創造紀エヴァンゲリオン ―外来意識の介入―   作:最上 イズモ

2 / 15
今回から本編になります


使徒襲来

薄暗いモノレール車内に、非常灯の鈍い光だけが残っていた。

 

窓の外では風が荒れている。

車体が揺れるたび、どこか遠くで金属の軋む音がした。

 

座席はすべて空。

広告だけが、誰もいない車内を見下ろしている。

 

制御系の電子音が、小さく響いた。

 

シンジ(イズモ)「……モノレール、か」

 

声が妙に反響した。

 

エヴァンゲリオン。

第3新東京市。

箱根。

モノレール。

 

頭の中には、それを説明できる知識がある。

 

けれど。

 

シートの手触りも。

湿った空気も。

床から伝わる微かな振動も。

 

知識の中にはなかった。

 

シンジ(イズモ)「……本当に、いるんだな。ここに」

 

立ち上がる。

 

怖くないわけではない。

ただ、それを処理するのは後だった。

 

まず確認する。

 

車内に破損はない。

血痕もない。

争った跡も見当たらない。

 

そして――車両はすでに停止していた。

 

空気の抜ける音。

 

ドアが開く。

 

湿った外気が車内へ流れ込んだ。

 

シンジ(イズモ)「……止まってるなら、出るか」

 

ホームへ足を踏み出す。

 

箱根湯本駅は、完全に無人だった。

 

蛍光灯が不規則に明滅する。

靴音だけが広い構内を何度も跳ね返った。

 

人がいない。

 

だが、ついさっきまで人がいた痕跡だけは残っている。

 

シンジ(イズモ)「……持ち物」

 

ポケットを探る。

 

学生証。

 

――碇シンジ。

 

シンジ(イズモ)「…………」

 

財布。

携帯端末。

封筒。

 

そして一枚の写真。

 

知らない女性が写っている。

 

その横には、一台の青い車。

 

シンジ(イズモ)「……アルピーヌ?」

 

写真を傾ける。

 

A310。

 

その名前が自然に出てきたことに、自分でも少し驚いた。

 

知らない女性。

知らない車。

 

なのに胸の奥にだけ、引っ掛かるものがある。

 

シンジ(イズモ)「……今はいい」

 

写真を戻す。

 

理解できないものを、今すぐ理解する必要はない。

 

まず生き延びる。

 

駅前へ出た。

 

空は鉛色。

雲が低い。

 

遠くから、断続的に重い音が聞こえてくる。

 

携帯端末を見る。

 

圏外。

 

公衆電話へ向かう。

 

受話器を取る。

 

無音。

 

シンジ(イズモ)「……だよな」

 

受話器を戻した。

 

連絡手段が死んでいる。

 

なら。

 

視線を上げる。

 

駅前の防犯カメラ。

 

シンジ(イズモ)「……見てる側が生きてれば、だけど」

 

紙を取り出す。

 

大きく書く。

 

――ネルフ本部。

 

それをカメラへ掲げた。

 

ネルフ本部。

 

オペレーションルームの画面に、駅前の映像が拡大された。

 

マヤ「箱根湯本駅ロータリーに生命反応」

 

マヤの指が止まる。

 

マヤ「……サードチルドレンの生体パターンと一致します」

 

画面の中。

 

少年がカメラへ紙を向けている。

 

ネルフ本部。

 

リツコ「こっちを認識してる?」

 

マヤ「いえ……通信は成立していません」

 

リツコは黙って少年を見る。

 

怯えていないわけではない。

 

時折、遠くの爆発音へ肩が反応している。

 

それでも周囲を観察し続けている。

 

リツコ「……ミサト」

 

ミサト「見えてるわ」

 

リツコ「迎えに行って」

 

ミサト「了解」

 

駅前。

 

地面が揺れた。

 

今度は明確だった。

 

遠方で爆発が起きる。

 

シンジ(イズモ)「……来た」

 

空を見上げる。

 

巨大な影。

 

知っている。

 

サキエル。

 

画面越しに見たことのある姿が、今は街そのものを背景に立っている。

 

シンジ(イズモ)「……サイズ感、全然違うな」

 

笑えなかった。

 

上空をVTOLが横切る。

 

次の瞬間。

 

撃ち落とされた。

 

炎を引きながら機体が落ちていく。

 

シンジ(イズモ)「まず――」

 

道路側へ視線を移した、そのときだった。

 

エンジン音。

 

近い。

 

速い。

 

シンジ(イズモ)「……?」

 

青い車体が交差点へ飛び込んでくる。

 

シンジ(イズモ)「A310!?」

 

ブレーキ。

 

フロントが沈む。

 

リアがわずかに外へ出る。

 

――出た。

 

そう思った瞬間には、すでに修正されていた。

 

大きなカウンターではない。

 

ほんの一瞬。

必要な分だけステアリングを戻し、荷重が収束する前に再び向きを変える。

 

車体は滑りながら、まるで最初からそこへ止める予定だったかのようにロータリーへ入ってきた。

 

タイヤが鳴く。

 

A310が目の前で止まる。

 

運転席の窓が下がった。

 

ミサト「碇シンジ君ね! 乗って!」

 

シンジ(イズモ)「はい!」

 

助手席へ飛び込む。

 

ドアを閉める。

 

その瞬間には、もう加速していた。

 

身体がシートへ押しつけられる。

 

シンジ(イズモ)「っ――」

 

速い。

 

だが、それ以上に気になる。

 

シンジ(イズモ)「……この車……」

 

ミサト「なに?」

 

次の交差点。

 

ミサトはブレーキを踏む。

 

減速。

 

ステアリング。

 

リアが動く。

 

しかしスピンしない。

 

アクセルが入る。

 

後輪が路面を蹴り、車体が出口へ向かって一直線に伸びた。

 

シンジ(イズモ)「うわ……!」

 

怖さより先に、声が出た。

 

ミサト「ちょ、ちょっと!?」

 

シンジ(イズモ)「A310でこの運転!?」

 

ミサト「え?」

 

シンジ(イズモ)「今の進入、リア出るの分かっててやりましたよね!?」

 

ミサト「え、まあ……」

 

シンジ(イズモ)「ブレーキ抜くタイミングも早いし、カウンターほとんど当ててない……!」

 

ミサト「シンジ君?」

 

もう一つのコーナー。

 

ミサトは会話を止めない。

 

それでも操作は崩れなかった。

 

ブレーキ。

荷重移動。

旋回。

 

出口へ車体を向けてからアクセル。

 

シンジ(イズモ)「すご……」

 

ミサト「そんなに?」

 

シンジ(イズモ)「もしかして国際ライセンス持ってます?」

 

ミサト「は?」

 

シンジ(イズモ)「それとも元レーサーとか!?」

 

ミサト「いや、なんでそうなるのよ!」

 

シンジ(イズモ)「だってA310ですよ!?」

 

ミサト「そこ!?」

 

シンジ(イズモ)「RRでこれだけ振って事故ってない時点で普通じゃないです!」

 

ミサトは一瞬だけシンジを見る。

 

ミサト「……あなた、本当に十四歳?」

 

シンジ(イズモ)「今それ関係あります?」

 

ミサト「ありまくりよ!」

 

轟音。

 

二人とも前を見る。

 

使徒が近い。

 

空気が震えている。

 

ミサトの表情が変わった。

 

ミサト「……N2を使うわ」

 

シンジ(イズモ)「二足歩行兵器に?」

 

ミサト「使徒よ。人類の敵」

 

さっきまでの軽い口調が消えている。

 

シンジ(イズモ)は黙った。

 

この人は運転が上手いだけじゃない。

 

戦場で動いている。

 

その意味を、ようやく身体が理解し始める。

 

閃光。

 

シンジ(イズモ)「――っ!」

 

世界が白く消えた。

 

遅れて衝撃波が来る。

 

A310が大きく揺れる。

 

ミサトはハンドルを押さえ込む。

 

シンジ(イズモ)もダッシュボードへ手をついた。

 

視界の向こうで巨大な雲が立ち上がっていく。

 

シンジ(イズモ)「……これが」

 

知っていた。

 

映像でも見た。

 

けれど。

 

胸の奥まで響く衝撃は、知らなかった。

 

ネルフ本部。

 

地下施設。

 

ミサト「えーっと……」

 

通路の分岐。

 

同じ場所を一度通った気がする。

 

シンジ(イズモ)は壁の表示を見る。

 

ミサト「……こっち、だったかしら」

 

シンジ(イズモ)「違います」

 

ミサト「即答!?」

 

端末を開く。

 

ネットワークへ接続。

 

最低限の構内情報を拾う。

 

現在位置。

ケージ区画。

エレベーター系統。

 

シンジ(イズモ)「……こっちです」

 

ミサト「なんで私より詳しいのよ……」

 

シンジ(イズモ)「地図読んだだけです」

 

ミサト「その地図どこから出したの!?」

 

歩きながら、シンジ(イズモ)は端末を閉じた。

 

やがて。

 

巨大なシャッターが開く。

 

暗闇の奥に。

 

巨人の顔があった。

 

シンジ(イズモ)「……エヴァンゲリオン初号機」

 

声が小さくなる。

 

知っている。

 

だが。

 

やはり大きい。

 

映像で見るのとはまるで違う。

 

ゲンドウの声が落ちてくる。

 

ゲンドウ「乗れ」

 

シンジ(イズモ)は顔を上げた。

 

父親。

 

碇ゲンドウ。

 

この身体にとっては。

 

シンジ(イズモ)「……分かってます」

 

一歩、前へ出る。

 

シンジ(イズモ)「乗ります」

 

エントリープラグ。

 

ハッチが閉じる。

 

LCLが足元から上がってくる。

 

知っている。

 

呼吸できる液体。

 

分かっている。

 

頭では。

 

シンジ(イズモ)「……待っ――」

 

胸まで。

 

首まで。

 

口。

 

鼻。

 

反射的に息を止める。

 

苦しい。

 

肺が空気を求める。

 

シンジ(イズモ)「っ……!」

 

耐えきれない。

 

吸い込む。

 

液体が喉へ入る。

 

身体が拒絶する。

 

目を見開く。

 

――だが。

 

息ができた。

 

シンジ(イズモ)「…………」

 

呼吸する。

 

もう一度。

 

できる。

 

シンジ(イズモ)「……すごいな、これ」

 

ミサト「聞こえる?」

 

シンジ(イズモ)「聞こえてます」

 

ミサト「発進準備!」

 

機体が拘束具へ固定される。

 

振動。

 

轟音。

 

巨大な質量が動き始める。

 

シンジ(イズモ)は操縦桿を握った。

 

手が震えている。

 

怖い。

 

今度は、はっきり認めた。

 

それでも。

 

シンジ(イズモ)「……動かせる」

 

感覚がある。

 

自分の身体ではない巨大な何かが、確かに意識へ繋がっている。

 

ミサト「エヴァンゲリオン初号機――発進!」

 

加速。

 

地上へ。

 

サキエル。

 

向き合う。

 

シンジ(イズモ)は息を吐いた。

 

巨大な手を動かす。

 

サキエルの前に、目に見えない壁。

 

シンジ(イズモ)「……ATフィールド」

 

初号機の拳が止まる。

 

衝撃。

 

腕へ感覚が返る。

 

本当にある。

 

触れられる。

 

シンジ(イズモ)「なら……」

 

力任せにはしない。

 

構造を見る。

 

押し合う必要はない。

 

面で受けるなら。

 

形を変える。

 

ATフィールドが細く収束する。

 

刃。

 

シンジ(イズモ)「これなら」

 

踏み込む。

 

一閃。

 

使徒のフィールドが裂ける。

 

サキエルが反応する。

 

遅い。

 

もう一歩。

 

最短距離。

 

コアへ。

 

斬撃。

 

静止。

 

巨大な身体から力が抜けた。

 

シンジ(イズモ)はしばらく動かなかった。

 

モニターの中で、使徒が崩れていく。

 

シンジ(イズモ)「……終わりました」

 

返事はすぐには来なかった。

 

自分の呼吸音だけが、エントリープラグへ響いている。

 

手を見る。

 

震えている。

 

さっきまで。

 

これは作品だった。

 

知識だった。

 

設定だった。

 

だが今は違う。

 

A310のタイヤが鳴く音も。

 

N2の衝撃も。

 

LCLが肺へ入った感覚も。

 

全部、残っている。

 

シンジ(イズモ)「……間違えたら、死ぬんだな」

 

それでも。

 

巨大な機体の感覚は、まだ手の中にある。

 

不自然なほど。

 

自分の思考と噛み合っている。

 

シンジ(イズモ)は静かに初号機の手を握った。

 

シンジ(イズモ)「……なんで、こんなに動かせるんだ」

 

答える者はいなかった。

 




改造後初めての使徒戦カエデのサポートでうまくいくのか次回創造紀エヴァンゲリオン鳴らない?電話次回もサービスサービス
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。