ガタノゾーア in FGO   作:深淵を泳ぐもの

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契約

同時刻、別室にいたジル・ド・レェは海魔を相手取っていた。なんの前触れもなく、突然彼の宝具である『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』が暴走し大量の海魔が出現、所持者であるはずのジルに襲いかかったのである。キャスタークラスではあるものの正規の魔術師ではない為、魔術行使のほぼ全てを宝具任せにしているジルだが、元帥と呼ばれたその腕に偽りはなく、部屋に飾ってあった剣を手に取り海魔を斬り殺していく。宝具からはいつまでも海魔が召喚され続けていたが、ふとしたタイミングで海魔は召喚されなくなり、暴走も収まっていた。

 

「ハッ!まさかジャンヌも!?」

 

安心したのも束の間、自分がこうなったのならジャンヌもなっているのではと考えたジルは王座へと駆けて行った。

 

「ジャンヌ!!ご無事ですか!?」

 

「あら、ジル。どうかしましたか?そんなに慌てて」

 

扉を開けたジルの目に映ったのはなんの異常もなさそうなジャンヌだった。自分の思い過ごしだったかと安心したジルは先の異常を伝えておこうとジャンヌに近づく。

 

「ジャンヌ、お伝えしたいことが」

 

「なに?私が聖杯によって造られた存在だって告白でもする気になったかしら?」

 

「……なんのことですかな?」

 

「そう。あくまでシラを切るのね。まあ、分かりきってたことだけど、彼奴の言ってたことは本当だったってわけね。……ジル、私を造ってくれた事だけは貴方に感謝してあげる。だから、盛大に葬ってあげるわ。あの女と同じようにね!」

 

ジャンヌが叫ぶとともに、ジルは業火に包まれた。自分が想像していたよりも、熱く痛くそして苦しい。霊基にすら響く業火の中でジルは焼かれ続ける。

 

「私を利用しようとした事への後悔は『座』ででもゆっくりする事ね。さようなら、ジル」

 

その言葉とともに、ジャンヌは火力を上げる。ジルは消滅する間際、ジルは今までジャンヌの陰にいた事により見えなかった邪神(ガタノゾーア)を見た。そして理解した。自分の宝具で呼び出せる海魔が勝手に召喚され自身に襲いかかってきた理由が。つまり、ジルが使役していたのは下級も下級に過ぎない異界の神もどきであり、自身の覗いた深淵何ぞ上辺だけで、眼に映る存在こそが高位の神であり真の深淵に潜むモノであると。そして、このジャンヌの力もその邪神から得たものだと。

 

「オオォォ……ジャンヌ……やはり……貴方は……神に……」

 

その言葉は業火に掻き消されたが、ジルにとってはそれは些細な事。ジャンヌが神と共にいる。それだけが重要だった。満ち足りた気持ちになりながら、ジルは消滅した。

 

「……さて、ここで待っててもいいんだけどこんな茶番さっさと終わらせるためにも、あのマスターちゃん達にでも会いに行くとしましょうか」

 

 

 

 

場所は変わり、ガタノゾーアの抜けた立香一行はバーサーク・ランサーとバーサーク・アサシンを倒し、その後出会ったはぐれサーヴァントであるマリー・アントワネット(ライダー)アマデウス(キャスター)を仲間に迎え、バーサーク・サーヴァント達を1人ずつ倒しながら確実に黒いジャンヌが根城にしているオルレアンへと近づいていた。その途中、戦力は多いに越した事はないという考えから他にもいるであろうはぐれサーヴァントを探そうと言う話になった。そして、いざはぐれサーヴァントを探しに向かおうとしたところで、突然火の玉が降ってきた。地面に落ちてきたそれは、地面についた途端火柱へと変わった。

 

「一体何事です!?」

 

ジャンヌが目の前の火柱を警戒しながら、そう叫ぶ。その火柱をその手の一振りでかき消し現れたのは、黒いジャンヌであった。ミゼーア以外の全員が瞬時に黒いジャンヌを囲う中、黒いジャンヌは降参を示すかのごとく、両手を挙げた。その姿を見て、クー・フーリンが疑いながら疑問を飛ばす。

 

「そりゃなんの真似だ?」

 

「なにって降参よ、降参。こんな茶番続ける意味もないし、あんた達は聖杯が欲しいんでしょ?はいこれ」

 

そう言って聖杯を取り出して、立香へと放り投げる黒いジャンヌ。咄嗟のことに驚いたが、なんとか聖杯を掴む立香。

 

「解せねえなあ。なんでこのタイミングで俺らに聖杯を渡す?なんか企んでるんじゃねえのか?」

 

「そうね。さっきも言ったけど、こんな茶番やるだけ時間の無駄なのよ。だったらさっさと終わらせた方がいいでしょう?」

 

「……茶番とはどう言う意味ですか。”私”」

 

「あんたも薄々気づいてたんじゃないの?私はジルが聖杯に願って造り出した存在だった。まあ、ジルはそれを隠してたけどね。そんな事実を知ったら復讐なんて馬鹿らしくなってきたのよ。なにやってもジルの掌の上とかやる意味ないでしょ?」

 

『なんだって!?じゃあ君は、聖杯によって作られたサーヴァントだとでも言うのかい!?』

 

話だけは通信越しに聞いていたロマ二が叫ぶ。今まで、聖杯でサーヴァントを造り出したなんて聞いたことないから当然だが。そんなロマ二を含めて、ここにいる全員に黒いジャンヌは全てを話した。それはガタノゾーアが言っていた事も入っているので、全員の中でジルだけが悪役となってしまうが、それは些細な事だろう。

 

「そう……だったんですか。あのジルがそこまで」

 

「利用するだけ利用しようとするなんて酷い人ね」

 

特にジャンヌ本人とマリーは色々思うところがあるようだ。マリーにとっては造られたものとはいえつい先ほど友人となった人物が利用されていたのだから当然だろう。黒いジャンヌは話し終えると立香に近づいた。

 

「それで、これは私からの提案なんだけど、貴女、私と契約する気は無い?」

 

「えっ?」

 

「私と契約して、私を貴女のサーヴァントにする気は無いかと聞いているのです」

 

「いいの?」

 

「いいのもなにも。今の私は色々と不安定ですからね。このままだと座に行けずに消滅してしまうかもしれません。まあ、登録されてないので当然ですが、私も生まれた以上即消滅は嫌ですからね。貴女と契約してサーヴァントになれば貴女とパスが繋がって消えなくて済む上、貴女達がこれからやろうとしてることに協力すれば、うまく行けば私も私として座に刻まれるでしょうから。それで、どうします?ああ、別にそっちの貴女でもいいのよ」

 

「私は遠慮しとくわ」

 

オルガマリーがあっさりと断る中立香が黒いジャンヌの提案を呑むべきか否かを考えていると、いつの間にやら背後に立っていたガタノゾーアが口を開く。

 

「色々と思うところもあろうが、こいつの力は本物だぞ?」

 

「あー確かにそうみたい。ガタノ、君なんかやったでしょ?」

 

「さてな」

 

ガタノゾーアの意見に同調するミゼーア。この2人が言うのなら、実力は相当なものだろう。そう考えると、立香の答えは決まった。

 

「わかった。じゃあ、ジャンヌと契約するよ」

 

「ええ、それが賢い選択です。ついでに名前も変えましょうか。私はそこの聖女とは違うんですから。そうですね、英語で変化するはオルタと言いますし、ジャンヌ・ダルク・オルタにしましょうか。うん、そうしましょう。これから私のことはジャンヌ・ダルク・オルタもしくはジャンヌ・オルタと呼びなさい」

 

ウンウンと満足そうに頷く黒いジャンヌ改めジャンヌ・オルタ。立香が聖杯を受け取った瞬間からゆっくりとだが歴史の修復が始まっていたので、急いでジャンヌ・オルタと契約をする立香。その後、はぐれサーヴァントの2人と別れの挨拶を済ませ、新しくジャンヌ・オルタを加えた立香一行は元の時代に戻っていった。


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