ゴリラのジャンプワールド大冒険   作:おひさ

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ゴリラ転生、トレーニングする

 海のあたり一面を覆う、巨大な霧の壁が一箇所に集まっていく。その近くには巨大な船。船の少し上、雲に乗る巨大な女の元に霧が集まっていく。

 

「ママママママ! 政府はとんでもないことを隠してたんだねえ!」

「まさかこの星が丸くないだなんて。本当はどれほどの大きさがあるというの」

「これが、ラフテルの正体?」

 

 ある海賊が、世界の禁忌に触れようとしていた。

 

「ここから先、入るのよくない」

「なっ」

「どこから入ってきた!?」

「こいつ、浮いてやがる」

 

 突然現れた黒い小さな男。と言っても横幅はあり成人男性の体格ではある。女やその部下の海賊達が大きすぎるのだ。男は無表情で何を考えているか分からない。マントに乗って浮かんでいる。

 

「誰だいあんたは?」

「名前言えない。お前達帰れ。それ以上近づけば攻撃する」

「はん。政府の番人ってところかい? オレに命令してんじゃねえよ」

「しょうがない。そっちの防人が来るまでポポ相手する」

 

 そしてぶつかり合う。巨大な女と小さな男。

 

――――――――――

 

 突然感じる浮遊感。体が落ちていく。怖い。夢にありがちだよね。

 

「グヘェッ!?」

 

 って、マジで落ちてるじゃんいったー。なんだこれは。というかここどこ? 森?

 俺は家で寝ていたはずでは? って、俺の手がおかしい。毛むくじゃらだ。というか素っ裸で全身毛むくじゃら! しかもムキムキ! なんじゃこれ!

 

「アッフィアッフィ!」

 

 驚きのあまり走り出す俺。何も考えずに走ってたら4足走法になってやがる。声もなんかゴリラっぽいし、まさかゴリラになっちゃった? いやいや、これも夢でしょ。はよ覚めろ!

 

「ぜえ、ぜえ」

 

 覚めろ覚めろ覚めろ! 疲れるんじゃはよ覚めろ!

 

「ぜえ、はあ、はあ。きぃー」

 

 もうマジ無理。走れない。ゴリラ速いけど体力ない。体がめちゃくちゃ重い。

 それに、このしんどさは夢とは思えない。足で地面をつかむ感覚もしっかりしてるし、現実みたいだな。

 

 顔を手で触る。すごくゴツゴツしてる手。「あいうえお」。よかった、喋ることはできそうだ。おち○ち○は、よかったついてるな。男のようだ。しかもデカイ。よかったな。いや、何がいいのか。メスゴリラとくっつくなんて絶望だ。

 待てよ。ゴリラだからメスゴリラに興奮するように精神が変わってるのか? そう考えると大丈夫な気も……、いやダメだ。やっぱ無理。まずその本能が気持ち悪い。絶対に負けたくない。うん、メスゴリラについては考えないことにしよう。俺は人間の女の子とだけ考えていればいいんだ。ふつうの女には間違いなくフラれるけど、どこかにゴリラ好きの変わった女もいるはずだ。たぶん。

 

 はあ、ショック。でも落ち込んでばかりもいられないな。人間と違って水や食料は自分で手に入れないといけない。怖いなー、大自然。ゴリラって何を食べたらいいんだ? まあ霊長類は生物的に人と近いみたいだから人が食べられるものはなんでもいけるとは思うが。ああそうだ、料理を極めるのもいいかもな。ジャングルでも料理できれば楽しそう。人間にも人気出るだろうし。そもそも喋れる時点で人気出るか。テレビとかにも出て、お金もいっぱいもらえそう。俺の飼い主がな。そうだ。その飼い主をゴリラ好きの女にすればいいんだ。なんだ人間界簡単じゃん。

 って、考えてたら早速デカイ実がなってる木を発見! 上ってみるか。

 

「よいしょっと。はは、木登り楽勝ー」

 

 ゴリラの握力、腕力すげえなあ。ほぼ垂直の木でもちょっとした凸凹を掴んで上れる。しかも全く疲労感がない。ま、ずっとやってたら疲れるんだろうけどさ。

 

「ほいっ」

 

 ブチッと千切れるデカい木の実。そのまま食えばいいのか? 齧りついてみる。外側が硬いなあ。歯で削れてるけど時間がかかりそう。割った方が早いな。

 木から落としてみるか。狙いは、近くの大き目の岩。

 

「オオウッ」

 

 木の実は岩に当たると、パッカーンと割れた。勢い余って中身が出ちゃってる。ちょっともったいないことしちゃったな。

 

「もういっちょ! もういっちょ!」

 

 木についている実をどんどん落としていく。一個じゃ足りないと思ったからね。

 全部割ると木から降り、実に顔を近づける。ぺろりーん。うーん、デリシャス。ココナッツっぽい味。ココナッツあまり食べたことないけど。

 しかし、木の実はすばらしいなあ。食事にもなるし水分補給もできる。生きるだけなら余裕かもな。虎とか巨大蛇が来なければ。うーん、一応戦いの練習もやっとくか?

 

「ふんっ、はっ」

 

 腕を振り回したり、蹴ってみたり。人間の頃に比べるとすげえ大振りだな。勝手にそうなっちゃう。でも威力は桁違いだ。風圧とか感じるし。グワングワンて音が出る。ひょっとして鍛えたら虎にも勝てるんじゃないか? ふつうのゴリラって鍛えないし。花の慶次の前田慶次とかイチローは虎やライオンが筋トレしないと言ってたけど、ダルビッシュは虎がトレーニングしたらもっと強くなるかもしれないって言ってたもんな。俺ゴリラだけど。違ったっけ?

 

 なんて言ってたら、蜂が出てきたぞー。こわー。いや、怖くないのか? ゴリラボディに針が刺さるとは考えにくい。だってクマは蜂なんて構わず蜂蜜食ってるし。ゴリラも似たようなもんでしょ。

 

「キィーッ」

 

 うっとうしいから張り手で蜂を潰す。硬い部分もあったけど痛みは全く感じない。ゴリラつえー! 潰した蜂は食っちゃおう。テレビで実は美味いと言ってた気がする。

 

「ぺろりん」

 

 うーん、蝦を蜂蜜漬けしたような味。甘くはないけど風味がね。まあまあだな。

 あとは野菜食べたほうがいいのかなあ。葉っぱ、どれが食べられるのか分からん。誰も教えてくれないし、勘で食べてみるしかないのだろうか。そうだよな。まあ、なんとなく分かるんだけど。ゴリラの本能みたいなやつで。この長いつるとかね。

 

「むしゃむしゃ」

 

 やっぱいける。苦味とか毒っぽさがない。ゴリラセンサーすげえなあ。後で腹壊すかもしれんけど。でも蜂を食べたのだってゴリラセンサーで食べられるって感じたからでもあるし、たぶんいけるっしょ。

 あとさ、森だからけっこう鳥がいるんだよね。ゴリラだから木余裕で登れるし、卵とか取り放題。もちろん鳥は、ゴリラの体重では支えられないような、上の方のほっそい枝に巣を作ってるよ。でも俺には知恵があるんだよなあ。長い枝を持てば巣に届いちゃう。ちょっとつつけば卵が落ちて、食べれちゃうんだよなあこれが。余裕です。

 

「うめえ。卵うめえ」

 

 食べ過ぎると減っちゃうから、適度に巣を残した方がいいのかな? よく分からん。雛も落ちてるけど、なんか食べにくい。と言っても卵の中にちっちゃい雛が入ってる場合もあるけどね。うん、気持ち悪いから雛が入ってるのはやめておこう。

 

 そんな感じで一日を過ごした。腹は壊さなかった。ゴリラセンサーすごい! 夜は木の上で寝た。

 さて、翌日となる。人間の身体に戻ってはいなかった。残念だ。でもくよくよしてもしょうがないからな。それに、人間だと子どもは勉強して、大人は就職して上司の奴隷として生きていくが、ゴリラは自由だ。思うように生きればいい。これはジャンプ漫画的には最も理想的な生き方なのではないか? ドラゴンボールやワンピース、古くはコブラなんかで考えるとさ。うむ。

 さて、前日分かったことをおさらい。この近くはでっかい木の実がなる木があるし、食べられる虫もいるし、葉っぱもある。余裕で生きていける。このままここにいるか、今すぐ出て行って人里を捜すか。……ま、ここにいるべきだろうな。虎と遭遇しても勝てるように鍛えたいし、人間に見つかっても殺されないように喋り方とか段取り決めたいし。俺、喋れると言っても日本語だけで、あとは英語が少々なんだよなあ。ゴリラってアフリカの動物でしょ? 現地語なんて分かんねえよお。南アフリカなら英語通じるだろうけどさ。でも英語そんなすらすら喋れないし早いと聞き取れないからなあ。うむ、待ちだな。自信がつくまでここで身体を鍛えるのと喋る練習だ。

 

 さて、特訓何しようか。ドラゴンボール的な特訓? サイタマ的な特訓? 科学的な特訓? ゴリラの特性としては上半身が強い。特に握力と腕の力。木を掴むのが身体にしっくり来る。投擲もできる。うんこ投げるとかね。なんか野球できそう。

 

 その辺の木をへし折り、振ってみる。

 

「ふん、ふん、ふん」

 

 やっぱ野球のバット感覚で振れた。すごいいいスイング。場外ホームラン余裕そう。当たればだけどね。戦いと考えても、このスイング虎に当たれば一撃で倒せるんじゃね? 俺は人間の思考力があるから木の先に大きな石をまいたりもできるし。顔面ぶっ潰せるんじゃね?

 あと投擲は、その辺の石投げてみるか。

 

「ふんっ」

 

 うわっ、すげえ威力。砲丸くらいの重さはあるだろう石が、30mくらい飛んだ。鍛えればまだまだ記録伸びそう。これ、銃弾より強くね? もちろん貫通力は勝てないけど、破壊的な威力だとね。エネルギーと言ってもいい。俺は人間時代野球やってたのよね。なのでふつうのゴリラよりはずっとスイングも投擲も上手いはず。

 

 まあとりあえず、遠距離投擲、中距離枝スイング、近距離パンチや張り手、と戦闘手段を得たわけだな。虎との戦いを考えると破壊力の大きい枝スイングを鍛えるべきか。ほんで銃を持つ人間から逃走することを考えるなら投擲かな? パンチは使い道なさそう。ゴリラと言えば殴るだけの脳筋戦闘なのにね笑。

 

 とりあえずサイタマ的な感じで素振り100回、投擲100回、パンチ100回やってみよう。ランニングとかドラゴンボール的なトレーニングはちょっとキツい。20kgの重りは問題ないけど体力がね。腕立て腹筋背筋はゴリラ的には向かないからね。それに俺イチロー信者だからああいう筋トレやりたくないし。イチロー信者がゴリラ筋肉って矛盾してる感じあるけどね笑。

 

「ふんっ、ふんっ、ふんっ」

 

 素振り100回。いい汗かいたね。

 

「はっ、はっ、はっ」

 

 投擲100回。人間と同じで30球くらい投げると肩が温まって威力が上がるね。疲れは、けっこうしんどい。人間の頃よりしんどいかも。

 

「おおうっ、おおうっ」

 

 次は柔らかそうな木に向かってパンチ(腐りかけで柔らかい)。勝手にゴリラパンチになっちゃうよ。人間で言うところのフックね。ストレートは無理。意識すればアッパーとか叩きつけはできるよ。ぐるぐるパンチもできる。威力はぐるぐる回した方が若干強いね。投擲で肩が温まってるのも関係あるかもしれない。おもしろい。

 うん、ゴリラ生活案外おもしろいじゃん。

 

 そんな生活を半年くらい繰り返した。俺の筋力はみるみる向上し、今では直径50cm長さ10mくらいある丸太を軽く振り回し、砲丸くらいの石を100mくらい投げ、ぐるぐるパンチで直径1mくらいの木をへし折れるほどになっていた(こっちの拳も痛いが)。ゴリラすげえ。限界を感じないほどいくらでも強くなる。前世でもゴリラがトレーニングを覚えたら人間終わってたかも分からんね。下手したら戦車ひっくり返しちゃうぞ。というか俺、本当にただのゴリラか? ここは現実か? 異世界なのでは?

 

 半年も経てばさすがに鍛えるのにも飽きる。今の俺が虎程度に遅れを取るとは思えない。人間相手も、銃は怖いがたぶん大丈夫だと思う。すごい頑丈になってるから。だから、そろそろ人里を探そうと思う。あばよ、森。

 

 森を出て歩くこと数日、川を見つけた。大きなワニもいた。襲い掛かってきたから丸太で殴ってみた。一撃でぐしゃってミンチになった。やっぱ俺強くなってる!

 人は川の近くに村を作ると聞く。よって川に沿って下ってみることにした。川の近くは動物が多くて、水を飲もうとしたらワニやピラニアみたいな魚が飛び掛ってくる。しかし余裕である。虎やライオンも見かけたが、丸太をかつぐ俺に恐れをなしたのか、攻撃されなかった。カバと戦闘になったこともあったが、ワニと違って一撃でミンチにはできなかった。でも一撃食らわすと大ダメージみたいで、逃げていった。

 

 しばらくして、海が見えた。残念ながら人里を見つける前に海岸についてしまったのだ。ひょっとするとここは無人島かもしれない。

 だが、そんな情報よりも重要なことがあったのだ。なんと、海が、大地が、ぐにゃっと曲がっている。海の向こう、遥か遠くに、巨大な水の壁がある。なんちゅうデカい津波だよ。というか、本当に波なのか? 固定されている気がする。だって、うっすらと島が見えるから。何これ? やっぱりここ異世界? 地球じゃなかったの?

 

 ポカンと口を開けて呆然としてしまう。何か怖い。水の圧迫感が怖い。そのまま、どれほど時間が経っただろうか。ふと、波の向こうに形のある何かが見えた。色は茶色だろうか。それは本当に豆粒ほどだったのだが、徐々に大きくなっていく。そしてやっと正体が分かった。船だったのだ。ボロボロだが巨大な船が、真っ直ぐこの島目指して進んでくる。間違いなく人が乗っている! 俺はやっと人に会えるのだ!

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