。

 

千聖(あとは任せたわ、有咲ちゃん…。私達は私達に出来る事をやった……あなた達は………あなた達が出来る事を……)

 

 

---

 

 

気が付けば、千聖はゴールドタワーの屋上に倒れていた。日菜やイヴ、花音も同じ様に倒れている。千聖は起き上がり、周囲を見回した。赤暗い空も、星屑も、天の神の姿も無い。胸に浮かんでいた烙印も消えていた。

 

花音「あれ!?あの大きな円盤も、星屑もいない…。」

 

花音もキョロキョロと辺りを見回す。

 

日菜「倒せたの…天の神を……?」

 

イヴ「勇者達が……やってくれたんでしょうか?」

 

日菜とイブも起き上がり、青い空を見上げる。

 

千聖(勝ったのね…勇者達は…。この世界は、守られたのね。)

 

千聖は通信機を使って、タワーの各所にいる仲間達に呼びかけた。

 

千聖「各班、被害状況を報告してちょうだい。」

 

2番「こちら第2班。軽傷者3名、重傷者無し、死者無しっす!!」

 

防人「こちら第3班。軽傷者1名、重傷者無し、死者無し!」

 

防人「こちら第4班。軽傷者2名、重傷者無し、死者無し!」

 

5番「こちら第5班。軽傷者2名、重傷者無し、死者無し!」

 

防人「こちら第6班。軽傷者4名、重傷者無し、死者無し!」

 

防人「こちら第7班。軽傷者3名、重傷者無し、死者無し!」

 

防人「こちら第8班。軽傷者3名、重傷者無し、死者無し!」

 

千聖「……ありがとう。今回も犠牲ゼロを確認!!負傷している者は、すぐに治療を受ける事!任務完了よ!!」

 

 

---

 

 

その日から世界は変わった。いや、"元に戻った"と言った方が正しいのだろう。

 

天の神は去り、神樹は骸となった。四国を囲っていた壁は消滅し、外で渦巻いていた炎と溶岩も消えた。その代わりに、神世紀以前の大地と廃墟が、当時の姿で現れたのだ。

 

天の神との戦いの翌日、安芸がゴールドタワーを訪れた。だがその顔は仮面で覆われておらず、右目には眼帯をつけていた。千聖、花音、日菜、イヴ、彩は安芸と展望台で話している。展望台は星屑にガラスを食い破られ、風がそのまま吹き込んでくる。

 

千聖「もうこのタワーには来ない…と言っていたような気がしますが。」

 

安芸「そうですね、白鷺さん。ですが、報告は私からしておこうと思ったのです。あなたたちの監督だった私の務めだと思いますから。」

 

千聖「報告ってどんな事?」

 

安芸「まず第1に、昨日大赦が計画していた"神婚"は、婚姻相手とされていた勇者・戸山香澄様、及び他の勇者達がそれを拒否。また、神婚に対して現れた天の神も、戸山香澄様の力により、退けられました。」

 

千聖達「「「"神婚"…?」」」

 

聞きなれない単語に怪訝な顔をする防人達に、安芸が説明する。

 

安芸「神樹様の寿命が間もなく尽きるという状況下で、大赦は打つ手をなくしていました。そこで計画された手段が、真に最後の手段である"神婚"です。神に最も愛された少女を、土地神の王に妻として捧げる。そうすれば人類は、土地神の一族として認められ、神代の時代に天神地祇(てんじんちぎ)の間で結ばれた取り決めによって、天の神は人類を攻撃出来なくなるのです。」

 

安芸「天の神は人間が神の領域に近付く事に怒り、ついに昨日姿を現しました。これは予想されていた事態であり、大赦は神婚成立まで天の神の侵攻を防ぐよう勇者様達に依頼しました。しかし結局、勇者様達の総意として、戸山香澄様は神婚を拒否。また勇者様達は、土地神と天の神を退去させました。」

 

千聖「だから、天の神が襲来する時間が、あれ程正確に分かってたのね……。」

 

神婚が行われる時間に天の神が現れると想定していたのならば、時間も正確に分かって当然である。天の神へ莎夜砲を使う事に対し、大赦神官は"侵攻を妨害出来れば良い。後は勇者に託す"と言っていた。千聖は、勇者が天の神を倒す事に望みを託すのだと思っていたが、そうでは無かったのだ。大赦は、勇者が神婚を成立させる事に望みを託していたのである。

 

だが、勇者は大赦の思惑を覆し、天の神も土地神をも退けたのだ。

 

花音「でも、もう天の神に攻撃されなくなるなら、神婚すれば良かったんじゃないかな?何で勇者様は拒否したんだろう?」

 

花音が首を傾げた。

 

安芸「神婚した者は神界に移行し、俗界との接触は不可能になる…人間の視点で言えば、死ぬ事になります。それが認められなかった。特に、香澄様を大切に想う、他の勇者様達は。」

 

花音「し、死んじゃうの!?じゃあ出来る訳ないよ!拒否して当然だよ!」

 

花音が驚いて声をあげる。

 

千聖「またあなた達は……他人を犠牲にしようとしたんですか。」

 

千聖が安芸を見つめる。

 

安芸「……大赦内でも、神婚に対する思惑は1つではありませんでした。天の神を憤怒させて誘き出す為の切っ掛けとして神婚を行い、天の神を討とうという考えもありました。最も、大赦全体としては、神婚によって神の一族となり、"人の形を失っても"土地神様と共に生きようという考えが大勢を占めていましたが…。どちらにしろ、人を犠牲にしようとしていた事には変わりありません。」

 

安芸は淡々と告げるが、千聖達は"人の形を失っても"という言葉に、息を飲んだ。危うく全人類の命が犠牲にされるところだったのだ。人類を救う為に、全人類を犠牲にする。最早正常な思考では無い。それとも大赦は、全人類が"人の形を失う"事を犠牲だと考えていなかったのか。大赦も追い詰められ、狂気を帯びていたのかもしれない。

 

安芸「神婚の儀が完了していない段階でも、大赦の信心深い者達は"儀式の途中で人の形を失いました"。本来であれば--」

 

そう言って安芸は彩に目を向けた。

 

安芸「丸山さんもそうなっていたでしょう。」

 

彩「私も……ですか?」

 

神婚に関連する事は彩にも知らされてなかったらしい。

 

花音「でも彩ちゃんは無事だよ?」

 

安芸「恐らく莎夜砲の回路の一部になって、外界と隔絶されていた為でしょう。ある意味で、あなた達防人とこの莎夜殿が、丸山さんを保持したと言えます。」

 

千聖「……でしたら、それだけでも私達がやった事は意味がありました。」

 

千聖はその事実を噛みしめる。

 

 

"誰一人犠牲にならない道を拓く者"--

 

 

それが千聖の目指す"勇者"である。例え見知らぬ神官だったとしても、1人でも人の形を失った者がいたなら、彼女の目指したものは完全には達成されなかった。

 

千聖(奉火祭の時と同じね……。)

 

千聖は自分の無力さを悔やんだ。まだまだ彼女は、目標とする"勇者"には辿り着けない。

 

しかし、彩という大切な仲間を守れた事は、救いであった。

 

安芸「天の神も土地神様も、姿は見えなくなりましたが、いなくなった訳ではありません。退いたとはいえ、天の神は天に居り、神樹様という形はなくなっても、土地神様は地の万物に宿っているのですから…。ですが今は、人の世への干渉を止めたという事でしょう。勇者や防人の力も、今は失われています。あなた達は普通の中学生に戻ったのです。もう防人として戦う事も無いでしょう。」

 

安芸の言葉に、千聖は曇りのない表情で答える。

 

千聖「もともと防人の役割は戦う事ではありません。ですから、戦えなくなっても良いんです。私達の役割は、私達の任務は"雑用"ですから。そして神の恵みを失って社会が混乱している今こそ、雑用係は何よりも重要でしょう。これから人がやらなければならない事は、沢山あるんですから。」

 

安芸「……成る程。そういう考え方もありますね。」

 

安芸の声は、どこか柔らかかった。

 

日菜「そうだよ。戦衣や神の力が無くたって、私自身の力があればどんな形でも功績あげれるよ!そして新たな時代を築いて、氷河家の名前を歴史に刻むんだから!」

 

日菜は防人の力を失っても、めげている様子は微塵も感じられなかった。

 

花音「うん!私も千聖ちゃんに着いて行くよ。この半年間で、千聖ちゃんの傍にいるのが1番安全だって学んだから。」

 

イヴ「私も…千聖さんと一緒にいます。もう1人の私も、そう望んでます。」

 

花音が千聖の傍へ行き、イヴも千聖の服の裾を掴んだ。その一方で、彩は呆然としていた。

 

彩「私は……どうすれば良いの…?神樹様もいなくなって…人は、生きていけるのかな?」

 

これまでの人の社会は、多くの部分で神樹の恵みに頼って成り立ってきた。神樹がなくなった今、これまでと同じ様にはいかないだろう。以前と比べ、豊かな社会を維持する事は難しいかもしれないのだ。そして彩は、巫女としてずっと神樹を信仰し続けてきた。彼女にとってそれは生きる指針だっただろう。神樹信仰の中で生きてきた、今の時代の多くの人々も同様の筈である。物質的にも精神的にも、人類は社会を成り立たせていた大きな要素を失ってしまったのだ。そしてその不安を最も強く感じているのは、誰であろう巫女の彩なのである。そんな彩に千聖は優しく語りかける。

 

千聖「神世紀以前、人は神樹様の恵みがなくても、ちゃんと生きていたのよ。今と変わらない様に。神に頼らなくても、人は自分の力で生きていけるわ。」

 

彩「でも、神樹様がいなくなったら…私は……何を指針にして生きていけば……。」

 

千聖「今まで通りで良いのよ。西暦の時代に神樹様はいなかったけど、人は神を信じていなかった訳じゃないわ。"神様が見ているから""神様に顔向け出来ないから"……神が存在しなくても、そう信じる事で正しく生きられるなら、信じる事自体は悪い事じゃない。神樹様がいなくても、彩ちゃんが神様を信じていた方が正しく生きられるなら、信じて良い。それでもどうすればいいか分からなくなったら…。」

 

千聖は彩をそっと抱きしめた。

 

千聖「私がいつだって彩ちゃんの傍にいるわ。だから心配しなくて良いのよ。」

 

彩「千聖……ちゃん………。」

 

彩の目から涙が溢れる。

 

花音「彩ちゃん、私もいるからね!私じゃ頼りにならないかもだけど……。」

 

日菜「勿論、私だって傍で支えてあげるからね!」

 

イヴ「私も……。もう1人の私も一緒にいます。」

 

 

花音も、日菜も、イヴも、彩が大好きだから--

 

 

彼女の為だったら、いくらでも力になろうと思う。

 

花音「ねぇ、千聖ちゃん。これから私達は何をするの?」

 

千聖「そうね……。」

 

花音の問いかけに、千聖は腕を組んで考える。だが、その答えはすぐに思いついた。

 

千聖「まずは、1番防人らしい事から始めましょうか。」

 

花音「防人らしい仕事って?」

 

千聖「四国の外の調査よ。大地を覆っていた灼熱がなくなって、西暦時代の廃墟がそのまま出てきたんでしょう?もしその廃墟が完全に当時のままだったら、使える物資や設備が残ってる可能性だってあるわ。それに土壌を調査して、状態が悪くなければ、田畑を再利用する事だって出来る筈よ。」

 

 

人は神の恵みを失った--

 

 

しかしその代わりに、かつての人々が遺したものを取り戻したのだ。千聖はタワーの展望台から空を、大地を睨みつける。彼女は静かに怒っていた。人間の運命を翻弄し、多くの犠牲を求め続けた神々に。この怒りと仲間たちの存在がある限り、千聖は防人の力を失っても、どこまでも歩き続ける事が出来るだろう。

 

 

 

 

千聖(見ていなさい、天の神、土地神。私達人間は生き抜いてみせる--)

 

千聖(人間の手だけで、必ず生き抜いてみせる--!!)

 

 

 

彼女達は歩き出す--

 

 

 

未来に向かって--

 

 

 

 

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