Sword Art Online ”Camellia” 作:りこぴん
アスナ視点からスタートします、それではどうぞ。
「そうだ、アスナ。せっかくパーティーを組んだのだから少し出掛けませんか?昨日スノウパンサーを見つけたのです。日没も近かったので無視しましたが、追跡が働いているので簡単に見つけられますよ」
どうやって狩りに誘うか考えていると、そうキャロルの方から誘いを掛けてくれた。
「是非お願いします!」
もちろん二つ返事で了承する。
どんな戦い方をするのか、一緒に狩りに出かけるのが純粋に楽しみだった。
それと、狩りでいいところを見せたい。
今のままでは自分は挙動不審で変な人となってしまうかもしれない。
キャロルは気にしている様子はなさそうだが、自分が気になってしまう。
頑張っていいところを見せよう。
そして私にもっと興味を持ってくれると嬉しい。
そんなことを考えながら、密かに気合を入れる。
数分後、着替えて出てきたキャロルは髪の毛と細かな意匠以外ほぼ全て白で統一されていた。
「ここで買える、ドロップするもので作ることが出来るのは白い色のものばかりで......。見えにくかったら言ってください、服装を変えます」
自分の視線をどう受け取ったのか、苦笑を交えくるりと回ってみせる。
しかし見えにくいなんてことはない。
髪の色が映え、よく見えるだけでなくとても似合っていた。
まるで雪の上に咲く椿の花のようだ。
「大丈夫です、よく似合ってます!」
「それなら良かったです。では行きましょうか」
安心したように笑うと、此方の動きに合わせ歩き出す。
門の辺りまで来たところで、キャロルはウインドウを触り始めた。
多分追跡スキルの発動をしているのだろう。
追跡を発動させると、地図上に追跡エネミーの大まかな情報が表示されるようになる。
先程貰った地図は、この四十六層の地形が完璧に表示されていた。
高額で売れるだろうそれを簡単に渡してしまうあたり、信頼されているのかと嬉しく思う反面、彼女には物欲というものが欠如しているのじゃないかと感じてもいた。
こういう所は私が教えてあげなきゃ。
先日の喫茶店での出来事を思い出し、アスナは決意を新たにするのだった。
彼女の戦闘は有り体に言えば堅実、だった。
無茶な動きはしない。モンスターの動きを良く見て、確実にダメージを与えていく。攻撃が来ると、回避に努め隙を伺う。決して珍しくないオーソドックスな戦法だったが、アスナは先程から違和感を感じていた。
「アスナ、左から来ますよ」
キャロルの宣言通り雪の中から飛び出してきた、狼型のモンスターの攻撃を防ぐと返す刃でモンスターにダメージを与える。
急所に命中クリティカル判定が出たのか、一撃でモンスターはポリゴンの破片と化した。
......まただ。
違和感が確信に変わってゆく。
この階層が嫌われる理由はなんといってもこの雪にある。
強力な
そんな雪に潜り雪中で移動をする先ほどのようなモンスターの探知はほぼ不可能と言ってもいい。
しかし先程から、キャロルの動きは恐ろしい程に適切だった。
振り向けばそこから敵が飛び出す。
投剣を投げればモンスターに先制ダメージが入った表示が出る。
「アスナといると戦いが楽です、ありがとうございます」
そう言いながら振り返るキャロル、その表情が心配そうなものへと変わる。
「やはりやりにくいですか?別の階層にしましょうか」
そう言われて初めて自分の状態に気づいた。
襲ってくる敵を倒すだけ、他の敵を全てキャロルに任せっきり。
「だ、大丈夫です!」
何をやっているんだろうか。
自分の身を案じ、大変な役回りをしてくれている彼女に甘え考えに耽り、ろくに戦ってもいなかった。
そもそもの目的は二人での外出を楽しみ、そして良いところを見せることだったはず。
余計なことを考えずしっかりしろ。気合を入れ直せ。
自分を諌めるように内心呟くと、思考を払拭するように頭を振る。
「......わかりました。それでは行きましょうか」
心配そうな表情のままだったが、キャロルは何も聞かずそう言ってくれた。
彼女は何者なのか。
地図に従って歩くキャロルの横顔をちらりと見る。
やっぱり何処かで見たことがある気がする。
もしかしたらこの既視感は、自分が思ってるよりずっと重要なことかもしれない。
それから、スノウパンサーを見つける所までは良かった。
レアエネミーは強さが桁違いだという話だったが、噂に過ぎなかったらしく順調に体力を減らして行く、そこまではよかった。
しかし、自分は単純なことを見落としていた。
何もステータスが高いことだけが、強さを決める要因ではないということを。
「これは......ダメ、かも」
スノウパンサーの声に応じて飛び出してきたモンスターの数は、十を越えようとしていた。
レアドロップは勿論欲しいが、命には代えられない。
転移結晶を使おうとキャロルを振り返り――しかしキャロルはそこにはいなかった。
「今回は少ないのですね。二人になると行動ルーチンが変わるのですかね」
声を頼りにそちらを向くと、いた。
キャロルは単身でモンスターの大群に向かってゆく所だった。
思わず思考が停止する。
声を上げる暇もなく、狼のうち数匹がキャロルに向かってゆく。
――間に合わない。
敏捷ステータスにものを言わせ辛うじて一匹は倒したが、それでも十分な数のモンスターがキャロルに殺到している。
「ダメ......!」
アスナは思わず目を閉じた。
同時に、ポリゴンの砕ける独特な音が響き渡る。
それが立て続けに3回。
......3回?
恐る恐る目を開けると、そこには何事も無かったようにたち続けるキャロルの姿があった。
これは一体何が起こっているの?
アスナは目の前で起きている出来事が信じられなかった。
静かなはずの雪原には獣の咆哮が響き渡り、辺りには両手で足りない程の数のモンスターがこちらを睨みつけていた。
これが下層のモンスターならまだしも、ここは四十六層。
勝利は絶望的、撤退できて御の字という状況である。
だというのに。
――目の前の少女の体力は、1ドットも減っていなかった。
......ありえない。そう、ありえないことだ。
加えて、自分が死なないよう回復の隙を作ってくれているのはこの少女なのだ。
たとえ攻略組のメンバーだったとしても不可能、勿論自分などでは出来るはずはない。
それを数日前に出会ったばかりの、戦いにまるきり向いていなさそうな少女が行っているのだ。まるで、当たり前のように。
アスナは湧き上がる感情を抑えることが出来なかった。
唐突に雪から飛び出してきたモンスターを、まるで見えているかの如く攻撃をかわしそのまま一撃。
ポリゴンの光と共にモンスターが砕け散る。あれほどいたモンスターの群れは、殆ど姿を消していた。
もちろん自分が倒したものもいるが、大多数はキャロルによって片付けられたものだ。
もはや予知能力のような正確無比な攻撃。一体どのようにしたらあのような動きが出来るのだろうか。
最後の一匹を斬り飛ばし、こちらを向いて微笑んだキャロルに思わず体の力が抜けた。
「アスナのお陰で普段の半分程度の時間で済みました、ありがとうございます」
そう微笑むキャロルの姿が、もう人間を超えた何かに感じられる。
何十というモンスターに囲まれ傷ひとつ負わない、そんなことが人間に可能なのだろうか。
彼女は本当に、人間、なのだろうか。
と、突如キャロルは笑顔を消し此方に向かって走り出す。
まさか考えていることを......そんな有りもしないことに囚われ、思わず目を閉じてしまう。
「アスナ、危ない!!」
そんな声と共に強く引っ張られる感覚。そして自分のものではない苦悶の声。
慌てて目を開けると、自分を守るように立ち塞がり背中にスノウパンサーの攻撃を受けたキャロルの姿があった。
「......っ。確認を忘れていましたよ。まさか、雪中を移動しているとはっ」
剣を振りながらパンサーを押し飛ばし、相対する。
ふと見れば、あれほどに減らずまるで無敵のように思えた彼女の体力はイエローを示していた。
......つまり彼女は、自分の危険を顧みず。狩猟区でしゃがみこみ目を閉じるという自殺行為をした私を助けたということ。下手をすれば自分が死ぬかもしれないというのに、だ。
そんな彼女に対して私は何を思った?
常に此方を気にかけてくれていた少女に、どんな感情を抱いていた?
曇っていた思考がクリアになってゆくのを感じる、と共に現れたのはとてつもない罪悪感と自分への嫌悪だった。
「......何をやってるの、私は」
自分が情けなくなる。今すぐキャロルに何度だって謝りたい。
しかしそれはまだ、今は嘆く時じゃない。
剣を握り締め、スノウパンサーを見据える。
しっかりと状況を見つめ気を伺っていると、スノウパンサーが大きく後退した。
「キャロル!」
声をかけると同時に飛び出す。
キャロルは察してくれたのか、スノウパンサーの注意を引き付けるように動き始めた。
もてる速度の限界を持って飛び出し、無防備な腹に細剣を突き立てる。止まらずに三度、そして切り払い攻撃に繋げてゆく。
細剣八連撃”スタースプラッシュ”。
最後の突きが決まると同時に、スノウパンサーはポリゴンの破片となって砕け散った。
「流石ですね。難しい連続技を苦もなく......それに速度も凄まじいものでした。助けて下さりありがとうございます」
声に振り向けば、キャロルがすぐ近くまで来ていた。
その表情からは窺い知れないが、きっと怒っているだろう、当然だ。
謝らなくちゃ。
気持ちに突き動かされ一歩踏み出すが、次々と浮かぶ感情だけが溢れ出し言葉にならない。
するとキャロルは徐ろにメニューを開いた。
今すぐ解散申請を叩きつけられるんじゃないか、そんなことを思うがキャロルはやがてキラキラと輝く鋭い爪のようなものをオブジェクト化した。
「これが手に入って本当に良かったです。大変な思いをさせてしまった上に手に入らなかったんじゃ申し訳ないですから」
そして”それ”――スノウパンサーの刃爪を笑顔と共にこちらに向けて差し出す。
あんな失態を犯した私を怒るでもなく、軽蔑するでもなく、本当にホッとしたような表情を浮かべ。
「......っ!」
限界だった。
感情の溢れるままに目の前の少女を抱き締めれば、瞳からは勝手に涙が溢れ始める。
「あ、あのアスナ?なにを」
「ごめんなさい!!......本当に、ごめんなさい......」
目を白黒させ慌てる彼女を更に強く抱き締め、縋るようにして謝罪の言葉を続ける。
「ごめんなさい......私、あんな......っ!ごめんなさい......!」
涙は次々と溢れ、キャロルの服を濡らしてゆく。
このままじゃ服を汚してしまう。
しかし、一度溢れ出した感情は当分は止まってくれそうになかった。
次回、キャロルの強さの秘密が明らかに?
誤字脱字の報告、感想等お待ちしてます。