Sword Art Online ”Camellia” 作:りこぴん
まえがきの時点じゃ本編は真っ白です。
なのでネタバレも何も起こらないので自由に書けます、やったね。
さて、狩りくらいまで話が進むといいなぁ。
あの時は大変だった......とキャロルは二日前を振り返り独りごちる。
あの後暴走したアスナを止めるのに多大な労力を使い、更にもともと静かな雰囲気の店だったことが災いし通報で店から追い出されてしまった。
その後冷静になったアスナは顔を真っ赤にして謝って来たが、どう考えても悪いのは自分とリズである。
そう伝えたのだがアスナは納得せず、逃げるようにしてその場は解散してしまった。
その場の状況からてっきり今日の集まりは無くなってしまったものだとばかり思っていたが、先程アスナからもう少しで此方に着くというメッセージを受け取った。
自分がやっていたのはそれほどにも勿体無いことだったのだろうか?
しかしどんな理由にせよ人が訪ねてきてくれるのは嬉しいものである。
細かい場所までは分からないだろうから門まで迎えに行きましょう。
そう思ったキャロルは外套を着るとドアを開いた。
アスナは門を抜け、村に向けて歩いていた。
一定の歩幅で変わらず歩くその姿は騎士たるものを感じさせるが、しかし内心は冷静とは程遠い感情で彩られていた。
原因は二日前の喫茶店。
キャロルに言われた言葉に色んな感情が爆発して、言ってはいけないようなことをたくさん口走ってしまった気がする。
正直な話キャロルと顔を合わせるのですら恥ずかしいが、彼女とは是非もっと仲良くなりたい。
先程おっかなびっくり送ったメッセージの返事も、楽しみにしているとのことだった。
どの道ここまで来たら行くしかない。
腹をくくり村の中を突き進んでゆくが、ふと気づく。
「......そういえば、キャロルの家の場所を知らない」
こんな当たり前のことにすら気づかないほど自分は動揺していたのか。
ため息を吐いてメッセージを送ろうとウインドウを開いたとき、後ろでドアの開くような音が響く。
「アスナじゃないですか。よくこの場所が分かりましたね」
綺麗な鈴の音のような声に振り向けば、ドアに片手を掛けたままのキャロルが此方に向けて手を振っていた。
門の所で待とうと外に出たが、キャロルは家の脇道にアスナがいることに気付いた。
声を掛けて手を振ると、アスナはしばし硬直したあと小走りで此方へと来た。
「申し訳ありません。門の所で出迎えようと思っていたのですが......迷ってしまいましたか?」
「だ、大丈夫です。早く来すぎたのは私だし、丁度連絡しようと思ってたところを見つけて貰いましたから」
そう返事をするアスナの表情はどこかぎこちない。
やはり先日の一件を引きずっているのだろう。
「それは良かったです。どうぞ、何もない部屋ですがコーヒーくらいは出しますよ」
しかし今蒸し返すのはあまりいい選択とは思えない。
気づかない振りをし部屋へと案内すると、硬かったアスナの表情が急速にほぐれてゆくのが見て取れた。
「わぁ......綺麗な部屋ですね。それにとっても暖かい」
「物が無いだけですけどね。他の方々の部屋とは比べるまでもありませんよ」
パチパチと燃える大きな暖炉くらいしか、目立ったものもない部屋だ。
想像でしかないが、アスナの部屋とは比べるまでもなく見窄らしいものだろう。
そう思っていたがアスナは首を振った。
「そんなことないです。なんだか心が落ち着く......ここだけ時間がゆっくり流れているみたい」
アスナは本当にそう感じてくれているようで、先程までの緊張した表情が解れていた。
住みやすさだけを考えたこの家に思うことはほとんど無かったが、そう感じて貰えると思うと愛着も湧いてくる。
「もしかしたら、キャロルの優しげな雰囲気がそうさせているのかもしれませんね」
「......ありがとうございます」
思わず胸が高鳴った。
そう言って柔らかく微笑んだアスナの姿が、とても魅力的に見えたのだ。
こんな表情で不意打ちされたら、大抵の男性は勘違いしてしまうのではないか。
「どうぞ、ゆっくりしていて下さい。飲み物でも持って来ます」
内心の動揺を悟られぬよう告げると、キッチンへと向かう。
現実とは違い、スキルによって入れられる飲み物は入れるのに大した時間はかからない。
はやくこのドキドキが治まりますように。
胸に手を当てそう祈りながら、キャロルはスキルウインドウを開いた。
どうにか心を落ち着かせて部屋に戻ると、アスナは珍しいものを見るように暖炉を眺めていた。
「そんなに珍しいですか?確かに、日本には暖炉というものがあまりないようですが」
木材の乏しい日本では、暖炉は馴染みのないものだろう。
そう思い尋ねると、案の定アスナは首を縦に振った。
「はい。本物を見たのは初めてでしたので」
「確かに、熱効率の悪い暖炉を日本で見ることはあまりないでしょうね」
「だけどいいですね、心が落ち着きます」
確かに暖炉には、エアコン等には無い独特の風情というか、暖かさが感じられる。
最も、現実世界ではこれに手入れや臭い等のマイナス要素が発生してくるためどちらの方がいいとは一概には言えないが。
「そう思って頂けるなら、設置してあるかいがあるというものです。どうぞ、大したものではありませんが」
「ありがとう」
二人分のコーヒーもどきをテーブルへと置く。
匂いから味までコーヒーそっくりだが、原料はコーヒー豆ではなく、下の方の階層で取れるカトムス豆という豆である。
別にコーヒーの味なのだから同じ名前で良いと思うのだが、何かこだわりでもあるのだろうか?
「あの、キャロル?」
声に気付き思考を打ち切ると、アスナが怪訝そうな表情で此方を見ていた。
「......申し訳ありません。聞いていませんでした」
昔から集中すると周りの声が聞こえない癖があるとよく思っていたが、まさかこんな世界に来てまで同じようなことを感じるとは。
自責の気持ちに囚われるキャロルに、アスナはくすりと笑う。
「キャロルっていつも何かを考えていますよね。何を考えていたか、聞いてもいいですか?」
「別に大したことではないですよ?......今回は、何故コーヒーの原料をわざわざカトムス豆という名称にしたのか、と考えていました」
想像以上に下らないことだったのだろう。
アスナはぽかんとした後、堪えきれなかったかのように笑い出した。
「面白いこと考えているんですね。でもそれは簡単ですよ?仮想の世界に現実のものの名前を出してしまうと何というか、世界観が薄れてしまうからです。お約束みたいなものですよ」
「......そういうものですか」
正直ゲームに触れたのすらこれが初めての自分には分からないが、そういうものなのだろう。
論文でわざわざ専門的な難しい言い回しを多用するようなものか、と微妙にずれた納得をし、再びアスナに目を向ける。
「なるほど、納得しました。......それで、何の御用だったでしょうか?」
頃合を見計らって話を戻すと、アスナは何故か迷いの表情を浮かべる。
何か不味いことをいっただろうか?
自分に落ち度がないか考えかけた時、おずおずといった様子でアスナが切り出してきた。
「......良かったらパーティーを組んで出掛けませんか?」
「パーティー、ですか?」
驚いた用に声を出すと、びくりと身を竦ませる。
......前々から思っていたが、なぜ自分が感情を表に出すと周りは大きな反応を示すのだろうか。
「構いませんよ。もしかしてアスナは、私が怖いのですか?」
「え、ええ!?そんなことないです!」
アスナは喜びの表情から一転、慌てたようにぶんぶんと手を振った。
「ですが......私の発言がアスナを一喜一憂させてしまっている気がしてならなくて」
「あ、あはは......出会ってばかりなのにパーティーなんて、図々しいと思われないか不安だったんです」
思えばアスナとはまだ出会って二日、時間にして数時間程度である。
普通に考えれば、背中を預けて戦うパーティーの結成にはそれなりの信頼関係が必要であり、断られるという懸念はあってしかるべきだろう。
納得したように頷くと、アスナは何故かほっとしたように息を吐いた。
「光栄ですよ、アスナほどの人にパーティーを組んで貰えるなんて。それに、信頼して貰えているように感じられ嬉しい。是非よろしくお願いします」
照れくささを感じつつも伝えると、アスナの表情は喜びに彩られる。
「ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いしますね!」
パーティー結成希望を送り、手を差し出す。
帰ってきたのはパーティーの結成を告げるメッセージと、柔らかい手の感触だった。
話が進展していない......。
私の頭の中でキャロルさんが勝手に考え込み始めるんです。
次話は絶対に狩りに出かけます、絶対に。
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