chapter1『ナイトフォール』
初めて人を殺したのは三つの時だ、この世に生まれてすぐに親に『棄てられた』俺は生きるためなら何でもやった。
誰かも分からぬ死体の下に埋まりながら這いずり回り、蛆や蜘蛛、虫を食って足掻き、死体から頂戴した武器を使い回して戦場を駆け回った。
ただ生きる為に、俺だけが生き永らえる為に、何百人もの人生を奪い、喰ってきた。
ナイトフォールは俺を『捕獲』し、装備と知恵を与え、更に効率的に人を殺す術を……。
「…………?」
「起きたかグレイブス?30分程度だが、うなされていたぞ?」
ナイトフォールのコロニー、その寮内で休眠していたグレイブスは頭を抱えながら身体を起こす。
「アール……いや、何でもないんだ、少し……昔の事を思い出していただけだ」
「昔……少年時代の事か?」
「そうだ。それはそうと、次の任務は?」
その言葉にアールは顔をしかめ、ベッドから起き上がるグレイブスを見ながら溜め息を着いた。
「前の任務からまだ4時間しか経ってないぞ?」
「4時間30分44秒だ……この時にも人は死んでいく……」
「そんなに任務が好きか?そんなに人を殺すのが好きか?」
「………………好きか?……嫌いか?……なんだそれは?」
グレイブスは完全装備のまま寝ており、テーブルに置いてあったパイロット様のヘルメットを被りながらアールに振り向く。
「お前は……『朝起きて歯を磨くことに快感や憎悪を感じるのか?』俺にとって人を殺すのはそんな感覚だ」
そう言って部屋を出るグレイブスにアールは声が出せず、ただ黙って背中に着いていく。
居住区を出て廊下を歩く二人を同じナイトフォールの隊員がすれ違い様にチラチラとこちらを伺う。
自分の基地内でも完全武装で常にヘルメットを被っているグレイブスは一部の隊員からは慕われているが、ほとんどのナイトフォール隊員から畏怖されている。
その理由は常に装備を手離さない異常性もそうだが、何よりも彼の戦歴にあるだろう。
「……………………」
(グレイブス……なぜお前はそうなってしまったんだ……)
「………………」
ナイトフォールの作戦指令部の扉を開け、部屋の中に視線を向けると、指令部長官が座っている隣に記録編集長の『イェソド』、提督机の前に誰かが立っている。
「ん……?グレイブスか」
「え……?」
「すまないイェソド、取り込み中だったか?」
「いや。君、振り返りたまえ、紹介しておいた方がいいな」
「はい!!」
指令部長官の名に相応しい厳格そうな顔と似つかわしくない温厚な性格の男『ランパート』彼の目の前に立っていた銀髪のストレートを下ろした少女がこちらに振り返った。
「グレイブス、紹介させてくれ。彼女は今日からナイトフォールに参戦した近接機動戦闘員の『ティナ・シーラント』だ」
「……シーラント…………?」
「よろしくお願いいたします!!!」
キリッと完璧な敬礼を見せ、敬意の念をグレイブスとアールに向けて彼女は目を合わせる。
「おお、なかなか元気な子が来たなグレイブス」
「彼女はナイトフォール・シージに配属させる、直接戦闘員として頑張ってもらう」
「シージ、確か精鋭分隊だったな……」
「指令部長官からは最高の精鋭とお聞きしてます!!初日から精鋭分隊の方々と行動を共に出来ること、光栄です!!」
「ほう……最高の精鋭ね…………最強じゃなくて最高ね」
「アール……」
「へいへい」
グレイブスは敬礼するティナの前を横切り、ランパートに声を掛ける。
「ランパート、次の任務を」
「おいおいグレイブス、任務ならもう通達してある。それよりも、新入りに挨拶くらいしろ」
「……そうだな…………ティナだったか?」
「は……はい!」
グレイブスはティナに振り返り、ヘルメット越しに見える彼女の美しい黒目を見つめる。
「人を殺した事は……?」
「…………え?」
「おい……グレイー」
「あるのか?誰かの命を……断ち切ったことが」
「い……いいえ、シミュレート……ならば……」
グレイブスは溜め息を吐き、ティナから視線を反らして歩き出す。
「あ…あの……」
「ならば俺に関わるな」
「え……」
「堕ちていない者が俺に関われば……お前か、もしくは大切な誰かかが死ぬぞ、お前はまだ堕ちていない、まだ頂に立っている、その輝きを失うな」
部屋を出て行くグレイブスを見ながら、ティナは敬礼の手を下ろした。
「あの方は……」
「気になるか?」
「…………まぁ」
「ランパート部長……」
「まぁいいじゃないか……どうせ嫌でも関わる事になる」
一方、二人は個人作戦会議室でチームと合流していた。
「グレイブス、今回は合同任務だぜ!」
「合同…?説明しろケイド」
興奮した様子でテーブル全面のパット端末を起動させるケイドに割り込んでイグニスが話を進める。
「作戦名はコールド・ヘイト、この作戦は俺達ゴーストとナイトフォール・シージとの合同作戦となる」
「……なるほど」
「聞いてくれよグレイブス!!今日ナイトフォール・シージに配属する可愛いおんにゃの子がさ!!!」
「それなら知ってる、既に会ってきたぞ」
「んな!そりゃホントかよアール!!」
拗ねるケイドを無視してグレイブスは端末の画面を切り替える。
「コールド・ヘイト……なるほど、作戦場所は惑星
「そうだ、マイナス140度の気温にマイナス100度の暴風が常に吹き荒れる零度星。そこに研究基地を構えたミリシア軍が危険な核エネルギー兵器を開発しているとの情報が入った」
「……ミリシア軍か」
「前の任務でミリシアの部隊を助けたばっかなのにな」
「俺達にその兵器開発を阻止しろと?依頼主は?」
「IMCの上層部だ、作戦開始は2日後、概要は核エネルギー兵器の破壊とデータの確保。作戦地帯にはパイロットストライクで向かう」
「了解、では2日後まで各自休養と準備に入ってくれ」
「お!んじゃ飯食いに行こうぜアール!」
「おう、別にいいぜ、イグニスも行くか?」
「お前らと食ってると吐きそうになるからパスだ、一人で食堂に行く、グレイブスはどうする?」
「俺はもう少しここに残る」
部屋を出る三人を横目に、グレイブスは作戦概要を開いて考え込む。
「ふむ…………」
(フロストヘイブン……かなり小さな惑星で隠密性も無い場所でなぜ兵器開発など……?それに大規模な核エネルギーを使用するモノを易々とIMCに検知されるほどミリシアのシステムはザルじゃない。なにか裏があるな……IMCが俺達に依頼したのもそれを察知したからか)
そのとき、背後にあるドアが数センチだけ開かれた瞬間に不意を突かれたグレイブスは条件反射で『自動捕捉簡易拳銃:スマートピストル』を腰から抜き出してドアに構える。
開かれた扉から顔を覗かせたのはシージに配属されたティナだった。
「ひっ……!」
「……ティナか。シージの作戦会議室は二つ先だぞ」
「は、はい……いま終わったところなんです」
「?……ならどうしてここに?」
「合同作戦なので、ゴーストの皆さんにもご挨拶をしに来たのですが……」
「あいつらなら食堂に向かったところだ、行ってくるといい。ケイドなら食事を奢ってくれるかもな」
颯爽と会議室を出て食堂とは逆方向に歩き出すグレイブスをティナが呼び止める。
「……なんだ?」
「私の父を………ご存じですか?」
「…あぁ………『トラビス・シーラント』か、しっている」
トラビスは俺が16の時に殉職した熟練のパイロットだった。
「あの……父は…………どんな最期を?」
「8年前……11月7日16時22分51秒…………」
「…………??」
「自分のタイタンと一緒にニュークリアイジェクトで自爆したんだ」
「……………………そう、ですか」
グレイブスはその時の記憶を思い出しながらポケットの中にしまっていたTFコードキーを取り出す。
「…………」
グレイブス……これを頼む……
これは……?
こいつのTFキーだ……これを娘に……なぁ…………グレイブス…………
お前が……娘を認めたその時…………に……渡して……くれよ…………頼む…………
「…………」
(この調子では……一生渡すことは無いだろう)
「あの、グレイブスさん」
「ん、何だ?」
「急にこんなことを言われても困ると思うのですが……」
「……?」
グレイブスは一瞬だけ言い濁ったティナに振り返り、その目をまっすぐ合わせる。
「私に……戦い方を教えて頂けませんか!?」
ティナの眼は正直だった、本当の真意で、己の意志で力を求めている、俺とは違う。
「私の知識は
「…………」
(流石と言うべきか……仮想訓練の無意味さを理解しているようだ)
「ランパート長官が仰っていました、グレイブスさんは幼少期から既にナイトフォールの切り札だったと」
「…………」
「影纒の英雄と呼ばれた貴方に、技術を教えー」
「一つ……」
「っ…………?」
「勘違いしているようだな」
ティナの眼を見つめたまま、グレイブスは淡々と話を続ける。
「英雄というのは……誰かを守り、助けることが出来る者の事を言う。それに比べて俺がしてきたことはなんだ?ランパートに聞いたのだろう?俺がやってきたのは破壊と殺戮の二つだけだ…………これ以上俺に関わるな、死ぬぞ。トラビスのように」
「……………………」
それだけ伝えてグレイブスは沈黙するティナを置いてどこかに行ってしまった。
ティナはその場で佇んだままグレイブスの言葉を頭の中でリピートさせていると、寂しげな肩を叩かれる。
「っ……!」
「シージのティナちゃんだよね?」
「え、えっと……あの……」
「俺はケイド・マクミラン、ゴーストの一員で兵科は衛生兵だ」
キメ顔でウィンクするケイドにティナは慌てて敬礼しながら自己紹介する。
「は、初めまして!シージ配属のティナ・シーラント17歳です!所属兵科は偵察兵でー」
「あー待った!!」
「…………?」
「オレ堅苦しいの嫌いなんだよね、それよりも。ティナちゃんはこんなところで何してんの?」
「ゴーストの皆さんにご挨拶にと思って……その、グレイブスさんに先ほどお会いしたのですが……」
ケイドは片手でティナの肩を掴み、もう片手で呆れたように自分の頭を抱えた。
「初っぱな対面はキッツいねぇ……なるほど、軽く避けられたわけだ」
「関わるなと……言われてしまいました」
「はぁ……全くよぉ……」
(こんな可愛い女の子をシュンとさせやがって……ちょっとムカつくぜグレイブスの野郎め…)
ケイドは自分の腕時計を確認し、ティナの肩をもう一度叩く。
「これから用事は?」
「いえ、特にありませんが……?」
「この時間帯ならグレイブスは演習場にいるはずだ……どうだい?ウチのリーダーの実力を見てみたくないか?」
「っ!……いいんですか?」
「おう、でもちゃんとパイロットスーツに着替えてな」
ー『パイロット演習場』ー
この演習場は『安定隔離亜空間フェーズゲート』を入った先に広がる半径120㎞の隔離空間に設立されており、それぞれ半分の空間を分けて『パイロット演習』『タイタン操縦訓練』と区別されている。
ケイドはティナを連れてフェーズゲートを潜り、パイロット演習場に入って数多く地面を掛け、空を飛び回るパイロットの中からグレイブスの姿を探しながら歩き回る。
「ここは初めてかなティナちゃん?」
「す、すごいところですね……これはどうやって……?」
「フェーズシフト関連、つまり亜空間は同じゴーストのアールが専門でな、この空間はグレイブスとアールが一緒に造ったものだ」
「なるほど……」
「俺は医療以外の事は全くわからねぇから詳しくはアールに直接聞きな」
「はい、分かりました!」
「んでもって医療系統はいつでもオレに聞いてくれよ?ティナちゃんなら付きっきりで教えてあげるからよ!」
「は、はい……」
そうこうしていると、ティナが一人のパイロットを見て声を上げる。
「あの!あれ……」
「ん?お、居たな!」
数百人が訓練し、互いに研鑽し合っている中、次元を飛び越えたような者が一人、パイロット達の目を魅了する。
設置された壁と壁、ニアミスの隙間を一切の躊躇や焦りなく滑り込み、的確に的へとウィングマンを撃ち込む。
「お、他のパイロットがグレイブスに着いていこうとしてるぞ」
「……で、でもあれは」
誰一人としてグレイブスを後ろから追い抜く事は出来ない、スライディングやウォールランで些細なミスなくスピードを乗せるに乗せているグレイブスの加速は音速に到達しつつあった。
そして壁の無い平原にいきおいよく勢い良く飛び出した瞬間、グレイブスのジャンプパックの青い機能光点が消える。
「スラスター切れ……!」
「……アイツのジャンプパックはスラスター切れからが本番だ」
「え……?」
刹那、青い光を失ったジャンプパックのライトが緋色に発光し始めた時には既にグレイブスの姿は緋色の残光と残像を残して消失した。
ティナは必死で消えた残光の先を眼で追っていくと、彼の姿は見えないが緋色の軌跡が尋常ではない速度で壁を転々と渡っている。
「あれがエグゾブーストだ」
「エグゾ……それは?」
「エグゾってのはグレイブス専用の用語みてぇなもんだ。そしてあれは、切れたスラスターの代わりに自分の血液と生態電気の合成エネルギーをジャンプパックに送ってそれをフル回転することであんな常人じみた加速が生み出せる、あの紅い残光はグレイブスの血液が生態電気で発光してるから紅く見えるんだ。そういや今まで測った中での最高加速到達点は320㎞ってとこだったか?」
「さ……320……それって、身体は大丈夫なんですか!?」
「んあ?パイロットスーツを舐めちゃいけねぇ、俺達パイロットが来てるスーツはとにかくスピードによる空気抵抗や気圧にはー」
「そうではなくて。血液や生態電気を使うって……」
「ああ……ね」
ケイドは少しだけ考え、微笑しながら答える。
「アイツが10歳のときか、一番初めてエグゾブーストを使った時は3秒くらいしか持たなかったんだよ、あれだけの加速を生み出すには常人離れした量の血液と
「…………すごいです!!」
圧巻されているティナを見ながらケイドはジャンプパックの安全装置を外す。
「そろそろエグゾブーストが切れるころだ、迎えに行ってやろうぜ」
「え……ですが……」
「大丈夫だって、今度は俺がいるからよ」
ティナとケイドはウォールランで壁を走りながらグレイブスがいると思われる広大な円形広場を目指して狭い壁を滑り込み、底の見えぬ滝を飛び越える。
「…………へぇ」
(結構全力で飛ばしてるつもりなんだが……しっかり着いてきてるな……こりゃいい兵士に育つぜ……!)
「ッ…………」
(正直……怖い……こんなに加速したのは初めてです……今だってケイドさんの残存記録を辿って背中に着いて行くのがやっと……ッッ)
そして全力疾走で壁を蹴って広場に飛び出した二人の前には数人のパイロットに囲まれたグレイブスの姿があった。
「あー……まじかよ……」
(ティナちゃんが居るのに……タイミング悪いぜ……)
「あれは……」
(グレイブスさんを追い抜こうとしていた人達……)
五人のパイロットは良くない雰囲気を出しながらグレイブスを取り囲んでおり、今にも触発しそうな空気が流れる。
「…………なんの用だ?」
「コイツだ……黒いパイロットスーツに、ヘルメットのゴーストマーク」
「お前か……俺の弟を殺したのは!!!!」
グレイブスの正面に立っていた派手な装飾をしているパイロットが彼の胸ぐらを掴む。
「弟…………誰の事だ?」
「とぼけんじゃねぇよ!!!!クロウド・ミルバー。弟だ!俺の家族の事だ!!!」
「クロウド……タイタン・リージョンモデルのパイロットか」
「ああそうだ!!弟のヘルメットの自動録画記録を死にもの狂いで見つけ出した、そしたらお前のパイロットスーツが映っていた!そして……そしてお前が弟の首をへし折りやがった!!」
「……………………」
「何とか言えよくそ野郎!!なんなんだよお前は!!!」
「そうだ……」
「……っ」
「お前の弟を始末したのは俺だ、奴は6-4のパイロット・ゲイルに捕らえられ、薬漬けにされてナイトフォールの情報を喋り、挙げ句の果てには6-4の仲間になった」
「ッ…………!?う、嘘だ!そんなわけねぇだろうが!!!」
「本当だベル・ミルバー、俺は6-4を全滅させた後にお前の弟を始末した、ナイトフォールの情報は絶対に外に出してはいけない、それはお前も知っているだろう?裏切り者は始末せねばならない」
「ッッ……そんな……ホラを吹くんじゃねえ!!そんな作戦記録はなかったぞ!!」
「……だろうな、家族を裏切った奴を始末するだけだ、記録にもならん」
「んだとてめえ……!!」
その時、ベルがポーチに隠し持っていたコンバットナイフを抜き、グレイブスに目掛けて突き出した。
「くそ!ヤバい!!」
「グレイブスさー」
一瞬だった。
ベルの手に握られていたはずのナイフは、既にグレイブスの右手に握られており、素早く膝の皿を抉り割り、怯んだベルの喉仏に寸分の狂いも、ためらいも無く、深々と突き刺した。
「うわぁぁあ!!」
「首に刺しやがった!!」
「ベル!!」
取り巻きが動揺して焦るが、誰もナイフを逆手に持ったグレイブスの間合いに入る事は出来なかった。
「カヒュ……ゴフ……」
「先に武器を抜いたのはお前だ、殺そうとしたのだろう?ならば殺されても文句は言えない」
「おいどけ!退けって!!」
「グレイブスさんー!!」
「む……?」
ケイドが取り巻きを突き飛ばして素早くベルの元に駆け寄る。
膝から崩れ落ちて喉や口から大量の血を吐血、噴き出しているベルを見ながらケイドは自分のスキルで彼の傷を修復、再生させた。
「俺が居なきゃ今頃このまま死んでたぞ……」
「居たのかケイド、それなら連絡を送れ」
「なぁグレイブス!!」
ケイドは大声で彼の名前を叫ぶ。
「お前の実力ならナイフを奪い捨てて脚なり腕をへし折るだけで良かっただろ……!なんで本気で殺そうとしてんだよ……なぁ……頼むよグレイブス」
「…………悪いが、手加減している余裕なんて無い、こいつは本心で俺を殺そうとしていた。そこで手加減をしていたら、俺が殺られていた可能性だってある、殺られる前に、殺る。決めたはずだぞケイド、忘れたか?」
「ッッ…………」
「ん…………?ティナ、居たのか」
「あ……は、はい…………」
「分かっただろう?俺に関わるとこんなことばかりに巻き込まれ、死ぬぞ」
「……………………」
そう言ってグレイブスは回復したスラスターで音もなくその場から消えてしまった。
「もうコイツは大丈夫だ、お前ら、連れていってやれ」
ベルを取り巻きに任せ、ケイドはティナの手を引いて少しだけ歩き、立ち止まった。
「……アイツのパイロットスーツはさ」
「…………?」
「幼少期から使ってたらしくて、採寸の構築拡張でスーツの大きさを再構築してたものなんだよ」
「そうなんですか……それで…?」
「最初見たときはよ……白と蒼のですげぇカッコいい色でさ……ランパートがこれからの未来を期待してどんな色に染まるかたのしみだって……」
「…………」
「それが……たった2年だぞ……!たったの2年だ!!!」
顔は見えないが、そのヘルメットの中できっと彼は涙を流しているのだろう。
「いつの間にか……どんなに洗っても、どんなに再構築しても……落ちねぇんだよ……殺した奴の返り血とアイツ自身の血が……真っ黒に染まって、なにしても落ちねぇんだこれが…困ったもんだよ全く……ちくしょう……!!」
「ケイドさん……?」
「なあティナちゃん……」
「……なんですか?」
「これだけは分かってほしい……普通に付き合ってりゃ本当に優しい奴なんだ、俺たちゴーストはナイトフォールの嫌われ者だ、グレイブスが率いている部隊ってだけの理由でな」
「…………」
「でも俺は、いや、俺達はグレイブスと関われた事に誇りをもってる。無理にとは言わねぇ……アイツと仲良くしてやってくれないか?」
~2日後~
ー『惑星フロストヘイブン』ー
この惑星では極寒などという生易しい表現は消し飛ぶ。
秒速200メートルで吹き荒れるマイナス100度の暴風、一景銀色の世界に埋まる水冷雪の下から漆黒のパイロットが顔を出した。
「……敵影確認できず……起きるぞ」
≪うおぉ……スーツを来てるからこそ寒くねぇけど、もしスーツが無かったら……≫
≪0.7秒で氷像だなこりゃ……≫
≪……グレイブス、シージとの連絡が取れない、着地地点も同じはずだがわざとずらしたようだ≫
グレイブスはシージが着地したと思われる地点に視線を向けるが、すぐに目的地に向き直す。
「何か考えがあるのだろう、失敗して全滅したらそれまでだ」
≪でもよグレイブス、シージにゃ新人ちゃんがー≫
「ケイド、何度も言わせるな。ナイトフォールは極限状態などの特質な事例を扱う特殊作戦専門部隊だ、ここに新人は居ない、新人と言われる程度ならそもそもナイトフォールには居ない」
≪……そりゃまぁ…………≫
「はぁ……別に、割りきれとは言わないが、作戦を捨ててまで救う価値は無い」
≪へ、グレイブスらしいな≫
≪そういう事だケイド、グレイブスの言うとおり、この程度の作戦で全滅するようなら必要ない≫
≪薄情もん共め……分かったよ、さっさとやろうぜ、シージがたどり着く前に作戦を終わらせちまえばいいって事だな!≫
「そうだな……こちらゴースト、指令部、応答願う」
≪…………こちら指令部、どうぞ≫
「これよりゴールド・ヘイト作戦を開始する」