それは、次元を超えて
耳に、ゲームの音が聞こえてくる。
それは何だっただろうか、現在身動きがとれない自分では確かめることはできない。
ここは病院のはずなのだが……誰か携帯用ゲーム機でも持ち込んでいるのだろうか。
だけど、音だけでもわかることはある。
この音は波動砲のチャージ音、すなわち、R-TYPEというシューティングゲームで出てくる兵器がエネルギーをチャージするときに発する音。
始めは小さな音だが、最大まで溜めると、回るような甲高い音がテレビから聞こえ、ボタンを離せば溜めたエネルギーは放たれて、敵である存在、バイドを倒していくという物。
まあ、自分はR-TYPERと呼ばれるほどの腕前を持っているわけでもないし、全てのシリーズを遊んだわけではない、ネットのプレイ動画で見たものが多いが、結構な思い入れがあるゲームだ。
バイドと呼ばれる敵をR戦闘機と呼ばれる兵器で倒していくというゲーム。
最後にやったのはいつだっただろうか、病気にかかり病院に入院することになった時の前の日当たりにやった覚えがあるから……十年位前?。
まあ、やろうと思っても目もあまり見えなくなってきているし、すぐにやられてしまいそうだ。
子供の頃一緒にやっていた友人は今頃何をやっているだろうか、結婚はしたと言ってはいたから子供とかもいるんだろうか、入院してから完全に交流が断たれてしまったからわからないけど。
……バイド、覚めることのない悪夢、遠く彼方の時間よりやってきた兵器、人間の狂気が生み出した兵器。
波動の性質を持ち、無機物有機物を問わず、果てには精神にまで侵食し融合する規格外の兵器、だったかな? 。
そんなものが本当にあるのなら、現実にも出てきそうだなと思ったのは自分だけではないはずだ。
まあ、無いから今の世はバイドに襲われていないのだろうけど……ん? 。
今更だけど、なんでゲームの音がするんだ? ここは確か個人部屋だったはずで、来るのも医者や看護師さんたちだけのはず、なのになんで音がするんだ。
しかもよりにもよってR-TYPE。
もしかして死期が近いのか? それで幻聴を? そう思ったら意識が落ちていく、落ちて……
――ああ、一度でいいから、どんな形でもいいから、アローヘッドに乗ってみたかったなぁ……
「畜生! なんだよこいつは!?」
上空二万メートル、そこで戦闘機による戦闘が行われている。
戦闘機に乗っている人物たちは訓練を積んだベテランたちである。
軍による厳しい訓練に耐え抜き、ライバルでもある数々の仲間たちを差し置いて選ばれた者たちだ。
本人たちもそれを誇りに持っているし、周りの人物たちもうらやましくも思いながらも、『ああ、あいつなら』と納得するという人物たちだった。
そんな人物たちが、その敵にかすり傷一つつけられていないという事実がこの空にあった。
整備士の整備不良? それとも自身の技量不足? 今日は運がない? 様々な要因がパイロットの中で生まれては消えていくが、そのすべてを否定する。
違う、そんなものではない、そんなものでは決してない。
自分たちが相対している存在は、得体のしれないバケモノだということをその身に感じていた。
「なんであんな動きができるんだよ!」
バケモノは、文字通り自由自在に空を舞っていた。
弾丸が四方八方から飛んでこようとも、上へ下へと瞬間移動でもしているかのような動きで交わしていくのだ。
物理法則も航空力学のあったものではない、それらに喧嘩を売っているとしか言えない軌道で飛び回っているのだ。
これでは、訓練を積んだ者たちでも嘆きの声を上げることも仕方がないだろう。
「なら、これでどうだ!?」
彼らはバケモノを包囲し、次々搭載されたミサイルを発射する。
下手をすれば仲間を落としかねない危険な行為だったが、こんな奴を国に入れてしまえば終わりだと皆が思ったことがこの行為を行うきっかけとなった。
放たれたミサイルはバケモノへと向けて真っすぐに飛んでいく……だが、彼らはこの存在を侮っていた。
「嘘だろ……?」
その声を出したのは誰だったか、煙が晴れた後あったのはボロボロになり落ちていくバケモノではなく、傷一つない無傷の姿だった。
流線形上のコックピットには、何の傷も存在していなかった。
バケモノの先頭にあるオレンジ色に淡く光る球状の物体が無機質に彼らを見つめている。
”一発でも当たれば終わる”そんな淡い考えを皆が持っていた。
だが、この存在はいともたやすくそんな思いを打ち砕いたのだった。
「こいつ……俺たちと同じ技術から生まれた戦闘機なのか?」
そう呟く一人が、バケモノの行動を目撃していた。
その行動というのは、ただ前に動いた、それだけだった。
バケモノは当然と言わんばかりに、ミサイルへとと突撃したのだ。
そこまでなら自棄になったのかと思っただろう、だが、新たな非常識がその状況を突破した。
バケモノの前に常に浮いているオレンジ色の物体がミサイルを消滅させたのだ。
いや、正確に言えば食われたと表現したほうが正しいだろう。
そうして、このバケモノはこの危機的状況を脱したのだ。
そのような非常識に驚く間もなくバケモノが動き始めた。
「奴め、いったい何をするつもりだ……?」
バケモノは機関銃の攻撃をかわしながら、普通の戦闘機からは絶対に聞こえてこないだろう音を出し始める。
それと同時に青白い光が集まりだした。
「総員退避せよ!」
嫌な予感を感じた隊長機が撤退の命令を出す。
その予感が彼らの運命を決定づけた。
豪っ! という音ともに光が走った。
「うっうわあああああああ!?」
「柿崎いいいいいいいいい」
逃げ追くれた戦闘機に光が直撃する。
光は戦闘機を通過すると、無情にも、そこには何も残らなかった。
「はっはは…‥・俺は夢でも見ているのか?」
あまりのもあっけなく仲間を失った、その事実が襲い掛かってきていたが、自分もああなってしまうかもしれないという恐怖が、仇を取るという行動すらも取らせなかった。
恐怖にすくむ隊員たちを置いて、バケモノはどこかへと飛んでいった。
それを追うものは、誰一人ともいなかった……。
ものすごい現実感のある夢を見た気がした。
自分はR戦闘機の一つ、始まりのRであるアローヘッドに乗り込み、どこかの戦闘機と戦うという夢だった。
自分は夢だからか思い通りにアローヘッドを自由自在に動かせた。
そのおかげか、機体の性能差もあってかは一方的に勝利することができたと思う。
目が覚める最後に波動砲を打てたのは夢だとしても最高だった。
また、あんな夢が見れたらいいなと思う。
あれ、そう言えばなんだか視界がおかしいような? 、天井が琥珀色に見える。
それとなぜか体の調子がいいみたいだ。
寝る前は動かすこともできなかったのに、なぜだろうか……まあ、考えてもわからないか。
体が動くなら歩き回るのもいいかもしれない、リハビリがてら通路を歩き回ってみようか。
そう思い病室を出れば、イヤホンでも抜けているのかどこからかテレビのニュースが聞こえてきた。
【次のニュースです、 先ほど所属不明機によって我が国の戦闘機が一機撃墜されました。 帰還した隊員は、バケモノを見たとうわごとのようにつぶやき続けていたとのことで詳しいことはまだわかっていません。国はこのような事態に……】
……何やら自分が寝ているうちに大変なことになっていたようだ。
ニュースで言っている内容が夢で見たことと似ている気がするが、気のせいだろうか? まあ、気のせいだろう。
だってあれはただの夢なのだから、この事件もすぐに解決するだろう。
自分が思うことではない、うん、それにしても
――セカ イハ コン ナニ モウ ツク シイ