創造紀エヴァンゲリオン ―外来意識の介入― 作:最上 イズモ
人の手で破壊するもの
薄暗い司令室で、モニターの光が碇ゲンドウの眼鏡に冷たく反射していた。
張り詰めた空気の中、MAGIの低い駆動音だけが、かろうじて静寂を保っている。
シンジ――イズモは、巨大な机の前に立っていた。
その手には一枚の仕様書。
ゲンドウ「何の用だ」
シンジ(イズモ)「三週間後、エヴァンゲリオンを改修したい。許可が欲しい」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
この世界に来てまだ日が浅い。
けれど。
サキエル。
シャムシエル。
ラミエル。
三度の戦闘。
第七ケージ。
整備班。
そして。
目の前にいる男。
ネルフという組織が何を優先し、何を切り捨てるのか。
少しずつ。
輪郭だけは見え始めていた。
ゲンドウ「内容は」
シンジ(イズモ)「初号機の外装と機動系を中心に」
端末を操作する。
初号機の立体図。
追加装甲。
背部ブースター。
センサー。
電源経路。
既存武装との互換性。
シンジ(イズモ)「今の装備は応急的に追加しただけです」
ゲンドウ「戦果は出ている」
シンジ(イズモ)「だからです」
一拍。
シンジ(イズモ)「今のままだと、整備班に負担が集中する」
ゲンドウの表情は変わらない。
シンジ(イズモ)「自分が作った装備を、後から無理やり初号機へ合わせてる」
画面を切り替える。
交換時間。
分解工程。
整備工数。
シンジ(イズモ)「一度全部整理した方がいい」
冬月「パイロットが整備工数を気にするか」
シンジ(イズモ)「毎日ケージにいるので」
冬月「……そうだったな」
ゲンドウ「期間は」
シンジ(イズモ)「三週間後から三日」
ゲンドウ「君の戦闘記録を見る限り、その期間に出撃予定はない」
眼鏡越しの視線が、ほんの一瞬だけこちらを射抜く。
値踏みする目。
許可ではない。
価値の測定。
シンジ(イズモ)「……なら、問題ありません」
ゲンドウ「許可する」
シンジ(イズモ)「ありがとうございます」
端末を閉じる。
ゲンドウ「ただし」
イズモが振り返る。
ゲンドウ「戦力低下は認めない」
シンジ(イズモ)「整備性を上げながら性能も上げろと?」
ゲンドウ「できるのだろう」
シンジ(イズモ)「……善処します」
冬月がわずかに目を細めた。
シンジ(イズモ)「あと」
ゲンドウ「何だ」
シンジ(イズモ)「衛星レーザーの件ですが」
数秒。
ゲンドウ「問題は処理済みだ」
シンジ(イズモ)「……怒られませんでした?」
ゲンドウ「国連から正式な抗議文が届いた」
シンジ(イズモ)「ですよね」
冬月「君は他国の軍事衛星へ何をした」
シンジ(イズモ)「照準系へ一時的に介入しただけです」
冬月「それを一般的には不正アクセスと言う」
シンジ(イズモ)「管理者権限は奪ってません」
冬月「そういう問題ではない」
ゲンドウ「もういい」
シンジ(イズモ)「はい」
その一言で。
何故か話が終わった。
司令室を出る。
無機質な廊下。
十数メートル歩いたところで。
後ろから足音。
ミサト「シンジくーん!」
シンジ(イズモ)「?」
振り返る。
葛城ミサト。
腕には分厚い資料の束。
その後ろをリツコも歩いてくる。
ミサト「ちょうどよかった」
シンジ(イズモ)「何です?」
ミサト「明日、完成披露があるんだけど」
資料を一冊渡される。
表紙。
《JA PROJECT》
シンジ(イズモ)「……JA?」
ミサト「ジェットアーロン」
シンジ(イズモ)「ジェットアローンじゃなくて?」
リツコ「正式名称はジェットアーロンらしいわ」
シンジ(イズモ)「へえ」
ページを開く。
巨大人型。
原子炉。
遠隔制御。
シンジ(イズモ)「……」
嫌な予感がした。
ミサト「対使徒用の国産ロボット」
シンジ(イズモ)「サイズは?」
ミサト「エヴァとほぼ同クラス」
資料をめくる。
シンジ(イズモ)「動力は?」
ミサト「それは明日のお楽しみ」
シンジ(イズモ)「原子炉だったりしません?」
ミサト「……」
リツコ「……」
シンジ(イズモ)「原子炉なんですね」
ミサト「資料読むの早くない?」
シンジ(イズモ)「人型、巨大、長時間稼働、外部電源なし」
資料を閉じる。
シンジ(イズモ)「嫌な予感しかしない」
ミサト「だから来てほしいの」
シンジ(イズモ)「何で自分が」
ミサト「現役のエヴァパイロット」
リツコ「それと整備班に入り浸ってる自称十四歳技術者」
シンジ(イズモ)「自称じゃないです」
リツコ「中身は別人でしょう?」
シンジ(イズモ)「身体は十四歳です」
ミサト「そこ威張るところじゃないわよ」
少し考える。
シンジ(イズモ)「予定はありません」
ミサト「じゃあ」
シンジ(イズモ)「行きます」
ミサトは、ほんの少しだけ安堵したように笑った。
翌日。
車窓の向こう。
かつて日本の首都だった街。
誰もいない。
風だけが通り抜けていた。
崩壊した高層ビル。
折れた高速道路。
錆びた鉄骨。
植物に覆われ始めた道路。
シンジ(イズモ)「……ここが、東京」
ミサト「昔のね」
A310がゆっくり走る。
今日は。
いつもの無茶な速度ではない。
シンジ(イズモ)「教科書で見るより、ずっとひどい」
ミサト「セカンドインパクトの後、色々あったから」
シンジ(イズモ)「……」
映像では知っていた。
世界人口の半減。
戦争。
飢餓。
海。
気候。
けれど。
廃墟の間を実際に走ると。
数字では拾えないものがある。
誰かの家だった場所。
誰かの職場だったビル。
信号機。
看板。
ミサト「だから」
ハンドルを握ったまま、ミサトが言う。
ミサト「使徒を止めなきゃいけない」
いつもの軽い声ではなかった。
使命。
私怨。
後悔。
それらが混ざっている。
シンジ(イズモ)「……ミサトさん」
ミサト「なに?」
シンジ(イズモ)「速度出さないんですね」
ミサト「今それ!?」
シンジ(イズモ)「いや、いつもより遅いなって」
ミサト「廃道でA310壊したくないの!」
シンジ(イズモ)「まだローンあるんでしたっけ」
ブレーキ。
A310が一瞬だけ減速した。
ミサト「……なんで知ってるの?」
シンジ(イズモ)「…………」
ミサト「シンジ君?」
シンジ(イズモ)「前見ましょう」
ミサト「誤魔化した!?」
リツコ「あなた、本当に余計なところでボロを出すわね」
シンジ(イズモ)「……急ぎましょう」
ミサト「話逸らした!」
シンジ(イズモ)「嫌な予感がするので」
それは。
嘘ではなかった。
完成披露会場。
外の廃墟が嘘のようだった。
シャンデリア。
磨かれた床。
酒。
料理。
企業関係者。
政治家。
軍関係者。
笑顔。
シンジ(イズモ)「……温度差すごいですね」
リツコ「世の中なんてそんなものよ」
正面。
巨大スクリーン。
《JET ALONE》
その前で。
開発責任者のシロウが話している。
シロウ「ジェットアーロン最大の特徴は、完全自律型原子炉による百五十日間の連続稼働能力です」
拍手。
イズモは資料を見る。
シンジ(イズモ)「百五十日……」
リツコ「羨ましい?」
シンジ(イズモ)「いや」
画面。
冷却系統。
装甲。
脚部。
制御。
シンジ(イズモ)「怖い」
リツコ「同感」
シロウ「エヴァンゲリオンのように、電源ケーブルへ拘束されることもありません」
ネルフ関係者の空気が硬くなる。
シロウ「まして」
少し間を置く。
シロウ「十四歳の子供の精神状態に、人類の命運を委ねる必要もない」
静かになった。
ミサトの表情が変わる。
リツコも。
イズモは。
スクリーンを見たままだった。
シロウ「ネルフは感情に頼りすぎています」
シロウ「我々は理性で戦う」
拍手。
だが。
イズモには違和感しかなかった。
理性。
その言葉の後ろにある設計が。
あまりにも。
人間の失敗を考えていない。
説明が終わる。
シロウ「それでは質問を」
数人。
性能。
予算。
配備予定。
無難な質問が続く。
やがて。
シロウ「ネルフの方からは?」
挑発するような声。
リツコが手を上げようとする。
その前に。
イズモが立った。
ミサト「シンジ君?」
シンジ(イズモ)「一ついいですか」
会場の視線。
十四歳。
制服。
場違い。
シロウ「……どうぞ」
シンジ(イズモ)「動力は原子炉ですよね」
シロウ「説明した通りだ」
シンジ(イズモ)「使徒相手に、自爆前提ですか?」
空気が凍った。
シロウ「……は?」
シンジ(イズモ)「近接戦闘するんですよね」
資料を開く。
シンジ(イズモ)「冷却系は胴体内部」
ページをめくる。
シンジ(イズモ)「脚部損傷時の転倒対策が弱い」
もう一枚。
シンジ(イズモ)「自動停止系統も中央制御依存」
シロウ「君は――」
シンジ(イズモ)「使徒って」
顔を上げる。
シンジ(イズモ)「建物を切断できる攻撃を普通にしてきますよ」
静寂。
シンジ(イズモ)「あの出力の原子炉を、格闘戦する機体に乗せるんですか?」
シロウ「安全装置は多重化されている」
シンジ(イズモ)「その安全装置を制御してるコンピューターが壊れたら?」
シロウ「冗長系がある」
シンジ(イズモ)「冗長系ごと胴体吹き飛ばされたら?」
シロウ「想定外の損傷を持ち出すのは議論にならない」
シンジ(イズモ)「使徒相手に想定外を除外する方が怖いです」
ざわめき。
シロウ「素人の戯言だ」
シンジ(イズモ)「そうかもしれません」
シロウ「君はパイロットだろう?」
シンジ(イズモ)「はい」
一拍。
シンジ(イズモ)「だから聞きます」
スクリーンを見る。
シンジ(イズモ)「A.T.フィールドは、どう突破するんです?」
シロウ「企業秘密の新兵器で対応する」
シンジ(イズモ)「実証済みですか?」
シロウ「機密だ」
シンジ(イズモ)「使徒実物で?」
シロウ「……」
答えがない。
イズモは小さく息を吐く。
シンジ(イズモ)「仮に突破できても」
資料を閉じる。
シンジ(イズモ)「戦術として成立してないと思います」
シロウ「何?」
シンジ(イズモ)「人型である必要も薄い」
ざわめきが大きくなる。
シンジ(イズモ)「この出力と重量なら、輸送機材として使った方がよほど有用です」
ミサト「……」
リツコ「……」
シンジ(イズモ)「あるいは」
少し迷う。
だが。
言った。
シンジ(イズモ)「エヴァの代わりに“捨てる”時」
会場が完全に静まった。
シロウ「捨てるだと?」
シンジ(イズモ)「無人なんですよね」
シロウ「当然だ」
シンジ(イズモ)「なら、人が死なない使い方をするべきです」
シンジ(イズモ)「使徒を足止めする」
シンジ(イズモ)「避難時間を稼ぐ」
シンジ(イズモ)「エヴァを戦場から回収する」
指を一本ずつ折る。
シンジ(イズモ)「そういう使い方なら価値がある」
シロウ「我々の機体はエヴァの補助装備ではない」
シンジ(イズモ)「そこです」
シロウ「何?」
シンジ(イズモ)「なんで勝ち負けになってるんです?」
一瞬。
シロウの顔が固まる。
シンジ(イズモ)「相手、使徒ですよ」
シンジ(イズモ)「ネルフとあなた達が競争する意味あります?」
誰も。
答えない。
シンジ(イズモ)「それと」
声が少し低くなる。
シンジ(イズモ)「核は使わないでください」
シロウ「原子力と核兵器を混同しているのか?」
シンジ(イズモ)「してません」
即答。
シンジ(イズモ)「だから怖いんです」
ジェットアーロンを見る。
シンジ(イズモ)「暴走した時」
シンジ(イズモ)「使徒に原子炉ごと潰された時」
シンジ(イズモ)「戦闘区域で冷却不能になった時」
一つずつ。
シンジ(イズモ)「勝ったあと」
シンジ(イズモ)「誰も住めない土地が残るなら」
シンジ(イズモ)「何のために勝ったんですか」
シロウ「なぜ、そこまで言い切れる」
イズモの手が。
わずかに握られる。
シンジ(イズモ)「……毎日見てるからです」
シロウ「何を」
シンジ(イズモ)「壊れた初号機を」
整備班の顔が浮かぶ。
戦闘後。
焼けた装甲。
切断された配線。
油。
LCL。
深夜まで続く作業。
眠そうな整備員。
手渡されたスポーツドリンク。
シンジ(イズモ)「エヴァは安全じゃない」
シンジ(イズモ)「精神汚染もある」
シンジ(イズモ)「暴走する可能性もある」
シンジ(イズモ)「電源だって短い」
シンジ(イズモ)「壊れたら、整備班が何十時間もかけて直してる」
声に。
少しずつ熱が混ざる。
シンジ(イズモ)「自分も手伝ってます」
シロウ「だから?」
シンジ(イズモ)「だから」
目を見る。
シンジ(イズモ)「エヴァが完璧だなんて、一度も思ってない」
ネルフ側を見る。
ミサト。
リツコ。
そして。
シロウ。
シンジ(イズモ)「それでも必要だから使ってる」
シンジ(イズモ)「欠点があるから改修する」
シンジ(イズモ)「危ないから整備する」
シンジ(イズモ)「間違えるからカエデを作った」
カエデは少し離れた席で。
黙ってこちらを見ている。
シンジ(イズモ)「なのに」
シロウを見る。
シンジ(イズモ)「“自分たちは理性で、ネルフは感情”って」
シンジ(イズモ)「そんな簡単に分けられる話じゃない」
沈黙。
シンジ(イズモ)「同じことを言われたら」
シンジ(イズモ)「どう思うか知りたかった」
シロウ「……不快だ」
シンジ(イズモ)「なら」
即答。
シンジ(イズモ)「やめてください」
会場から。
音が消えた。
それは。
勝利ではなかった。
議論に勝ったとも思わない。
ただ。
溝が。
はっきり見えるようになっただけ。
席へ戻る。
ミサト「……よく言ったわ」
シンジ(イズモ)「言いすぎました」
ミサト「ちょっとだけね」
リツコ「かなりよ」
シンジ(イズモ)「赤木さん、どっち側なんです?」
リツコ「技術者側」
シンジ(イズモ)「?」
リツコ「だから」
ジェットアーロンを見る。
リツコ「欠点を指摘されて腹を立てる気持ちも分かる」
一拍。
リツコ「でも、安全性を指摘した人間を素人扱いして終わらせる技術者は嫌い」
シンジ(イズモ)「……」
リツコ「技術者の矜持って」
水を一口飲む。
リツコ「完成品を守ることじゃなくて、壊れる可能性を最後まで疑うことだと思うわ」
イズモは黙った。
それから。
シンジ(イズモ)「第七ケージの人たちも、似たようなこと言ってました」
ミサト「ほんと整備班と仲良くなったわね」
シンジ(イズモ)「最近、学校より喋ってます」
ミサト「学校行きなさい」
シンジ(イズモ)「行ってます」
カエデ「出席率は――」
シンジ(イズモ)「カエデ」
カエデ「発言を中止します」
ミサト「低いのね?」
シンジ(イズモ)「……水おいしいですね」
ミサト「逃げた」
その時。
赤い警報灯。
会場全体が染まる。
企業スタッフ「ジェットアーロン、制御不能!」
一瞬。
誰も動かなかった。
シンジ(イズモ)「…………」
ミサト「……来たわね」
シンジ(イズモ)「嫌な予感って当たるんですね」
リツコ「感心してる場合じゃないわよ!」
巨大モニター。
ジェットアーロン。
歩いている。
停止命令。
無視。
企業スタッフ「制御信号を受け付けません!」
シロウ「非常停止コード!」
スタッフ「拒否されます!」
シロウ「原子炉は!?」
スタッフ「稼働継続!」
イズモが席を立つ。
シンジ(イズモ)「移動方向は?」
スタッフ「旧東京西部!」
シンジ(イズモ)「周辺人口」
マヤ「避難対象区域に約三万人!」
リツコがこちらを見る。
シンジ(イズモ)「初号機を出します」
シロウ「待て!」
シンジ(イズモ)「?」
シロウ「ジェットアーロンに攻撃する気か!」
シンジ(イズモ)「止めます」
シロウ「原子炉がある!」
シンジ(イズモ)「だから壊しません」
ミサト「シンジ君」
通信端末を渡す。
ミサト「原子炉だけは絶対に破損させないで」
シンジ(イズモ)「承知」
シロウ「そんなことが――」
イズモは歩きながら振り返る。
シンジ(イズモ)「できます」
シロウ「根拠は」
シンジ(イズモ)「毎日巨大兵器バラしてるんで」
リツコ「パイロットの台詞じゃないわね」
シンジ(イズモ)「自分でもそう思います」
旧東京。
ジェットアーロンが廃墟を歩く。
一歩ごと。
地面が揺れる。
白煙。
原子炉温度。
上昇。
初号機が射出される。
カエデ「目標確認」
シンジ(イズモ)「スキャン」
カエデ「原子炉区画、胴体中央」
立体図。
カエデ「冷却系統、背部」
シンジ(イズモ)「関節位置」
赤い表示。
シンジ(イズモ)「武装は?」
カエデ「ありません」
シンジ(イズモ)「なら楽」
ミサト『絶対に胴体へ攻撃しないで!』
シンジ(イズモ)「分かってます!」
初号機が走る。
ジェットアーロンが進行。
止まらない。
シンジ(イズモ)「まず脚」
腰部ブースター。
一瞬。
加速。
初号機が滑り込む。
足首。
掴む。
捻らない。
関節可動方向。
限界。
その直前。
シンジ(イズモ)「ここ」
外部アクチュエータを破壊。
ジェットアーロンの左脚が停止。
巨体が傾く。
カエデ「転倒予測!」
シンジ(イズモ)「支える!」
初号機が肩を入れる。
ジェットアーロンを受け止める。
シンジ(イズモ)「っ……重っ!」
ミサト『原子炉!』
シンジ(イズモ)「分かってますって!」
ゆっくり。
道路へ座らせる。
右脚。
同じ。
関節。
油圧。
外部駆動系だけを破壊。
カエデ「歩行不能」
シンジ(イズモ)「次」
腕。
作業用マニピュレータ。
固定。
安全装置。
一つずつ。
外していく。
壊すのではない。
機能を奪う。
カエデ「制御系アクセス口確認」
シンジ(イズモ)「開ける」
初号機の指。
装甲板。
慎重に外す。
シンジ(イズモ)「こんなところにメンテナンスハッチあるんだ」
ミサト『感心しない!』
シンジ(イズモ)「整備性はいいですよこれ」
ミサト『シンジ君!』
シンジ(イズモ)「はいはい」
カエデ「内部ネットワーク接続可能」
シンジ(イズモ)「物理接続」
初号機からケーブル。
接続。
画面に。
ジェットアーロンの制御系。
大量のエラー。
シンジ(イズモ)「……これ」
カエデ「異常命令を検出」
シンジ(イズモ)「事故じゃない」
ミサト『何ですって?』
イズモの目が細くなる。
制御命令。
上書き。
停止コード拒否。
意図的。
シンジ(イズモ)「誰かが暴走させてる」
沈黙。
ミサト『証拠は残せる?』
シンジ(イズモ)「全部保存します」
カエデ「記録開始」
シンジ(イズモ)「そのまま非常停止系統を分離」
カエデ「実行」
シンジ(イズモ)「冷却系を手動へ」
カエデ「切り替え」
温度。
下がる。
シンジ(イズモ)「安全装置強制展開」
カエデ「実行します」
ジェットアーロン内部。
複数の機械音。
制御棒。
挿入。
冷却。
原子炉出力低下。
数秒。
巨大な機体から。
力が抜けた。
沈黙。
シンジ(イズモ)「……終わりです」
戦闘後。
ジェットアーロンの足元。
企業技術者が機体へ走っていく。
その中に。
シロウ。
初号機のエントリープラグが開く。
イズモが地上へ降りる。
シロウは。
何も言わない。
イズモも。
言わなかった。
しばらく。
巨大なジェットアーロンを見る。
壊れている。
でも。
原子炉は無事。
シンジ(イズモ)「……いい機体だと思いますよ」
シロウが振り返る。
シロウ「今さら慰めか?」
シンジ(イズモ)「違います」
ジェットアーロンを見る。
シンジ(イズモ)「整備ハッチの配置」
シンジ(イズモ)「脚部のモジュール構造」
シンジ(イズモ)「非常系統」
シンジ(イズモ)「ちゃんと考えて作られてる」
シロウ「なら何故――」
シンジ(イズモ)「使い方が悪い」
即答。
シンジ(イズモ)「あと」
少しだけ。
笑う。
シンジ(イズモ)「宣伝が悪い」
シロウ「…………」
シンジ(イズモ)「ネルフに勝つ必要なんてないでしょう」
シンジ(イズモ)「これとエヴァ」
二体を見る。
シンジ(イズモ)「両方あった方が、人類は生き残りやすい」
シロウ「君は」
途中で。
言葉が止まる。
シロウ「……本当にパイロットなのか?」
シンジ(イズモ)「最近は整備班扱いされることの方が多いです」
その時。
遠くから。
整備主任の怒声。
整備主任『シンジィ! 初号機の右足やっただろお前ぇ!!』
イズモが固まる。
シンジ(イズモ)「…………」
ミサト『あーあ』
カエデ『右膝部への負荷、規定値の百四十三パーセントを確認しています』
シンジ(イズモ)「聞かなかったことにできる?」
カエデ『できません』
整備主任『帰ってきたら自分でバラせ!!』
シンジ(イズモ)「……はい」
シロウが。
初めて。
小さく笑った。
帰還後。
第七ケージ。
初号機の右脚装甲が開かれている。
シンジ(イズモ)「……ここか」
整備主任「ここだよ」
シンジ(イズモ)「思ったより軽傷」
整備主任「誰が直すと思ってんだ」
シンジ(イズモ)「自分もやります」
整備主任「最初からそのつもりだ」
工具が投げられる。
受け取る。
シンジ(イズモ)「はい」
整備員「ジェットアーロンどうだった?」
シンジ(イズモ)「いい機体でした」
整備主任「へえ」
シンジ(イズモ)「エヴァと思想が違う」
ボルトを外す。
シンジ(イズモ)「だから」
一つ。
シンジ(イズモ)「敵にする必要はないと思います」
整備主任「兵器同士で仲良くしろって?」
シンジ(イズモ)「兵器は仲良くしなくていいです」
工具を持ち替える。
シンジ(イズモ)「作った人同士が喧嘩しなければ」
整備主任「……難しい注文だな」
シンジ(イズモ)「ですね」
深夜。
第七ケージ。
作業灯の下。
初号機。
工具。
整備員。
いつもの場所。
戦場から帰ってきたというのに。
妙に。
ここにいる方が落ち着いた。
勝った。
ジェットアーロンも止めた。
原子炉も守った。
誰も死ななかった。
それでも。
胸の奥には。
安堵とは違うものが残っている。
ネルフ。
企業。
国連。
ゼーレ。
それぞれに。
それぞれの正義がある。
そして。
その正義は。
同じ敵を前にしても。
簡単にぶつかる。
シンジ(イズモ)「……人間って面倒だな」
カエデ「否定はしません」
整備主任「何急に悟ってんだ。十四歳」
シンジ(イズモ)「十四歳関係あります?」
整備主任「ありまくるわ」
少し。
笑い声が上がった。
イズモも。
小さく笑う。
まだ。
この世界へ来たばかり。
知らないことばかり。
敵は使徒だけではない。
だからといって。
人間を敵と決めるつもりもなかった。
シンジ(イズモ)「……次は、もっと直しやすくしよう」
整備主任「反省そこかよ」
シンジ(イズモ)「重要ですよ」
工具を握る。
壊すためではなく。
次に。
壊れた時のために。
これはまだ。
始まりに過ぎなかった。
空母オーバーザレインボーに行き新型エヴァンゲリオンの見学に行くことになるが突然使徒襲来パイロットとエヴァをどうコントロールするのか?
次回創造紀エヴァンゲリオンアスカ来日次回もサービスサービス