神筆使いと錫の兵隊   作:ファイターおじ

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新兵の名前やマスターの名前はご自身のプレイヤーの名前で脳内変換してください。

マスターは最後まで名前は出さない予定ですが、新兵は名前がないと書きにくいので適当に名前をつけさせていただきます。

被ってる人がいたらゴメンナサイ


1話 起動

 男は夢を見ていた。

 

 厳しくも優しい家族と過ごす夢。家族と囲む食卓。少し教育熱心で口うるさい母と、尻に敷かれるも優しい父。そんな何処にでもある日常。騒がしかったが幸せと呼べる、そんな日常。

 

 声が響く。そして身体が小さく揺れる。

 

 声が鮮明になり意識が覚醒をはじめる。

 

「朝だよー起きてー」

 

 顔の横で甲高い声が響く。天然の目覚まし時計を止めるべく男は手を伸ばす。男がその手を握り締めるとプギュという不思議な音が聞こえる。二日酔い程ではないが酒が入った気怠い体を起こして、手を見てみるとそこには目を回した妖精、ティンクが貼りついていた。

 

 

 

「もう!折角起こしに来たのに酷くない?」

 

「悪かったって、 けど耳元で騒がれたら手を伸ばしたくなるだろ?」

 

「そもそも起きるのが遅いのが悪いよー。今日はマメール様たちとの約束があるんでしょ?そんな日に寝坊するなんて」

 

「時間までには余裕があるだろ?朝食を軽くすれば間に合うさ」

 

 そう言いながら身嗜みを整えた男はティンクと共に食堂へ向かう。普通の人間である神筆使いは食事を摂らなければ餓死してしまう。そんな神筆使い達の為に存在するのが食堂である。ちなみにキャストも偶に利用する。

 

 キャストは物語に紐付けられた存在である為、食事の必要はない。しかし食事すること自体は個人の好みに分かれている。規則正しい生活をするキャスト、食べること自体が好きなキャスト、花嫁修業のために食事を作るキャスト。様々なキャストが食堂をコミュニティの場としている。

 

 

 

 男がティンクと共に食堂に入る。少し遅い時間だった為、ほとんど人はいない。男がいつも食事をする時間には吉備津彦や火遠理といった日本のキャストや、サンドリヨンやミラベルといった真面目なキャストが良く食事をしている。なんでも一日三食、正しいリズムで生活をすることが健全な心身を作り上げるとのこと。

 

 しかし現在、彼らは食堂にいない。既に鍛錬に向かったらしい。そんな人のいない食堂には珍しいキャストがいた。黒を纏うドレスに美しい銀の髪、そしてすべてを射抜くような珍しいバイオレットの瞳。サンドリヨンとは対となる存在のキャスト、アシェンプテルが優雅に紅茶を楽しんでいた。

 

「珍しいじゃないか、マスターがこの時間に来るとは」

 

「俺としてはアンタが部屋から出てきていることの方が驚きだが?」

 

「失礼な、私だって常に鍛錬や戦いに駆け回っているわけではない。お前がどう思っているか知らんが、これでも紅茶を嗜む趣味ぐらいはあるさ」

 

「でもさー、朝一からバウムクーヘンはどーかと思うよ?」

 

 ティンクに指摘されるもアシェンプテルは気にすることもなくカップに口を付ける。

 

「甘いものばっかり食べてたら太るかもよ~」

 

 妖精の言葉にアシェンプテルの眉がピクリと動く。

 

「太らん。キャストだからな」

 

「分かんないよ~?マメール様も“キャストと神筆使いは共に成長していくものだ”なんて言ってるし」

 

 そう言ってティンクは男に視線を向ける。肝心の男の方は、我関せずといった風にさっさと食事を摂っていた。ちなみに食堂に残っていたパンをコーヒーで流し込んでいる。優雅さの欠片もない食事を、ものの数分で片付けた男は約束の時間に遅れないように時計を確認し、移動の準備を始める。

 

 

 

そして男は去り際に一言ボソッと呟く。

 

「ちなみにキャストってのは、作った者のイメージや物語の解釈によって変化するものだそうだ。もしアンタが創聖や、世間一般に食いしん坊キャラだと思われたら…  その…丸くなるかもな…」

 

「…今日のことは誰にも言うな。言ったら斬る」

 

「いやぁ… みんな知ってると思…」

 

 うけど、と言い終わる前にアシェンプテルの剣が首筋に突き付けられる。

 

「ほぅ…私の輝きを貶める者は許せないな…」

 

「オレハ、ナニモミテマセン」

 

 アシェンプテルは剣を仕舞うと、まぁいいだろうと言って、再びお茶を楽しみ始めた。男は結局バウムクーヘンは食べるんだ、と突っ込みたかったが藪蛇になりそうだったのでさっさと退散することにした。

 

 ちなみにその日から暫くの間、食堂のバウムクーヘンの消費量が減ったらしい。

 

 

 

 

 男は昨日アナスンと会った部屋の前に立っていた。昨日は気が付かなかったが、部屋の横に小さくアトリエ(工房)と刻まれていた。意を決してノックをする。すると既に準備は整っていたのか、中にはアナスンや他の創聖も集まっていた。

 

「さぁさぁ、みんなお待ちかねだよ!」

 

 アナスンはそう言って男の腕を掴み、部屋の奥へと引き摺っていく。

 

 部屋の奥には一冊の本、そして一人の少女。本の傍に横たわる少女は、人形の様に微動だにしない。

 

「まずはこの本、冒険譚。そしてこの子が…」

 

「錫の新兵…」

 

「そう!この子を君に預けよう。大丈夫、彼女の調整は完璧だよ。 さぁ前へ。君が起こしてあげてくれ。ほらほら、君がマスターだと認識できるように調節しておいたから」

 

 男はアナスンに背中を押され前へと押し出される。そして少女へとその手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 声が響く。そして身体が小さく揺れる。

 

 彼女の意識が覚醒し始める。彼女は無意識の内に声の主へ手を伸ばす。

 

「ん、マスター……?」

 

 男が少女の手をとり、彼女がゆっくりと目を開く。お互いの視線が合うが、そこに会話はなかった。しばらくお互いに見つめ合った後、男が切り出した。

 

「体は大丈夫か?」

 

「自分は問題ありません。すぐに動けます」

 

 男はその言葉を聞くと一つ息をつき彼女を立たせる。そして一冊の本を手にする。

 

「これが何か分かるな?」

 

「はい、行きましょう。物語の、はじまりの地へ」

 

 こうして彼らの物語が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いざ、勢い良く物語を書き進めようとした男だったが、そんな男にアナスンが待ったをかける。出鼻を挫かれずっこけそうになる男だが、次に言われた言葉を聞いて絶句する。

 

「そうだ、この子にはまだちゃんとした名前がない。君がつけてあげてくれるかい?」

 

「え…?俺が名前を?」

 

「センスいいのを頼むよ!」

 

 そう言われ頭を悩ます男。周りの創聖も興味深そうに彼を見つめる。横を見ると新兵が男を見つめている。その目からは何も感情は感じられない。期待されていないのか、それとも名前そのものに興味がないのか、男には分からなかったが、少しは肩にかかる重圧が減った気がした。

 

「この子の名前は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は一度、工房を後にする。今回、物語を書き進めるにあたり新兵と共に探索をするキャストを連れてくるためである。男は探索を行うメンバーを事前に考えていた。ただアナスンにより探索する際にはヴィランが現れると聞かされた為、当初考えていたメンバーから多少変更することとなった。

 

「おいで」

 

 そう言って新兵の手を取る男。彼女は指示を与えなければ自発的に動こうとはしない。キャストというよりはロボットのような機械的な存在のように感じる。そして決して男の言うことには反発はしない。むしろ反発するだけの感情すら持っていないというべきだろう。

 

 不完全な状態のキャストではあるが、これから共に肩を並べて戦う仲間たちに紹介しなければ筋が通らない。そう思った男は現在、待機中のキャスト達が集まっている場所へと向かう。そこは奇しくも朝に男がひと悶着を起こした場所であった。

 

 

 

 

 

 

 

「もう!待ちくたびれましたよ!マスター」

 

 部屋に入ると同時に元気な声に迎えられる。その声色から男を責める類のものではなく、信頼感ありきの口撃だといえるだろう。定番の童話、白雪姫のヒロイン、シュネーヴィッツェンが槍を弄びながら男へと近づく。

 

「まぁまぁ、落ち着いて戦いに備えることが出来たと考えましょう」

 

 そう嗜めるのは女性と見間違うほど美しい金の髪の男、ロビン・シャーウッドと呼ばれる男である。座って弓の手入れをしていたロビンは、矢筒を軽く背負うといつでもいけるとアピールをする。

 

「おっ、その子が新しいキャストってやつ?錫の兵隊って聞いてたけど、なんか思ったより小さいんだな」

 

 男は真上から声を掛けられ、一瞬目を丸くするが、すぐに調子を取り戻し声の主に注意する。

 

「人に話しかけるときはちゃんと正面に立って話してくれ、ピーター」

 

「へいへい、おっさんみたいな説教は勘弁してくれよ。それよりもその子だよ、その子」

 

 ピーターと呼ばれた少年は男の上の空間から逆さまの状態で降りてきて新兵に指を向ける。指された新兵は微動だにしない。反応がない新兵を尻目にピーターはあれこれと話しかける。

 

「俺はピーター・ザ・キッド!よろしくな!俺は空の守り人、永遠の国の住人だ!永遠の国っていうのは…」

 

 反応のない新兵を気にすることもなく話しかけるピーター、その横では目をキラキラさせながら新兵を見ているシュネーヴィッツェン。彼女は新兵の反応がない事に頭を捻る。

 

「ねぇマスター、あの子喋れないの?」

 

「いや、多分だけど、どういう反応をしたら良いか分からないんじゃないのかな?シグルみたいな感じだと思うよ」

 

「うーん、シグルは最初からある程度、反応してくれたんだけどなー」

 

「それは君だけだと思うけどね」

 

 男とシュネーヴィッツェンが話しているとロビンが男の肩を叩く。

 

「ところで彼女の名を伺っていいでしょうか?」

 

 その言葉を聞き、男は一瞬目を新兵へと向け、ロビンの方へ戻す。ロビンは一瞬だけであったが、男が言葉にするのを迷う気配を感じ取った。ロビンがその違和感を男に訊ねるよりも先に男が口を開く。

 

「彼女の名は…… ツィン(Tin) 俺が名付けた」

 

 その言葉を聞いたロビンが納得したように笑顔になる。

 

「なるほど、シンプルで良いと思いますよ」

 

「んん、あまりネーミングセンスはないんだ。突っ込まないでくれ」

 

 男の泣き言を聞いたシュネーヴィッツェンはキラキラを三倍増しぐらいにして新兵、ツィンの元へ突撃する。そして途中のピーターを跳ね飛ばしながらツィンに抱き着きながら頬擦りをする。

 

「ああ~かわいい~、ようやく私にも妹分が出来たよ。ありがとうマスター」

 

「妹というには少し、いや、かなり反応が薄いけどな」

 

「その為に私達が居るんでしょ、私に任せて!」

 

「そういうことだな、これを」

 

 そう言って冒険譚と書かれた本を差し出す。

 

「この子の為に手伝って欲しい。頼む」

 

 そう男が頭を下げる。このようなことは今までになかった。神筆使い同士の鍛錬や禁書指定の物語に触れる時も彼は毅然とした態度でキャストを導いてきた。そんな男の意外な姿を見たキャスト達は呆気に取られていた。しかし男の強い思いを感じたキャスト達は、思い思いの言葉を掛ける。

 

「マスターに頼まれなくても困ってる子は助けますよ!だってそれが私の正義だから!」

 

「フッ、かわいらしい妹さんの為に私もお手伝いしましょうか」

 

「おっと俺を忘れちゃ困るぜ、夢を守るのが俺の仕事だからさ」

 

 男は顔をあげると横にいた新兵に目線を合わせ、肩に手を置く。

 

「これから先、様々な敵が君を阻むだろう。俺も神筆使いとしてお前やキャスト達をサポートする。だが迷った時はキャスト達を信じなさい。俺が彼らを信じるように。いいかい?」

 

「はい、マスター。行きましょう、戦う準備は出来ています」

 

「行こう、ティン。 物語を始めるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこか見覚えのある風景、その中をキャスト達が進軍する。数多の兵を倒し、拠点を破壊する。禁書を封じた時と同じような錯覚を覚える。だがその時とは違う不確かな感覚をキャスト達は感じていた。そして現れる巨大な影。

 

 ヴィランと呼ばれる敵役。何処から来て、何をするのか?その存在意義を見出すには余りに不明なことが多すぎる。一説には主人公の箔を付けるため、また一説には世界をリセットさせるため、物語の終着点という説すらある。ただ一つ分かることは、心を手に入れるにはヴィランを倒さねばならないということ。

 

 

 

 

 

 カチッ、カチッと時計の音が鳴り響く。暗い底から飛び掛かる影。水はこの戦場には無いが、暗い水底から襲うという概念が、かのヴィランに恐るべき能力を与えている。

 

 クロックダイバーと呼ばれる一撃必殺の刃がキャストを襲う。

 

「あらよっと」

 

 風を纏ったピーターがヴィランの一撃を躱す。

 

「こいつは何度見てもいい気はしないぜ…」

 

 彼がそう呟いたと同時にヴィランは腕を交差させる。その隙を狙って、ロビンがヴィランの脇から強烈な一撃を加える。

 

「何処を見ている。貴方の相手は私ですよ」

 

 ヴィランが咆哮し、その目がロビンを見据える。キャスト達が分散しているのを理解しているのか、ロビンだけを狙わず尻尾を振り回す。その際に衝撃波が発生し、キャスト達は吹き飛ばされる。

 

 キャスト達がダウンしている隙を狙い、ヴィランは地中深くへ潜り込む。時計の音が鳴り響き、再び獲物に喰らい付こうとするヴィラン。次のターゲットは新兵だった。

 

「危ない!」

 

 そう叫び声が聞こえた時には新兵はシュネーヴィッツェンに突き飛ばされていた。

 

「不滅の心が勝利を呼ぶ!」

 

 新兵を庇い、致命傷と思われたシュネーヴィッツェンだが、その傷は瞬く間に再生し再び戦線に復帰する。

 

「さあ、攻めて行きましょ!」

 

 その言葉を皮切りにヴィランに攻撃が集中する。次第に優勢になる戦況に最後の一押しが加えられる。

 

「自分に記された最高の力、お見せ致します」

 

 新兵がその真の力を解放し、キャスト達に力を与える。

 

「必ず仕留める!」

 

 鋭い声と共に放たれた矢がヴィランの急所を的確に貫く。断末魔の叫び声と共にクロノダイルと呼ばれたヴィランが姿を崩していく。ヴィランが消滅したことで周りの景色が歪み始める。

 

 

 

 

 

 

 次にキャスト達が気がついた時はアナスンの工房だった。冒険譚の本を片手にマスターと呼ばれる男が立っている。

 

「おかえり。無事に戻ってきてくれて何よりだ」

 

「ただいま戻りました。異常ありません」

 

 そう言って男は新兵の頭を撫でる。しかし新兵はされるがままで何の反応も示さなかった。

 

 

 

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