「なぜこんなにノイズが……」
遺跡へ向かう途中でノイズと遭遇しているが数が多い。市街地にいたノイズと同じか、それ以上。
槍型のアームドギアを自在に操り、木々の中でも迅速かつ正確に処理していくセン。
『センちゃん、遺跡はすぐそこよ。まだ生存者がいるかもしれないから戦いは慎重にね』
「承知した」
彗星の如く森を駆け抜ける。
森を抜けるとそこには遺跡と思しき建物があった。
「クソぉ! 絶対に、絶対に許さないぞぉ!」
赤髪の少女がノイズに取り囲まれながら叫ぶ。
そんな叫びなど関係ない意思無き災害は少女へ突貫する。
少女は最後まで瞼を閉じずに精一杯の抵抗と言わんばかりにノイズを睨みつける。
「――その憎悪を忘れないで」
【旋回槍・蒼円陣】
ブースターから吹き荒れる蒼い炎による超高速機動を用いた円形範囲技。対象を守りつつ槍をスクリュー回転させながらノイズが動く前倒すことを重点を置いたオリジナル。
「生存者を発見した。守りつつただちにノイズを殲滅する」
『よくやった! はがゆいが今生存者を守れるのはセンだけだ。くれぐれもセン自身も怪我の無いように気をつけろ!』
「承知した……!」
上空から飛行型ノイズが現れる。
「空から……ならこれでどう?」
地上のノイズは無視できない。だからといって上空にいるノイズを放置するのも危険。
ブースターを使って飛ぶこともできるが今回は投擲のほうがいいだろうと思い、フォニックゲインを分散させ、圧縮する。
周りに浮かせた槍の内3本を深く腰を落とし、脹脛に生成したブースターを上乗せして蹴り飛ばす。
音を置き去りにするほどの速度で飛ばされた槍はそれぞれ飛行型ノイズに大きな風穴を空けた。
「私の後ろにいなさい「あ、あんたいったい」早く!」
少女を背に地上のノイズを残った2本の槍を両手に持って構える。
形を螺旋状に変えながら高速で迫るノイズを炎で瞬間的に速度を上げた槍で薙ぎ払い、そして貫く。
目の前で繰り広げられる高速戦闘に少女は呆然とした顔で見ていた。
「ノイズをあんな簡単に……」
呆然とした顔から再びノイズに対する憎悪が滲み出る怒りの顔になっていく少女。
あたしにもあの力があれば、あいつがもっと早く来ていればとドス黒い感情が少女を支配する。
「違う、あの人を恨むのは筋違いだ。でも」
少女、天羽奏は両親と妹をノイズに殺された。
遺跡調査中に起こった不幸な事故。そう思えればどれだけ楽なのだろうか。
だからといって自分を必死に守ってくれている人に対して悪意を、憎悪を向けるのは違うと思考できる程度に理性は保たれていた。
(倒しても倒しても湧いてくる。何が起こっているの?)
センは余裕のある表情とは裏腹に胸中動揺していた。
これまで幾度となくノイズ退治に赴いてきたが、その殆どは一波から二波程度で片付く。しかし今現在はどうだ。何十という波を処理してもすぐに湧いてくる。
中には大型も数体含まれているので雑魚を殲滅するのとは訳が違うのだ。
「ーーくっ!」
ノイズの攻撃が脇腹を抉り取る。
位相差障壁は調律によって無効化しているものの、まともにくらえば怪我を負ってしまう。
一時的に突きの速度が落ちる。
が、ここで手を緩めてしまえば自分はまだしも生存者を犠牲にしてしまうのだ。
「負けるな!」
後方から声が聞こえる。
あの生存者の少女だ。
応援は良いことなのだろう。だが、ノイズ相手には悪手だ。
ノイズ達は声の方向へ行き先を変更し、突撃を開始した。
「なんて手のかかる......」
センは天を仰ぎたいところを堪え、少女の前まで瞬時に移動した。
紅い液体が宙を舞った。
【Gatradis babel ziggurat edenalーー】
(まさかこんなところで使うことになるとはね)
(ギリギリ薬を投与しなくてもいい程度の適合率しかない私では命を持続させることはできない)
ーーだとしても
(それがこの子を守らない理由にはならない!)
蒼きガングニールが歌に反応して励起する。
絶唱によって生まれる膨大なフォニックゲインを余すことなく全身へ行き渡らせ、一時的に制限されているシンフォギア の機能のいくつかを解除。
アームドギアから漏れ出るのは荒れ狂う海のようなフォニックゲインが粒子化したもの。
迫り来るノイズは触れることすら叶わず灰と化す。
「一撃で終わらせる」
目や口から血を流しながらさらにアームドギアに超高密度のフォニックゲインを流し込み、完全に制御下に置く。
【夢幻槍・血鮮陣】
蒼と血の色のような赤が混ざり合い、穂先の回転によって強大な竜巻へ。
センと少女の周りのノイズを残らず巻き込んで切り刻む。大型ノイズも小型と同様に抵抗する間もなく消えていく。
たったの数十秒で全てのノイズは灰となり、辺り一帯を埋め尽くしていた。
「カッ......ゔぉほ」
センは吐血した。
苦悶の表情を隠しきれず、這い蹲り、ただただ血を流すのみ。
ギアは既に解かれており、残ったのは血涙、吐血、抉られた脇腹である。
「ハァ......ハァ......あなた、これを」
センは胸元のネックレスをちぎり、少女へ差し出す。
「これで、ゔっ......ノイズたち、を」
「そんなこと言ってる場合かよ! あんた死んじまうよ!」
「うけ、とって」
少女の手を強く掴み、無理矢理握らせる。
「いきなさい」
「でもあんたが!」
「わたしのやった、ことを、むだにしない、で」
虚ろになっていく瞳を精一杯向けて言葉を紡ぐ。
「あんた、ここで待ってろ! すぐ助けを呼んできてやるからな!」
少女はそう言って去っていく。
遠く遠く、ノイズの危険が及ばないところまで。
「ごほっ......ふふっ、まさか、こんなさいごなんて」
(最後に託すものは渡せた。なら、こんな終わりも悪く無いのかもしれない。強いて心残りがあるとすれば)
「ああ、おこのみ、やき、たべたかったなぁ」
センはゆっくりと瞼を閉じた。