Sword Art Online ”Camellia”   作:りこぴん

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この話は非常に難産でした。
良い展開が思いついたら直すかもしれません。


発覚

状況を把握したプレイヤー達から徐々に、歓声が広がり出す。

騒音に意識を取り戻したキャロルは一瞬立ち上がりかけ、その声が歓声であることに気づき脱力した。

 

「アスナ達が、上手くやってくれたみたいですね......」

 

咄嗟に動いたにしてはよくやった方だと思うが、やはり最前線のプレイヤーのようには行かない。

勢いを受け流そうとしたにも関わらず大ダメージを負い、追撃もままならない状況に陥ってしまった。

あのまま倒してくれなければ、ポリゴンの結晶になるのは自分の方だった。

 

「二人には、お礼を言わないと」

 

疲労感に抗い、なんとか仰向けに身体を動かす。

二人の英雄は今頃歓声の中心だろうし、その場が落ち着くまで少し休ませてもらおう。

意識を手放しかけたキャロルは、しかし走り寄る足音によって目を覚ました。

視点が定まる前に抱き起こされた身体は、そのまま痛みすら感じる強さでギュッと抱きしめられる。

顔は見えずとも、この感覚には覚えがあった。

 

「アスナ?」

「......」

 

キャロルの声に抱きしめる力が一瞬緩むが、先程より強い力で再び抱きしめられる。

 

「ありがとうございます、アスナ達のお陰で命拾いしました。なかなか思うようには行きませんね。それで......その、アスナ......?」

 

流石に怪訝に思ったキャロルはアスナの肩に触れようとして、気づいた。

アスナは涙を耐えるかのように小さく震えていた。

原因など、考えなくても明らかだった。

 

「アスナ、本当に申し訳ありません。頼って欲しいなどと言っておきながら心配をかけさせてしまって......これでは、友人失格」

「そんなこと無い!」

 

今までに無く強い口調に、キャロルの声が止まる。

 

「そんなことありません。キャロルが私の願いを叶えるために、無茶をしてくれました。それに......たとえどんな事があっても、キャロルが友人失格なんてありません。むしろ、謝らなきゃ行けないのは私の方です」

 

あの時もっと冷静に指示できていれば、自分が代わりに飛び出していれば。

キャロルがこんな目に遭う事はなかったかもしれない。

アスナの胸は後悔に支配されていた。

 

「だからごめんなさい......キャロル。本当に、無事で......良かった......っ!」

「アスナ......」

 

声を押し殺して泣くアスナの肩に優しく触れると、キャロルは視線を彷徨わせた。

その視線が、此方を伺っていたキリトと交差する。

 

「......実は、私の防御力なら耐えられることは分かってたんです。そして、キリトには私が動いたら追撃をして貰うようにお願いしてありました。そうですよね、キリト?」

「えっ!?あ、あぁ!」

 

明らかに知らなかった、といった様子のままそれでも頷くキリト。

キャロルが飛び出した時の驚き方から、キリトとの事前に打ち合わせがなかったことは明白だった。

しかし反論に開きかけた口は、抱き寄せられた肩に塞がれてしまった。

 

「だからアスナは何も悪くありません。誰一人犠牲出すこと無くボスは倒せました、それは紛れも無くアスナの采配が良かったからです。だから今は胸を張って、勝利を誇りましょう。ほら、リーダーのアスナがこの調子では他の人も喜ぶに喜べなくなってしまいますよ」

 

辺りで響いていた歓声はアスナの強い声によって止まり、今は皆が二人の様子を伺っていた。

キャロルはアスナを優しく起こすと、皆の方に向き直る。

 

「ほら、アスナ。このままだと私はアスナ諸共崩れ落ちる失態をしてしまうのですが」

「......もう」

 

アスナは自分の足で立つと、一歩前へと進む。

 

「失礼しました。ボスも撃破出来ました、次の階層へと進みましょう!」

「「おおっ」」

 

毅然と歩き出したアスナの一歩後ろを追従するようにキャロルは歩き出す。

その様子を背中で感じながら、アスナは漠然とした不安を抱えていた。

 

 

 

あれから幾つかの階層が攻略され、暫くの時間が経つにつれアスナの不安は現実のものとなっていた。

グリフォニアン討伐以降、階層攻略にキャロルの姿を望む者が現れ始めた。

見た目も麗しく、目の前で英雄のような出来事をおこされてしまっては無理もなく、アスナも特に行動を起こせなかった。

しかしそれがキャロルの耳にも入ってしまった。優しいキャロルがそれを無視するはずもなく、キャロルは半ば強制的に前線へと身を置く事となる。

キャロルの指揮下に入ると、実力以上の力が発揮されるという噂が流れだしたのもその頃だった。

結果、実力を過信したプレイヤーが実力不相応の戦い方をし、キャロルが犠牲を出さないために無茶をする。といったことが何度か起こってしまっていた。

 

"聖女"キャロル。それが、最近プレイヤーの間で囁かれているキャロルの新しい呼び名だった。

問題は、キャロル自身がその事について何も思っていないことだ。

今の最前線は、キャロルの献身と犠牲の上に成り立った砂上の楼閣と化してしまっていた。

コンコン、とノックの音が響き、アスナは思考の海から浮き上がる。

 

「副団長、お客様がいらっしゃいました」

「......どうぞ」

 

こんな時に誰が、と思いつつ入室を促せば、紅白の制服に身を包んだプレイヤーの後ろから見知った二人が姿を表した。

 

「悪い、邪魔する」

「キリトくん、エギルさん」

 

アスナは立ち上がりソファを示すと、お茶を淹れる為に動き始めた。

控えている団員に退出を促すと、自分もソファへと腰掛ける。

 

「どうかしたの?」

「その......キャロルのことなんだが」

 

キリトは言いづらそうに視線を彷徨わせ、やがてエギルにちらりと視線をやる。

 

「単刀直入に言う。キャロルだが、あのままじゃそのうち死ぬぞ」

「っ!」

 

自分が立ち上がっていたことに気づいたのは、少し経ってからだった。

アスナは心を落ち着けるように息を吐くと、再びソファへと座り直す。

 

「......分かってます。キャロルがボス攻略の度に無茶をしているのも、その原因も。だから、血盟騎士団としてのボス攻略への参加は、少しの間控えることにしました」

 

ヒースクリフからの許可は、意外な程にあっさりと取ることが出来た。

団長としても今の状況には思うところがあったのかもしれない、暫くは個々の実力の向上をするという方針に決まった。

しかし、キリトとエギルは顔を見合わせて微かに頷く。

 

「勿論ボス攻略についてもそうだ。けど、今言いたいのはそれだけじゃない」

「どういうこと?」

「その様子じゃ知らないみたいだな......エギル」

 

エギルは頷くと、一枚の紙をアスナに向けて差し出した。

 

「これは、ここ一ヶ月の俺の店の売買記録だ」

 

アスナはそれを受け取ると、目を通し始める。

最前線のメンバーも務めるエギルの店を利用する客は比較的多い。売買記録にも、それが示されていた。

 

「下の方も目を通してくれ、赤字で書かれている所だ」

 

言葉に従い、そのまま視線をおろしてゆく。

 

「これは?」

 

そこには、赤字で大量のモンスターの素材の購入記録が示されていた。

比較的高い頻度で狩りに出掛けるアスナをもってしても驚くほどの数の素材が購入されている。

 

「それはキャロル一人から購入した、素材のリストだ」

「......え?」

「そこにあるだけじゃない、ある時期を境に常にそれぐらいの量の素材を売りに来ている」

 

アスナはもう一度紙を見下ろす。

自分がこの量の素材を稼ごうと思ったら少なくとも毎日、日の出から狩ってたとしても日が落ちるまでに終わるかどうか。

キャロルが層と似たようなことをしているとしても、少なくとも毎日は狩りをしていないと不可能な数だ。

 

「でもキャロルは昨日、私と......」

 

昨日だけじゃない、攻略が休みになってからは高い頻度でキャロルには勉強を教えてもらっていた。

しかし、だから無理だと決めつけられるだろうか。

ここの所感じていた微かな違和感。キャロルは家を出ていった後、転移門の方に向かっていただろうか。

良く考えれば迷宮区の方に向かうことが多かった気がする。いつから?あれは確か、キャロルと一緒にボス討伐をした頃からだ。

 

「ある頃って、もしかして」

「グリフォニアンを討伐した後からだ」

 

感じていた違和感が確信に変わる。

キャロルはきっと、勉強会の後迷宮区に向かっていたんだ。

そして日が昇るくらいまで狩りをしてその後......でも、次の日の素材のことも考えると寝ている訳にはいかない。

 

「たまたま迷宮区に夜に行った事があるんだけど、その時キャロルを見かけたんだ。その時は何も思わなかったけど、次の日の昼くらいに出直した時、出口でキャロルとすれ違ってさ、多分夜通し戦ってたんだと思う」

 

「キャロルは知らねぇみたいだが、攻略組の中じゃ今あいつは宗教的人気だ。迷宮区での目撃情報も山ほど入ってくる」

 

黙って俯いてしまったアスナに、2人は顔を見合わせて微かに頷く。

 

「実は、場合によっちゃ特に何も言うつもりはなかったんだ。ちょっとやりすぎだが、欲しいものが出なくてついやりすぎちまうのは誰にでもある話だしな。だが、その様子だとキャロルは何も言ってないんだろ?」

「......はい」

「キャロルと一番会ってるだろうアスナが知らないってことは、無茶してる自覚があってそれを隠してるか、無茶してる自覚がないかだ。ただでさえここの所の攻略組の不甲斐なさといったら......」

「とにかく」

 

愚痴りだしたエギルを押しのけるように、キリトは身を乗り出した。

 

「キャロルは大切な友達だ、だからアスナから言ってみて欲しい」

「......うん、わかった」

 

アスナの答えに頷くと、キリトは未だに喋り続けるエギルの肩を思い切り叩く。

 

「ってぇ!」

「ほら、いくぞ」

「キリトくん、エギルさん」

「ん?」

 

振り返った二人に、アスナはふわりと笑顔を浮かべる。

 

「教えてくれてありがとう」

「......あぁ」

 

外で待機していた団員と入れ替わるように外へ出た二人は、並んで歩き出した。

 

「それにしても......久しぶりに見たよ」

「何をだ?」

 

エギルの問に、キリトはブルッと肩を震わせ答えた。

 

「アスナのあんな怖い笑顔」

 




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