Sword Art Online ”Camellia”   作:りこぴん

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前書きの内容が思いつかなくなってきました。
大まかなストーリーは決まっていますがはてさて、どうなることやら。


精密機械

自宅に戻り、どうにか落ち着き始めたアスナから話を聞く。

暖かいコーヒーを淹れ彼女の前に出すと、こらえきれなくなったように頭を下げてきた。

 

「本当にごめんなさい!......私、酷いことを......」

「な、泣かないでください。気にしてませんから......むしろ、申し訳ありませんでした」

 

アスナの綺麗な瞳が再び潤み始める。

慌てて肩を抱きしめながら、思考は先ほどのアスナの言葉を考え始めていた。

 

全く悲しくなかった、と言えば少しは嘘が混じる。

しかしそれ以上の納得と、そして後悔の念が感情の大多数を占めていた。

 

「本当に申し訳ありませんでした。他の戦い方を知らなかった......なんて、言い訳にもなりませんね。このゲームを始めて2年近く経ちますから。きちんと説明しなかった私が悪いのです。だからどうか顔を上げて、何時もの素敵な笑顔を見せてくれませんか?」

 

言葉を重ね、ハンカチを差し出すとアスナはようやく顔を上げてくれた。

本当に申し訳ないことをした、と思う。

あの戦い方はいわば、自分がこの階層で戦う場合のみを想定して考えた専用武装(オートクチュール)のようなものだ。

桁違いの効率をたたき出せる反面、この階層でしか使えず、またそれなりに準備も必要だった。

それを前情報なしでいきなり見たとあれば、まるでチートのよう。そういった感情を覚えるのも当然だろう。

 

「少し、話を聞いてくれますか?」

 

制するように言うと、彼女は迷ったような表情を浮かべ――しかし、ぎこちないながらも笑顔で頷いてくれた。

 

「ありがとうございます。では......例え話になりますが、アスナは運動は得意ですか?」

「えっと......苦手じゃないとは思います」

 

アスナは突然の質問に対し、不思議そうな表情ながらもそう返してくれた。

 

「素敵ですね。では飛んでくるボールを打ち返してほしいといったら打ち返せますか?」

「出来なくは無いけど、失敗はするかも......」

「では練習しましょう。どうですか?一定速度で飛んでくるボールを返せますか?」

「それなら......多分」

「もしボールが、発射された瞬間から見えなくなったらどうでしょうか?発射地点と、速度が分かっている。十分に練習もした。どうですか?」

「......当てるくらいなら、出来ると思います」

 

質問の意図が分からないながらも、きちんと考えて答えを出してくれる。

本題はここからだ。

 

「ではそのボールをモンスターに変えてみたらどうですか?どうでしょう、見えないモンスターの攻撃をよけられますか?」

 

その質問で意図はわかってくれたらしい、しかし表情は微妙だった。

 

「勿論、モンスターの動きはそんなに単純ではありません。ランダム性や動きの多彩さが、階層の難易度に応じて追加されています。同じ動きを繰り返すモンスターなど、プレイヤーから見ればただの的ですからね。......ところでアスナ、四十六層が嫌われる原因はなんででしたっけ?」

「それは勿論、索敵の効かない雪中からモンスターが襲いかかってくるからです」

 

"索敵の効かない雪中"、これは強烈な難易度の上方補正を階層全体に掛けている。

しかし四十六層のモンスターが、例えば六十層よりも格段に強いなんてことがあるかと聞かれれば、否。

ゲームバランスを考えたとき、多少の前後はあれど上に行けば上に行くほど難しくなる設定は崩されてはならない。ダンジョンならまだしも、雪原はただのフィールドに過ぎないのだから。

ならばどうするか。モンスターの思考パターンやステータスを低下させることで、難易度の調整を図るのが最も簡単な手法だろう。

 

「そう、雪自体が格段に難易度を上げるこの層は、実を言えばモンスターの行動パターンは余り多くはないのです。それに加え"雪中"を移動する、これは下手をすればプレイヤーを一方的に嬲り殺すことが可能。そんなことにならないようにする......それでとられているのが、雪中での動きを単純化すること。つまり雪中でのモンスターの行動パターンはとても少ないのです」

 

プレイヤーに向かってくるか、止まったままか。その程度のものだ。

雪という慣れないものに拒絶反応を示しているだけで、ここでの戦いはそう難しいものでもないのだ。

 

「......キャロルの話は良く分かりました。でもごめんなさい、それだけじゃ納得できません」

 

アスナは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「と、言うと?」

 

「確かに凄いです。嫌われている階層の原因を逆手にとって、モンスターの動きを予測する。私じゃ思いつかなかった......でも、それなら私でも出来ます」

 

私にも出来る。

下手な根拠よりよほど説得力がある一言だった。

 

「さっきの戦い......どんな方法――例え、モンスターの行動パターンが全部わかっていたとしてもあんな動き、私には出来ません。だってその場が分かっていたとしても、よけられない攻撃だって出てくるはずです。モンスターは生き物のように動いているんだから。なのにキャロルにはそれが無かった、よけられない攻撃が無かった。あれはまるで......」

 

「予知、ですか?」

 

アスナは驚いたような表情をしつつも頷く。

彼女は驚くくらいに頭が良かった。話すと決めた以上迷いはしない。しかし、全てを話す前にこれだけは言っておかなければならなかった。

 

「アスナ、全てを話しましょう。ただこれだけは言っておかなければならない。......もし、私が怖かったら言ってください。出て行ってくれてもいい。決して......決して、私は恨んだり軽蔑の感情を抱いたりしません」

 

直ぐ様反論しようとしている様子が見て取れる。しかし、私の真剣な様子を見て思いとどまってくれたようだった。

 

「分かりました。でも絶対そんなことはありませんから」

 

強い意志の込められた口調。そんな彼女がとても好ましく思えた。

コーヒーを一口のみ、喉を潤す。

 

「......アスナは人間にあって機械にないもの、と言われたら何を思いつきますか?」

 

昨今において機械は日に日に進化を続けてきている。

人間の補助や代用、人間と機械の差は徐々に縮まってきているといってもいいだろう。

少し考える素振りを見せるが、答えは直ぐに返ってきた。

 

「感情、かな」

「素敵な答えですね。勿論機械に感情はありません。しかし、人の心の動きとそれによって起こる動作をプログラム化し機械に搭載すれば、擬似的な感情は再現できると思いませんか?」

「そう言われると......確かに」

「意地悪な言い方でしたね。......私は、閃きだと思っています。例えばチェスで負けている時、AIに出来るのは元も良い手から最も悪い手まで。チェス盤をひっくり返すことなんてしませんよね。元々プログラムに組み込まれていない動作は出来ないし、考えつくことができない。まぁ、ひっくり返すプログラムを入れてあれば別ですが......そんなAIとは戦いたくないですね」

 

負けそうになったらチェス盤をひっくり返すAI、斬新である。

付け加えた言葉に、アスナはくすりと笑ってくれた。

そう、AIに可能なのはプログラムに入っている動作だけ。

それは裏を返せば。

 

「つまりAI等には全てプログラムがあることになり、如何に多彩に動いて見せようとそれはプログラム上に設定された動作を再生しているに過ぎない、ということになりますよね?」

 

それはAIがAIである限り逃れられない宿命。

学習型AIだったとしても、それは同じである。

 

「それならばプログラムを読めばいい。モンスターの動きからAIのプログラムを読み取り、解析し、理解する。モンスターの説明書を持っているのだから、まるで予知の如き動きが出来る」

 

どういう場合にどのような動きをするか、攻撃をしてくるか。

どこに移動するか、どれぐらいの速さで移動するか。

その全てが分かっていれば、回避をすることは大して難しいことではない。

 

「実は私、索敵系のスキルをいくつかマスターしているんです。雪上ならばモンスターがどこにいようと情報が入ってくる。動きがわかって説明書があれば、次にどう動くかが全て分かる。そうなれば次のモンスターの動きも予測出来る。まるで予知の如き正確さで」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

こちらの言葉を遮るようにして、アスナは切り出した。

 

「確かにそれなら予知のように動ける。でも、それは無理なんです!」

「無理、というと?」

「キャロルの言った方法は様々な人達がチャレンジしてます。でも駄目でした。一種類のモンスターにつき細かな行動パターンがある上、それを戦いの中で考えてうごかなきゃならない。モンスターは当然待ってくれないから一瞬でです」

 

僅かな時間のなかで数ある思考パターンの中から最適解を導く。確かに途方も無い手段ではある。

しかし。

 

「アスナはこの言葉を知っていますか? "Anything one man can imagine, other men can make real."。フランスのとある作家の言葉だと言われています。日本語に直せば、”人が空想できるすべての物事は起こりうる現実である”」

 

目的も手順も分かっている方程式など解けたも同然、あとはそれを解く努力が必要に過ぎないのだ。

 

「様々な方が挑戦したと言いましたね。その方々は本当に最後まで”挑戦”したのでしょうか。凄まじい数の挙動に、或いはパターンに最初で諦めた人はいませんか?挫折し、結果を予想し、分かった気になってませんか。本当に全てを暗記し実践し、その結果無理だったと言っている人はいるのでしょうか?」

 

部屋にある大きな本棚に近付くと、辞典のように分厚い紙束を取り出す。一つではない、何冊も。

 

「これは私がこの階層のモンスターのプログラムを解析するのに使った紙です。この世界には物理や電子に特化したプログラムの入ったパソコンなどありませんからね、全て手計算で行いました。先程言った、全ての行動パターンの情報が書いてあります」

「見ても......いいですか?」

 

机まで近付いてきたアスナは、おずおずといった様子で尋ねる。

 

「ええ、どうぞ」

 

何枚かを手に取り、読み始める。

それが終われば次の紙を手にとり、読む。こちらが驚く程の真剣さで読み進めてゆく。

やがて読んだ紙の枚数が二桁に達しようかというところで、アスナは漸く顔を上げた。

 

「駄目ですね、私。書いてある事の一割も分かりません。......でも、一つだけ分かりました」

 

紙束を置くと、真剣な様子で此方に向き直る。

 

「キャロル、貴方は頭が良い。それはもう、私なんかに理解できるレベルじゃ考えられない程に。そんなキャロルに......お願いがあります」

 

意味を測りかね黙り込んでいると、アスナは深々と頭を下げた。

 

「私に勉強を教えて下さい」

「......え?」

 

放たれた言葉があまりにも予想外で、思わず間の抜けた声が漏れる。

 

「迷惑だということは分かってますし、私に出来ることだったら何だってします。だからどうか、お願いします」

「どうか顔をあげてください。......どうして、急にそんなことを?」

 

内心で大きく動揺しながらも声を掛けると、アスナは素直に頭を上げた。

 

「さっきの戦いと、今の話を聞いて思ったんです。"血盟騎士団副団長"だなんて肩書きに甘んじて、わたしは強くなった気でいた。でも違った、思い上がっていた。私はキャロルの背中すら見えない程、遠く後ろに居るんだと気付きました。でもそれでは嫌なんです」

 

そんなことはない、と否定したかった。

しかし出来なかった。

アスナが余りにも真剣で、その雰囲気に呑まれ声すら出すことが出来ない。

 

「私はキャロルの後ろじゃない、隣に居たい。前で守ってもらうんじゃなく、隣で一緒に戦いたい。出会って数日で何を、と思われるかもしれない。でも、私にとってはそんなの関係ないんです。初めて......リズの店で出会ったあの時に、私はキャロルに一目惚れしてしまったんです」

 

それは、初めての言葉だった。

後ろでも前でもなく、隣を歩きたい。

自分の才能にあやかろうと、媚を売り後ろを付き従おうとする人間には何度も出会った。その逆、何とか自分の優位性を示し先を進もうとする人間もいた。

しかし目の前の彼女は拒絶することも媚びることもなく、自分の異常性を知ってもなお隣で戦いたいと言ってくれた。しかも、こんなにも真剣に。

嬉しい、なんて言葉では表しきれない。

身体が何か不思議なもので満たされたような気分だ。

 

「.......分かりました。私は私に持てる全てを貴方に伝えると約束しましょう。私の都合なんて考えなくて構いません。どうぞ貴方が都合がついた時に連絡を下さい。おっしゃってくれれば此方から出向きましょう」

「そんな......ありがとうございます!!」

 

アスナは涙すら浮かべてまた頭を下げようとした。

しかしそんなことはさせない。

隣に立つとはつまり、対等であるということ。

そんな仲に低頭の礼など必要ない。

アスナの行動を妨害するように、強く抱き締めた。

 

「きゃ、キャロル!?」

 

瞬く間にアスナの体温が上がるのを感じる。

 

「おや、今更この程度で照れる必要はないでしょう?先程情熱的な告白をして頂き、それを私が受けたばかりではないですか」

「こ、告白!?」

 

"私はキャロルに一目惚れしてしまったんです"。

言葉だけ聞けば、告白以外の何者でもない。

自分の言った言葉を思い出したのか、至近距離で見えるアスナの横顔は耳まで真っ赤だった。

 

「あ、あああれはそういう意味じゃ......!」

「それは残念です。私が一人舞い上がっていただけだったのですね......一大決心をしてお受けしましたのに」

「そ、それは......私だって本当は」

 

そこでアスナの言葉が途切れる。

どうやら気付いてしまったらしい、キャロルがさっきから笑いを堪え肩を震わせていることに。

 

「きゃっ......キャロル~~!!」

 

照れと怒り、その他様々な感情の篭った声が部屋の中に響き渡った。

 




まえがきを書いてる時点じゃ全く考えていなかった展開になっている・・・。
キャロルは制御工学系を専攻していますが、ロボット等の関係から生物の方面の一部にも手を出している設定です。
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