ガンダムブレイカー 星達の記憶   作:バイン

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一週間以内に投稿したかった……



戦う理由

「……それは難しいんじゃないか?いや……無理だと思う」

 

『スターダスト』から少し離れた喫茶店、『バーミンガム』にて、コウキ達はあることについて話し合っていた。

 

「『ガンダムブレイカー』で優勝するってのは無茶じゃないかなぁ……」

 

論題は『「ガンダムブレイカー」に優勝すること』に関して、である。

ここでいう優勝、というのは『ガンダムブレイカー』予選のバトル・ロワイアルで『エースポイント』と呼ばれる功績点を一定以上獲得し、後に行われる本選を勝ち抜き、最終的に機動エレベーターの頂点……『宇宙』で行われる決勝で勝利し、世界一へと輝く、ということである。

……書くだけならば簡単であるが、それを成し遂げるにはまずかなり高い数値に設定されている『エースポイント』を稼がなければ本線という舞台にすら立てない。よしんば本選に行けても、そこから先は全世界から集まった猛者達との過酷な戦いを、勝ち抜かねばならない。

実力が十分でも、相手のガンプラとの相性次第によっては敗退することだってある。実際、前回大会では他の大会で優勝経験のあるプロのチームですら、本選の第一試合で相性の悪い相手とぶつかってしまいまさかの一回戦負けを喫するという番狂わせすら起きた。

『絶対』の存在しない、真剣勝負の舞台。生半可な実力では相手にすらなれぬ、その戦場で勝ち残り『優勝』の二文字を勝ち取りたい、と目の前の少女は語るのだ。

乗り気でない様子のコウキに、アキナは不満げに問いかける。

 

「なによ、やる前からそんな諦めムードなんか出したりして……何も61式戦車でビク・ザムと戦うってわけじゃないのよ?」

 

「こりゃそれ以上のことだっての……」

 

「アンタねぇ……四年前に立派な『お手本』がいることを忘れたの?『彩渡商店街ガンプラチーム』という町のチームが二連覇を成し遂げたのを」

 

『彩渡商店街』。『ガンダムブレイカー』を知っている人間ならば知らない人間は存在しないであろう、伝説のガンプラチーム。

付近に百貨店が出来て潰れかけていた商店街を盛り上げようと立ち上がった、一人の少女により結成されたチーム。

四年前の『ガンダムブレイカー』に出場し、日本一となって当時最強と謳われた最強のファイター、初代『Mr.ガンプラ』を撃ち破ったのち、一度の敗北を挟んでのち、世界大会決勝の舞台で発生したウィルス事件を解決し、そして『世界初のMS乗り』となり、正式に行われた決勝にて無事優勝を果たし、翌年行われた『ガンダムブレイカー』にも出場、 二連覇という快挙を果たし、商店街を救った伝説のチーム。

そんな無名から勝ち上がった例を挙げて、発破をかけようとするアキナの意向とは裏腹に、コウキの反応は冷めきっている。

 

「そうは言ってもなぁ……参加するのはお前と俺だけだろう?あそこは『トイボット』を参加させてたけどあれ結構高いしさぁ」

 

「あ、集める予定だからそれはいいのよ!」

 

「それに装備の問題だってあるしさぁ……『ガンブレ学園』とかみたくきちんとした設備とかもなしに戦えるか?『スターダスト』にある装備なんてたかが知れてるし」

 

「そんなものは気合でカバーすんのよっ!」

 

ばん、と勢いよくテーブルを叩いて立ち上がるアキナ。幸い店内に誰もいないため叱責が飛ぶことはなかったが、カウンター近くでグラスを磨いていた店長らしき髭を蓄えた中年の男にじろり、と睨まれて慌てて座り直す。

 

「私はね、この町を救いたいのよ。……生まれ育った町を守りたいの」

 

こほん、と咳払いをして、先程とは違い静かに話始めるアキナに、しかしコウキの反応は変わらない。

 

「そう……まぁ俺も一応参加はして会場限定パーツとか集める予定だしらそのついでにならいいぞ。……勝てるかと言われると厳しいが」

 

「そんなんじゃ駄目って言ってるでしょ!勝つのよ!……こうなったら、最後の手段を使う必要があるみたいね」

 

どんな呼び掛けにも大した反応を示さないコウキに業を煮やした様子でため息をついたのち、仕方ない、といった様子で鞄から携帯端末を取り出して少し操作したのち、コウキへと手渡す。

怪訝な顔をして端末を眺めているコウキだったが、携帯端末の動画が流れだし、そちらへと注目する。

 

『今回の『ガンダムブレイカー』特集には、特別ゲストとしてあの三代目『Mr.ガンプラ』に来ていただいております!』

 

『はいはーい、どうもーよろしくですー』

 

動画はニュースを録画したものらしく、アナウンサーらしき女性とアフロとグラサンと独特な格好をした男がスタジオ内にて話をしている。

三代目『Mr.ガンプラ』……世界最初の『プロ』のガンダムファイターの名を受け継いだ男、らしい。初代は四年前に行われた『ガンダムブレイカー』の数ヶ月後に引退を表明、一年後現れた二代目『Mr.ガンプラ』は襲名して後ほんの数日で失踪、そして去年新たに現れたのがこの三代目……らしい。

胡散臭く、飄々とした人柄ながらも、その実力は文句なしに『強い』。一度テレビの企画で行われた最早リンチとさほど変わらないような状況からの戦い、『1vs50』を勝ち残ったことでその実力は誰もが知ることとなった。

ビルダーとしてもファイターとしても超一流の人間として、彼を尊敬するものは少なくない……が、コウキを最も動かしたのは彼ではない。

暫く他愛ないファイター理論やガンプラのトレンドの話があったのちに、『ガンダムブレイカー』の優勝者へ送られる景品の話題に繋がる。

 

『今年の『ガンダムブレイカー』の優勝には、恒例となっているMr.ガンプラへの挑戦権と、なんと今回は副賞が用意されているとのことです!それがこちら!』

 

アナウンサーが芝居がかった仕草で手を振り上げると、プロジェクターによりスタジオ内に巨大な『何か』が映し出される。

全長は二メートルを軽く越す巨体に、巨大なコンテナと砲身の『オーキス』を纏ったMS……『デンドロビウム』の姿が。

 

「おっ……おおおおおおおお!?」

 

『副賞として優勝者には、現時点で世界最大のガンプラ、『1/50 試作3号機デンドロビウム』が贈呈されます!』

 

『うぉぉ!?デッケェ!?』

 

その偉容を見た画面内のMr.ガンプラとコウキが唸りを挙げる。

その様子に手応えを見たアキナは、確信した様子で不敵な笑みを浮かべて、固まっているコウキからひょい、と携帯端末を取り上げる。

そう。『コウキ・ミウラ』という男は……『機動戦士ガンダム0083 STARDUS TMEMORY』というシリーズを好んで……いや、『尊敬』している。作中に出てきた台詞は全て空で言え、ガンプラを購入・改造するときもこのシリーズを好んで使用する。……食費を削ってまでも食玩やポスター等を買い、自分の部屋へと所狭しと貼る辺りは筋金入りだ。

そんな男が、この作品で最も有名ともいえるモビルスーツ……『デンドロビウム』に釣られない訳がない。『そんな巨大なものをどこに置くのか』 『そもそも組み立てられるのか』なんてことなど些細な事だろう。好きなものに理由を付けるような男ではない。

 

「……アキナ!」

 

「よし!乗り気になったって感じ……」

 

「こんなとこいる場合じゃないだろ!さ、さ!速く『スターダスト』に戻って優勝の為の作戦を練るのと、『勝てる』機体を作るんだ!」

 

「……ここまでとはちょっと思わなかったわ」

 

支払いすら忘れて勢いよく喫茶店から出ていくコウキの後ろ姿を呆然と見つつ、あきれて呟いた。

 

─────────────────

 

「1/50デンドロビウム……!1/50デンドロビウム……!1/50デンドロビウム……!」

 

うわ言のように呟きつつ、『スターダスト』へと全力で駆け出し、数分も掛からずに店の前へとたどり着いたコウキは、その勢いを殺さぬまま店の中へと駆け込む。

勢いよく扉を開けたあと、カウンターの奥へと向かおうとして、店内に一人、来客がいることに気づく。

これから店長に連絡をしてここを貸しきりにしよう、と考えていたために、少し対応に困る。

一人くらいだしさっさと対応しておこう、と宇宙世紀系統のガンプラのあるエリアを物色し、『HG ゲルググ』の箱を手に取った男に近寄って声を掛ける。

 

「あのー、何かお探しでし……」

 

声に反応した男が、こちらに向き直った時、コウキは絶句した。

メッシュが入った銀髪に意思の強さを感じさせる黒い瞳、凛とした佇まいは180cmを越える身長も相まって『美丈夫』という言葉がよく似合う。

その男は、コウキの姿を認め、不敵ににやりと笑い、答えた。

 

「久しいな、コウキ・ミウラ」

 

そう声を掛けた男……『アラフミ・カトウ』に、コウキは厳しい瞳を向けた


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