創造紀エヴァンゲリオン ―外来意識の介入― 作:最上 イズモ
ネルフ本部司令室。
地下深く。
外界から完全に切り離された空間へ、MAGIの低い駆動音が響いていた。
通常監視。
都市インフラ。
国連軍通信。
気象情報。
無数の画面が静かに流れていた、その時。
警報。
赤。
壁一面のモニターが、一斉に切り替わる。
アナウンス「警戒中の巡洋艦《はるな》より入電」
オペレーターが振り返る。
アナウンス「紀伊半島沖にて、未確認巨大生物を確認」
マヤ「映像、出します!」
海上。
荒れた波。
その中。
巨大な影が、一瞬だけ海面を割る。
解析。
波形。
マヤ「パターン青!」
マヤ「使徒です!」
司令席。
冬月が静かに眼鏡を押し上げた。
ゲンドウの席は空いている。
冬月「第一種警戒体制」
冬月「迎撃準備に入れ」
ミサト「了解!」
すぐに通信を開く。
ミサト「パイロット三名へ通達!」
ミサト「出撃よ!」
第七ケージ。
初号機の胸部装甲が閉じられる。
整備員「右肩マスティマ、接続確認!」
整備員「ガトリング給弾正常!」
整備員「ブースター系統、異常なし!」
イズモはエントリープラグへ入る直前。
肩部装備を見上げた。
数日前に完成したばかり。
複合兵装《マスティマ》。
まだ。
一度も実戦で使っていない。
整備主任「いきなり本番になったな」
シンジ(イズモ)「壊したらごめんなさい」
整備主任「壊す前提で言うな」
シンジ(イズモ)「使徒が相手なんで」
整備主任「……まあ」
工具を肩へ担ぐ。
整備主任「帰ってこい」
イズモは。
少しだけ笑った。
シンジ(イズモ)「はい」
第二ケージ。
アスカが弐号機へ駆け込む。
アスカ「待たせたわね!」
整備員「弐号機、全系統グリーン!」
アスカ「当然!」
第三。
零号機。
レイは。
いつも通り静かだった。
レイ「出ます」
発進。
初号機。
弐号機。
零号機。
三機。
射出。
紀伊半島沖。
空は。
鉛色。
低く垂れ込めた雲。
海。
荒れている。
波が。
エヴァの膝下へぶつかる。
巨体が進むたび。
海水が左右へ押し退けられた。
ミサト〈無線〉「前回戦闘による三機のシステムダメージは一〇パーセント以下」
ミサト〈無線〉「ただし敵の詳細は不明」
画面。
海域。
敵性反応。
ミサト〈無線〉「先手必勝」
ミサト〈無線〉「可能なら接近戦で仕留めて!」
アスカ「任せて!」
弐号機が。
槍を握る。
アスカ「私の見せ場ね」
シンジ(イズモ)「カエデ」
カエデ「はい」
シンジ(イズモ)「探知モード」
カエデ「起動します」
初号機の外装。
複数のセンサーが展開。
海中へ。
低周波。
電磁。
熱。
A.T.フィールド反応。
情報が。
次々と画面へ重なる。
シンジ(イズモ)「……近い」
ミサト〈無線〉「距離は?」
シンジ(イズモ)「数字が安定しない」
カエデ「敵性個体の形状情報、不足」
カエデ「単一個体としての輪郭を確定できません」
シンジ(イズモ)「……嫌な感じ」
アスカ「怖気づいた?」
シンジ(イズモ)「逆」
アスカ「?」
シンジ(イズモ)「簡単すぎる時の方が怖い」
レイ「……来る」
海面。
盛り上がる。
巨大な影。
そして。
出現。
使徒。
アスカ「いた!」
シンジ(イズモ)「待って」
槍を構える弐号機。
シンジ(イズモ)「アスカ、まだ攻撃するな」
アスカ「なんでよ!」
シンジ(イズモ)「データが足りない」
アスカ「敵が目の前にいるのよ!」
シンジ(イズモ)「だから!」
アスカ「ちゃんと援護するなら」
踏み込む。
アスカ「文句は言わないわ!」
シンジ(イズモ)「アスカ!」
弐号機。
海面を蹴る。
跳躍。
槍。
振り抜く。
迷いのない。
一撃。
使徒の胴体が。
真っ二つ。
海へ。
巨大な肉塊が落ちる。
ミサト〈無線〉「いい一撃!」
アスカ「見た?」
シンジ(イズモ)「……」
カエデ「敵性反応、消失せず」
アスカ「え?」
シンジ(イズモ)「違う」
海中。
切断された二つの肉塊。
泡。
鼓動。
動く。
シンジ(イズモ)「終わってない」
肉。
盛り上がる。
再構成。
一つ。
二つ。
それぞれが。
使徒へ戻る。
アスカ「……は?」
完全な。
二体。
アスカ「分裂!?」
ミサト〈無線〉「何なのよ、あれ!」
マヤ〈無線〉「使徒反応、二つ!」
シンジ(イズモ)「やっぱり」
アスカ「やっぱり?」
シンジ(イズモ)「想定してた」
アスカ「先に言いなさいよ!」
シンジ(イズモ)「言ったら信じた?」
アスカ「……」
シンジ(イズモ)「アスカ」
画面。
二体。
識別。
赤。
青。
シンジ(イズモ)「自分が赤」
シンジ(イズモ)「アスカは青」
シンジ(イズモ)「綾波」
レイ「なに」
シンジ(イズモ)「二体の行動が重なった瞬間」
シンジ(イズモ)「三点バーストで同時に撃って」
レイ「了解」
アスカ「……」
一瞬。
アスカが黙る。
以前なら。
反発した。
それでも。
今は。
シンジを見る。
初号機。
マスティマ。
海中の敵。
アスカ「……今日は」
槍を構える。
アスカ「あんたの指示に従うわ」
それは。
降伏ではない。
服従でもない。
自分で。
選んだ。
シンジ(イズモ)「了解」
マスティマ。
展開。
シンジ(イズモ)「ガトリングモード」
機構が回る。
重い。
回転音。
シンジ(イズモ)「撃つ!」
轟音。
大量の弾丸。
海面を切り裂き。
使徒へ。
レイも。
射撃。
三点。
アスカが。
別方向から。
誘導。
命中。
しかし。
弾丸。
弾かれる。
火花。
それだけ。
カエデ「有効損傷なし」
シンジ(イズモ)「硬いな……」
アスカ「ほら!」
シンジ(イズモ)「分かってる!」
マスティマ。
停止。
シンジ(イズモ)「ミサトさん!」
ミサト〈無線〉「何?」
シンジ(イズモ)「高周波ブレード!」
ミサト〈無線〉「もう持ってきてる!」
シンジ(イズモ)「早い」
ミサト〈無線〉「誰が準備させたと思ってんの!」
空。
輸送機。
雲を割る。
投下。
長大な刃。
初号機が。
掴む。
シンジ(イズモ)「アスカ、離れて!」
アスカ「了解!」
弐号機。
跳ぶ。
初号機。
踏み込む。
高周波ブレード。
振る。
使徒。
首。
切断。
一瞬。
成功。
だが。
シンジ(イズモ)「……」
切断面。
蠢く。
シンジ(イズモ)「またか」
肉が。
繋がる。
頭部。
再生。
アスカ「しつこい!」
青側。
使徒。
弐号機へ。
伸びる。
アスカ「っ!」
腕。
巻き付く。
弐号機。
引かれる。
アスカ「きゃっ!」
シンジ(イズモ)「捕まった!」
ブースター。
噴射。
初号機。
加速。
シンジ(イズモ)「アスカ、動かないで!」
アスカ「無茶言わないで!」
シンジ(イズモ)「腕落とす!」
アスカ「私のじゃないでしょうね!?」
シンジ(イズモ)「使徒の!」
アスカ「なら早く!」
刃。
一閃。
使徒の腕。
切断。
弐号機。
解放。
シンジ(イズモ)「離脱!」
アスカ「分かってる!」
二機。
後退。
しかし。
落ちた腕。
動く。
再生。
シンジ(イズモ)「……キリがない」
カエデ「現状装備による完全殲滅確率、極めて低いと推定」
シンジ(イズモ)「二体を」
見る。
シンジ(イズモ)「ほぼ同時に完全破壊しないと」
ミサト〈無線〉「シンジ君?」
少し。
迷う。
N2。
嫌いだ。
街では。
使いたくない。
海でも。
できれば。
シンジ(イズモ)「ミサトさん」
ミサト〈無線〉「……何?」
シンジ(イズモ)「N2使いたい」
沈黙。
ミサト。
答えない。
数秒。
シンジ(イズモ)「現状だと押し切れません」
ミサト〈無線〉「……本当は」
低い。
声。
ミサト〈無線〉「使いたくない」
イズモも。
分かっている。
セカンドインパクト。
N2。
過去。
ミサトにとって。
ただの兵器ではない。
シンジ(イズモ)「自分もです」
静か。
ミサト〈無線〉「……許可する」
シンジ(イズモ)「了解」
マスティマ。
射撃形態。
ランチャー。
弐号機。
退避。
零号機。
退避。
カエデ「安全距離まで八秒」
シンジ(イズモ)「十分」
アスカ「本気!?」
シンジ(イズモ)「今回は仕方ない」
照準。
二体。
ほぼ同位置。
シンジ(イズモ)「撃つ」
N2。
発射。
白。
海。
空。
上下。
全部。
一瞬。
消えた。
衝撃波。
初号機が。
吹き飛ばされる。
シンジ(イズモ)「っ……!」
警報。
カエデ「機体姿勢維持!」
ブースター。
逆噴射。
止める。
海面。
巨大な水柱。
二体。
反応。
弱い。
でも。
消えていない。
シンジ(イズモ)「やっぱり」
ミサト〈無線〉「生きてる!?」
シンジ(イズモ)「一時的には止まる」
カエデ「敵性個体再生予測」
シンジ(イズモ)「どれくらい?」
カエデ「正確な算出不能」
数値。
解析。
カエデ「十日前後」
イズモは。
画面を見る。
シンジ(イズモ)「十分」
ミサト〈無線〉「撤退」
シンジ(イズモ)「了解」
初号機。
方向転換。
シンジ(イズモ)「一時離脱します」
アスカ「……逃げるの?」
シンジ(イズモ)「準備する」
アスカ「何を」
シンジ(イズモ)「二体を」
振り返る。
まだ。
煙を上げる海。
シンジ(イズモ)「同時に殺す方法」
ネルフ本部。
作戦会議室。
沈黙。
ミサト。
机へ突っ伏していた。
ミサト「……終わった」
リツコ「何が?」
ミサト「私のキャリア」
リツコ「まだ生きてるわよ」
ミサト「N2二発よ!?」
シンジ(イズモ)「一発です」
ミサト「威力の問題じゃない!」
シンジ(イズモ)「でも必要でした」
ミサト「分かってる!」
頭を抱える。
ミサト「分かってるから困ってるの!」
アスカ「で」
アスカは。
腕を組む。
アスカ「どうするのよ」
レイ。
無言。
イズモ。
使徒データ。
二つ。
再生。
シンジ(イズモ)「同時攻撃」
リツコ「それしかないでしょうね」
シンジ(イズモ)「誤差は?」
マヤ「計算します」
キーボード。
シミュレーション。
結果。
マヤ「……コア破壊タイミング」
マヤ「〇・〇一秒以内」
アスカ「は?」
ミサト「無理」
シンジ(イズモ)「普通にやったら」
アスカ「普通じゃなくても無理よ!」
イズモ。
考える。
二人。
同じ動き。
同じタイミング。
リズム。
映像。
音。
シンジ(イズモ)「……音楽」
アスカ「何?」
シンジ(イズモ)「拍に合わせる」
リツコ「なるほど」
ミサト「ダンスみたいに?」
シンジ(イズモ)「そう」
アスカ「嫌」
即答。
シンジ(イズモ)「まだ内容言ってない」
アスカ「嫌な予感するもの!」
シンジ(イズモ)「自分も」
アスカ「じゃあやめなさいよ!」
その時。
リツコが。
SDカードを取り出す。
ミサト「……何それ」
リツコ「訓練プログラム」
ミサト「早くない?」
リツコ「発案はシンジ君」
イズモを見る。
シンジ(イズモ)「作るよう頼んだ」
リツコ「実戦データへの調整は」
ドア。
開く。
加持「俺」
ミサト「……」
加持「久しぶり、葛城」
ミサト「なんでいるの」
加持「呼ばれたから」
シンジ(イズモ)「元諜報系なら人間の癖見るの得意かなって」
加持「なかなか酷い使い方だ」
シンジ(イズモ)「合ってました?」
加持「大体ね」
ミサト「共犯者が増えてる……」
リツコ「責任は取れる案よ」
SDカード。
差し出す。
リツコ「使う?」
ミサト「……」
受け取る。
ミサト「使うわ」
作戦用宿舎。
扉。
開く。
アスカ「……」
シンジ(イズモ)「……」
レイ「……」
中央。
巨大な訓練装置。
左右。
体感操作席。
モーションキャプチャ。
大型モニター。
生活スペース。
ベッド。
机。
簡易キッチン。
ミサト「今日から」
指。
三人。
ミサト「共同生活」
アスカ「はぁ!?」
シンジ(イズモ)「自分の案より酷くなってる」
ミサト「あなたの案も採用よ」
シンジ(イズモ)「どこが?」
訓練装置を見る。
シンジ(イズモ)「ああ」
納得。
アスカ「ちょっと待ちなさい!」
ミサト「何?」
アスカ「なんで!」
イズモを指す。
アスカ「こいつと一緒なのよ!」
シンジ(イズモ)「こいつ」
アスカ「男でしょう!」
シンジ(イズモ)「一応」
アスカ「襲われたらどうするの!」
沈黙。
イズモ。
カエデを見る。
カエデ「その場合」
天井。
小さなランプ。
点灯。
カエデ「私が記録・通報・制止します」
アスカ「どこにいるのよ!?」
シンジ(イズモ)「スピーカーの裏」
アスカ「いるの!?」
カエデ「常駐しています」
アスカ「怖いわよ!」
シンジ(イズモ)「監視カメラもある」
アスカ「もっと怖い!」
ミサト「プライベートスペースにはないから!」
アスカ「本当でしょうね!?」
ミサト「本当!」
レイ「……私は?」
ミサト「レイも共同訓練」
レイ「そう」
アスカ「なんでファーストだけ平然としてるのよ!」
レイ「命令だから」
アスカ「それで済むの!?」
シンジ(イズモ)「綾波強いな」
アスカ「感心しない!」
ミサトは。
扉。
下がる。
ミサト「じゃ」
シンジ(イズモ)「待って」
ミサト「頑張って!」
シンジ(イズモ)「食事は?」
ミサト「食材ある!」
アスカ「洗濯!」
ミサト「自分で!」
シンジ(イズモ)「ケージ行く時間」
ミサト「ない!」
シンジ(イズモ)「え」
ミサト「ない!」
イズモの顔が。
初めて。
露骨に曇った。
ミサト「……そんなに嫌?」
シンジ(イズモ)「初号機の右肩、まだ調整中」
ミサト「整備班に任せなさい!」
シンジ(イズモ)「……はい」
アスカ「そこが一番ショックなの!?」
扉。
閉まった。
訓練。
開始。
大型モニター。
使徒。
二体。
イスラフェル。
シンジ(イズモ)「まず」
シミュレーションを表示。
シンジ(イズモ)「完全に同じタイミングでコアを破壊する」
アスカ「それは分かってる」
シンジ(イズモ)「人間の感覚だけだと〇・〇一秒は厳しい」
カエデ「通常の反応誤差を大きく下回ります」
シンジ(イズモ)「だから」
音源。
ロード。
アスカ「……何流す気?」
シンジ(イズモ)「拍が分かりやすいやつ」
再生。
《怒りの日》。
荘厳。
激しい。
部屋いっぱいに。
鳴り響く。
アスカ「なんでこの曲なのよ!?」
シンジ(イズモ)「拍取りやすい」
アスカ「もっとあるでしょ!」
シンジ(イズモ)「手元にこれしか」
アスカ「選曲が終末すぎるのよ!」
シンジ(イズモ)「使徒と戦ってるし」
アスカ「そういう問題じゃない!」
レイ「……合っていると思う」
アスカ「ファースト!?」
シンジ(イズモ)「綾波もそう思う?」
レイ「ええ」
アスカ「二対一!」
カエデ「私は拍の視認性を評価します」
アスカ「三対一になった!」
訓練開始。
一拍。
二拍。
踏む。
撃つ。
避ける。
斬る。
シンジ(イズモ)「右!」
アスカ「分かってる!」
レイ。
射撃。
二体。
分離。
再結合。
失敗。
カエデ「誤差〇・七二秒」
アスカ「七十二倍!?」
シンジ(イズモ)「まだ最初」
再開。
シンジ(イズモ)「次」
踏む。
回る。
アスカ「ちょっと!」
衝突。
失敗。
カエデ「誤差一・一秒」
シンジ(イズモ)「悪化した」
アスカ「言わないで!」
三回。
四回。
十回。
アスカ「なんであんた左足から入るのよ!」
シンジ(イズモ)「自分はこっちが自然」
アスカ「右!」
シンジ(イズモ)「じゃあ合わせる」
次。
シンジ(イズモ)「アスカ、踏み込み深い」
アスカ「こっちの方が速い!」
シンジ(イズモ)「自分が追いつけない!」
アスカ「追いつきなさい!」
シンジ(イズモ)「今合わせる訓練してるよね!?」
レイ「二人とも」
二人「何!?」
レイ「曲が終わった」
沈黙。
シンジ(イズモ)「……休憩」
アスカ「賛成」
キッチン。
イズモ。
料理。
アスカ「……何してるの」
シンジ(イズモ)「夕飯」
アスカ「創造能力で出せばいいじゃない」
シンジ(イズモ)「毎回それも嫌」
アスカ「なんで?」
シンジ(イズモ)「料理くらい普通にしたい」
アスカ「変なところ普通ね」
シンジ(イズモ)「何食べる?」
アスカ「何でも」
シンジ(イズモ)「一番困る答え」
レイ「味噌汁」
シンジ(イズモ)「了解」
アスカ「ファーストだけ具体的!」
レイ「聞かれたから」
アスカ「私も聞かれた!」
カエデ「栄養バランスを考慮し、魚類を推奨します」
シンジ(イズモ)「じゃ魚」
アスカ「勝手に決まった!」
そんな。
生活。
数日。
朝。
アスカ「起きなさい!」
シンジ(イズモ)「……あと五分」
アスカ「五分で起きた試しないでしょ!」
シンジ(イズモ)「カエデ……」
カエデ「起床時刻を十八分超過しています」
シンジ(イズモ)「味方がいない」
アスカ「当たり前よ!」
洗濯。
アスカ「それ私の!」
シンジ(イズモ)「触ってない!」
アスカ「そっち見ないで!」
シンジ(イズモ)「見てない!」
カエデ「視線方向から確認――」
二人「言わなくていい!」
夜。
訓練。
二時間。
三時間。
五時間。
汗。
疲労。
《怒りの日》が。
もう。
嫌になるほど。
耳に残る。
カエデ「誤差〇・一三秒」
シンジ(イズモ)「……惜しい」
アスカ「惜しくない!」
床へ。
座り込む。
アスカ「〇・一秒もズレてる!」
シンジ(イズモ)「最初〇・七だった」
アスカ「そうだけど」
シンジ(イズモ)「かなり来た」
アスカ「……」
イズモ。
水。
一本。
投げる。
アスカ。
受け取る。
アスカ「ありがと」
シンジ(イズモ)「どういたしまして」
少し。
静か。
アスカ「ねえ」
シンジ(イズモ)「ん?」
アスカ「なんで」
ペットボトルを握る。
アスカ「私に合わせてるの?」
シンジ(イズモ)「?」
アスカ「歩幅」
シンジ(イズモ)「ああ」
アスカ「最初と違う」
シンジ(イズモ)「アスカの方が速いから」
アスカ「だから普通、自分の方へ合わせさせるでしょ」
シンジ(イズモ)「何で?」
アスカ「何でって」
シンジ(イズモ)「二人で成功すればいいんだから」
アスカ「……」
シンジ(イズモ)「合わせやすい方が合わせる」
アスカ「自分のやり方とかないの?」
シンジ(イズモ)「ある」
アスカ「なら」
シンジ(イズモ)「でも」
短く。
シンジ(イズモ)「死ぬよりどうでもいい」
アスカは。
言葉を失う。
シンジ(イズモ)「アスカの方が動き速い」
シンジ(イズモ)「自分は先読みで補える」
シンジ(イズモ)「だから自分が寄せた方が合理的」
アスカ「……そう」
立つ。
アスカ「じゃあ」
訓練装置。
戻る。
アスカ「私も少し合わせる」
シンジ(イズモ)「いいの?」
アスカ「二人で成功すればいいんでしょ」
イズモが。
少しだけ。
笑った。
シンジ(イズモ)「うん」
再開。
翌日。
誤差。
〇・〇八。
さらに。
〇・〇四。
七日目。
〇・〇二。
九日目。
一度だけ。
〇・〇〇九。
アスカ「今!」
シンジ(イズモ)「合った!」
二人。
同時。
振り返る。
カエデ「要求値を達成」
数秒。
沈黙。
アスカ「……」
シンジ(イズモ)「……」
アスカ「やった!」
シンジ(イズモ)「やった!」
思わず。
ハイタッチ。
音。
部屋に響く。
その直後。
二人。
止まる。
アスカ「……」
シンジ(イズモ)「……」
アスカ「別に」
手を引く。
アスカ「喜んだわけじゃないから」
シンジ(イズモ)「いや喜んでたでしょ」
アスカ「うるさい!」
レイ「二人とも」
端。
座っていたレイ。
レイ「よかったわね」
アスカ「ファーストに言われるとなんか腹立つ!」
レイ「そう」
シンジ(イズモ)「綾波は何も悪くない」
アスカ「分かってる!」
十日後。
伊豆半島沖。
朝。
海。
凪。
不自然なくらい。
静か。
その向こう。
二体。
完全再生したイスラフェル。
初号機。
弐号機。
並ぶ。
零号機。
後方支援。
ミサト〈無線〉「作戦確認」
ミサト〈無線〉「二体の使徒を」
ミサト〈無線〉「ほぼ同時に攻撃」
ミサト〈無線〉「コア破壊時間差〇・〇一秒以内」
アスカ「分かってる」
シンジ(イズモ)「了解」
カエデ「同期システム、正常」
シンジ(イズモ)「アスカ」
アスカ「何」
シンジ(イズモ)「いつも通りで」
アスカ「十日しかやってないじゃない」
シンジ(イズモ)「十分」
アスカ「……そうね」
少し。
笑う。
ミサト〈無線〉「攻撃を許可します」
音楽。
開始。
《怒りの日》。
アスカ「……帰ったら曲変えさせるから」
シンジ(イズモ)「次があれば」
アスカ「縁起でもない!」
一拍。
踏み込む。
初号機。
弐号機。
同時。
使徒。
左右。
攻撃。
回避。
二機。
同じように。
身体を捻る。
射撃。
三発。
ほぼ。
同時。
着弾。
使徒。
動く。
二機。
走る。
一歩。
二歩。
三歩。
イズモは。
アスカを見ない。
アスカも。
イズモを見ない。
見る必要が。
ない。
十日。
何百回。
失敗した。
タイミング。
呼吸。
足。
攻撃。
それが。
身体へ。
入っている。
カエデ「同期率九七」
シンジ(イズモ)「まだ」
アスカ「分かってる」
跳躍。
同時。
回転。
使徒の腕。
すれ違う。
シンジ(イズモ)「次!」
アスカ「ええ!」
着地。
踏み込み。
一つ。
二つ。
タイミング。
コア。
露出。
カエデ「今!」
シンジ(イズモ)「アスカ!」
アスカ「シンジ!」
同時。
拳。
コア。
衝撃。
二つの使徒が。
完全に。
同時に。
停止する。
亀裂。
広がる。
白。
光。
爆発。
海面。
巨大な波。
初号機。
弐号機。
並んだまま。
それを見る。
カエデ「敵性反応」
数秒。
カエデ「消失」
静かになった。
本当に。
終わった。
シンジ(イズモ)「……成功」
アスカ「当然でしょ」
呼吸。
少し荒い。
アスカ「この私が」
一拍。
アスカ「失敗するわけ――」
イズモを見る。
途中で。
言葉を変える。
アスカ「……まあ」
海を見る。
アスカ「悔しいけど」
シンジ(イズモ)「?」
アスカ「一人じゃ無理だった」
イズモは。
少し黙った。
シンジ(イズモ)「自分も」
アスカ「……」
シンジ(イズモ)「アスカいなかったら無理」
アスカ「……そう」
それだけ。
けれど。
声は。
少し。
柔らかかった。
ネルフ本部。
帰還。
第七ケージ。
初号機。
弐号機。
並ぶ。
整備班。
点検。
整備主任「今回は珍しく壊してないな」
シンジ(イズモ)「ひどい」
整備主任「事実だ」
アスカ「こいつ毎回壊してるの?」
整備主任「右肩」
整備員「右膝」
別の整備員「腰部ブースター」
整備主任「前は腕」
シンジ(イズモ)「使徒が悪い」
アスカ「バカシンジ……」
シンジ(イズモ)「何」
アスカ「もっと機体大事にしなさいよ!」
シンジ(イズモ)「アスカに言われるとは」
アスカ「私の弐号機は大事にしてる!」
整備主任「二号機班が聞いたらどう言うかな」
アスカ「大事にしてるわよ!!」
笑い。
その夜。
共同生活用の宿舎。
撤収前。
アスカ。
荷物。
片付け。
シンジ(イズモ)「結局」
アスカ「何」
シンジ(イズモ)「十日一緒にいて襲われなかったね」
アスカ「…………」
ゆっくり。
振り向く。
アスカ「当たり前でしょ!!」
枕。
飛ぶ。
シンジ(イズモ)「痛っ!」
カエデ「暴行を確認」
アスカ「黙って!」
レイ「……仲がいいのね」
二人「よくない!」
レイ「そう」
ほんの少し。
口元が。
緩んでいた。
イズモは。
飛んできた枕を拾う。
十日前。
使徒に。
勝てなかった。
兵器でも。
知識でも。
改修でも。
どうにもならなかった。
必要だったのは。
誰かと。
同じ瞬間に。
同じ判断をすること。
シンジ(イズモ)「……」
カエデ「どうしました?」
シンジ(イズモ)「いや」
枕を。
アスカのベッドへ戻す。
シンジ(イズモ)「こういうのもあるんだなって」
カエデ「何がでしょう」
シンジ(イズモ)「改修できない部分」
アスカ「何の話?」
シンジ(イズモ)「こっちの話」
何でも。
自分で作ればいいわけではない。
強い兵器を。
用意すればいいわけでもない。
人間は。
不安定で。
面倒で。
タイミングも合わない。
それでも。
十日かければ。
〇・〇一秒まで。
重なることがある。
翌日。
学校。
ケンスケ「シンジ!」
シンジ(イズモ)「何?」
ケンスケ「十日間アスカと同棲してたって本当!?」
教室。
静寂。
イズモ。
止まる。
アスカ。
止まる。
トウジ。
ニヤつく。
アスカ「誰から聞いたのよ」
ケンスケ「噂!」
アスカ「殺す!!」
ケンスケ「うわあああ!」
逃げる。
アスカ。
追う。
トウジ「青春やなぁ」
シンジ(イズモ)「訓練なんだけど」
レイ「共同生活ではあったわ」
シンジ(イズモ)「綾波、補強しないで」
カエデ「監視記録上、不適切な行為は――」
シンジ(イズモ)「カエデも黙って!」
教室中に。
笑い声。
その中心で。
イズモは。
頭を抱えた。
使徒と戦っている時より。
こういう時の方が。
よほど。
対処が難しかった。