ゴレオンとマァムが戦いを始めたちょうどその頃。
「ほっほっほっ、ギュメイの邪魔はさせませんよ」
ダイとギュメイの一騎討ちをさせる為にゲルニックはヒュンケルとポップを相手にする。
「貴様は見たところ魔法を主体に戦うようだが、これを見てもそう言えるのか?
ヒュンケルが鎧を身に纏い、構える。この鎧は攻撃呪文を無効化する効果があり魔法を主体に戦う相手に優位に戦うことが出来る
「何一つ問題はありません。メダパニ」
しかし、ゲルニックは補助呪文でヒュンケルを混乱させる。その結果、ヒュンケルは混乱してしまった。
「うおおおぉぉぉっ!」
「敵は、向こう、向こうだって! ヒュンケル!」
襲いかかってきたヒュンケルにポップがゲルニックに向け指差す。しかし混乱しているヒュンケルには無駄だった。
「ほーっほっほっ。貴方達の無様な姿を見ると心がスッキリしますね」
ゲルニックの笑みはサディストそのもの。ポップがヒュンケルに斬られそうになる度に笑い声を上げる。
ダイの相手はギュメイ。片刃の剣を左手に持つヒュンケル等の戦士寄りの将軍だ。
「つ、強い……!」
それまでダイは幾度なく剣を持つ相手と戦ってきた。ヒュンケル、バラン、稽古上のロン・ベルク、超魔ハドラー。しかしいずれも右利きであり、剣を左手のみで持つ相手はギュメイが初めてだ。
「むんっ!」
その初めての経験に加え、ギュメイ自身もかなりの実力者。ヒュンケルのような付け焼き刃で身につけた魔法剣擬きではなく、正真正銘の魔法剣使い。その上ベンのように二回行動を起こせる格上の相手だ。
「く、くそっ!」
ダイはギュメイの戦法に苦しむあまり、雑に魔法剣を扱う。その結果、足元を掬われた。
「うわっ!?」
「去ね。勇者ダイ」
氷を纏ったギュメイの剣がダイを襲った。
「させん!」
第三者の声が響き、その剣は止まった。青年の声を聞き、ヒュンケルはゲルニックと対峙しておりダイを庇った者とは別人であるとわかる。では一体誰なのか? ダイは答え合わせをするようにその人物を見る。ジゼルやハドラーのような魔族特有の尖った耳にヒュンケルの剣と同じ素材を使った槍。
「誰……?」
しかしその人物はダイの心当たりに全くなかった。それもそのはず、ダイと行動を共にした四人の中で面識があるのはゲルニックを相手にしている二人のみである。
「陸戦騎ラーハルト見参。ディーノ様の危機を駆けつけここに参った!」
「陸戦騎ラーハルト?」
「はっ。私、ラーハルトは貴方の父君バラン様にお仕えする部下にございます」
「父さんの……!?」
「はい。それよりもディーノ様お下がり下さい。この豹を一瞬で仕留めてご覧いたしましょう」
「あ、あのさ……悪いけど俺のことはダイって呼んでくれない?」
「了承しました」
微笑み、ダイが後ろに下がりラーハルトが前に出る。そしてギュメイも片手持ちから中段構えに切り替えた。
「我と貴様どちらかが一瞬で死ぬ……と言うことか」
「流石だな。今の会話でこちらの意図を読み取るとはな」
まさか。そうダイが思った瞬間ラーハルトとギュメイが動いた。ギュメイの剣がラーハルトを捉え切り裂き、ラーハルトの槍がギュメイを捉え貫き、互いに背を向ける。
「……見事!」
ギュメイが声を上げ、ラーハルトを讃えた瞬間ギュメイの腹から血が流れ、姿が消えていく。
「ガナザタイ様、再びそちらに参ります。貴方を復活させられぬ私を御許し下さい……」
そして忠臣ギュメイは安らかに眼を閉じ完全に姿を消した。
「そちらもたいしたものだ……我が鎧を二度も切りつけられるだけでなく、火傷と凍傷を負わせるとはな」
ダイはそのセリフを聞いて思わずラーハルトの体を見るとヒャド系の魔法剣とメラ系の魔法剣で切られ傷痕が目立つ。見ているだけで痛々しいものだ。その視線に気がついたラーハルトが口を開いた。
「ダイ様、心配には及びません。それよりも先に進んで下さい。私は残りの者の救援に参ります」
「わかった。気をつけてね」
ダイがその場から離れ、先に進む。
「(氷と炎、この二つを上手く使えば、俺も強くなれるかもしれない。いや強くなってみせる……!)」
そしてギュメイが倒れ数分後、ポップは混乱したヒュンケルに追い詰められ服はボロボロ。それでもほぼ無傷で済んでいるあたりポップも成長していた。しかしそれにも限度があった。
「うわぁァァっ!?」
ポップが尻餅をついたのを好機と見たゲルニックがポップに目掛けて巨大な火の玉を放った。
「おくたばりなさ……何っ!?」
だがポップに目掛けて突き進んだ火の玉が真っ二つに切り裂かれた。
「ふん、全く情けない奴らだ」
「お、お前は……あの時の!? そうだ、ラーハルトだ!」
「久しぶりだな。それだけ元気ならこいつの必要はないと思うが、一応食っておけ」
ポップに薬草を与える。ダイと態度が大きく異なるものの、対応は同等以上だった。
「うおぉぉぉっ!」
そしてヒュンケルがラーハルトを襲うがそれをいともあっさりといなした。
「目を覚ませ。ヒュンケル」
「う……ラーハルト?」
ヒュンケルが仰向けの状態からラーハルトに視線を向ける。そして思い出す。ゲルニックと戦っている最中でメダパニにかかりポップを攻撃してしまったことを。
「気を付けろラーハルト。あいつはメダパニを使ってくる」
「お前の状態を見ればわかった。要はあいつの呪文を食らわなければいいだけのことだ」
「出来ますかね? 貴方如きに」
「その如きを試してみるか?」
そしてラーハルトが動く。ゲルニックに一瞬で迫り、バッサリと切り捨てた。
「ほっほっほっ……どうやら私もここまでのようですねぇ。ですが私を倒したが故にあのお方を目覚めさせてくれた」
「なんだと?」
「他二人の将軍は知らない方が都合が良いので伝えられていませんでしたが、私達三将軍が倒されるとガナザダイ様が復活するようになっています。ガナン帝国に栄光あれ……!」
半透明になっていたゲルニックの姿が消え、ラーハルトが土を蹴る。
「クソっ、ダイ様が危ない!」
ラーハルトがダイの向かった先へといき、ヒュンケルやポップもそれに続いた。
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「しかし良いのだなミストバーン? その勇者とやらを倒したらバーンを殺しても」
『……ガナサダイ、お前に許されるのはバーン様と一対一で戦う権利だけだ』
「どちらでも同じだ。どちらか殺されるまで貴様達は手出し無用。真にこの世界を支配する王を決める戦いにそのような邪魔があっては不粋だ」
『……』
「バーンは余を余興として復活させたつもりなのだろうが、それが間違いであったことを身体で教えてやる。ミストバーン、お前の間違いはバーンを止めなかったことにある、と後悔するが良い」
『バーン様のお言葉は全てに優先する。バーン様の命令に従って後悔することなど何一つない』
「ならば最初で最後にバーンの命令を従って後悔するその瞬間を見せてやろう」
ガナサダイがダイのいる場所に移動し、ミストバーンだけがそこに残った。
『バーン様の命令に従って後悔することなどない……絶対にだ!』
怒りを交えたミストバーンの叫びは誰にも聞かれることはなかった。
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