そろそろお話も動き始める形になるので、早く原作時期に行きたいなぁとも思わなくもなかったり。まあ、やりたいことが沢山だから詰め込んじゃうんですけどね!
そんな感じですが、今回も閲覧なさって下さると幸いです。
「……それで、ちよきち。なんで電話をしてきたの?」
『しぽりんには、色々話しておこうと思ったのよ』
今日は久しぶりに、ちよきちが私に電話をかけてきた。前々から自分も聞きたいことはあったし、丁度いいタイミングであるのは確かだ。だからこの電話はそういう意味でも利用しようと、沢山ある書類からは目線を逸らした。
『多分噂で聞いてるでしょ? うちの娘に政略結婚を持ちかけてきた、あの上役達の話』
「知ってるわ。私達にも肩を持てなんて言われたけど、丁重にお断りしました。幾ら私が西住流で、あなたの娘である愛里寿が島田流でも、私は間違った事に肩を貸すのは嫌いなの。あなたの娘はまだ小さいし、そんな話をいい大人が持ちかけて。なんてね」
『ほんとよね、愛里寿にも私にもいい迷惑よ』
実際良い大人が小さい女の子に寄って集ってなんて、何を考えているのか意味がわからない。噂で聞いているあの子も、黙っていない気がする。あくまでも気がするだけど。
「それで、ちよきち。貴方が手を尽くしている娘さんの専属砲手は、どんな子なの?」
『どんな子って?』
とりあえず、その男の子について質問をする事に決めた。私の中ではその子について、様々な疑問が渦巻いているのだから。
「決まっているわ。なぜ彼が”島田流”と違った動きを指示する時があるのを、黙認してるの?」
『まあ、そこは気になるでしょうね。間違いないわ』
「ええ、だからなぜ?」
私の質問を聞いてちよきちは、少しの間答えない。私がまるで答えを知ってるかのような、間の開き方だ。知らないならマウントを取りにでもくるだろうし。ただ、なんとなく気になる。確かに私もあれは、どこかで見覚えがある。むしろ近かったような。そして、ちよきちの吐息が漏れる音が聞こえた気がした。
『……しぽりんなら少しだけ、教えてもいいかもしれないわね。あの子の名前は神田裕翔。”神田”を受け継ぐものだもの』
「そう、神田を……え?」
『そう、あの子は”軍神”神田由利の息子よ』
その言葉を聞いた私は、心の奥底からしまってあった記憶を思い出す。自分が共に戦った、戦友の名前を思い出せたのだ。
「まさか、あの男の子は”神田流”を継いでるの!?」
『ええ、そうよ。それでいて愛里寿の隣に居る。基本的に砲手をしてるけど、あの子は弟子として全ての技術を詰め込まれている。つまりは……分かるわね?』
「どのポジションであろうと、こなす事ができる……そんな、まだ十二歳の男の子が!?」
『ええ、そうね。元々才能があったのでしょう。それにゆりっぺ曰く、自分の技術をしっかりと伝えた。熱心に覚えようと、努力を繰り返したとも言ってたわ』
「なるほどね……」
それならば合点はいく。ゆりっぺの息子なら、あれほど戦車道が上手くなる訳だ。そしてゆりっぺは常々私達に、”男の戦車道”の価値を話していた。だからこそ読めた。彼女達はなにかしようとしている。
『そこで、しぽりん。貴方にも言っておきたい事があるの』
「……何かしら」
ちよきちは珍しく、真面目でかつ真剣な声色だ。きっと重大な内容が含まれている。だからこそ、彼女が言う事にしっかり耳を傾け、その真意を確かめることにした。
『私は、近いうちにゆりっぺと共に戦車道連盟に、革命を起こすつもりよ。しぽりんにも参加して欲しいの』
その言葉を聞いた途端、私の中であの時の事を思い出した。そして同時に、笑みを浮かべただろう。何故なら。
”面白そうじゃない。それ__”
■■■
夏休み。僕と愛里寿は島田流の本拠地である場所に、二人で帰郷していた。僕としては幼い頃全国を転々としていたから、腰を落ちつけた此処は故郷みたいなものだ。
「それにしても愛里寿。実家に戻ってくるのは久しぶりだね」
「……うん、そうだね。大学に行ってからは、なかなか戻ってなかった」
今日の愛里寿の顔は、何故か優れない。何かあったのかとは思うものの、なかなか聞き出せずにいた。何かあるのかそれとも。そんな事を考えているうちに、いつの間にか島田家に着いていた。愛里寿が鍵を開けて、二人で扉の中に入ると靴を脱ぎ、相変わらず大きい家だなーと思う廊下を歩く。
「とりあえず千代さんは、まだ仕事かな?」
「……分からない。お母さんは多分、今日は家に居るかもしれないけど」
「そうなの? んー、愛里寿が言うならそうかもね」
とりあえず僕は、久しぶりの休息に心を休ませようと思った。愛里寿と一緒になにかやろうかな?とも思う為に、ゲームなどのハードが動くか確かめようかなと思えば、自分の部屋に向かおうとした時だ。
「……だめ、裕翔。行かないで」
「愛里寿?」
急に愛里寿が僕の腕を掴む。そして、強く抱きついてきている。今日は本当にどうしたんだろうと、首を傾げてみたけど答えは出ない。一体何が愛里寿をここまでさせるのか、僕には全く分からない。でも、多分千代さんは知ってるんだろうなぁ。
「あら、裕翔君。愛里寿。もう帰っていたのね」
「あ、お母さん……」
「千代さん、ただいま戻りました」
そんな事を考えているからなのか、千代さんは僕の前に現れた。そして何時もより、険しい表情にも見える。きっと何かがあった事はすぐに分かった。愛里寿は、僕の腕を抱きしめる力を強くする。これは、僕も腹を括るべきだろう。
「とりあえずこの後は、愛里寿も大事な話があるんだけど、裕翔君は大丈夫?」
「……裕翔」
愛里寿は僕の腕を離さない。ここまで弱々しい愛里寿は久しぶりだ。だからこそ決めた。多分この後にある”話”とやらに、ついて行くことを。
「千代さん。僕も行きます。それでいいですか?」
「……裕翔君」
多分、愛里寿に関わることだからこそ、自分で解決したいという意思がある千代さんの気持ちは、とてもよく分かる。だからこそ僕は、一人で抱え込むなという意思を込めたつもりだ。千代さんは、それについて何を言おうか迷っている筈だから、僕の腕を離さない愛里寿を見ながら、もう一つ押してみる事にした。
「一応これでも、僕は愛里寿専属の砲手です。男で戦車道をやっているのは、戦車道関連の人からしたら、疎ましいかもしれません。が、逆に言えばそれ関連なら、実力を見せればいい。”戦車道をやる人間なら戦車道で語れ。”ですよね? まあ、愛里寿の付き人だから、こう言えるんですけど」
「……裕翔君」
千代さんは、呆気にとられたという表情をしつつも、真剣な瞳で僕を見る。”戦車道をやる人間なら戦車道で語れ。”これは、僕の母さんが、よく使っている言葉だ。簡単に言えば、戦車道をやっている人間がいざこざを起こす時、自分には戦車道という武芸があるのだから、それで決めなさい。との事だ。でも、母さんの場合は大抵かなう人が居ないし、強権みたいなものだと思っているのは、内緒にしている。まあ、それを使う僕も僕だが。
「……それなら、あとでその話が始まる時に、一緒に来てもいいわ。愛里寿も安心するでしょうし。と言っても、もうすぐだけど」
「分かりました」
「裕翔……」
とりあえず、不安そうな顔をしている愛里寿を撫でれば、ここ一番の大立ち回りをどう動くか、脳内でシュミレートする。考えられる要素は何か。何が愛里寿を苦しめるのか。僕にできることは。それら全ての可能性がある事を、僕は理解している。そのうえで、今度の敵についても考える。そうだ、僕は母さんのような推察力を受け継いでるんだ。だからこそ、僕は愛里寿の為にもそれを全力で使う。何をすれば、愛里寿と千代さんを助けられるか考えるんだ。
「それじゃあ用意だけしましょうか。裕翔君。正装は今ある?」
「一応フォーマルスーツなら。それが必要なんですね?」
「ええ、そうよ」
「では、一旦自分の部屋で着替えてきます」
とりあえず念の為に持ってきていた正装が、こんな時に役に立つなんて思わなかった。けど、あるならあるだけで重畳だ。愛里寿を助けるためなら、それに着替えるくらいは容易だろう。とりあえず僕は、部屋に向かうことにした。が。
「私も行く」
「あのー、愛里寿?」
「大丈夫、昔なら見てた」
「いやあの、そうじゃなくてね?」
そんな僕の着替えにも、愛里寿はついてきたいと言っている。今日の愛里寿はやっぱり変だから、どうすればいいかなとは思っている。受け入れてもいいが、年頃の男女が二人で密室で着替え。とか、物語の中の出来事だ。いやまぁ、たしかに昔はしてたけど。倫理的にも良くないだろう。だから、僕としてはそれは良しと言えない訳なのだが。ただ、今日の愛里寿は何かが変だ。この状態の愛里寿を放っておくのも、なにか危険な気がする。それならば。
「はぁ、分かった。着いてきていいよ」
「……やったっ」
「あらあら。ふふ」
「っ、行くよ!」
愛里寿はなんとなく嬉しそうにしているし、千代さんの暖かい眼差しがなんとも恥ずかしい。とりあえずその恥ずかしさから逃げるためにも、僕は愛里寿の手を引いて自分の部屋に向かっていく。自分にもそういう部分が残っていたのは、喜ぶべきかそうでないかはわからない。
そうして、部屋まで歩いていくと扉を開けて入る。いつもと変わらない、島田家での僕の部屋だ。いつもと変わらない様子で、少し安心する。
「んー、やっぱりいつもの僕の部屋だ」
「そうだね。裕翔と私が一緒に遊んだ部屋」
母さんが島田家に僕を預けたのは、千代さんと二人で話したから。と僕は聞いている。なんでも、僕が愛里寿の隣にって言った時に、母さんは僕に戦車道の事を教えつつ、愛里寿とのコンビネーションを強化する目的で、僕を島田家に預ける事を決めたとか。父さんも父さんで、僕に整備の経験を積ませながら技術を教えるのは、島田家が適切だと思ったとか。だから、こうして部屋がある。
「それじゃあ着替えるから、愛里寿。少し別な方向いてて」
「分かった」
着替える時間はそんなにかからない。フォーマルスーツに関しては、着るのになれてしまったからだ。島田家のパーティーに出席する時は、基本的フォーマルスーツだったから。
「……ねぇ、裕翔」
「ん?」
いつものように早着替えしていると、愛里寿は声をかけてくる。どうしたのかな。と思ったりするが、まずは言葉を待つ。
「……大丈夫、かな? この後」
いつになく声は震えている。愛里寿はいくら天才と呼ばれようと、少女であることには変わりがない。だからこそ、僕は。
「大丈夫だよ、愛里寿。僕も居るんだからさ」
「……ん、ふふ」
着替え終わると同時に、いつものように愛里寿の頭を撫でる。信頼してくれているのも知っているし、僕も少しばかり頑張らないといけないな。今回何が起こるか。とか、誰かがいるならどんな人か。とかは知らないけど、僕は愛里寿の為に戦うだけだ。
「それじゃあ、行こうか愛里寿」
「うん、分かった」
着替えたからには千代さんのところに戻る。愛里寿の手を引いて廊下を歩くと、応接室の前に千代さんが立っていた。
「それじゃあ裕翔君。覚悟は良い?」
「今更聞き直すことじゃないですよ。千代さん。僕は何時でも良いですよ」
「ふふ、頼もしいわね。……愛里寿は良い?」
「……裕翔と、一緒なら」
「分かったわ。それじゃあ行きましょう」
千代さんが扉を開けると、その先にはそれなりに歳をとっている五十代近くの男と、付き人らしき女性が居た。
「ほう、ようやく来たか。島田の娘は。それと、羽虫も居るようだが、な」
男は偉そうな態度を見せながら、僕達を見る。とくに、愛里寿をじっくりと観察するように見ているのを感じると、僕の中でスイッチが切り替わる音が響いて__
■【後書きのコーナー】■
愛里寿「……作者」
suryu-「は、はい。なんでせう?」
愛里寿「イチャイチャがなんでないの」
suryu-「そ、そう言われましても、愛里寿さん……作者さんはこれでも頑張ってるです事よ?」
愛里寿「でも、これ。恋愛もの。イチャイチャ足りない」
裕翔「あ、あはは……これは大変な事になりそうだね」
suryu-「だ、大丈夫ですから。ちゃんと今後ありますから、安心してください。ね?」
愛里寿「……」
裕翔「そ、それでは次回も閲覧なさって下さると幸いです!」