白音は仙術を使わず気を扱うようです 作:煌めく伯爵
ディオドラとの一件から数日、未だにアーシアの中で決着はつけられていなかった。渡された指輪を眺めながら、一人今日も考える。レイナーレとミッテルトは買い物に向かったし、ハイヤードラゴンと
「え?」
「どうしま──アーシアさん!!」
そんな時である。眺めていた指輪が光を放ち魔法陣を形成した。突然の事で理解しきれず硬直するアーシアの口から洩れた言葉を不思議に思い目を開いた白音は魔法陣が迫るアーシアに即座に手を伸ばす。しかし、白音がアーシアを掴むことはかなわず、その手は空を切った。その場にはアーシアが身に着けていた指輪のみが残され、白音はそれをゆっくりと拾い上げた。
「知らない魔力を感じたんだけどなにか──」
「何かあったんす……か……」
そこへ魔法陣が形成された際の魔力を察知し、戻ってきたレイナーレとミッテルトが状況を聞こうと白音を見て、言葉を詰まらせた。視界の先の白音は、明らかに怒気を纏っていたのだ。髪は金色に点滅し、瞳の色は既に碧へと変化している。怒気と共に溢れ出す気によって、地面にはクレーターが出来上がっており、その手には指輪が握られている。それを見た二人はアーシアがいない現状を加味して何が起きたのかをなんとなくではあるが察することが出来た。そして、それが白音の怒りを買ったということも。
「……アザゼルさんの所に行きましょう。あの人ならどこにアーシアが転移させられたのか分かるかもしれません」
未だに怒気は収まってないものの、髪の点滅は治まり、瞳の色はいつも通りに戻った白音は二人にそう告げた。
*
「う、ううん?」
呻き声を上げながら、アーシアは目を覚ました。どうやらあの魔方陣に取り込まれた際に、気絶してしまったようだ。辺りを見渡して分かったことは、此処がアーシアの知らない場所だということと自分が何か装置のようなものに磔にされて動けないという事。気を使い周辺のサーチをすれば、辺りには知らない気しかない。
「誘拐……というものですか」
確信はないが、アーシアはこんな事を仕出かす人物に心当たりがある。そもそも、原因となった魔法陣が何によって形成されたか、そしてそれが誰によってアーシアに渡されたか考えれば答えは出てるようなものである。とそこで近づいてくる気を感じ取り、アーシアは近くの扉を見た。
「起きたかい、アーシア?」
「ええ、お陰様で最高にいい目覚めですよ」
「それは良かったよ」
皮肉に気づいているのかいないのかは分からないが、現れた男──ディオドラはそう答えた。求婚してきて数日、無理やり自分の下に召喚するとは駆け落ちなるものでも考えているのかと思考するアーシアだが、その顔を見てどうやらそうではなさそうだと結論を出した。
「私に何かするつもりですか?」
「前にも言ったけど、僕はアーシア、君を嫁にしたいのさ。醜い堕天使や薄汚い猫又風情と一緒にいちゃいけないんだよ」
「白音さんたちをバカにするんですか?」
「事実を言ったまでさ」
拘束しているから安全だとでも思っているのか睨みつけるようなアーシアの視線を受けてなお、ディオドラは余裕の態度を崩さなかった。
「ところでアーシア。君は、君が彼女らと会えたことは偶然だと思っているかもしれないが、実はそうじゃない。特にあの堕天使二人に会うことは決まっていたんだ」
「……何が言いたいんですか?」
ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべながら、ディオドラはゆっくりと話し始めた。彼がアーシアを手に入れるためだけに立てた計画を。
「僕はシスターや聖女と言った所謂協会に通じた女が好きでね。特に信仰熱心な女を堕とした時は最高に気持ちよくなれるんだ。心も体もね。僕の屋敷にいる女も眷属も皆、元は信徒だったり各地の聖女だったりした女だったんだ。そんな中でもアーシア、君は特別だ。だからこそ、眷属にするわけでも屋敷に置いておく女にするわけでもなく、嫁にしたいんだからね」
「……」
何もしゃべらず俯くアーシアを見て、良い感じに絶望し始めていると解釈したディオドラは得意げに言葉を繋ぐ。
「君を初めて見た時、絶対に君を堕としてやると思った。何せ、君は僕の好み……いや理想そのものだったからね。だから神器に詳しい奴に話を聞いて、教会から君を出すために自傷までして君に僕を治させた。後は、あの堕天使どもに君の神器が抜かれた後に僕が君を悪魔として転生させて、目の前で彼女らを殺せば計画は完了……のはずだったんだけど、あの猫又が余計なことをした所為でおじゃんだ。でも、男じゃなかっただけ良かったかな?君の初めては僕だって決まってるからね」
言いながら、ディオドラはアーシアへと近づいた。事実を知ったアーシアはきっと泣いていることだろう。その顔を見ようと、彼が覗き込んだ時だった。
「ああ、白音さん。どうやら貴女が言っていたことは正しかったみたいです」
呟いた声はあまりに小さく、ディオドラには聞こえなかった。しかし、気のバリアをアーシアが使ったことによりディオドラは後方へと吹き飛ばされた。
「これがあいつらが言ってた未知の力か」
受け身を取って特にダメージもなさそうなディオドラがアーシアを見ながら呟く。視線の先のアーシアは俯くのをやめ、鋭い目つきでディオドラを睨んでいた。
「もう十分です。もう貴方の声すら聞きたくありません」
「可笑しいな。真相を聞かせればあと一歩のところまで追い込めると思ったのに、やっぱりあの猫又どもを殺さないとダメかな?」
「殺させませんし、殺せませんよ。貴方程度の実力では」
「じゃあどうする?拘束されている君に僕をどうにかできるとは思わないが。ついでに言えば、僕はオーフィスの『蛇』でパワーアップもしているのに」
「拘束?ああ、これの事ですか」
そう言うと、アーシアの身体を青白いオーラが包んだ。気を高め、拘束を破棄しようとしているのが見て取れた。しかし、ディオドラは余勇壮な態度を崩すことなく嗤っていた。
「無駄だよアーシア。それは神器、それも
「あれですね」
「──え?」
アーシアは磔にされた状態から指先と目を動かし、壁に埋め込まれた宝玉に狙いを定め気を放った。白音たちの中で最も気のコントロールに長けるアーシアは、放った気を器用に操り最初に狙いを定めた宝玉以外をも全てを破壊した。
「それで、私には無理なんでしたっけ?」
宝玉を破壊したことにより効力を失った拘束から解放されたアーシアは、手首を回しながらディオドラを見た。対するディオドラは想定外の事態に間抜け面を晒すも、すぐさま正気を取り戻した。
「少し驚かされたが、さっきも言ったけど僕はオーフィスから『蛇』を貰っているんだよ?」
「そうらしいですね。それが何か?」
「パワーアップした僕には君は勝てないってことだ!!」
瞬時にディオドラの魔力が膨れ上がったのを感じた。『蛇』とやらの力のおかげとは言え、それなりに強くなったと言えるだろう。だが──
「もう一回寝ると良いよアーシア!」
「遠慮しておきます」
──それでもアーシアの方が上だった。
「うぐぁ!?」
突っ込んできたディオドラの腹にカウンター気味に蹴りをお見舞いしたアーシアは、そのまま頭を掴み前方へと放り投げた。無様に転がるディオドラを見ながら、アーシアは纏ったオーラを赤へと変える。
「な、なんだこの力は。ありえない。あの時から考えればアーシア!君はここまで強くなれないはずだ!」
信じられないと言わんばかりに叫ぶディオドラ。何もなしに時間が経っただけならば、確かにアーシアはここまで強くなれはしなかっただろう。しかし、彼女は修行をし、白音たちとの組手も何度も行った。故にディオドラが考えた精々この位しか強くなってないだろうという予想を上回ったのだ。
「貴方は悪魔ですからね。再起不能程度に抑えておいてあげます。覚悟してください」
「ま、待て!確かに僕は酷いことをしたかもしれないが、君たちの言う主ならそんな僕も救えっていうんじゃないか!?」
ディオドラが命乞いのようにそう叫んだ。それに対してアーシアは、確かにそうかもしれないと返答した。一瞬、ディオドラは顔に安堵の表情を浮かべるが、次いでアーシアが放った言葉にそれはすぐさま消えてしまった。
「ですが、例え主が許そうと私は貴方を許しません。貴方のおかげで白音さんたちに会えたのは事実ですが、それとこれとは話が別です。これ以上貴方の被害者を増やさない為にも、ここで貴方を倒します」
「クソォ!!」
命乞いが無駄だと分かったディオドラはすぐさま行動に出た。さっきのは偶々だと自分に言い聞かせアーシアの後ろへと回り込む。しかし、ディオドラが拳を振るうよりも早く、アーシアの裏拳がディオドラの頬を打ち抜いた。吹っ飛ばされながらも魔力弾を幾つか飛ばすも、アーシアはそれを弾きながらディオドラに迫る。
「ありえない!ありえない!僕は上級悪魔だぞ!?こんなシスター一人に!!」
悪魔の羽を生やし、無理やり上空へと飛び上がったディオドラが無数の魔力弾の雨を降らしながら絶叫する。無数に降る魔力弾の一つすら掠りもせずに潜り抜けてくるアーシアを近寄らせまいと密度を上げるが、それでもアーシアには当たらない。アーシアが目の前に迫ったと分かった時、彼は咄嗟に左手を前に出し、分厚いオーラの壁を作った。振るわれたアーシアの拳はそれに防がれ、ディオドラは若干余裕を取り戻した。
「は、はは見ろ!やっぱり君じゃ──」
「六倍です」
確かにアーシアの一撃を防いだ壁は、しかし界王拳の倍率を上げたアーシアによってあっけなく打ち破られた。顔面に走る痛みに、取り戻した余裕が消える。
「ひっ!」
「さっきも言いましたが、白音さんたちと合わせてくれたことだけは貴方に感謝していますよ」
怯えるディオドラにそんなことを言いながら、アーシアは渾身の一撃を叩きこんだ。叩き落される形で地面に激突したディオドラは、そのまま意識を手放した。
原作で意味深に書かれてたのに特に何もなかった宝玉、本作では壊せば装置も止まるって設定にしましたが、アレ何だったんですかね?