このあいだの兵士による婦女暴行事件が発生したために学園の中から兵士が消えた。そのため、今がどのような戦況になっているのかなんてまるでわからないながらも、それでも前に進んでいるのではないか、という程度のことだけは理解できた。
その理由としては「外に出てもいい」というアナウンスが来てから外に出てみればそこに広がっている町の光景は毎回違うから。そもそも『外に出ても問題はない』なんて言葉を言えるのは周囲に敵がいない以外にあるはずがない。
……無論、彼らが本当に俺らを守るつもりなのならば、の話なのだが。
そうでないなら無駄な人員を下ろしてしまうことなんてものも考えられるのだが、その場合はすぐにでも死に戻ればいい。多分、それでどうにかなるはずだ。
そんな気持ちで街中を歩いていたのだが、気がつけば森の中。
ついさっきまで間違いなく街中を歩いていたのに、なぜかいるのは森の中。この状況、どこか覚えがある。
思い出せ……思い出せ……思い出さないと致命的な事態に──
「もう、遅い」
え──あ──?
………………
…………
……
気がついたら森の中。今度のセーブ地点はここからで、決して逃がすつもりはないらしい。
多分、ここから逃げ出そうとすればあの謎の手は俺のことを殺しに来るだろう。
つまりまた、さっきの声の持ち主の行動を死んで覚えるしかない。
「よし、やる──」
「遅い」
一回目。
「遅い」
それにしてもどうすればいいのだろうか。
二回目。
「遅い」
この敵は後ろから攻撃してくるので見て避けることができない。見ている暇があれば斬られてしまう。つまり、どうにかして直感だけで避けないといけない。
ここからはもう、俺にできる動きで避けられるかどうかを試すことしかできない。
三回目。
「遅い」
無理だった。
四回目。
「遅い」
次だ。
五回目。
「遅い」
胴体を斬られているのだろうか。その辺りから熱を感じる。
六回目。
やった! ついに一回目の攻撃をかわすことができた! とはいえ、二回目の攻撃なんて避ける暇もなかったが。それでも相手の姿を視認することができた。以前のバケモノとは違うけれど日本では普通は見当たらないような緑の髪色の槍を持った相手だった。
七回目。
二回目が避けられない。
二十四回目。
「遅い」
「そっちがな……」
一発目を避ける。
そのことにだけ全神経を集中させる。後ろから迫ってくる化け物に対して視線を向ける暇なんてない。発した声も、避けた後にようやく耳にまで届く。ここの立ち直りの早さが次の攻撃を避けられるのかに繋がるので、前転するかのように避けた一撃を、今回の相手はそこまで驚いていない。
前回の相手は避けられると思っていなかったのか、動揺していたものなのだが。
ただ、相手が動揺することに期待してはいけないことなんてとっくの昔にわかっている。起き上がろうとするのは手間だから、そのまま転がる形で二の撃……刺突の一撃を避ける。
よし! せいこ──
『────』
何か、聞こえた気がした。
「死ね」
今の声、一体どこから──
二十五回目。
……前回のあれは、一体何だったんだ。
いや、考えても無駄だ。考える暇があるなら自力でどうにかすることを考えろ。来るとわかっている声なんだから、そこまで気にすることはない。全部終わってから考えればいい。今の俺は、他の永遠神剣とやらを使っている相手が助けに来るまで生き残ることだけを考えていればいい。
よし、やるぞ。
二十六回。
さて、二回目の後に聞こえてくる声を無視しても、普通に相手の攻撃は避けられない。相手の速度が速すぎる。
二十七回目。
いや、そういえば避ける必要はないんだったか。確か俺の首には何か相手の攻撃を弾くことができるものがあったはずだ。それを使えば、一回ぐらいはどうにかなるはずだ。ただ、それで避けられるのは一回だけなのだ。どこでそれを使うのかはしっかりと考えないと。
───え───
四十回目。
三回目の攻撃を首で受けることに成功した。けれど、首がもげるかのような勢いで叩きつけられたそれは、普通に次の攻撃に対しての準備の時間なんて与えることはない。殺された。
四十五回目。
三回目を受けても死ぬだけだとわかったのは収穫だ。
六十五回目。
避ければ避けるほど、あの奇妙な声が聞こえてくる。
二回避けたところでは全くと言っていいほどに雑音しか聞こえないのだが、三回目では雑音の中に確かに聞き取れる音として何か発声されていた。
───使え───
七十五回目。
今度こそ四回目の攻撃を避けないと……時間さえ稼げばきっと助けが……
───だー、もう! 使えって言ってるでしょうが!───
は──?
七十六回目……に入る前。
で、お前は何なんだ一体?
──えー、言われないとわかんない? これまで何回も守ってあげたってのに。
守った? そんなことをされた覚えがない。そもそも、目の前の光の玉のようにしか見えないこいつが、どうやって俺を守ったというのか。
──そりゃ、この身を呈してあんたの首に届く攻撃を防いでいたのよ。
……首?
──そうそう。あんたの首に届こうとしていた攻撃を防いだのは全部私よ。
……なら、それ以外の攻撃も全部どうにかして欲しいものなんだがな。
──さすがにそれは無理。だから、あとはあんたがやりなさい。
俺が? どうやって?
──ふっふっふ……それはね。
七十六回目。
「遅い」
声が届いてから、先のあの謎の声を一回だけ信じて、普通に走ってみる。
「うぉっ!?」
これまでとはまるで違う速度の疾走。あの攻撃の射程圏内から一瞬で脱することができた。
「は……はは……ははははははは!」
おもわず笑ってしまう。これなら避けられる。これなら勝てる。これは、あいつらと同じ力なんだ。
あとは、使いこなせるようになるまで練習すればいい。なに、俺には死に戻りで無限に時間がある。これを使えるようになれば、あとは目の前のこの化け物を殺してしまえばそれでいい。
──あ、ちゃんと前見なさい!
「え……?」
七十七回目。
「遅い」
前回は思わず笑いが漏れてしまったせいで相手の攻撃の二回目を避けることに失敗してしまったが、もうあのような失態は犯さない。
よくわからないが、俺の首についているなんか喋る奴のおかげで身体能力が大幅に上昇しているので、簡単に避けられるようになった。
ただ、それは別に避けられるようになっただけで、こいつを倒せるようになったと言うわけではないのだから。絶対にいつかは無理が出る。
八十五回目。
攻撃の手段はないのか、とあの謎の声に聞いてみる。俺の体力が他の連中が助けに来るまで持つことがないのだ。
──ないことはないけど……
なら教えろ。
八十六回目。
教えてもらった使い方を全く理解できない。
マナをうんたらかんたら、イメージがうんたらかんたら、後者はともかく前者はまるでわからない。なんだ、マナって。
九十七回目。
どうやらマナとは魔力的なエネルギーらしい。それに関しては感覚だからとかなりの回数殺されて、ようやく感じ取れるようになってきたのだ。
「遅い」
一撃目を避ける。マナとやらの感覚が理解できるようになってきたからか、周囲に満ちているそれの感覚がわかるようになってきた。二、三と来る刺突をも余裕を持って躱すことができる。
ここからだ。
首にあるという喋る何かに触れる。攻撃をするにはイメージとやらが重要らしいので、目の前にあるさっきから己の命を幾度となく奪ってくれた槍をイメージする。
このイメージに時間をかけてはいけない。イメージをするのに時間をかければその間に殺されてしまう。
脆く、ぼやけているが確かに槍が手の中にある。これで攻撃をすることに関しては別にいい。問題は、槍の扱い方なんて俺はまるで知らないことだ。
「オラァッ!」
刺突。これ以外に俺がこいつに対して攻撃を届かせる手段は思いつかないのだが、そんな俺の目の前に現れたのは魔法陣。それに激突した槍が一瞬で折れて霧散する。
この結果は最初から理解していた。いや、さすがに相手が魔法陣を使って防いで来るとは思わなかったが、それでも防がれたら折れるとはわかっていた。
そして、この周ではもうどうにかできる段階をとうの昔に過ぎている。
何度目だったか、もう考えるのも億劫なほどに死んだこれにカウントが一増えるだけだと諦めて──
「させない」
「は……?」
何かまた、新しい化け物が現れた。
黒い髪の幼い少女の見た目をしているが、あの化け物を一瞬で殺したということを考えれば、こいつがさらなる化け物であることには疑いようなどない。
どうにかして逃げることはできないか……?
そんなことを考えながら、この女の出方を見る。
こちらのことをじっと見つめるだけの女に、敵意がないのではないかと一瞬思って。
「ボクは、ミューギィ」
それならと逃げ出そうとしたところで、そんな声が発せられた。
「永遠神剣第三位『絶炎』の担い手、ミューギィ・ファナン」
第三位という言葉に歯噛みする。確か、あの学園にいる化け物でも一番上が五位だった気がする。あれらがそのあたりの実力で俺に対して嘘をついても仕方ない。
逃げられない、と悟って、それでもなおどうにかして逃げ出さないと殺されると思って。
「ボクは貴方の
そんな言葉とともに、俺の前に跪いたことで、まるでわけがわからなくなった。
『悠久のユーフォリア』タグはミューギィが出て来る予定だったからね……