ガタノゾーア in FGO   作:深淵を泳ぐもの

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嘘と生ける炎

黒いジャンヌは、制圧したオルレアンにある城の玉座に腰を下ろしていた。ミゼーアに言われた事が原因で、彼女は結構苛立っていた。彼女の周りには誰もいない。召喚し狂化を施したサーヴァントは立香たちを始末する様に命じて、出ていってしまったし、彼女が頼りにしているジル・ド・レェもこの場を離れていた。

 

「さて、少し話をしようか?」

 

突然、扉が開かれそんな声が聞こえた。入ってきたのはガタノゾーアだった。いくら殆どのサーヴァントが出払っていると言ってもファヴニールを城付近に配置していたのに、どうしてガタノゾーアは入ってこれたのだろうか。答えは簡単である。黒いジャンヌはガタノゾーアが手に持つ『ソレ』を見て全てを察した。

 

「あ、貴女……まさかファヴニールを!?」

 

「ん?ああ、あの龍か。邪魔してきたのでな。捩じ切ってやった」

 

そう言って、手に持っているファヴニールの首を黒いジャンヌへと投げる。そも大半はガタノゾーアが完膚なきまでに潰してきたのでファヴニールの首は魔力が黒いジャンヌに届くまで持たず、空中で光の粒となって消えた。瞬間、このまま近づかれるのはまずいと思った黒いジャンヌはガタノゾーアに向けて手を向ける。すると、ガタノゾーアは炎に包まれた。

 

「ここまで来た事は褒めてあげる。でも、ファヴニールに勝てたからって私にも勝てると思ったの?舐められたものね。私が味わった苦痛、貴女にも味わわせてあげる」

 

燃え盛る炎を見ながらそう言い笑い始める黒いジャンヌ。ファヴニールを倒したのは驚いたが、それでもこれだけの炎で燃やせば流石にタダでは済まないだろう。そう考えていた。

 

「ふむ。この程度か?」

 

しかし、そんな声とともに炎の中から伸びてきた一本の触手が黒いジャンヌを本気で抵抗しても抜け出せないほどの力で縛り上げる。燃え盛っていた炎もガタノゾーアの腕振り一回で散らされた。目立った外傷はなく、残った火の粉を払いながら、黒いジャンヌにこう言った。

 

 

本当の炎ってものを見せてやろう

 

 

そこで黒いジャンヌは気づいた。ガタノゾーアから伸びる触手がもう一本あり、それが黒いジャンヌが中心になる様に地面に魔方陣を描いていることに。触手が驚くべき速さを持って魔方陣を描き終わるとともに、ガタノゾーアは謎の呪文を唱え始めた。

 

 

フングルイ ムグルウナフ クトゥグア フォーマルハウト ウガア=グアア ナフル タグン イア クトゥグア

 

 

3回ほど唱え終わったあたりだろうか。和かに笑いながら、ガタノゾーアはその名を呼んだ。

 

「来い。クトゥグア。奴を──」

 

 

燃やせ

 

 

瞬間、魔方陣から現れた火柱が黒いジャンヌを包み込んだ。一瞬にして喉までも焼かれ悲鳴を上げようにも、掠れた音しか口から出てこない。自身の記憶にある火刑がちっぽけに思えるほどの熱さ。このまま消滅するまで焼かれ続けるのかと思う黒いジャンヌだったが、ガタノゾーアが魔方陣を消したため、そうはならなかった。

 

「奴に出てこられると面倒だからな」

 

そう言って魔方陣を消したガタノゾーアの近くには先の火柱がまるで意思を持っているかのごとく火球に変わり浮かんでいる。ガタノゾーアは涼しい顔をしているが、周囲は燃え始めている事から如何に温度が高いかわかるだろう。

 

「ぁ──ぅ──」

 

喉が焼かれ声が出せない黒いジャンヌにガタノゾーアはゆっくりと近づく。火球の方はその場から動く気配はない。

 

「さて、まずはお前が造られたものだと言うことを理解させてやろう」

 

ガタノゾーアは無造作に黒いジャンヌから黄金の杯を抜き取った。何が起こったのかもわからずに、黒いジャンヌは聖杯を引き抜かれた事によって自身の身体にできた穴とガタノゾーアが手に持つ聖杯を交互に見やる。そんな彼女にガタノゾーアは話しかけ始めた。

 

「可哀想になぁ。お前は利用されたんだ、他人の復讐のためにな。いわばお前はソイツからしたら隠れ蓑のようなものだ」

 

「ぇ──ぁ──?」

 

ガタノゾーアが何を言っているのか理解できない黒いジャンヌ。この身を焦がす程の憎悪も作られたものだと言うのだろうか。もしそうならば一体誰が。そんな疑問に答えるように、ガタノゾーアは話し続ける。

 

「ここに来るまでにお前の言っていたジルという奴を見てきたが、お前、何故奴を殺さない?狂化をかけているようにも見えんし、奴だってフランス人だろう?もしや、自分の事を信じてくれるからとは言わんよな?お前はフランス人に信用され、そして裏切られたから祖国を滅ぼすと言っていたものな」

 

反論しようにも、口からはヒューヒューと掠れた音しか出ず、ガタノゾーアはそれを全く気にせず語り続ける。

 

「まあ無理もないか。そうなるようにお前は造られたのだものな。他でもないジル・ド・レェの手によってな」

 

「ぇ──?」

 

「大凡、造り出した瞬間殺されるのを危惧して『自分には手を出さない』ように弄ったのだろうな。聖杯ならそれくらいわけなかろう。お前、一度でも奴に反抗したことあるか?」

 

その質問に黒いジャンヌは言葉を詰まらせた。確かに思い返してみれば、どんなにイラついていてもジルには基本当たらなかったし、当たったとしてもジルの出す案をいい案だとして採用していた。そう考えると、黒いジャンヌがやって来たことはほぼジルが裏で操っていたと言っても過言ではないかもしれない。

 

「それに、お前の事なぞ駒としてしか考えてないだろうからな。実際、奴はいつまでたってもやってこない。ああ、もしかしたらお前がフランスを滅ぼした後で、お前の存在を消すように聖杯に願って成りかわるつもりだったのかもな」

 

ありもしない事をと思いたかった黒いジャンヌだが、ここにジルが来てないことは事実なのだ。ならばやはりガタノゾーアの言う通り、自身は駒だったのだろうかと疑問が芽生える。実際は、彼の宝具がガタノゾーアの手により暴走させられて彼はその対応に追われているだけなのだが、それを知らない黒いジャンヌはそう考えるしかなかった。

 

「ジル・ド・レェよりジャンヌ・ダルクの方が名が知れているからな。そういう意味でも、『ありもしない側面』を浮き上がらせてまで造り出したかったんだろう。お前をな。そうでなければ、聖杯に力を望んだ方が簡単だろう。となると、お前は名前から何から何まで利用されるために生み出されたという事か。それに、お前の名前に目がいって奴の名はあまり目立たなくなるだろうから隠れ蓑にもなるしな」

 

本人が来られない事を知っているガタノゾーアは有る事無い事全部、まるで事実のように語る。それを聞いていると、黒いジャンヌの中に疑問が浮かび上がってくる。自分がやって来た事は全部ジルの手の上の出来事であり、ジルはそれを見て嗤っていたのではないか。そう考えると、ジルへの殺意が現れ始める。

 

利用するだけ利用して最後は裏切る?ふざけるな。ならば先にこちらが殺す。今の自分が出せる全力ではダメだ。彼が想像した自分の記憶にあるこの炎では物足りない。私は真の炎というものを知った。彼が想像すらできない熱さ、痛み。彼に私を作った事を、私を利用しようとした事を後悔させるならそれくらいはやらなくてはならない。

 

そう彼女が考えた時、今の今まで浮かんでいるだけだった火球がこっちを見た気がした。そして、緩やかに形を変え、聖杯を抜かれた時にできた穴から彼女の中へと侵入し、聖杯を抜かれた事で不安定になっていた霊核と一体化し、再構築し始めた。負っていた傷もそれにより回復した。

 

「ほう。これは面白い結果になったな」

 

この展開は想定外だったガタノゾーアは面白そうに口角を釣り上げる。ガタノゾーア的には、色々言って精神を砕く算段だったが、これはこれでいいだろう。拍手しながら、黒いジャンヌへと近づいた。

 

「奴は割といい奴でな。力を求めれば与えてくれる。それで、お前これからどうする?」

 

そう聞かれた黒いジャンヌは新たに手に入れた力を実感しながらこう告げた。

 

「決まってるでしょ?私を利用しようとしたジルを殺す」


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