今回の作戦はミリシア軍が秘密裏に開発している核エネルギー兵器の破壊とそのデータの確保、敵の占領下である為にタイタンフォールを脱出用、もしくは緊急戦闘用に限定、それまではパイロットだけで遂行する。
事前のイグニスの偵察によれば、施設の中に敵パイロットの姿は確認出来なかったという、それを聞いてシージの奴等は調子に乗ったのかパイロットストライクの時点で着地地点をずらして着陸した。
≪……んぅ、見えたぜ!あれが例の施設か?≫
「……………………」
ヘルメットHUDのズームイン機能でケイドがマーキングした場所を見てみると、真っ白に塗装された建物が建てられており、それを見て一層グレイブスは警戒心を高める。
≪なぁおい……グレイブス……≫
「そうだなアール、これは明らかに罠だ」
≪え?なんで?≫
≪考えろケイド、強力な核エネルギー兵器程のものを開発しているならば普通に考えて建物を隠す為にステルスコーティングするはずだ、それに電波妨害すらない、どう考えても怪しい、ミリシアはそこまでバカではないからな≫
≪なーるほど……ってあれ見ろ!≫
ケイドのマーキングを確認すると、既に施設に急接近し、侵入する準備を整えているシージ分隊のパイロット達が見えた。
「あれは……」
≪オーマイガ……何やってんだあいつらは……≫
≪なあグレイブス!あれヤバくねぇか!?≫
≪本当に精鋭なのか奴等は……まったく……≫
シージの中で、明らかに挙動不審なパイロットが一人、あれはティナだな、作戦行動との矛盾に困惑して周りを必死に見渡して俺達を探しているようだ。
「さて…………」
≪どうすんだよグレイブス!アイツ多分罠があるかもって可能性すら考えてねぇぞ!≫
「いや、多分パイロットが居ないと分かった時点で罠があろうと大丈夫だと考えてるのだろうな」
≪どうするグレイブス、あのままだと何処かで誰か死ぬぞ≫
「…………」
≪いや助けに行こうぜ!ヤバいって絶対に≫
≪黙れケイド、グレイブスの策を待て≫
「よし、ならシージを囮にする」
≪は……ちょっと待てって、そりゃいくら何でもー≫
グレイブスはCARを構え、シージとは反対側の施設の裏手に目線を向け、再び話す。
「しつこいぞケイド、お前たち三人はシージの援護に行ってこい、俺は一人でデータの確保に行ってくる、兵器の無力化は任せたぞ」
≪了解!≫
≪ッッ…………OK!最高だぜ隊長!≫
≪了解した≫
「作戦行動開始、散開しろ」
≪バイタルオーバー発動!!≫
≪ステルスホログラフィー起動!≫
「……興奮剤、アドレナリンブーストを使用する」
刹那、雪飛沫を上げて四人はその場から消えた。
一方その頃、シージの女リーダー『パイロット・フロライン』はファイヤースターを構えてミリシア軍施設の外壁に投げ付ける、そしてそれに続くようにもう一人がグレネードを投げる。
「あの……フロライン隊長」
「ん?どうしたのティナ」
「事前の作戦行動はゴーストチームと一緒の場所に着地する予定だと……」
「いいかいティナ、あんな部隊と行動するなんて御免だね、殺戮兵器が率いているとかろくな奴いやしないよ」
「ッ……そんなことー」
その時、施設の壁は爆破され、備品やら何やらが吹き飛んで来た。
「お、空いたね、話はここまでだ、行くよ皆!!」
「了解!!」
「ほらいくよティナ!」
「は、はい!!」
その時、少し遅れて顔を上げたティナの頭上を大口径の弾丸が突き抜ける。
「ッ……!?!?」
「なんッ……!?」
「クレーバーだ!!!」
「クレーバー!?クソ!パイロットだ!!敵のパイロットがいるぞ!!」
薬莢を弾き出し、次弾を装填する。
「…………『アイツ』は居たか?」
「いや……居ない…………」
「必ず…………ゲイツとベア、そして仲間達の仇を取ってやる…………」
「デイビス、奴ら五人の他に横からもう三人来てる、そいつらもグレイブスじゃない、一人は偵察兵だ、ステルスナビで躱したがやり手だぞ」
「あぁドロズ……そして施設の後ろからもう一人、騒動に紛れて侵入してきた奴がいる……この感じ、この動き……奴かもしれん」
「分かった、リーパーとストーカーを起動する」
二人のパイロットは施設の狙撃ポイントから立ち上がり、何者かが侵入したと思われる場所に移動を始める。
施設内に侵入し、守衛を殺して高速で先へと進んでいたグレイブスも何かの気配を感じ取った。
「…………」
(……二人、俺の存在に気づいたな……パイロットか、ステルスナビでイグニスのパルスを掻い潜ったのだろう)
スライディングでパイプ間の隙間をすり抜け、自動防衛状態のストーカーを次々と破壊し、マップハックを頼りに壁を蹴って施設のデータ通信室の窓を突き破ってミリシア軍の守衛を撃ち殺しながら通信室を確保する。
「……さて」
全てのデータの管理と処理をしていると思われる端末を発見し、端末のディスプレイをデータナイフで抉じ開け、中の外部接続用端子にデータナイフを差し込む。
昔ながらの方法だが、これが一番シンプルかつ信用性が高い。
(しかしこれだけ膨大なデータは……時間が掛かるな……む?)
刹那、グレイブスは首を傾げるように傾けてクレーバーの『特殊弾薬・105㎜対タイタン用エネルギー貫通弾』を躱す。
「……………………」
「やっと見つけたぞ……
「お前を探すのに何ヵ月も掛けた……どんな汚れ仕事だってやった……」
「……お前達は…6-4のデイビスとドロズか……始末したと思ったが甘かったな」
次弾の弾丸を飛んで躱し、物陰に隠れる。
「俺達はお前に復讐する為にここまで来た……ここまで生きてきた!!」
「刺し違えても殺してやる!!」
「…………そうか、ゲイツも同じ事を言っていたぞ、7秒後には喋らなくなったが…………」
「ッ…………くそ野郎がぁ!!!!」
……………………お前達はそこが甘い。
激情に駆られてオルタネータをグレイブスのいる物陰に乱射しながら突撃してきたドロズとの距離がゼロになった瞬間、ドロズのオルタネータを叩き落とし、脇腹を蹴り上げて落ちてきた顔面を渾身の力を込めて殴り飛ばした。
「ドロズ!!!」
「激情に駆られ、視界が狭まれば死んだも同然だ、ドロズが使っていたオルタネータの弾数は28発、34メートルから撃ちながら突っ込んでくれば到達する前に弾は無くなるし、片手でスプリントショットしていれば自然と一番相手に近いのは銃を持った右手、俺に先手を打ってくれと言ってるようなものだ……」
「ッッ……!」
デイビスは荒々しい呼吸をしながらも落ち着きを保ち、スラスターで空中を周りながらグレイブスから距離を取った。
「…………殺す…………」
「っ…………」
(クローキングか……)
デイビスはクローキングでグレイブスの視界から消え去り、足音一つ立てぬようにグレイブスの死角に飛んでクレーバーを構える。
「フゥゥゥー……」
「……全く……」
全くこちらに気付いていない様子のグレイブスにクレーバーの弾丸が放たれ、完全にデイビスの策略が刺さったかのように思われたが。
グレイブスは全身を捻ると同時に身体を地面スレスレまで低く下げて弾丸を躱し、片手に構えたCARでデイビスの全身に32発一杯の高速9.85㎜ライト弾を全て喰らわせる。
更にダメ押しでアークスターを投げ付けてパイロットスーツの機能をショートさせた。
「学べ……今さっきお前の弾丸を躱したばかりだ……クレーバーは引き金を引いた直後、内部の小型ジェクトドライブスプリングがジェットエンジンシステムで発火された勢いで弾丸が飛ぶ、そこまでの工程は引き金を引いてから約0.07秒、身体から出るスラスターの音は消せてもクレーバー自体の音は消せない」
無線を起動しながらデータの収集を待っていると、グレイブスは背中を見せてうずくまるドロズを発見し、その不自然さに気付いて12発装填のウィングマンカスタマイズをドロズに全弾撃ち込んでからゆっくりと近付く。
「……これは」
ドロズの両手からキャニスターブレイク、C4の起爆装置が転がり落ちた。
「言った…だろ…………刺し違え…ても……殺す…………」
全身に銃弾を受けて崩れ落ちたデイビスは狂ったような笑みを浮かべながら嗤う。
「ハハハ……ここの……兵器にチャージャーを仕掛けてある」
「………………それで?」
「この施設は……予想よりも大規模な核融合炉を保有している……そこでC4が吹き飛べば……」
「なるほど……考えたな」
「亡霊が……ここで俺たちの怨念と一緒に……死ね…………!」
グレイブスは無線の不具合に気付き何度も再起動する。
「無駄だ……俺達が設置した……C4は最初に広範囲電磁波を放出する……近接通信以外は機能……しない…………」
データの収集を待つ暇もなく、ドロズとデイビスに止めを刺してからCARを捨てて高速でチームのところまで駆け出す。
一方その頃、ゴーストチームの三人はシージ分隊の援護に入り、敵を全滅させたところだった。
爆発・破壊系のエキスパートであるアールが先導してイグニス、ケイド、ティナの三人を引き連れて施設の先まで進む。
「……で、なんでシージの隊員が着いてきてる?」
「俺が連れてきたんだよイグニス、シージの連中は罠にビビって中に入ってこないしな」
「あの、す、すいません……」
「別に構わねぇよイグニス、それに。シージの奴等は市街地なんかの乱戦が得意な分隊だ、こういう機密性の高い作戦は初めてだろうしな、その子も俺達といた方が何倍も安全だ」
ティナは手に持ったヘムロックを握りしめながら周囲を注意深く見渡しているが、そんな警戒心が追い付かないほどアール達三人がズカズカと進んで行く。
「あの……!アールさん、罠とかは……」
「ん?あー……今のところはねぇな、てか隠れてたパイロット以外は無いんじゃねぇか?それに……」
「雑魚の守衛が居るだけで研究員も非武装の奴もいない……これは何かあるぞアール、逃がしたパイロットが何処に行ったのかも気になる」
「確かにな……」
「…あの、アールさんは一体……?」
「俺か?おれは援護兵&技巧兵だ、罠だらけの場所には慣れてる、だから信用しろ、とりあえずこの近くに罠はー……っ?」
アールの動きが止まる、そして地面にしゃがみこんで床に両手を付けた。
「おいおい……」
「どした?」
「こいつはヤバイぜ……それも……いやマジでヤバイヤバイ!!!!」
刹那、地面がひび割れる程の上下揺れが襲い、四人の身体が一瞬浮かぶ。
「…………っ!?」
「下でなんか爆発したぞ!それに連動してガス管に引火して天井まで登って来た!!!」
アールは後ろの三人を集め、足元に円盤状の装置を設置して起動させる。
「トロフィーを使う!」
天井の爆発によって高速で弾けとんで来た鉄筋を円盤から浮遊する球体、トロフィーから放射された電撃で消滅させ、次々と飛来物を消して行く。
だが、トロフィーシステムは壁を隔てた先までは防衛出来ない、地下の爆発がひび割れた地面を突き破って火炎の嵐を放出する。
「ッッ!!」
「不味いな……!」
「イグニス、多分だが下でブッ飛んだのは例の兵器だ、異常な濃度の放射能が下から上がってきてる」
「そりゃ今すぐにでもとんずらだ!!行こうぜ!!」
「はい……っ!グレイブスさんは!?」
「アイツなら大丈夫だろ!どうせ無傷で帰ってくる!」
「そうだな、ビーゼンブロの時に比べたらイージーだ!」
「脱出経路は俺に任せろ、着いてこい」
今度はイグニスを先頭に、比較的被害や二次被害の危険性が低い場所を走って少しずつ出口へと向かって行く道中、下で激しい爆発と一緒に吹き飛んできた鋭く尖ったコンクリート片が地面を易々と貫き、奇跡とも呼べるほど偶然に、ティナの左太股に深々と突き刺さった。
「ッーー!?!?」
「なにっ!?」
「ティナぁ!!」
ケイドが躊躇なく踵を返してティナに手を差し伸べようとしたが、下から吹き出す爆発的な火炎の嵐に弾き飛ばされる。
「大丈夫かケイド!」
「クソッ!アール!あの子を助けてくれ!!」
「もうやってる!だが突き出してきたこの柱やコンクリートが邪魔で腕すら伸ばせねぇ!!」
「ぶっこわしちまえよ!!」
「バカ言うな!そんなことしたらもっと崩壊する!」
「……ティナ!新しいルートをお前のHUDに送った、自分で行けるか!」
「ッッ……はい…っ!」
酷い激痛……痛い……痛い……。
刺さった破片が骨に当たって……軋む……。
爆発、頭上で吹き飛んだコンクリートがティナに迫る
(ッッ……動けない……!!)
「ッ……!!」
「グレイブス!!」
ティナの横から瓦礫の隙間をすり抜けて来たグレイブスが姿を現し、ウィングマンでコンクリート片を半分に撃ち割り、殴り落とす。
そして負傷したティナに近寄る。
「どうした……?」
「あの……これが……」
太股に突き刺さった破片を見せると、グレイブスはほんの一瞬だけ傷の様子を見てから破片を掴む。
「え!ちょ」
迷いはない、ティナの声など気にも留めずグレイブスは破片を一気に引き抜いた。
「ひっぎ!?……あぐ……ァア……!!」
「………………」
「うお……エッグいな」
「俺だったら泣いちゃうよ……」
「泣いてたろケイド」
「黙れお前ら、イグニス、脱出ルートを送ってくれ」
痛みに喘ぐティナを無視して素早く膝にモルヒネを打ち込み、炎の中で熱されていた鉄筋片を拾い上げ、傷口に強く押し付ける。
「ぎぃぃッ……!!ッッッ!!!」
痛みに視界が歪み、顔が落ちてきたティナのヘルメットを叩き上げ、落ちかけた意識を起こさせる。
「起きろ、今のが最後だ」
「ぅあ……っ」
傷口に包帯を巻き付け、イグニスから送られてきたルートを確認して起き上がる。
「次からは自分でやれ、歩けるかティナ?」
「ッッ!?む、無理……です」
(こんな痛みでは……動けない)
「そうか……仕方ない」
グレイブスは右手でティナの右腕を掴み、自分の背中に通してから右脚に右腕を通してティナを横向きに背負う。
「このルートの外で合流だ、タイタンの要請を許可する、迷うな、行け」
「了解!」
「おう!ティナちゃんの事頼むぜグレイブス!!」
「外で待ってる」
走り去る三人の背中を確認し、グレイブスはティナを担いだまま次の脱出ルートへ走る。
その動きは精密で、担いだ状態でも寸分の狂いなくウォールランで加速を乗せていく。
爆発で不規則に飛んで来たり突き破って来た破片もヒラリと躱し、動きを止めることなく突き進む。
「そろそろか……タイタンフォール」
ティナにぶつけないように瓦礫の下を抜け、破片を避けて吹き飛んだ壁の先に見える外の景色に視線を向けると、降下してきたクルーシブルが搭乗口を開けてロックしてくれていた。
≪どうぞ、パイロット≫
「すまないクルーシブル、頼むぞ」
外に出る直前、グレイブスは急ブレーキを掛け始める。
「…………え?」
ブレーキを掛けながらティナの右腕を左手で掴み、クルーシブルの搭乗口に投げ飛ばした。
「ッ…………!?」
搭乗口の中に放り込まれたティナが起き上がる間も無く搭乗口は閉まり、クルーシブルは起き上がって一歩下がる。
その横からケイドのベイル、アールのバロン、イグニスのクロフト、それぞれのタイタンが姿を見せる。
≪グレイブス、どうやらミリシア軍の援軍が急接近中らしい≫
≪シージの連中もタイタンに乗り込んで迎撃準備は出来てる≫
「分かった、俺はこれからデータナイフの回収に行ってくる」
≪大丈夫かグレイブス?中は既に崩落してる。データナイフが壊れてる可能性は十分あり得る≫
「大丈夫だ、まだデータナイフの信号は検知できる」
ウィングマンのシリンダーを取り替え、データナイフの信号をHUDに大きく表示しながらイグニスが乗っているクロフトに頷く。
「イグニスとケイドはシージと一緒に応戦してこい、アールはクルーシブルを守ってくれ」
≪了解、やってやろうぜイグニス!≫
≪お互いサポート役だ、前線に出るなよケイド≫
≪クルーシブルの護衛だな、任せな≫
「クルーシブル、お前はティナを守ってやれ、頼んだぞ」
≪……分かりました、パイロット、ご武運を≫
「ああ」
グレイブスがクルーシブルに背中を向けた時、ティナが無線に入ってきた。
≪っ……誰が……!≫
「……?」
≪なら誰がグレイブスさんを守るんですか……?≫
そして彼は、ゆっくりと振り返りながら右手に持ったウィングマンをチラリと見せて一言。
「コレがある」
その光景を最後に、出口は崩れた瓦礫で塞がれ、自分が乗っているタイタンが振り返ったことで見えなくなってしまった。
『これよりオートディフェンス、自己防衛機能を起動します、防衛対象、ティナ・シーラント』
「………………」
『………パイロット・グレイブスは優秀なパイロットです、この作戦よりも危険性の高い作戦を公式記録では何度もこなしています。安心してください、パイロット・ティナ』
「………………そうですね、すいません。よろしくお願いいたします」
『はい、お任せ下さい、パイロット』
実際にタイタンに乗るのは初めてだった、バーチャルの世界なら何度もある、だけど。
こんなにも躍動感があるのは初めての経験だ。
そして何よりも、グレイブスさんのこのタイタンはまるで感情があるかのようにフレンドリーな接し方をする。
≪さぁ……敵さんのお出ましだぞクルーシブル≫
『捕捉しました、エグゾブレードを展開』
パイロットが居ない状態でもこのタイタンは高度な判断力で迎撃体勢を整える。
『これより敵対勢力との交戦が予想されます、パイロット、衝撃に備えて下さい』
「っ、はい!」
モニターの目の前で、分厚く長い刀剣を右腕から手元にパージして構え、前方から走ってくる敵タイタンのリージョンにマークを付けた。
「リージョンッ!?」
(きっとクルーシブルは近接パワー型のタイタン……あの距離じゃ攻撃は当たらない!)
閃光、リージョンのスマートコアが発動し、一ミリ単位の狂いすら無いガトリング掃射がクルーシブルに襲い掛かる。
『ヴォーテックスシールドカスタム・フェードアウトを作動』
「ッッ……」
クルーシブルは左手を突き出し、隔離次元の盾を作ってリージョンの弾丸を全て亜空間へと飛ばした。
「今のがヴォーテックスシールド??」
『正確には、ヴォーテックスシールドカスタムの一種です、パイロット』
「カスタム…………」
『私の武装の中には4種類のヴォーテックスシールドを搭載しています』
そう言いながらリージョンの弾丸を消し飛ばし、そのまま走って距離を詰めていると、クルーシブルの側面からタイタンの熱源反応が確認された。
「敵は……ノーススターです!!」
そうは言うが、ノーススターのコイルショックガンは既にフルチャージされており、今にも発射されそうだった。
この近距離で捕捉されて尚且つ死角を取られている、躱す術はないと思っていたが。
『フェーズシフトを発動』
「ッ!」
ノーススターのコイルショックガンの発射と同時にクルーシブルは亜空間へと逃げる。
異常な程の重力負荷がフェーズシフトの訓練を受けていないティナへとのし掛かる。
「くっ……演習場の時の亜空間とは全く違う……不安定な亜空間に飛ぶとこんなに身体が重い……」
『間も無く復帰します、パイロット』
フェーズシフトから復帰したその目の前にリージョンが佇んでおり、同時に胴体が切り落とされる。
『サブスキル、アルティメットブーストを始動、衝撃に備えて下さいパイロット』
一秒後、クルーシブルはエグゾブレードを片手にタイタンシステムの駆動限界まで機動力を回し、ノーススターの貫通弾を躱して蛇行しながら隅々の敵タイタンを斬り倒す。
「ッッッ……!!」
クルーシブルの動きに身体が着いて行けないティナは操縦席の壁に背中や頭を数回ぶつける。
『搭乗部に衝撃を検知……申し訳ありませんパイロット。アルティメットブースト終了まで残り20秒です、もう暫く辛抱を』
「はい…………すみません」
タイタンに気を遣われてしまった、恥ずかしい。
目前まで追い詰め、逃げそうと飛び上がったノーススターに副武装のバレットストライクが炸裂、ハエを叩き落とす。
クルーシブルの胴体部に内臓されたかくさん拡散式の左右6連装の炸裂弾が浮遊するノーススターの全身を弾けて飛行能力を阻害した。
高度が下がったハエの脚を掴み、地面に引き倒して大きな頭部のコックピットにエグゾブレードを突き刺し、破壊する。
『アルティメットブーストの活動限界に到達、ブーストを解除します、再稼働まで残り30分』
クルーシブルは脚部のオーバーヒートした機動機構の一部をパージしてリペアと付け替える。
『敵、多数、パイロット・アール。後退を推奨します』
≪了解だクルーシブル。援護する≫
アールが搭乗するタイタン、バロンの援護射撃を背に高速で下がっていると。
≪ッッ…………クル……ブル…………≫
「ッ……!」
『通信不良です、パイロット』
≪ッッッ……、…………ここまで来れば大丈夫か…………クルーシブル、聞こえるか?ティナは大丈夫か?≫
「グレイブスさん!聞こえますよ!!」
『通信内容の通り、パイロット・ティナは無事です、通信良好、合流地点をマーク、合流を推奨します』
≪分かった、今……外に出た所だ、直ぐに向かう≫
後退しながらバロンと合流し、迂回しながら少しずつ敵タイタンの数を減らしていく、そして更に敵の増援が到着した時、敵タイタンの軍衆がその行軍を止める。
「…………?あれは……もしかして……!?」
『パイロット・グレイブスの信号を敵タイタン増援部隊の中心部で検知しました』
≪マジかよクルーシブル、お前のパイロットの躾がなってねぇぞ≫
『申し訳ありません、パイロット・アール』
「そ、そんな!ふざけてる場合じゃ!」
『その通りです、パイロット・ティナ、突貫します』
クルーシブルとバロンは一気に駆け出し、武装を構えて敵の軍衆に突撃する。
近付いてみると、敵タイタンの頭部に立ってバッテリーを一つだけ引き抜き、『脳』を攻撃してまわるグレイブスの姿を見つけた。
「ッ……」
(あっ……危ない……あれじゃ命がいくらあっても…………)
見ている側も恐怖するほど、グレイブスはギリギリを攻めていた、リージョンのガトリングを躱し、イオンのレーザービームの射線から身を隠しながら頭上を飛び回る。
そしてそんな地獄絵図の中を自分を乗せたタイタンが切り進んで行く。
切り込みながらグレイブスが敵タイタン、イオンの手からフェーズシフトで姿を消したその瞬間。
『フェーズシフトを使用します』
「え、またー」
押し付けられる超過重力負荷を抜けた瞬間、搭乗口を開けながらエグゾブレードを正面のイオンに突き刺した。
その衝撃でティナは搭乗口の外へと投げ出され、宙を舞ったがタイミング良くフェーズシフトから復帰したグレイブスに抱き抱えられてもう一度搭乗口の中に、今度は一緒に入る。
「ッ……!」
「タイタンは初めてか……」
「は、はい、ありがとうございます」
『お帰りなさいパイロット、これより命運をパイロットに委ねます』
「ああ……アール、下がっていろ。SPウェポンスキルを使う、飲まれるなよ」
≪おいおい!それ一番早く言ってくれよちくしょう!!≫
全速力で逃走を始めるアールをマップで確認しながらイオンを投げ飛ばし、ローニンの剣を躱して蹴り退ける。
「ティナ、何かに掴まっていろ、騒がれると困る」
「な、何かって……」
周りを見渡すが、身体を支える手摺なんかも見当たら ず、操縦席にはグレイブスが座ってその上にティナが乗っている状態、何もないのだ。
ティナは操縦席のシートベルトをきつく締めてグレイブスを抱き付く。
「…………あの…………すいません」
「前が見えれば何でも構わない、気にするな」
あ、本当だこの人顔色一つ変えない。
『SPウェポンスキル・フェーズシフトフルアサルトを起動します』
後ろで何が起こっているのかは全くわからない、何かが引き裂かれる音と響き渡る弩号が鼓膜をつんざく。
『パイロット、残り時間は15秒です』
「十分だ」
銃撃の音、爆発音、そして何よりもこの揺れ。
必死に地響きと衝撃に耐えていると、いつの間にか静かになってグレイブスさんに肩を叩かれるまで震えながら抱き付いていた。
「終わったぞティナ……ティナ?」
「っ……はい?」
グレイブスはシートベルトを外し、腰が抜けたのであろうティナに溜め息を付きながら無線を起動する。
「こちらグレイブス、敵タイタンを始末した、状況確認を」
≪そっちに救助ボットを送ったぜグレイブス!ティナちゃんを入れてくれ!≫
クルーシブルの足に人が一人入れる程度の空間を保持した保温救助ボットがぶつかった。
「仕事が早いな、ティナ、搭乗口の前で待ってろ」
「え、はい……あの…………っ!?」
搭乗口にティナを寄りかからせると搭乗口が開き、落ちる寸前でクルーシブルがキャッチ、ボットの中に入れる。
「お前はタイタンよりそこにいた方が安全そうだ」
「…………そ、そうですね」
≪こちらイグニス、そこから真反対の位置に帰投テレポートを作ってある、そこで待ってるぞ≫
「ああ、直ぐに向かう」
ティナを乗せたボットがランディングポイントに向かって遠くなって行くのを見ながらエグゾブレードをクルーシブルの右腕にパージさせ、SPウェポンスキルを使用して消耗した排熱機工もパージする。
『…………パイロット』
「…………ああ、そうだな」
その時、謎のタイタンがクルーシブルの前に降下した。
それとは別に、今度は背後に一機、タイタンが着陸する。
クルーシブルに搭載された外部受信機が二つの無線を傍受した。
≪グレイブス……私の声が聞こえているのだろう?≫
「………………ゲイツ……」
≪オレも覚えてるか……?≫
「…………ベアか……なるほど、確かに、あれで死ぬとは思わなかったが…………仲間のデイビスとドロズを欺いてでも生き残ったのか」
グレイブスとクルーシブルを挟み込んでいるのは、フロンティア随一の精鋭傭兵部隊『6-4』のリーダーであるゲイツとその仲間であるベアだった。
≪無線に応答しなくても、お前が私達、6-4の仇であることは知ってるぞグレイブス≫
≪デイビスとドロズの信号を追ってここに来た……だがそれも今、消えた、兄弟は死んだ……≫
「……………………ゴーストチーム」
≪………?…どしたグレイブス?≫
「先に行っててくれ、少し休んでから行く」
≪珍しいな、お前が休憩なんて、いいぜ!ゆっくり休んでくれよ、ティナちゃんと先に行ってるぜ!≫
≪………グレイブス≫
「……なんだイグニス?」
≪気を付けろよ≫
「…………ああ、すまないな」
グレイブスは無線を切り、クルーシブルのエグゾブレードを起動する。