創造紀エヴァンゲリオン ―外来意識の介入―   作:最上 イズモ

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マグマダイバー

 

 

ネルフ本部。

 

昼休み前の廊下は、日常と戦場の境界が曖昧だった。

 

職員が資料を抱えて走り、その横を制服姿の学生が歩く。

 

遠くでは整備区画へ向かう貨物車。

壁の向こうからは、巨大な機械の駆動音。

 

その中。

 

アスカ「えーーーっ!」

 

声が響いた。

 

アスカ「修学旅行、行っちゃダメなの!?」

 

ミサト「ダメ」

 

アスカ「なんでよ!」

 

ミサト「あなたたち、エヴァパイロットでしょ?」

 

アスカ「だからって!」

 

端末に表示された旅行案内を突きつける。

 

アスカ「沖縄よ!?」

 

シンジ(イズモ)「沖縄なんだ」

 

アスカ「そうよ!」

 

シンジ(イズモ)「いいな」

 

アスカ「でしょう!?」

 

シンジ(イズモ)「行けないけど」

 

アスカ「味方しなさいよ!」

 

ミサトがため息。

 

ミサト「使徒が来た時、沖縄からエヴァに乗れないでしょう?」

 

アスカ「輸送機!」

 

ミサト「間に合いません」

 

アスカ「じゃあ弐号機も沖縄に!」

 

ミサト「修学旅行にエヴァ持ってく高校生がどこにいるのよ!」

 

シンジ(イズモ)「ちょっと見たい」

 

ミサト「シンジ君まで乗らない」

 

アスカは腕を組む。

 

唇を尖らせる。

 

ただ。

 

本当に理解していないわけではない。

 

アスカ「……分かってるわよ」

 

声が少しだけ小さくなる。

 

アスカ「使徒が来たら、私たちしかいないんでしょ」

 

シンジ(イズモ)「うん」

 

アスカ「でも!」

 

また顔を上げる。

 

アスカ「文句くらい言わせなさいよ!」

 

シンジ(イズモ)「それはいいと思う」

 

アスカ「でしょ!」

 

ミサト「はいはい」

 

苦笑。

 

シンジ(イズモ)「ネルフに来た時点で、ある程度覚悟はしてたはずだし」

 

アスカ「……」

 

シンジ(イズモ)「自分たちは学生だけど」

 

一拍。

 

シンジ(イズモ)「使徒が来た時は、代わりがいない」

 

アスカ「分かってるって言ってるでしょ」

 

シンジ(イズモ)「ならいい」

 

アスカ「なんか腹立つ」

 

ミサト「まあ」

 

両手を叩く。

 

ミサト「その代わりって言うのも変だけど」

 

アスカ「?」

 

ミサト「今日はプール使っていいわよ」

 

アスカ「プール?」

 

ミサト「本部の」

 

アスカ「……修学旅行との差が大きくない?」

 

ミサト「息抜きも仕事」

 

アスカ「まあ、ないよりマシね」

 

ミサト「シンジ君も」

 

シンジ(イズモ)「自分はいいです」

 

アスカ「は?」

 

シンジ(イズモ)「第三ケージ行く」

 

アスカ「なんでよ!」

 

シンジ(イズモ)「やることあるから」

 

アスカ「また!?」

 

シンジ(イズモ)「また」

 

アスカ「最近ほんとケージにしかいないじゃない!」

 

ミサト「私もそう思う」

 

シンジ(イズモ)「準備しておきたい」

 

アスカ「何の?」

 

イズモは少しだけ黙った。

 

シンジ(イズモ)「次の使徒」

 

アスカ「……」

 

シンジ(イズモ)「嫌な予感がする」

 

アスカ「その言い方」

 

眉を寄せる。

 

アスカ「ズルいのよ」

 

シンジ(イズモ)「?」

 

アスカ「あんたがそう言って、本当に何も起きなかったことほとんどないじゃない」

 

シンジ(イズモ)「……確かに」

 

アスカ「認めるな!」

 

レイ「プール」

 

全員が見る。

 

レイ「私は行く」

 

アスカ「ファースト来るの?」

 

レイ「葛城三佐が休めと言ったから」

 

アスカ「……まあいいわ」

 

イズモを見る。

 

アスカ「じゃあ私とファーストで行く」

 

シンジ(イズモ)「二人で楽しんで」

 

アスカ「後で後悔しても知らないから」

 

シンジ(イズモ)「?」

 

アスカ「何でもない!」

 

歩いていく。

 

ミサト「……シンジ君」

 

シンジ(イズモ)「はい」

 

ミサト「たまには休みなさい」

 

シンジ(イズモ)「これ終わったら」

 

ミサト「その台詞、整備班からも聞いたわ」

 

シンジ(イズモ)「……情報共有早いですね」

 

ミサト「有名なのよ」

 

シンジ(イズモ)「何が?」

 

ミサト「ケージに住んでるパイロットとして」

 

シンジ(イズモ)「住んでないです」

 

ミサト「昨日何時までいた?」

 

シンジ(イズモ)「……二時」

 

ミサト「住んでる」

 

シンジ(イズモ)「帰りました」

 

ミサト「三時間後に?」

 

シンジ(イズモ)「はい」

 

ミサト「住んでるのと同じよ!」

 

第三ケージ。

 

巨大な初号機。

 

その周囲を、無数の足場と整備アームが囲んでいる。

 

今日は通常装甲とは違う。

 

黄色。

 

銀。

 

複数層の断熱材。

 

冷却配管。

 

整備員「これほんと付けるのか?」

 

シンジ(イズモ)「テストだけでも」

 

整備主任「重量増えるぞ」

 

シンジ(イズモ)「短時間用です」

 

整備主任「何度想定?」

 

シンジ(イズモ)「最低でも千度以上」

 

整備員「どこ行く気だよ」

 

シンジ(イズモ)「マグマ」

 

静寂。

 

整備主任「……もう一回」

 

シンジ(イズモ)「マグマ」

 

整備員「エヴァで?」

 

シンジ(イズモ)「はい」

 

整備主任「なんで?」

 

シンジ(イズモ)「使徒がいるかもしれない」

 

整備主任「なんでマグマにいるんだよ」

 

シンジ(イズモ)「自分に聞かれても」

 

整備主任「お前の予測だろ!」

 

シンジ(イズモ)「かなり精度高めの」

 

整備主任「その説明何回目だ!」

 

イズモは端末を見る。

 

シンジ(イズモ)「サンダルフォン対策」

 

整備主任「名前まで分かってんじゃねえか!」

 

シンジ(イズモ)「……予測」

 

整備主任「絶対嘘だ」

 

カエデ「イズモは情報開示を避けています」

 

シンジ(イズモ)「カエデ」

 

カエデ「事実です」

 

整備員たちが笑う。

 

シンジ(イズモ)「とにかく」

 

画面を切り替える。

 

シンジ(イズモ)「極地装甲」

 

断熱。

 

冷却。

 

耐圧。

 

シンジ(イズモ)「冷凍ガン」

 

次。

 

シンジ(イズモ)「冷凍グレネード」

 

整備員「冷凍庫でも作るのか?」

 

シンジ(イズモ)「似たようなものです」

 

シンジ(イズモ)「極地ミサイル」

 

整備主任「全部冷やす装備だな」

 

シンジ(イズモ)「高熱環境なら一番効く」

 

さらに。

 

シンジ(イズモ)「レーザーブレード」

 

整備員「高周波ブレードじゃなくて?」

 

シンジ(イズモ)「熱影響が大きすぎる場合用」

 

最後。

 

大型砲。

 

シンジ(イズモ)「自由電子レーザー」

 

整備主任「またレーザーか」

 

シンジ(イズモ)「便利なので」

 

整備主任「電気食うだろ」

 

シンジ(イズモ)「今回は地上支援前提」

 

整備主任「潜ったら?」

 

シンジ(イズモ)「冷凍装備」

 

整備主任「……」

 

イズモを見る。

 

整備主任「よくまあ次から次へと」

 

シンジ(イズモ)「不安なので」

 

その一言だけ。

 

少し。

 

声が変わった。

 

整備主任も気づいた。

 

シンジ(イズモ)「毎回」

 

初号機を見る。

 

シンジ(イズモ)「知らない攻撃が一つあっただけで死ぬんで」

 

静かになる。

 

シンジ(イズモ)「だから」

 

端末を閉じる。

 

シンジ(イズモ)「知ってる範囲だけでも準備しときたい」

 

整備主任「……分かったよ」

 

工具を持ち上げる。

 

整備主任「ただし」

 

シンジ(イズモ)「?」

 

整備主任「今日は日付変わる前に帰れ」

 

シンジ(イズモ)「努力します」

 

整備主任「帰れ」

 

シンジ(イズモ)「はい」

 

同時刻。

 

ネルフ本部プール。

 

アスカ「はぁ……」

 

水面。

 

浮かぶ。

 

アスカ「生き返る」

 

レイはプールサイド。

 

静かに水へ足を入れている。

 

アスカ「ねえファースト」

 

レイ「なに」

 

アスカ「楽しい?」

 

レイ「……」

 

考える。

 

レイ「温度は適切」

 

アスカ「感想が機械なのよ」

 

レイ「そう」

 

アスカ「否定しなさいよ」

 

少し。

 

水を蹴る。

 

アスカ「バカシンジも来ればよかったのに」

 

レイ「第三ケージ」

 

アスカ「知ってる」

 

レイ「昨日もいた」

 

アスカ「それも知ってる」

 

レイ「一昨日も」

 

アスカ「なんでファーストまで把握してるのよ」

 

レイ「零号機の整備で通るから」

 

アスカ「……」

 

水面を見る。

 

アスカ「ほんと」

 

小さく。

 

アスカ「何と戦ってるのよ、あいつ」

 

レイ「使徒」

 

アスカ「そういう意味じゃない」

 

レイ「?」

 

アスカ「もういい」

 

警報。

 

突然。

 

プールサイドのランプが赤へ変わる。

 

アスカ「……」

 

立ち上がる。

 

レイも。

 

アスカ「ほら」

 

タオル。

 

掴む。

 

アスカ「あいつの嫌な予感、当たった」

 

司令室。

 

マヤ「浅間山火口直下!」

 

モニター。

 

熱源。

 

巨大な卵状反応。

 

マヤ「マグマ内部に使徒反応!」

 

リツコ「胎児……?」

 

ミサト「成長段階?」

 

マヤ「急速に変化しています!」

 

映像を見て。

 

イズモは。

 

目を細めた。

 

シンジ(イズモ)「サンダルフォン」

 

ミサト「知ってるの?」

 

シンジ(イズモ)「予測してた」

 

リツコ「またその便利な言葉?」

 

シンジ(イズモ)「今説明してる時間ないです」

 

モニター。

 

反応。

 

大きくなる。

 

シンジ(イズモ)「回収案件じゃない」

 

リツコ「まだ胎児状態よ」

 

シンジ(イズモ)「だから危ない」

 

ミサト「研究対象として回収できれば価値は大きい」

 

シンジ(イズモ)「分かってます」

 

一拍。

 

シンジ(イズモ)「でも羽化したら終わりです」

 

ミサトの目が。

 

少し細くなる。

 

ミサト「羽化前に回収」

 

ミサト「不可能なら」

 

声が低くなる。

 

ミサト「殲滅」

 

シンジ(イズモ)「了解」

 

アスカ「私が行く」

 

全員。

 

見る。

 

アスカ「弐号機出せるでしょ?」

 

シンジ(イズモ)「極地装備まだ初号機でしか――」

 

整備主任〈通信〉「互換取ってある!」

 

イズモが止まる。

 

整備主任〈通信〉「お前が全機で使えるようにしろって言ったんだろ!」

 

シンジ(イズモ)「……そうだった」

 

アスカ「なら決まり」

 

シンジ(イズモ)「危険だよ」

 

アスカ「知ってる」

 

シンジ(イズモ)「マグマだよ?」

 

アスカ「知ってるわよ!」

 

シンジ(イズモ)「深度も」

 

アスカ「私が行くって言ってるの!」

 

沈黙。

 

イズモは。

 

アスカを見る。

 

以前。

 

弐号機に乗った時。

 

完成された機体を使い切る。

 

それが。

 

アスカのやり方だった。

 

シンジ(イズモ)「……分かった」

 

アスカ「最初からそう言いなさい」

 

シンジ(イズモ)「ただし」

 

端末。

 

装備一覧。

 

シンジ(イズモ)「これ全部持っていって」

 

アスカ「全部?」

 

シンジ(イズモ)「極地装甲」

 

シンジ(イズモ)「冷凍ガン」

 

シンジ(イズモ)「冷凍グレネード」

 

シンジ(イズモ)「極地ミサイル」

 

アスカ「多いわね!」

 

シンジ(イズモ)「生きて帰る方が大事」

 

アスカ「……」

 

一瞬。

 

黙る。

 

アスカ「了解」

 

浅間山。

 

山頂。

 

蒸気。

 

硫黄。

 

熱。

 

火口の周囲は。

 

空気そのものが揺れていた。

 

大型輸送機。

 

弐号機。

 

その姿を。

 

見た瞬間。

 

アスカは。

 

固まった。

 

アスカ「……」

 

弐号機。

 

極地装甲。

 

分厚い。

 

無骨。

 

黄色と銀。

 

通常のスマートな赤い姿は。

 

ほぼ。

 

消えている。

 

アスカ「何よこれぇぇぇぇ!!」

 

通信越し。

 

シンジ(イズモ)「極地装備」

 

アスカ「見れば分かる!」

 

シンジ(イズモ)「耐熱性能は」

 

アスカ「見た目最悪じゃない!」

 

シンジ(イズモ)「機能優先」

 

アスカ「私の弐号機が!」

 

シンジ(イズモ)「嫌なら自分が行く」

 

アスカ「嫌とは言ってない!」

 

シンジ(イズモ)「ダサいって」

 

アスカ「ダサいけど!」

 

弐号機を見上げる。

 

アスカ「……勝てばいいのよ」

 

シンジ(イズモ)「うん」

 

アスカ「勝ったらすぐ外しなさいよ!」

 

整備主任〈無線〉「もうボルト外す準備してる」

 

アスカ「仕事早い!」

 

整備主任〈無線〉「こいつが毎回変な装備持ってくるから慣れた」

 

シンジ(イズモ)「変な装備」

 

整備主任〈無線〉「褒めてる」

 

シンジ(イズモ)「絶対違う」

 

ミサト〈無線〉「はいはい」

 

ミサト〈無線〉「作戦開始」

 

空気が。

 

変わる。

 

弐号機。

 

火口。

 

降下。

 

耐熱ケーブル。

 

冷却。

 

深度。

 

上昇する圧力。

 

アスカ〈無線〉「暑っ……」

 

シンジ(イズモ)「装甲内部温度?」

 

カエデ「許容範囲」

 

アスカ〈無線〉「体感は許容してない!」

 

シンジ(イズモ)「我慢して」

 

アスカ〈無線〉「簡単に言わない!」

 

深く。

 

潜る。

 

光。

 

消える。

 

赤。

 

橙。

 

それだけ。

 

マグマ。

 

巨大なエヴァさえ。

 

飲み込む。

 

アスカ〈無線〉「視界最悪」

 

シンジ(イズモ)「ソナー」

 

カエデ「前方一二〇メートル」

 

アスカ〈無線〉「確認」

 

輪郭。

 

胎児。

 

巨大。

 

サンダルフォン。

 

アスカ〈無線〉「……いた」

 

ミサト〈無線〉「状態は?」

 

アスカ〈無線〉「まだ羽化前」

 

ミサト〈無線〉「回収を試みて」

 

アスカ〈無線〉「了解」

 

捕獲装置。

 

展開。

 

近づく。

 

シンジ(イズモ)「アスカ」

 

アスカ〈無線〉「何」

 

シンジ(イズモ)「変化あったら即離脱」

 

アスカ〈無線〉「分かってる」

 

捕獲。

 

あと。

 

少し。

 

その時。

 

カエデ「生体反応急上昇」

 

シンジ(イズモ)「!」

 

形。

 

変わる。

 

胎児。

 

外殻。

 

破裂。

 

アスカ〈無線〉「うそ!」

 

巨大な目。

 

開く。

 

アスカ〈無線〉「羽化が始まった!」

 

ミサト〈無線〉「回収中止!」

 

一拍。

 

ミサト〈無線〉「即時殲滅!」

 

アスカ〈無線〉「了解!」

 

使徒。

 

動く。

 

マグマの中を。

 

信じられない速度。

 

弐号機。

 

回避。

 

だが。

 

遅い。

 

アスカ〈無線〉「こんなところで速すぎる!」

 

シンジ(イズモ)「アスカ!」

 

使徒。

 

接近。

 

弐号機。

 

腕。

 

防御。

 

衝撃。

 

アスカ「くっ!」

 

警報。

 

カエデ「極地装甲、右腕損傷」

 

シンジ(イズモ)「冷凍ガン!」

 

アスカ「撃つ!」

 

白。

 

マグマの中。

 

一瞬。

 

蒸気。

 

凍結。

 

だが。

 

使徒。

 

抜ける。

 

アスカ「効いてない!」

 

シンジ(イズモ)「温度差が足りない」

 

冷凍ガン。

 

残圧。

 

下がる。

 

シンジ(イズモ)「グレネード送る!」

 

アスカ「どうやって!?」

 

シンジ(イズモ)「落とす!」

 

アスカ「雑!」

 

地上。

 

投下装置。

 

開く。

 

冷凍グレネード。

 

火口へ。

 

落下。

 

マグマ。

 

沈む。

 

カエデ「弐号機まで三十」

 

シンジ(イズモ)「アスカ!」

 

アスカ〈無線〉「見えてる!」

 

伸ばす。

 

キャッチ。

 

使徒。

 

来る。

 

アスカ「っ!」

 

シンジ(イズモ)「今!」

 

投げる。

 

爆発。

 

白。

 

巨大な冷却反応。

 

周囲のマグマ。

 

急速に。

 

粘度を増す。

 

使徒。

 

動き。

 

止まる。

 

シンジ(イズモ)「極地ミサイル!」

 

アスカ「早く!」

 

輸送。

 

投下。

 

弐号機。

 

掴む。

 

照準。

 

アスカ「いっけぇぇぇ!!」

 

発射。

 

命中。

 

白。

 

赤。

 

衝撃。

 

急激な温度差。

 

使徒の外殻。

 

亀裂。

 

広がる。

 

シンジ(イズモ)「もう一発!」

 

アスカ「残ってない!」

 

シンジ(イズモ)「冷凍ガン!」

 

アスカ「出力低下!」

 

カエデ「使徒再活動」

 

アスカ「しつこい!」

 

サンダルフォン。

 

迫る。

 

シンジ(イズモ)「アスカ!」

 

アスカ「分かってる!」

 

弐号機。

 

ブレード。

 

抜く。

 

一瞬。

 

躊躇。

 

シンジ(イズモ)「装甲薄い!」

 

アスカ「なら!」

 

凍結。

 

亀裂。

 

そこへ。

 

刃。

 

突き込む。

 

アスカ「割れなさい!!」

 

亀裂。

 

一気に。

 

広がる。

 

使徒。

 

停止。

 

数秒。

 

そして。

 

粉砕。

 

赤いマグマの中。

 

黒い破片が。

 

崩れていく。

 

カエデ「敵性反応」

 

間。

 

カエデ「消失」

 

シンジ(イズモ)「……」

 

肩の力が抜ける。

 

アスカ〈無線〉「……終わった?」

 

シンジ(イズモ)「終わった」

 

アスカ〈無線〉「……」

 

呼吸。

 

荒い。

 

アスカ〈無線〉「正直」

 

少し。

 

笑う。

 

アスカ〈無線〉「ギリギリだったわ」

 

シンジ(イズモ)「お疲れ」

 

アスカ〈無線〉「ほんとよ」

 

上昇。

 

弐号機。

 

ゆっくり。

 

火口へ。

 

シンジ(イズモ)「帰ったら」

 

アスカ〈無線〉「何」

 

シンジ(イズモ)「温泉行こう」

 

一瞬。

 

通信が。

 

静か。

 

アスカ〈無線〉「……」

 

シンジ(イズモ)「嫌?」

 

アスカ〈無線〉「いや」

 

声。

 

少し柔らかい。

 

アスカ〈無線〉「悪くない」

 

ミサト〈無線〉「賛成!」

 

アスカ〈無線〉「聞いてたの!?」

 

ミサト〈無線〉「指揮回線よ!」

 

シンジ(イズモ)「綾波も?」

 

レイ〈無線〉「行く」

 

アスカ〈無線〉「ファーストまで!」

 

レイ〈無線〉「温泉は温かいから」

 

アスカ〈無線〉「それは知ってるわよ!」

 

箱根湯本。

 

夜。

 

湯けむり。

 

木の香り。

 

温泉。

 

女湯。

 

アスカ「…………」

 

肩まで。

 

沈む。

 

アスカ「生き返る……」

 

ミサト「でしょ?」

 

アスカ「マグマの後だから余計に」

 

レイ「……温かい」

 

アスカ「ファースト、それ前にも言ってなかった?」

 

レイ「そう?」

 

ミサト「レイも気に入った?」

 

レイ「嫌いではない」

 

アスカ「それかなり高評価じゃない?」

 

レイ「そうかもしれない」

 

アスカが。

 

少し笑った。

 

男湯。

 

イズモ。

 

一人。

 

湯。

 

シンジ(イズモ)「……」

 

静か。

 

珍しい。

 

誰もいない。

 

ケージ。

 

使徒。

 

装備。

 

学校。

 

全部。

 

遠い。

 

シンジ(イズモ)「たまには」

 

肩まで沈む。

 

シンジ(イズモ)「こういうのもいいな」

 

カエデ〈端末〉「心拍数低下を確認」

 

シンジ(イズモ)「温泉まで監視してるの?」

 

カエデ〈端末〉「健康管理です」

 

シンジ(イズモ)「……まあいいか」

 

女湯の向こう。

 

ミサトの声。

 

ミサト「こういう時間があるから!」

 

アスカ「ちょっとミサト!?」

 

ミサト「また戦えるのよー!」

 

シンジ(イズモ)「……元気だな」

 

カエデ「葛城ミサトの血中アルコール濃度――」

 

シンジ(イズモ)「聞かなくていい」

 

カエデ「了解しました」

 

翌日。

 

学校。

 

歴史。

 

教師の声。

 

黒板。

 

セカンドインパクト。

 

国連。

 

戦争。

 

復興。

 

政府。

 

シンジ(イズモ)「……」

 

教科書。

 

ページ。

 

数行。

 

それだけ。

 

アスカが。

 

隣で。

 

小さくあくび。

 

アスカ「退屈」

 

シンジ(イズモ)「同感」

 

教師「そこ」

 

二人。

 

黙る。

 

数分。

 

アスカが小声。

 

アスカ「政府に都合いい話ばっかり」

 

シンジ(イズモ)「まあ」

 

アスカ「これで歴史って笑えるわ」

 

シンジ(イズモ)「教科書ってそんなものじゃない?」

 

アスカ「ドイツじゃもっと書くわよ」

 

シンジ(イズモ)「日本も書いてると思うけど」

 

ページ。

 

見る。

 

シンジ(イズモ)「この世界は隠してること多すぎる」

 

アスカ「例えば?」

 

シンジ(イズモ)「セカンドインパクト」

 

アスカ「隕石衝突でしょ」

 

シンジ(イズモ)「……」

 

アスカ「何よ」

 

シンジ(イズモ)「放課後」

 

アスカ「?」

 

シンジ(イズモ)「見せる」

 

アスカ「何を?」

 

シンジ(イズモ)「多分」

 

少し迷う。

 

シンジ(イズモ)「見ない方が幸せなもの」

 

アスカ「じゃあ言わないでよ!」

 

チャイム。

 

昼休み。

 

旧校舎側。

 

誰も来ない階段。

 

イズモ。

 

端末。

 

アスカ。

 

レイ。

 

カエデ。

 

アスカ「で?」

 

シンジ(イズモ)「先に言っとく」

 

アスカ「何」

 

シンジ(イズモ)「これ」

 

端末を見る。

 

シンジ(イズモ)「正規ルートで取ってない」

 

アスカ「……」

 

シンジ(イズモ)「学校のLANから」

 

アスカ「学校のLAN?」

 

シンジ(イズモ)「暇だったから覗いた」

 

アスカ「なんで学校からネルフの極秘文書に行けるのよ!?」

 

シンジ(イズモ)「教育ネットワークから行政系」

 

アスカ「待って」

 

シンジ(イズモ)「そこからネルフ外郭」

 

アスカ「待ちなさい」

 

シンジ(イズモ)「で、中継サーバーが」

 

アスカ「それハッキングでしょうが!!」

 

レイ「不正アクセス」

 

シンジ(イズモ)「管理者権限までは――」

 

アスカ「その言い訳前にもしてない!?」

 

カエデ「衛星レーザー使用時にも同様の主張をしています」

 

アスカ「衛星レーザーもハッキングだったの!?」

 

シンジ(イズモ)「一時利用」

 

アスカ「犯罪者!」

 

シンジ(イズモ)「人聞き悪い」

 

アスカ「事実よ!」

 

レイ「見るの?」

 

アスカ「……見る」

 

シンジ(イズモ)「見るんだ」

 

アスカ「ここまで聞いて帰れるわけないでしょ!」

 

イズモ。

 

端末。

 

開く。

 

黒。

 

赤字。

 

機密指定。

 

タイトル。

 

《人類補完計画》

 

アスカ「……」

 

レイの表情は。

 

変わらない。

 

だが。

 

視線。

 

止まっている。

 

シンジ(イズモ)「ネルフ中枢でも」

 

スクロール。

 

シンジ(イズモ)「閲覧権限かなり高い」

 

アスカ「何よ……これ」

 

文章。

 

人類。

 

進化。

 

魂。

 

個体。

 

統合。

 

アスカ「……意味分かんない」

 

シンジ(イズモ)「自分も全部は」

 

嘘。

 

知っている。

 

ある程度。

 

でも。

 

知識と。

 

現実の文書では。

 

重さが違う。

 

シンジ(イズモ)「ただ」

 

画面を見る。

 

シンジ(イズモ)「使徒を倒すことだけがネルフの目的じゃない」

 

アスカ「……」

 

シンジ(イズモ)「多分」

 

レイ。

 

見る。

 

言葉。

 

止める。

 

シンジ(イズモ)「自分たちは」

 

少し。

 

声が低くなる。

 

シンジ(イズモ)「その計画の中に組み込まれてる」

 

アスカ「駒ってこと?」

 

シンジ(イズモ)「可能性は高い」

 

アスカの拳。

 

握られる。

 

アスカ「……ふざけないで」

 

シンジ(イズモ)「うん」

 

アスカ「私がエヴァに乗ってるのは」

 

言葉。

 

途中。

 

止める。

 

シンジ(イズモ)「知ってる」

 

アスカ「知らないでしょ」

 

シンジ(イズモ)「……そうだね」

 

言い直す。

 

シンジ(イズモ)「知らない」

 

アスカを見る。

 

シンジ(イズモ)「だから聞く」

 

アスカ「……」

 

チャイム。

 

昼休み。

 

終了。

 

四人。

 

動かない。

 

数秒。

 

シンジ(イズモ)「……また日常」

 

アスカ「これ見た後に?」

 

端末を指す。

 

アスカ「それ、本当に日常って言っていいの?」

 

シンジ(イズモ)「言わないと」

 

端末。

 

閉じる。

 

シンジ(イズモ)「授業始まる」

 

アスカ「……」

 

シンジ(イズモ)「行こう」

 

レイ「ええ」

 

アスカ「……ほんっと」

 

歩き出す。

 

アスカ「変な世界」

 

シンジ(イズモ)「同感」

 

放課後。

 

夕焼け。

 

帰り道。

 

珍しく。

 

ケージへ行かない日。

 

アスカ「本当に行かないの?」

 

シンジ(イズモ)「何が?」

 

アスカ「ケージ」

 

シンジ(イズモ)「整備主任に出禁された」

 

アスカ「は?」

 

シンジ(イズモ)「今日一日休めって」

 

アスカ「整備員に出禁にされるパイロット初めて見たわ」

 

シンジ(イズモ)「自分も」

 

鞄。

 

歩く。

 

シンジ(イズモ)「そうだ」

 

アスカ「何」

 

シンジ(イズモ)「ゲームいる?」

 

アスカ「……ゲーム?」

 

イズモ。

 

小さなケース。

 

取り出す。

 

アスカ「何これ」

 

シンジ(イズモ)「作った」

 

アスカ「…………」

 

止まる。

 

アスカ「いつ?」

 

シンジ(イズモ)「暇だった時」

 

アスカ「いつ暇なのよ、あんた!」

 

シンジ(イズモ)「ケージの処理待ち」

 

アスカ「休みなさいよ!」

 

シンジ(イズモ)「作るの休憩になる」

 

アスカ「ならない!」

 

ケース。

 

受け取る。

 

アスカ「どんなゲーム?」

 

シンジ(イズモ)「アクション」

 

アスカ「面白い?」

 

シンジ(イズモ)「自分では」

 

アスカ「自信ないの?」

 

シンジ(イズモ)「作った本人は攻略法知ってるから評価できない」

 

アスカ「……まあ」

 

ケースを見る。

 

アスカ「来週返す」

 

シンジ(イズモ)「あげる」

 

アスカ「え?」

 

シンジ(イズモ)「コピー作れるし」

 

アスカ「……」

 

少し。

 

ケースを握る。

 

アスカ「じゃ」

 

顔を逸らす。

 

アスカ「もらっとく」

 

シンジ(イズモ)「うん」

 

歩く。

 

夕日。

 

二人の影。

 

長く。

 

道路へ伸びる。

 

アスカ「つまんなかったら言うから」

 

シンジ(イズモ)「改善する」

 

アスカ「ゲームまで改修するの?」

 

シンジ(イズモ)「当然」

 

アスカ「病気ね」

 

シンジ(イズモ)「否定できない」

 

アスカが。

 

少しだけ。

 

笑った。

 

数メートル。

 

静かに。

 

歩く。

 

使徒。

 

ネルフ。

 

補完計画。

 

誰かが。

 

何かを隠している。

 

未来。

 

知っているつもりだった未来。

 

それでも。

 

今。

 

アスカの手には。

 

自分が作ったゲームがある。

 

今日。

 

二人とも。

 

学校へ行った。

 

授業を受けた。

 

温泉へ行った。

 

くだらない話をした。

 

それは。

 

計画書には載っていない。

 

原作にも。

 

多分。

 

ない。

 

シンジ(イズモ)「……」

 

アスカ「何?」

 

シンジ(イズモ)「なんでもない」

 

壊れていない。

 

まだ。

 

壊れていない。

 

だから。

 

イズモは。

 

その日常を。

 

覚えておこうと思った。

 




突然停電する第三東京市
さらに追い討ちをかけるような使徒襲来イズモはこの危機を乗り越えられるか?
次回創造紀エヴァンゲリオン
静止した暗闇の中で
次回もサービス
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