Sword Art Online ”Camellia”   作:りこぴん

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サブタイトルで薄々感じるかもしれませんが今回はほぼシリアスでお送りいたします。
急展開になってしまいますが、今後のために必要なので無理やり入れてしまいました。
ここは前々から書こうと決めていましたがはやくほんわかした空気に戻りたい。


笑う棺桶

それから一週間後、キャロルは血盟騎士団本部を訪れていた。

いつも通り入口で受付をすませ、アスナの私室へ向かう途中で慌ただしく動く団員数人とすれ違う。

どうやら何かあったらしい。

 

「アスナ、キャロルです。入ってよろしいでしょうか?」

 

私室へと訪れたキャロルはノックと共に尋ねる。が、中から返事はなかった。

この慌ただしい空気と関係しているのかもしれない。

キャロルは暫し悩み、アスナに連絡を入れ引き返すことにした。

文面を考えながらメールを打っていると、再びばたばたと廊下を走る音が響き渡る。

 

「お前は!」

「......?」

 

キャロルが顔をあげると、黒い長髪の団員が立ち止まりキャロルを睨みつけていた。

 

「すみません、何処かでお会いしましたか?」

 

溢れ出る敵意を怪訝に感じながら声を掛けると、団員は露骨に侮蔑の色を浮かべる。

 

「アスナ様は今お忙しい。部外者はお引き取り願いたい」

 

質問には答えず吐き捨てるように告げると、団員は奥へ進む道に立ち塞がった。

 

「......失礼しました。後日お伺い致します」

「アスナ様に気に入られているからといって、調子に乗らないことだ」

 

キャロルは尚も立ち塞がる団員に頭を下げると、出口の方に向けて振り返った。

 

「――キャロル!」

 

最初の1歩を踏み出すより早く、廊下に慌てたような声が響き渡る。

再び振り返れば、廊下の奥から駆け寄るアスナの姿が見えた。

アスナは挙動不審になる団員を押し退けるようにしてキャロルの前に立つと、胸に手を当て軽く息を整える。

 

「ごめんなさい、少し緊急の用事が入ってしまって遅れてしまいました」

「いえ、大丈夫ですよ。ですが今日は辞めておきましょうか。お忙しいようでしょうし、また後日にしましょう」

 

キャロルが申し訳なさを滲ませながら告げると、アスナは団員の方を向き眉を吊り上げた。

 

「クラディール。キャロルに何か余計な事を言いましたね?」

「い、いえ。わ、私はアスナ様の事を考え......」

 

怯えた声はそれを事実だと認めているようで、アスナは地面を強く踏み鳴らすことで黙らせる。

 

「キャロルには私が強くなる為に、私が頼んで師事して貰っています!此処に来て頂いているのも私を気遣ってのことですし、団長に許可もとっています!もし不満があるのなら私に言いなさい!キャロルに何かいう事は許しません!」

「私はアスナ様の護衛を......」

 

烈火の如き怒りを見せるアスナに押されているのか、クラディールは弱弱しい声をあげる。

 

「貴方には笑う棺桶について得られた情報を集める仕事を任せたはずです!護衛は必要ないと言いました!」

 

それに、とアスナは隣に立つキャロルの腕を抱いた。

 

「キャロルがいるので万が一なんてことはありません!」

「......ええ、そうですね。万が一なんて事は私が起こさせません」

「失礼しました」

 

クラディールはギリッと奥歯を噛むと、一礼して歩き出す。

怒りが床を通して伝わってくるような足音は、出口の方へと消えていった。

それを確認したアスナは先程までの剣幕とは打って変わって申し訳無さそうな表情で、キャロルに頭を下げる。

 

「す、すみませんキャロル。貴方を使うような真似をしてしまって」

「いえ、大丈夫ですよ。それにしてもアスナが彼処まで怒るなんて珍しいですね......といってもつい先日怒らせてしまった私が言えるようなことではないかも知れませんが」

 

あの時は声は荒げていないものの、先程よりも遥かに恐ろしい雰囲気だったと思い出す。

最もそれは自分のことを案じてのことであり、その事に対してキャロルは感謝の心しかなかった。

その時のことを思い出したのか、アスナはなんとも言えない笑顔を浮かべる。

 

「あはは......彼は私の護衛と称して周りの人に強く当たったり、私の家の前までやって来たりしていたんです。必要ないと言ってるのですが」

「なるほど」

「真面目な人なんですけどね。すみません今ドアを開けます」

 

アスナが扉に近づく中、キャロルは先程クラディールが消えていった廊下の方を眺める。

覚えていろ。

通り過ぎざまに囁かれた声には紛れもない憎悪が篭っていた。あんな感情を向けられたのは久々で、キャロルは腕を強く握りしめた。

 

 

 

「そういえば笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の話をしていましたが、どうかしたのですか?」

 

勉強の合間の休憩時間にキャロルがふと尋ねると、アスナは気まずげな表情になった。

 

「もし言えないのなら大丈夫ですよ」

「いえ......同じキャロルの耳に入るのなら、私から告げさせてください」

 

アスナはお茶を一口飲むと、小さく息を吸って話しだす。

 

「実は、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のアジトが判明したんです。近々大規模な討伐作戦が展開されることになりました」

「それは......」

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の名を知らないものはこの世界には居ないだろう。

このSAOの世界で最もプレイヤーを殺害している凶悪なギルド。

今まで何度も被害があり、その度に討伐隊が結成されていたが足取りを掴むことは出来なかった。

 

「密告があったんです。何度かうちの団員が確認に行きましたが、レッドプレイヤーが出入りしているのを確認しました」

 

仲間に引っ張られるようにして笑う棺桶(ラフィン・コフィン)に所属させられたプレイヤーが、殺害行為に耐えきれず抜け出してきたらしい、とアスナは続ける。

 

「なるほど」

「情報が漏れるのを警戒して作戦は血盟騎士団(うち)と青龍連合の団員と、限られた最前線のメンバーで行うことになったのですが......恐らく、キャロルにも声がかかると思います」

 

アスナは悔しさを前面に出した表情で告げる。

討伐戦は文字通り、生死の掛かった戦いになるだろう。捕縛できるに越したことはないが、相手がそう簡単に捕まってくれるとは思えない。"プレイヤー殺し"になる可能性も十分に考えられた。

キャロルはそんなアスナの頬に柔らかく手を当てると、そのまま撫でた。

 

「そんな表情をしないでください。確かに、プレイヤーとの戦いに躊躇いがないと言えば嘘になります。ですが......アスナや共に戦った仲間が死ぬより、ずっといい」

「キャロル......」

「もし声が掛からなかったら、その方が私は悲しかったです。ですからありがとう、アスナ」

「私の方こそ、ありがとう。キャロルが居てくれれば心強いです」

 

二人でまるで握手のように手を握り合うと、どちらともなく笑い声が漏れる。

 

「先程も言ったとおりアスナの事は私が守ります。心配しないでください」

「なら私はキャロルを守ります。安心してください!」

「ふふ、それは心強いですね」

 

アスナと再び笑い合う。

クラディールの言葉はいつの間にかキャロルの脳裏から消え去っていた。

 

 

それから討伐隊での何度かの打ち合わせが行われ、討伐隊はキリトやアスナ、その他メンバーの大部分を含む前線部隊と、入口付近で逃げ出したメンバーの捕縛を行う後方部隊とに振り分けられた。

キャロルは本人たっての希望で後方部隊に所属し、リーダーとして指揮を行っていた。

 

「すみません、ではよろしくお願いします」

「任せてください!」

 

後方部隊の中で一番隠密に長けたメンバーに偵察を任せ、キャロルは暫し考え込む。

今回の討伐、メンバーの熟練度で考えればこちらが圧倒的に有利である。

何事もなく進めば不意を突かれたあちら側は瓦解し、大多数は苦もなく討伐できるだろう。

問題があるとすれば一部のリーダー格、特にギルドマスターであるPoHの存在。

そして、此方の情報が向こう側に漏れていること。この可能性が一番厄介だ。

そもそも熟練度の高い血盟騎士団相手に、そう何度も手掛かりの一つ残さず逃げ切ることが出来るだろうか?

あまり考えたくはないが、内通者がいる可能性も捨てきれない。

 

「ほ、報告です!前線部隊の後ろ側から敵のメンバーが!挟み撃ちに!!」

「っ!後方部隊は私についてきてください!」

 

最悪の想像が現実になってしまったと、キャロルは思わず小さく悪態をついた。

 

 

 

洞窟内に飛び込めばそこには包囲されかけた前線部隊の姿があった。

すぐに駆けつけたこともあり、幸いなことにまだ前線部隊に犠牲者は出ていないようだった。

キャロルは一瞬自分の手のひらを見つめると、強く剣を握り直す。

 

今ならば、まだ間に合う。

 

キャロルは勢い良く飛び出すと、此方に背を向けた笑うレッドプレイヤーに斬りかかる。

長剣上段技"スターブレイク"。

振り抜かれた剣は僅かな抵抗と共にプレイヤーの身体を通り抜け、地面へと突き刺さった。

 

「こっちです!」

 

ポリゴンが砕け散るのとほぼ同時に、剣を軸にしたキャロルは隣のプレイヤーに向けて回し蹴りを放つ。

十分に威力の乗った蹴りは団員の身体を浮かせ、そのまま他の団員を巻き込んで倒れた。

 

「さぁ、こちらに!」

 

キャロルは剣を引き抜くと、動揺から立ち直った逆側の団員に向かって斬りかかる。

後方部隊の面々もそれぞれ体勢を崩した団員達に向けて剣を構えた。

包囲網のうち入口側の一角が、大きく崩れた。

 

「態勢を整えます!一旦入り口の方に!」

 

下がりだした前線部隊に向けて笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のメンバーが次々に襲いかかる。

しかしその行く手を、キリトとアスナが阻んだ。

 

「まさか本当にキャロルの言う通りになるなんてな」

「当たってほしくはなかったけれど......最悪の事態は防げた!」

 

アスナとキリトは事前にキャロルから、想定される可能性を全て聞かされていた。そして、その際にどう動くべきかも、事前に何度も話し合っていた。

二人は隙のないコンビネーションで、襲いかかる笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のメンバーを食い止める。

前線部隊の間を縫うようにして現れたキャロルも、二人の死角を無くすように立ちはだかった。

 

「二人共体力の消耗が心配です、一旦下がって回復してください。ここは私が食い止めます」

「それじゃキャロルが!」

 

キリトとアスナは犠牲を出さないために前に出て戦っていた分消耗も激しかった。

そんな二人を守るように、キャロルは一歩前へ出る。

 

「大丈夫、殿を務めて私も下がります。すぐに味方も来ますし、無茶をしてアスナに怒られたくはないですからね」

「......もう!」

 

悪戯っぽく笑うキャロルの姿に、アスナとキリトは剣を構えたまま下がり始める。

キャロルの言う通り後方と、補給を終えた部隊が二人を追い越すように前線へと復帰し始めていた。

それを横目で確認したキャロルが自らも剣を構えたまま後ろに下がりだす。

寸分の隙もないその姿にアスナは小さく安堵の息をはいた。

 

その瞬間。何かが視界の端で煌めき、二人の間を駆け抜けた。

思わず目で追えば光の向かった先――――撤退しようとしていたキャロルの身体が、ぐらりと傾く。

 

「......え?」

 

アスナの口から、呆然とした声が漏れる。

体制を崩したキャロルのその背には小さな短刀が突き刺さっていた。

その短刀はキャロルが気を向けていない後方から、キャロルに向かって飛来していた。

後方――――味方であるはずの前線部隊の方向から。

 

「キャロル!!」

 

洞窟にアスナの悲痛な声が響き渡った。

 




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