愛里寿と僕と戦車道。   作:suryu-

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 私は……私は帰ってきた! この世界に!


 ……どうも、お久しぶりです。忘れちゃった人は多いんじゃないでしょうか? 愛里寿と僕と戦車道。今回が終わればようやくイチャつきが加速します。今回は本当に重要ですね。さて、久しぶりの更新、Panzer vor!


”イツワリ”と、”ホンモノ”。です!

「裕翔君。ちょっといい?」

 

「はい、なんでしょうか千代さん?」

 

 夏休みも半ばの八月中旬にて、いつもの様に戦車の整備をしようとしていた僕は、千代さんに声をかけられていた。なにか今日は予定があったか思い返すが、今の所は見当たらない。だからどうしたものかと首を傾げるが、答えは出ない。

 

「ああ、裕翔君にはまだ言ってなかったわね。この後海に行くのよ」

 

「はぁ、海。ですか?」

 

「ええ、だから裕翔君も連れて行こうって。水着はあるでしょ?」

 

「ええ、まぁ一応。……しかし急ですね。愛里寿は?」

 

「もう用意してあるわ」

 

「なら、用意してきます」

 

 まあ、確かに急な話ではあるが、僕としては受け入れられるものではあるので、即座に用意することに決めた。愛里寿も行くんだから僕も行かないと、”虫除け”としては成り立たない。”イツワリ”だとしても、僕は愛里寿の”婚約者”という事に変わりはないのだから。

 

「それじゃあすぐ用意してきますね。愛里寿も待ってるでしょうし」

 

「ええ、分かったわ」

 

 そのまま僕は急いで部屋に戻る。水着は大学では使わないけど、念の為買っておいたからだ。多分愛里寿が行きたがるからとかそんな理由で。それが功を奏するとはおもってなかったけど、結果は良いからそれで良いだろう。……こうして考えると、僕の生活は愛里寿ありきになっているな。”この先の事”を考えたら良くない気もするけど。だって愛里寿は僕よりもきっと”いい人”が__

 

「……なんて、考えない方が良いよね今は」

 

 考えるだけで自分の気持ちが暗くなる。そういう話は良くないって分かってるから、僕は頭の思考を切り替えることにした。今やれることは、愛里寿と海に行くことだ。それ以上でも以下でもない。

 

「よし、用意は終わり。それじゃあ行くか」

 

 そのまま僕は、水着と水着を入れる鞄。着替えた時に入れるビニール袋。ついでに愛里寿と僕の好みのおやつと、僕のお小遣いを入れた財布も持って、愛里寿の元に向かう。長い廊下を歩いた先に、愛里寿は居た。

 

「あ、裕翔。裕翔も、もしかして一緒に海に行くの?」

 

「うん、そうだよ愛里寿。まあたまにの気分転換にはいいかなって」

 

 それもあるけど、やっぱり”虫除け”が僕の役目だからそれを果たす。それを愛里寿には悟られないようにするのが、僕の役目の難しいところだ。そもそも愛里寿は、僕の事を”婚約者”として見ているのか、それとも。

 

「それじゃあ楽しみ。裕翔と一緒に海に行ったことがないから、どうなるかな?」

 

「確かに長い事愛里寿と一緒だけど、海はないね」

 

 これは本当だ。なかなか僕は愛里寿と海などに行った事がない。行く暇がなかったのか、それとも単純に僕が整備や練習ばかりしていたのか。まあ、おそらく後者だろう。愛里寿の隣に立つために、僕はこの六年間練習に費やしてきたつもりだ。見せ場のみの字すらないくらいには、鍛錬の日々だった。その過程で、愛里寿専属の砲手になる事はあったけども。それはそれ。

 

「あら、もう用意が終わったのね」

 

「はい。……千代さん。今日の車は?」

 

「そうねぇ、今日は34GT-Rかしら。裕翔君スポーツカー好きだし」

 

「配慮ありがとうございます。確かに僕は、スポーツカーが好きですね」

 

 口調には現れてないけど、割と嬉しかったりする。僕は確かにスポーツカーが好きだ。唸るようなエンジン音。普通では味わえない加速とG。戦車とは違う魅力がそこにあるから、僕はスポーツカーに乗りたいと思う。自分で言うのもなんだが、将来スピード狂になりかねないなと思っていたりする。とりあえず千代さんのGT-Rに乗れるのは、個人的にはとても嬉しかったりする。

 

「それじゃあ行きましょうか。愛里寿。裕翔君」

 

「うんっ!」

 

「お供させていただきます」

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 照りつける太陽。白い砂浜。そして。目の前に広がる青い……

 

「海だぁ!」

 

「ふふ、久しぶりねぇ。海に来たのは」

 

「こうして遊びに来るというのは、僕も久しぶりですね」

 

 海に着いた。久しぶりに来た海は、とても砂浜が熱く感じる。まあ、サンダル履いてるからまだマシだけど。とりあえず水着に着替えなくては。

 

「とりあえず更衣室に行きますか。愛里寿と千代さんも、着替えないとですよね?」

 

「ええ、そうね。行きましょうか、愛里寿」

 

「うん。裕翔。またあとでねっ」

 

「そうだね、男子と女子は反対だし。それじゃあまた後で」

 

 僕は荷物をしっかり持って、男子更衣室に向かう。僕の着替えはそんなにかからない。なぜなら、ほとんど脱いでからひとつ着るだけだからだ。そんな訳だから早歩きで更衣室に入ったあと、その一連の行動を終える。そして、先程の場所に戻ると、愛里寿と千代さんを待つ事にした。

 

「……まさか、海とはなぁ」

 

 予想していなかったのは確か。愛里寿の柔肌を見るのは初めてなはずだから、変な意識をしないように気をつけなければ。

 

「ゆーうーとー君っ」

 

「あ、千代さん戻りました……かっ!?」

 

 そして僕が意識しないようにとしてる傍から、千代さんは僕が振り向く前に抱きしめられた。女性の肌が僕に当たるのは、相手が人妻であろうと恥ずかしい。いや、本当にどうしてこうなった。思考は冷静に見えるようで、絶賛僕は今混乱中です。ダレカタスケテ。

 

「あらあら、裕翔君可愛いわねぇ。そんな混乱しちゃってぇ。ふふ」

 

「あの、千代さん。その、ね? 離れてくれませんか? その、恥ずかしいですから、ね?」

 

「もう少しこのままかしら? ふふっ」

 

 とりあえず離れるように言うものの、千代さんは面白がって離れてくれない。本当に冷静に口を回してるように思考する僕は、なんとか理性を保ってるという事だろう。やめて、密着しないで。胸を当てないで。僕、ヤバイ。

 

「……裕翔」

 

「ふぁ? え、あ?」

 

「……あっ」

 

 その時、底冷えするような声が響く。千代さんのやってしまったみたいな声が出たあと、僕は我に返る。そこには可愛らしいが露出もちゃんとある水着を着た、とても不機嫌な愛里寿が僕を目線で射抜いて立っていた。

 

「お母さん、離れて」

 

「は、はい」

 

 愛里寿の鶴の一声で、千代さんは僕から離れる。ここまで怒った愛里寿を、僕はだいぶ久しぶりに目撃している事になる。何が愛里寿をここまで怒らせたのか、僕には分からない。けど、下手するとやばいのは確かな事だ。

 

「裕翔。お母さん相手にデレデレして鼻の下を伸ばしてるし、ダメ」

 

「え、あ、うん。ごめん」

 

 傍から見たらデレデレしてるのかな? と疑問はあるのだが、ここは素直に謝っておく。じゃないと僕が死ぬと直感したから、愛里寿には逆らわない事にした。断ったら僕はどうなるか分からない。

 

「だから、こうする」

 

「うん、どうす……あの、愛里寿?」

 

 そしたら、今度は愛里寿が僕に抱きついてきた。発達途中の体は柔らかい。しかもさっきの千代さんより密着しているから、僕はとても困惑を覚えていた。意識しないようにしているのに意識させられている。そんな気分だ。

 

「……私でもしっかり反応するんだ。良かった」

 

「……愛里寿? あの、なんでそんな密着して」

 

「良いでしょ。私達は”婚約者”なんでしょ」

 

 イツワリの。とは言えなかった。今の愛里寿は、それを言わせてくれるような雰囲気じゃない。まるでこれを狙っていたかのように、普段より肌色が多い格好でで僕に体を押し当ててくる。

 

「と、とりあえず愛里寿。海で遊んだりしよう。ね?」

 

「分かった、そうしよっか。裕翔。遊ぼ!」

 

 どうやら、機嫌は直ったのか頷くと海に走っていく。抑揚がなかった口調から、いつもの愛里寿に戻る。安心した為にふぅと溜息をつくと、愛里寿と遊ぶために歩き出した。

 

「裕翔っ。海だよ、ざぶんと波打ってるよ!」

 

「ん、そうだね。深いところに行かないように気をつけてね?」

 

「うんっ」

 

 

 

■■■

 

 

 

 あの後、愛里寿は遊び疲れて昼寝している。僕は浜辺にたてたパラソルの日陰。地面に敷いたレジャーシートの上で、愛里寿の隣で休息を取っている。千代さんは何か考えた様子で僕を見たあと、はぁ。と一息。その後、僕を見る。

 

「ねぇ、裕翔君」

 

「なんですか? 千代さん」

 

 千代さんは、普段と違って真面目な顔をしている。難しいをする時の顔だ。どういう意図があるのかは分からないが、僕は千代さんの目をしっかりと見て反応する。

 

「愛里寿の”婚約者”の件、本当にありがとね」

 

「良いんですよ。僕に出来る仕事は、こんなのしかないんですから。”イツワリノコンヤクシャ”でもね。……なんだか、僕の好きなマクロスみたいですね」

 

「……裕翔君」

 

 僕の返答には、千代さんは何か納得出来ない様子だ。千代さんからしたら、僕ら子供に難しい話を持ち込むのは嫌なはずだ。多分、それによるものだろう。

 

「ねぇ、裕翔君。裕翔君は”偽り”で良いの?」

 

「……千代さん?」

 

 そう思っていた僕の考えが、違うとすぐに理解する。千代さんは”偽り”からその先の”本物”にならないのか。と聞いているのだ。その答えに対して、僕の気持ちは決まっている。

 

「良いんですよ。愛里寿にはきっと”いい人”が見つかる。それは僕じゃない」

 

「どうしてそう言いきれるの?」

 

 千代さんの目は、僕に嘘を許さないと語りかけてくる。勿論嘘なんて言う気は無い。僕は。だって僕は。愛里寿の事を__

 

「僕は確かに、愛里寿の専属砲手です。ですが、逆に言えば”それだけ”なんです。家柄に関しても、確かに母さんは昔有名な選手でした。でも、やっぱり”それだけ”なんです。見合う人は他に居る」

 

「そんな事は__」

 

「ありますよ。僕は、愛里寿はまだ恋愛をした事がないと思っています。だから、愛里寿がこの先好きな人を見つけるまで、僕は”虫除け”となって支えていくのみです。隣で戦車道を出来ているのなら、僕は……」

 

 満足だ。とは言いきらない。言いきれない。けれど、それでも千代さんはそう解釈してくれるだろう。だからそれでいい。

 

「……そこまで決意してたのね」

 

「はい。そうですね」

 

 そう、こうすればきっと上手くいく。愛里寿に見合う人は僕よりも居るだろう。だから、こうして僕は愛里寿の”土台”になる。上に物が建てば僕は見られなくなるけど、これが正解択。最適解なんだ。

 

「千代さん。僕は愛里寿の為なら、”礎”になる覚悟はあります。愛里寿が幸せになるのなら、僕が傷ついてボロボロになっても良い。ただ、愛里寿と戦車道が出来ていれば、それで良いんです。有名な戦車乗りとかにならなくても……ね」

 

「裕翔君……」

 

「とりあえず飲み物を買ってきます。欲しいのありますか?」

 

「……じゃあ、コーラで」

 

「了解です」

 

 だから、僕の気持ちを騙すのはもう慣れた。それがきっと__

 

 

 

■■■

 

 

 

「……裕翔。あんな事考えてたんだ」

 

 私は、裕翔が飲み物を買いに行ったのを見計らって、体を起こした。お母さんは分かっていたかのように頷く。多分、嘘寝って事に気づいてなかったのは裕翔だけな筈。

 

「……裕翔君は、愛里寿に見合わないと思ってるから、愛里寿に好かれてる事にすら気付かないのよ」

 

「うん。そんな気はしてた。”偽りの婚約者”っていうのも、ほんとは分かってた」

 

 私だってそこまで馬鹿じゃない。裕翔が私を守るために、盾になってくれているのも。でも。

 

「だからこそ、私のせいでボロボロになんてなってほしくないよ……私、本当に裕翔が好きだから」

 

 だから、気づいて欲しい。恋愛した事ないなんて言われたけど、とっくの昔から私は裕翔が好きだ。あの時、まだ無名の私のファンと言ってくれた時から。私の隣で戦車道をしたいと、言ってくれた時から。

 

「……気づいて貰えないのが、こんなに苦しいなんて知らなかった」

 

「……愛里寿」

 

 だから私は、裕翔の”イツワリ”にはならない。絶対に。

 

「絶対に、本物の婚約者になるんだから。だからお母さん、協力して」

 

「……ふふ、ええ。勿論よ」

 

 そんな話をしていると、裕翔が帰ってきたのが遠目に見える。だから私は、サンダルを履いて駆け出した。

 

「お帰り、裕翔っ!」

 

 この恋、絶対に成就させるんだから__!




■【後書きのコーナー】■


愛里寿「……ようやく、ようやくイチャイチャが始まる」

裕翔「いや、本当にようやくだね」

suryu-「家元さんからきつく怒られましたので……」

愛里寿「……でも、投稿遅すぎ」

裕翔「結構放置されてたよね」

suryu-「申し訳ございませんでした」

愛里寿「でも、これからも続けて、完結まで絶対お願い」

裕翔「一応僕らも幸せを願ってるからね」

suryu-「勿論ですよ。次回も、閲覧なさってくださると幸いです!」

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