──目を覚ました。
一番最初に視界に入ったのは、あの死に戻りによって何度も何度も目を覚ます度に見ていた自室の天井ではない。どうやら最後に見た、あの女のところに合流したことは夢でもなんでもなく、死んだ覚えもなければ自室でもないから、どうやら生き延びることには成功したらしい。
「ふふっ……」
思わず笑いが漏れる。ようやくだ、ようやくやったのだ。その嬉しさに笑わずにはいられない。
今ならなんでもできる気がする。それほどの万能感。ただ、一つだけ疑問なことがある。今日、これで帰っても問題ないのだろうか? このまま帰ってもあの心臓を抜き取る手は出現しないのだろうか? それだけが心配だ。
だが、逆に言えばそれ以外には心配はない。
笑っている俺に対して厳しい目を向けてきている、あの時の化け物を殺していた赤い髪の女も、今の俺にとってはどうでもいい。
彼女にこの学園から出て行けと言われたことも、もしかしたらまた一からやり直さなければならないかもしれないということを除いては何も問題はない。むしろこんな、化け物に襲われるような場所に誰がいたいと思うのか。
そう嘲笑って、ガラスが刺さったために痛みが未だに存在する足を引きずって学園を出た。
………………
…………
……
──目を覚ました。
目に入ったのは先ほどと同じ部屋の天井。どうやら、また最初からやらなければならないという事態ではないらしい。
先ほど学校から出ようとしたのだが、あの化け物たちが降り立った校庭から外に繋がるはずだった校門からはどこにもつながっていなかった。正確には校門自体が開かなかった。それでも無理矢理に通ろうとしたら、奇妙な鳴き声が聞こえるのと同時に激しい地震が発生して投げ出されるように転落して死んだ。
「ちょっと! 聞いているのかしら!」
つまりこの学園はどこかに隔離されているということなのだろう。それを成すことができるのは目の前のこの女だけだ。今の俺の命はこの女に握られている、ということになる。
「貴方は、一体何者なのかしら」
それはこちらのセリフだ。
彼女はあの化け物、ミニオンという名前らしいそれは人間では決して敵うはずがないのにどうやって生き残ったのか、なんて問いかけてくるが、それなら彼女はどうしてそれと戦い、倒すことができるのか。彼女はこちらのことを疑っているようだが、こちらだって彼女のことを疑っている。気絶していた生徒の中では俺が最後に目覚めたらしく、彼女はすでに根回しを済ませていたらしい。出て行け、というコールが響いたのでそれに従って出て行く。
外の空間は変なことになっているようだが、どうせ外に出ればいつも通りの通学路が広がっているに決まっている。
そう思って外に出て、そして再度圧倒された。
………………
…………
……
──目を覚ました。
外に広がっていたのはこれまで見たことがないほどに圧倒的な森林。あの光景だけで俺がいた地球ではないことがよくわかる。足を引きずりながら歩いて、その果てにあの化け物に見つかって殺された。地球ではないからあの化け物が道端にいたとしてもおかしくはない、ということか。くそったれが。
この学校から出ても殺されることはなくなったようだが、代わりに外に出れば一人で生きていけるような場所ではない。彼女にどうにかして取り入らないと行けないらしい。
だが、どうすればいいのだろうか。それがよくわからない。
とりあえず、死に戻りについて教えてみようか。
「貴方は、一体何者なのかしら」
「俺は──」
”死ぬ度にその日の朝に戻されてる”
そう口にしようとした。そのタイミングで、久方ぶりの心臓抜き取り。呼吸ができない、意識が朦朧とする。辛い。
次第に意識が消え行き──そして、もう一度俺の命は尽きた。
………………
…………
……
「貴方は、一体何者なのかしら」
さあ、知るわけがない。
目を覚まして問われた言葉に真面目に返せば、相手の目が余計に厳しくなる。
だが、何も嘘などついていない。俺は死に戻りの能力を持ってはいるが、じゃあその能力は一体どこから? なんでそんなものを持っていると問われればわからない、と答えるしかないのだ。
だから答えてほしい。そっちは俺について何かわかったのか。俺があの化け物の攻撃を避ける時に行なっていたあれらの行動の全て、そこからこちらについて何かわかったのか。
「いいえ……何もないわ。貴方は神剣の反応もない、まさしくただの人間よ」
神剣……? なんだろうかそれは。また新しい単語が出てきた。それが、俺をこの事態に巻き込んだ何かなのだろうか。そう尋ねれば向こうも困惑している。俺という存在は向こうに取ってもイレギュラーなようだ。
一つだけ分かっているのは、今の俺ではこの場所から出て行けばその瞬間に死亡が確定するということ程度。ここに寄生しないと生きて行けないということ。
幸いというべきか、俺は何度死んでもその日の始まりに戻ることができる。
それならば答えは簡単だ。何度繰り返すことになったとしても、あの世界に戻れればいい。
そのためにも、今は寝よう。
さすがに、あの地獄を乗り越えたことによって少し疲れが出てきている。
今寝て、そして殺されたとしても次の死に戻りはまたついさっきの場面からだ。それならば、もう一度ここまで進んでくることはそこまで苦ではない。
そう思って、目を閉じた。
永遠神剣。
目覚めた俺が最初にあの女から説明されたのは、あの化け物が持っていた超人的な身体能力の源となるその存在についてだった。
剣という名前のくせして剣以外の姿をしていることもあるそれは、使用している間契約者に対して超人的な力を与え魔法も使用を可能にするらしい。
「それの影響で、この学園は異世界に飛んじゃったのよ」
詳しい内容に関しては専門用語が多くなるから端折られたのだが、それでもわかったことをまとめれば。
襲われた。迎撃できる数にも限りがある。そのためジリ貧になって誰か一人ぐらいは殺されてもおかしくはなかったのだが、途中で危険を察したことで学園ごと逃げ出した、とのこと。
そして、それに伴って別の世界に来たために今から全員で元の世界に変えるために頑張るのだと。
今のところはこの世界から出られないようにされているため、それを解除するためにこの世界の情報を手にしている最中だということ。
正直、この情報を信じていいものかはまるで謎だ。もう決まったことなのだと語るそれには俺の意思などまるで考慮されなかったし、きっと逆らえば出て行けと言われるだけなのだろう。
今の俺ではここを頼る以外にはない。異世界転移なんていうふざけた代物だ。どうやら詳しいらしきこの女から情報を引き出すまではここから出ていくわけにはいかない。
「まあ、あなたに関しては治らないことには外を出歩けないからしばらくは寝ているといいわ」
そんな言葉と共に保健室を出ていく赤髪の女。今はどうしても情報がいる。幸いというべきかどうやら向こうは巻き込んだことでこちらに対して罪悪感を抱いてくれているらしい。つまり、しばらくはそちらでどうにかしてくれるのだろう。
とりあえず今は、寝るしかない。外の状況が移り変わる中で誰かに情報を尋ねないといけないだろう、とは思うが今の俺にはどうしようもない。
そう思って、眠りについた。
足が動くようになった。どうやらこの学校はあの永遠神剣とやらを持つ連中の巣窟らしく、下級生にいた怪我を治すことが得意な女によって治療された。
正直、ここまで化け物がこの学園に入り込んでいるとなるとここも安全なのかどうか危ういところがあるのだが、だからと言ってこの異世界とやらで自分にわかる範囲で一番安全なのはこの場所なのだ。自力では戻るための手段を見出せない以上、戻れるのならばそれで十分だ。
たとえ、どんな手段を使ったとしても元の世界に戻ってやる。