創造紀エヴァンゲリオン ―外来意識の介入―   作:最上 イズモ

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鳴らない?電話

 

 

第七ケージ前の通路は、非常灯だけが淡く点っていた。

 

巨大施設が稼働しているとは思えないほど人影は少ない。

 

遠くで響くのは、整備用クレーンの低い駆動音。

空調が吐き出す冷えた風が、薄いシャツの袖から入り込む。

 

先日の戦闘から、まだそれほど時間は経っていない。

 

初号機の感覚は、今も手の中に残っていた。

 

握った拳。

踏み込んだ足。

A.T.フィールドに触れた、あの奇妙な抵抗。

 

そして。

 

一歩間違えれば、自分が死んでいたという事実。

 

イズモは前を歩く白衣へ声をかけた。

 

シンジ(イズモ)「赤木さん」

 

リツコが足を止める。

 

白衣の裾がわずかに揺れた。

 

リツコ「なにかしら、碇シンジくん」

 

先日の戦闘以前とは、目が違う。

 

パイロットを見る目ではない。

 

被験者でもない。

 

何をするか分からない変数を見る目だった。

 

シンジ(イズモ)「少しお願いがあります」

 

リツコ「聞くだけなら」

 

シンジ(イズモ)「三日間、第七ケージを使わせてください」

 

リツコ「…………」

 

眉が、ほんの少し動いた。

 

リツコ「理由を聞いても?」

 

シンジ(イズモ)「初号機を改修したいです」

 

リツコ「却下」

 

早かった。

 

シンジ(イズモ)「ですよね」

 

リツコ「エヴァンゲリオンは人類最後の切り札よ。整備計画は秒単位で管理されている。その一部を、パイロットの思いつきで変更することはできないわ」

 

シンジ(イズモ)「分かってます」

 

リツコ「なら――」

 

シンジ(イズモ)「だから、強くしたいわけじゃないです」

 

リツコが言葉を止めた。

 

シンジ(イズモ)「間違えにくくしたいんです」

 

リツコ「……どういう意味?」

 

シンジ(イズモ)「初戦で勝てたのは、かなり偶然が入ってます」

 

自分の手を見る。

 

あの時。

 

A.T.フィールドを刃として扱う発想が成立しなかったら。

 

初号機が思った通り動かなかったら。

 

サキエルの反応がもう少し速かったら。

 

一つずれるだけで、結果は変わっていた。

 

シンジ(イズモ)「次も同じやり方が通る保証がない」

 

リツコ「だから兵器を増やす?」

 

シンジ(イズモ)「逆です」

 

イズモは首を振った。

 

シンジ(イズモ)「選択肢を増やします」

 

リツコ「同じじゃない」

 

シンジ(イズモ)「違います」

 

リツコの目を見る。

 

シンジ(イズモ)「殴るしかない状況と、殴る以外も選べる状況は違います」

 

沈黙。

 

シンジ(イズモ)「逃げられる。避けられる。止められる。距離を取れる」

 

少し考える。

 

シンジ(イズモ)「その最後に、攻撃があるくらいがいい」

 

リツコ「……あなた、本当に十四歳?」

 

シンジ(イズモ)「その質問、この世界に来てからよく聞かれます」

 

リツコ「まだ数日よ」

 

シンジ(イズモ)「濃かったので」

 

リツコは小さく息を吐いた。

 

リツコ「仮に許可するとしても、あなたにエヴァを改修する技術は――」

 

シンジ(イズモ)「証拠を見せます」

 

イズモは掌を上へ向けた。

 

リツコ「何を――」

 

淡い光。

 

リツコの声が止まる。

 

空中に、小さな粒子のようなものが集まり始める。

 

金属。

 

樹脂。

 

配線。

 

集積回路。

 

一つ一つが何もない空間から形を得て、見えない設計図に従うように組み上がっていく。

 

数秒後。

 

掌の上に、一台の小型端末があった。

 

リツコ「…………」

 

シンジ(イズモ)「どうぞ」

 

恐る恐るではない。

 

リツコは即座に端末を受け取った。

 

電源を入れる。

 

分解用の工具を取り出し、背面を開く。

 

シンジ(イズモ)「早いですね」

 

リツコ「黙って」

 

シンジ(イズモ)「はい」

 

内部基板が露出する。

 

リツコの指が止まった。

 

リツコ「この回路……」

 

端末を傾ける。

 

リツコ「既存規格に似ている部分はある。でも、この集積方法は何?」

 

シンジ(イズモ)「自分でも完全には説明できません」

 

リツコ「あなたが作ったのに?」

 

シンジ(イズモ)「作り方は分かります。でも、創造能力自体の原理は分からない」

 

リツコ「……再現は?」

 

シンジ(イズモ)「できます」

 

リツコ「同じものを?」

 

シンジ(イズモ)「はい」

 

リツコ「別のものも?」

 

シンジ(イズモ)「生物以外なら」

 

沈黙。

 

リツコはもう一度端末を見る。

 

科学者としての好奇心。

 

同時に、それを危険物として見る警戒。

 

両方が、はっきり顔に出ていた。

 

リツコ「マジックではない」

 

シンジ(イズモ)「自分もそう思います」

 

リツコ「でも、現行理論では説明できない」

 

シンジ(イズモ)「自分も困ってます」

 

リツコ「……司令へ話を通す必要があるわ」

 

シンジ(イズモ)「お願いします」

 

リツコ「それでもいいの?」

 

シンジ(イズモ)「隠して改造するよりは」

 

リツコ「普通はそもそも改造しないのよ」

 

シンジ(イズモ)「それもそうですね」

 

指令室。

 

壁一面のモニターに、第三新東京市の被害状況が流れている。

 

中央。

 

碇ゲンドウは腕を組んだまま、イズモが生成した端末を見ていた。

 

冬月も隣で黙っている。

 

ゲンドウ「条件を言え」

 

あまりにも早かった。

 

シンジ(イズモ)「……いいんですか?」

 

ゲンドウ「使えるものを使わない理由はない」

 

やはり。

 

許可ではない。

 

利用価値の測定だ。

 

シンジ(イズモ)「なら、こっちも条件を出します」

 

再び光が集まる。

 

今度は薄い板状の端末。

 

画面に文書を表示する。

 

リツコ「もう作ったの?」

 

シンジ(イズモ)「こういう話になると思ったので」

 

冬月「準備がいいな」

 

シンジ(イズモ)「後で揉めたくないだけです」

 

表示する。

 

――初号機改修について、パイロットから提案する権利。

 

――ネルフ技術部及び整備部門による安全審査。

 

――安全上の問題が認められた場合、整備側は改修を拒否できる。

 

リツコが一瞬こちらを見る。

 

シンジ(イズモ)「自分が作れるからって、勝手に付けるつもりはありません」

 

さらに下。

 

――出撃拒否権。

 

――作戦内容について説明を求める権利。

 

――ネルフ職員との同居を強制しない。

 

ゲンドウ「最後はなぜだ」

 

シンジ(イズモ)「一人の時間が欲しいので」

 

冬月がほんの少しだけ口元を緩めた。

 

ゲンドウ「他には」

 

シンジ(イズモ)「今のところは」

 

ゲンドウは文書を数秒見る。

 

ゲンドウ「……よかろう」

 

シンジ(イズモ)「ありがとうございます」

 

ゲンドウ「ただし」

 

視線が上がる。

 

ゲンドウ「結果を出せ」

 

シンジ(イズモ)「安全性の?」

 

ゲンドウ「使徒を倒す結果だ」

 

シンジ(イズモ)「……努力します」

 

約束はしなかった。

 

第七ケージ。

 

翌朝。

 

巨大な初号機が、拘束具に固定されたまま沈黙している。

 

作業灯が紫色の装甲を白く照らしていた。

 

整備員たちの視線が刺さる。

 

歓迎されていない。

 

当然だった。

 

十四歳のパイロットが突然やってきて、

 

「今日から三日間、この機体を改造します」

 

と言ったのだ。

 

嫌な顔をされない方がおかしい。

 

整備主任「……で?」

 

腕を組んだ男が、イズモを見る。

 

整備主任「パイロット様は何を付けたいんだ」

 

シンジ(イズモ)「その前に、整備マニュアル見せてもらえますか?」

 

整備主任「は?」

 

シンジ(イズモ)「初号機の」

 

整備主任「何に使う」

 

シンジ(イズモ)「自分が作った部品を、皆さんが直せなかったら困るので」

 

数人の整備員が顔を見合わせた。

 

イズモは初号機を見上げる。

 

シンジ(イズモ)「自分にしか作れないブラックボックスは、極力入れたくないです」

 

整備主任「……創造能力とかいうやつで、壊れたらまた作ればいいんじゃないのか」

 

シンジ(イズモ)「自分が必ずここにいる保証がないでしょう」

 

男の表情が少し変わった。

 

シンジ(イズモ)「戦闘中に壊れた時、自分が意識失ってたら終わります」

 

シンジ(イズモ)「それに――」

 

工具箱へ目をやる。

 

シンジ(イズモ)「整備するの、自分じゃなくて皆さんですし」

 

静かになった。

 

整備主任「……マニュアル持ってこい」

 

整備員「主任?」

 

整備主任「いいから」

 

分厚いファイルが置かれる。

 

イズモは床へ座り込んだ。

 

ページを開く。

 

配線図。

 

油圧系統。

 

装甲固定。

 

電源経路。

 

緊急パージ機構。

 

シンジ(イズモ)「うわ……」

 

整備主任「なんだ」

 

シンジ(イズモ)「配線、すごいですね」

 

整備員「そこ?」

 

シンジ(イズモ)「これ現場で交換するんですか?」

 

整備員「するけど」

 

シンジ(イズモ)「大変じゃないです?」

 

整備員「大変だよ」

 

シンジ(イズモ)「ですよね」

 

整備主任「……お前、何しに来たんだ」

 

シンジ(イズモ)「改修です」

 

整備主任「今のところ整備士の愚痴聞いてるだけだぞ」

 

シンジ(イズモ)「重要ですよ」

 

即答した。

 

シンジ(イズモ)「毎回触る人が困る設計、たぶん長続きしないので」

 

整備員の一人が吹き出した。

 

整備主任「……まあいい。続けろ」

 

そこから。

 

三日間が始まった。

 

一日目。

 

まず、取り外す。

 

追加する前に、構造を見る。

 

肩部ウェポンラック。

 

腕部。

 

腰部装甲。

 

電源系統。

 

イズモは何度も初号機の足元と設計図を往復した。

 

シンジ(イズモ)「ここから分岐できます?」

 

整備員「できるけど、そこ使うと右腕の補助系と干渉する」

 

シンジ(イズモ)「じゃあなし」

 

整備員「早いな」

 

シンジ(イズモ)「戦闘中に腕止まったら嫌なので」

 

別の経路。

 

シンジ(イズモ)「これは?」

 

整備員「整備口が塞がる」

 

シンジ(イズモ)「なし」

 

整備員「……お前、意外と話通じるな」

 

シンジ(イズモ)「何だと思われてたんですか」

 

整備員「パイロット」

 

シンジ(イズモ)「ひどい偏見だ」

 

整備主任「だいたい合ってる」

 

笑い声が上がった。

 

その頃にはもう、イズモも工具箱から勝手にレンチを取っていた。

 

もちろん、十四歳の身体で巨大部品を運べるわけではない。

 

だから測る。

 

端末へ記録する。

 

固定位置を確認する。

 

整備員が外した部品を受け取る。

 

必要なら小さな治具を創造する。

 

シンジ(イズモ)「これ、使えます?」

 

整備員「何だこれ」

 

シンジ(イズモ)「位置合わせ用」

 

整備員が試す。

 

数秒。

 

整備員「……あと三個」

 

シンジ(イズモ)「はい」

 

光が三度瞬いた。

 

整備員「便利すぎるだろ、それ」

 

シンジ(イズモ)「悪用できるので、あんまり好きじゃないです」

 

整備員「作り放題なのに?」

 

シンジ(イズモ)「作れることと、作っていいことは別なので」

 

整備員は少しだけ黙った。

 

整備員「……変な中学生だな」

 

シンジ(イズモ)「自覚あります」

 

二日目。

 

腕部ガトリング。

 

肩部ミサイル。

 

腰部ブースター。

 

見た目だけなら、初号機は明らかに攻撃的になっていた。

 

整備主任「強くしたくないんじゃなかったのか?」

 

シンジ(イズモ)「これ、全部逃げるのにも使えます」

 

整備主任「ガトリングでどう逃げる」

 

シンジ(イズモ)「牽制」

 

整備主任「ミサイル」

 

シンジ(イズモ)「進路制限」

 

整備主任「ブースター」

 

シンジ(イズモ)「それは普通に逃げます」

 

整備主任「最後だけ分かりやすいな」

 

シンジ(イズモ)「武装って、当てる以外にも使えるので」

 

弾薬搭載量は意図的に抑えた。

 

撃ち続けるためではない。

 

必要な数秒を作るため。

 

そして何より。

 

シンジ(イズモ)「緊急パージ、全部独立させます」

 

整備員「故障したら捨てる?」

 

シンジ(イズモ)「はい」

 

整備員「もったいないぞ」

 

シンジ(イズモ)「機体ごと持っていかれるより安いです」

 

整備主任「……それはそうだ」

 

各装備は、壊れた時に他系統を巻き込まない。

 

破損したら切り離す。

 

弾切れなら捨てる。

 

機能しなければ戻す。

 

その判断を、パイロット一人だけに背負わせない。

 

深夜。

 

初号機の足元。

 

イズモは工具箱に背中を預けて座っていた。

 

眼前には巨大な脚。

 

上を見ても、頭部は遠すぎて見えない。

 

整備員「ほら」

 

何かが飛んでくる。

 

慌てて受け取る。

 

スポーツドリンク。

 

シンジ(イズモ)「ありがとうございます」

 

整備員「パイロット倒れたら俺ら怒られるからな」

 

シンジ(イズモ)「優しさじゃないんですか」

 

整備員「業務だ」

 

別の整備員が横から口を挟む。

 

整備員「嘘つけ。さっき売店まで走ってただろ」

 

整備員「うるせえ」

 

イズモはキャップを開けた。

 

一口。

 

冷たい。

 

シンジ(イズモ)「……生き返る」

 

整備主任「十四歳が言う台詞じゃねえな」

 

シンジ(イズモ)「ここ三日、学校より勤務時間長いので」

 

整備主任「学校行け」

 

シンジ(イズモ)「明後日から行きます」

 

整備主任「行ってなかったのかよ」

 

シンジ(イズモ)「忘れてました」

 

全員がこちらを見た。

 

整備主任「……お前なぁ」

 

シンジ(イズモ)「エヴァいじってたら」

 

整備員「学校忘れる中学生初めて見たぞ」

 

シンジ(イズモ)「自分も初めてです」

 

また笑い声。

 

ケージの天井へ吸い込まれていった。

 

三日目。

 

最後に残ったのは、機体ではなかった。

 

端末の中。

 

大量の戦闘データ。

 

初号機の動作ログ。

 

兵装状態。

 

パイロットのバイタル。

 

都市被害。

 

残弾数。

 

退路。

 

全部を一人で見る。

 

無理だ。

 

見られたとしても、判断が遅れる。

 

だから。

 

イズモは椅子に座ったまま、何もない空間を見つめた。

 

シンジ(イズモ)「……補助がいる」

 

整備主任「オペレーターならいるだろ」

 

シンジ(イズモ)「ネルフ全体を見てる人じゃなくて」

 

指先を動かす。

 

シンジ(イズモ)「自分だけを見るやつ」

 

淡い光が集まる。

 

今まで作ったどの機械よりも、慎重に。

 

コード。

 

演算装置。

 

記憶領域。

 

判断系。

 

それだけではない。

 

最後に、一つだけ強く決める。

 

シンジ(イズモ)「判断を奪わない」

 

光の中に、輪郭が生まれていく。

 

整備員たちが作業を止める。

 

人型。

 

少女。

 

けれど、生物ではない。

 

目が開いた。

 

カエデ「起動を確認しました」

 

静かな声。

 

シンジ(イズモ)「聞こえる?」

 

カエデ「はい」

 

シンジ(イズモ)「自分が誰か分かる?」

 

カエデ「支援用自己進化型人工知能。現在の管理者は――」

 

一瞬。

 

こちらを見る。

 

カエデ「最上イズモ」

 

整備班の空気が止まった。

 

整備主任「……最上?」

 

イズモも止まる。

 

しまった。

 

シンジ(イズモ)「そこ、今は碇シンジで」

 

カエデ「了解しました。登録名を碇シンジへ変更します」

 

整備員「お前、今さらっと何を隠した?」

 

シンジ(イズモ)「長くなるので後で」

 

整備主任「絶対聞くからな」

 

シンジ(イズモ)「はい」

 

カエデがこちらを見る。

 

シンジ(イズモ)「戦闘補助モード」

 

カエデ「起動します」

 

端末へ大量の情報が展開される。

 

弾薬量。

 

機体損傷。

 

周辺地形。

 

敵性反応。

 

退路候補。

 

カエデ「運用可能です」

 

シンジ(イズモ)「一つだけ」

 

カエデ「はい」

 

シンジ(イズモ)「主導権は取らないで」

 

カエデの目がわずかに動く。

 

シンジ(イズモ)「自分が間違ってると思ったら言って。危ないなら止めていい。でも、最後の判断は奪わない」

 

カエデ「確認」

 

一拍。

 

カエデ「判断権は常にパイロットにあります」

 

シンジ(イズモ)「うん」

 

カエデ「ただし、生命に重大な危険がある場合は警告を継続します」

 

シンジ(イズモ)「それでいい」

 

カエデ「了解しました」

 

整備主任が初号機を見上げた。

 

追加装備。

 

新しい制御系。

 

そして、その横に立つ少女型AI。

 

整備主任「三日でえらいことになったな」

 

シンジ(イズモ)「やりすぎました?」

 

整備主任「お前、今さらそれ聞く?」

 

シンジ(イズモ)「一応」

 

整備主任「……まあ」

 

少し間を置く。

 

整備主任「前より直しやすくなった」

 

イズモは初号機を見る。

 

シンジ(イズモ)「なら、成功です」

 

翌朝。

 

学校。

 

教師「転入生を紹介する」

 

教室中の視線が、一斉に向いた。

 

教師「碇シンジくん」

 

シンジ(イズモ)「碇シンジです。よろしくお願いします」

 

教師「それと――」

 

隣を見る。

 

教師「碇カエデさん」

 

カエデ「碇カエデです。よろしくお願いいたします」

 

ざわめき。

 

当然だった。

 

生徒「兄妹?」

 

生徒「双子?」

 

生徒「名字同じじゃん」

 

生徒「ていうか、あの子めっちゃ綺麗じゃない?」

 

イズモは席へ向かう。

 

シンジ(イズモ)「……そういえば」

 

カエデ「はい」

 

シンジ(イズモ)「学校も行かないといけなかったんだな」

 

カエデ「義務教育年齢です」

 

シンジ(イズモ)「ケージに三日いたせいで忘れてた」

 

カエデ「生活スケジュールへの学校時間の登録を推奨します」

 

シンジ(イズモ)「お願い」

 

ケージより厳しいかもしれない。

 

そう思った直後。

 

教師の説明中に、端末が振動した。

 

画面を見る。

 

《第七ケージ:右肩部ミサイルラック、接続診断値に偏差》

 

シンジ(イズモ)「…………」

 

カエデ「返信しますか?」

 

シンジ(イズモ)「授業中だから後で」

 

カエデ「了解」

 

後ろの席から声。

 

ケンスケ「なあ」

 

振り返る。

 

眼鏡をかけた少年が、目を輝かせていた。

 

嫌な予感。

 

ケンスケ「ロボット乗ってるって本当か?」

 

シンジ(イズモ)「……本当」

 

ケンスケ「どんな操縦系? やっぱレバー? 神経接続って噂――」

 

教師「相田」

 

ケンスケ「はい!」

 

教室に笑い声。

 

ケンスケは小声で続けた。

 

ケンスケ「後でな」

 

シンジ(イズモ)「うん」

 

それなら話してもいい。

 

戦車。

航空機。

兵器。

エヴァ。

 

多分、話題はいくらでもある。

 

――端末がまた震えた。

 

《第七ケージ:右肩部ユニット再調整要》

 

シンジ(イズモ)「…………」

 

カエデ「放課後の予定を変更しますか?」

 

シンジ(イズモ)「ケージ行く」

 

カエデ「了解しました」

 

ケンスケとの話は。

 

また今度になった。

 

放課後。

 

屋上。

 

フェンスの向こうから、運動部の声が聞こえる。

 

風が吹き抜ける。

 

イズモは端末へ表示された整備ログを確認していた。

 

扉が開く。

 

鈴原トウジが立っていた。

 

トウジ「転校生」

 

シンジ(イズモ)「ん?」

 

トウジは拳を握っている。

 

トウジ「俺を殴れ」

 

イズモは端末から顔を上げた。

 

シンジ(イズモ)「理由を聞いても?」

 

トウジ「……妹のことや」

 

その言葉で理解する。

 

先日の戦闘。

 

避難。

 

市街地被害。

 

トウジ「お前が戦った時、妹が巻き込まれた」

 

拳が震えている。

 

怒っている。

 

でも。

 

それだけではない。

 

トウジ「けど……助けてもらったとも聞いた」

 

イズモは黙った。

 

トウジ「なんやねん、それ」

 

声が少しだけ崩れる。

 

トウジ「怒ったらええんか、礼言ったらええんか分からん」

 

シンジ(イズモ)「どっちでもいいと思う」

 

トウジ「は?」

 

シンジ(イズモ)「両方でも」

 

フェンス越しに街を見る。

 

壊れた建物は、まだ完全には戻っていない。

 

シンジ(イズモ)「自分がエヴァに乗ったから壊れたものもある」

 

トウジ「……」

 

シンジ(イズモ)「でも、乗らなかったらもっと壊れてたと思う」

 

トウジ「自信満々やな」

 

シンジ(イズモ)「そうじゃない」

 

端末を閉じる。

 

シンジ(イズモ)「どっちを選んでも、誰かが困る状況だっただけ」

 

トウジはしばらく黙っていた。

 

やがて。

 

拳を下ろす。

 

トウジ「……殴らへんの?」

 

シンジ(イズモ)「殴ってほしい?」

 

トウジ「いや」

 

シンジ(イズモ)「じゃあ殴らない」

 

トウジ「なんやねん、お前」

 

シンジ(イズモ)「よく言われる」

 

トウジ「……先生も罪やなぁ」

 

シンジ(イズモ)「お前と一緒にするな」

 

直後。

 

校舎側から怒声。

 

教師「鈴原ぁ! お前また屋上にいるのか!」

 

トウジ「やばっ!」

 

トウジは扉へ走る。

 

トウジ「またな、転校生!」

 

シンジ(イズモ)「また」

 

扉が閉じる。

 

数秒。

 

カエデ「友人関係の成立を確認しました」

 

シンジ(イズモ)「早くない?」

 

カエデ「暫定です」

 

シンジ(イズモ)「暫定なんだ」

 

端末が振動する。

 

《第七ケージ:作業開始可能》

 

シンジ(イズモ)「……行くか」

 

カエデ「はい」

 

警報が鳴ったのは、その数日後だった。

 

第三新東京市。

 

初号機が地上へ射出される。

 

視界に敵性反応。

 

使徒。

 

前回とは違う。

 

細長い腕。

 

鞭のようにしなる攻撃。

 

距離がある。

 

ミサト〈無線〉「まずはライフルで牽制して!」

 

シンジ(イズモ)「了解」

 

初号機が構える。

 

射撃。

 

使徒が身を捻る。

 

外れた。

 

カエデ「敵性個体、回避行動確認。射撃のみでの有効打率、低下」

 

シンジ(イズモ)「ダメージ判定」

 

カエデ「軽微。有効打なし」

 

ミサト〈無線〉「距離を保って!」

 

シンジ(イズモ)「……」

 

使徒の腕が伸びる。

 

ビルを切り裂く。

 

破片が住宅区画へ降り注ぐ。

 

カエデ「市街地被害増加」

 

シンジ(イズモ)「時間経過は?」

 

カエデ「不利です」

 

ガトリングを起動。

 

連射。

 

使徒が腕を盾にする。

 

その間にブースター。

 

距離を詰める。

 

ミサト〈無線〉「シンジ君!?」

 

シンジ(イズモ)「行きます」

 

ミサト〈無線〉「待って! 距離を――」

 

通信を聞きながら。

 

契約内容が頭をよぎる。

 

出撃拒否権。

 

作戦への意見。

 

そして。

 

現場判断。

 

シンジ(イズモ)「契約第一項、適用します」

 

ミサト〈無線〉「はぁ!?」

 

使徒の鞭が振られる。

 

初号機が沈む。

 

頭上を通過。

 

もう一発。

 

腰部ブースターを一瞬だけ噴かす。

 

軸をずらす。

 

鞭が地面を抉る。

 

シンジ(イズモ)「今」

 

肩部ミサイル。

 

発射。

 

使徒の動きを左右から制限する。

 

逃げ道を一つだけ残す。

 

そこへ。

 

初号機が踏み込んだ。

 

零距離。

 

腕を掴む。

 

使徒の身体が暴れる。

 

シンジ(イズモ)「カエデ!」

 

カエデ「拘束可能時間、七秒」

 

シンジ(イズモ)「十分」

 

ガトリング。

 

至近距離。

 

装甲の隙間へ叩き込む。

 

A.T.フィールドが干渉する。

 

完全には抜けない。

 

だが。

 

止まる。

 

その一瞬。

 

ナイフ。

 

最短。

 

コア。

 

沈黙。

 

戦闘後。

 

指令室。

 

ミサト「どうして命令を無視したの!?」

 

声が響いた。

 

イズモは黙って立っている。

 

リツコ。

 

マヤ。

 

冬月。

 

ゲンドウ。

 

全員がいる。

 

ミサト「距離を保てって言ったわよね!」

 

シンジ(イズモ)「はい」

 

ミサト「なら、なんで!」

 

シンジ(イズモ)「あの瞬間しか、被害を最小にできなかったからです」

 

ミサト「だからって――」

 

シンジ(イズモ)「住宅区画への被害予測、出せます?」

 

マヤが端末を見る。

 

マヤ「……近接移行しなかった場合、使徒の進路上に第三居住区」

 

シンジ(イズモ)「時間は?」

 

マヤ「推定……四分三十秒」

 

シンジ(イズモ)「四分あれば、かなり壊れます」

 

ミサト「……」

 

シンジ(イズモ)「命令を無視したのは謝ります」

 

少し頭を下げる。

 

シンジ(イズモ)「でも、同じ状況なら多分またやります」

 

ミサト「シンジ君」

 

シンジ(イズモ)「だから、後で作戦ルールを見直しましょう」

 

ミサトの怒りが、一瞬だけ止まった。

 

シンジ(イズモ)「自分が勝手に動かなくて済むように」

 

長い沈黙。

 

リツコが端末を見る。

 

戦闘ログ。

 

初号機。

 

追加装備。

 

その全部。

 

リツコ「……ミサト」

 

ミサト「なに」

 

リツコ「今回は、この子の判断が正しいわ」

 

ミサト「リツコまで」

 

リツコ「だからこそ問題なのよ」

 

視線がイズモへ向く。

 

リツコ「パイロット個人の判断が正解になる運用は、組織として失敗している」

 

イズモは少しだけ目を見開いた。

 

それから。

 

シンジ(イズモ)「……ありがとうございます」

 

リツコ「褒めてないわよ」

 

シンジ(イズモ)「分かってます」

 

研究室。

 

回収された使徒の残骸。

 

中心部。

 

破壊されたコアの一部が、厳重な隔離容器に収められている。

 

リツコ「解析不能」

 

モニターに並ぶ数字。

 

リツコ「構造は確認できる。でも、構造と機能が一致しない」

 

シンジ(イズモ)「使徒は人類とほぼ同じ遺伝子構造なんですよね」

 

リツコ「ええ」

 

シンジ(イズモ)「なのに、あれだけ違う」

 

リツコ「そういうことになる」

 

イズモは容器を見る。

 

シンジ(イズモ)「このコア、もらえますか?」

 

リツコ「……何に使うの」

 

シンジ(イズモ)「次を予測するために」

 

リツコの眉が寄る。

 

シンジ(イズモ)「使徒が全部同じなら必要ない。でも違う」

 

端末を取り出す。

 

シンジ(イズモ)「だから共通部分と違う部分を分けたい」

 

リツコ「あなたの端末で?」

 

シンジ(イズモ)「初号機の外装にも同じ系統を入れてます」

 

リツコ「いつの間に」

 

シンジ(イズモ)「三日目の夜」

 

リツコ「寝なさい」

 

シンジ(イズモ)「整備班にも言われました」

 

リツコ「でしょうね」

 

端末へデータが流れる。

 

シンジ(イズモ)「戦闘時の接触データ、A.T.フィールドの干渉波形、コアの反応」

 

シンジ(イズモ)「全部MAGIへ送れるようにします」

 

リツコ「……あなた」

 

シンジ(イズモ)「はい?」

 

リツコ「使徒を倒すことより、次の使徒のことばかり考えているわね」

 

イズモは少し黙った。

 

シンジ(イズモ)「今回勝っても」

 

容器を見る。

 

シンジ(イズモ)「次に死んだら意味ないので」

 

リツコは何も言わなかった。

 

しばらくして。

 

リツコ「……ありがとう、シンジ君」

 

シンジ(イズモ)「?」

 

リツコ「データのことよ」

 

シンジ(イズモ)「ああ」

 

リツコは容器のロックを解除した。

 

リツコ「持ち出しは禁止」

 

シンジ(イズモ)「もちろん」

 

リツコ「研究室内でのみ使用」

 

シンジ(イズモ)「はい」

 

リツコ「勝手に創造能力で複製しない」

 

シンジ(イズモ)「……」

 

リツコ「返事」

 

シンジ(イズモ)「しません」

 

リツコ「シンジ君?」

 

シンジ(イズモ)「原理分からないもの複製したくないので、そもそもやりません」

 

リツコ「……そう」

 

少しだけ。

 

本当に少しだけ。

 

リツコの表情が柔らかくなった。

 

その夜。

 

ネルフ本部の私室。

 

端末の青白い光だけが、部屋を照らしていた。

 

机の上には、学校の教科書。

 

その横。

 

整備マニュアル。

 

使徒解析データ。

 

初号機の改修案。

 

宿題は一番下に埋もれている。

 

シンジ(イズモ)「…………」

 

カエデ「明日の提出物があります」

 

シンジ(イズモ)「見えてる」

 

カエデ「未着手です」

 

シンジ(イズモ)「見えてるって」

 

カエデ「期限は明朝です」

 

シンジ(イズモ)「……やります」

 

 




起動実験中に使徒襲来イズモとカエデは使徒を倒すことができるか次回創造紀エヴァンゲリオン決戦第三東京市次回もサービスしちゃうわよ
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