待っててくれた方、本当に申し訳ありませんでした。
それでは、最新話どうぞ
NO side〜
「跳、そっちはどうだ?」
錬が人型の袋…体が溶けた兵士の死体を引き摺りながら跳の元に歩み寄る。
「…こっちもダメです」
「そうか。鎧の中に自害用のタンパク質溶解剤でも仕込んであったのか?」
「わかりません。ただ、向こうは絶対に情報を漏らす気は無いようですね。ご丁寧に通信用端末や記録装置もやられてます」
跳が自身の側で斃れ伏す死体を指さす。その背部ユニットやヘルメットからは白煙が上がっていた。
「どれどれ…あー、ホントだな。こりゃ修復も無理そうだ」
「それで、これからどうします?近くに彼らの前線基地がありますが…」
「まずはそこに行こう。残しておいたらまた使われる可能性が高い、できるなら潰しておかないと」
「そうですね。防衛戦力は破壊するなり停止させるなりで無力化すれば問題ありませんし。残った非戦闘員は…」
「それはそのとき考えりゃいい」
「了解です」
前線基地の処理の方針を固めた2人は、跳が先導する形で基地へと走った。森の向こう側には、跳が最初に見たときと変わらない基地が広がっていた。どうやら爆発の跡は修復済みのようだ。
「錬、あそこの崖の方に行きましょう。様子を見るのにちょうど良さそうです」
「OK」
2人は崖まで走り、そのまま10mはありそうな崖のてっぺんまで飛び上がった……生身で。元から色々魔改造気味な錬はともかく、跳はただの人間のはずなのだが。
「思った通り、基地の様子がよく見えますね」
「そうだな。大きさは30m×40mで、施設は中央に広場と通信棟、居住区が2区画、貯蔵庫が3棟。さらに工廠兼兵器庫と思われる大規模な建物が2棟。外にある防衛機構は…俺たちがさっきいた場所を正面側として、固定砲台が正面側に2門、右手側に2門。左手側には捕縛用電磁ネットランチャーが1門か。森を背にしているためなのか、背面側に武装はなし」
「まずは、見えている範囲での防衛設備の無力化が必要ですね」
「それなら任せとけ。ちょうどいい奴がある」
そう言って錬はDフォンを操作、虚空から鋭角的なフォルムのライフルのような銃、レーザーブラスターを召喚した。
「お、可変スコープが付いてる。これがアップグレードの内容かな?」
ライフルのスコープを覗き込みながら、新機能の確認をする錬。スコープのレンズ部分をグリグリと回していじり、すぐにやめた。
「よし、それじゃサクッと終わらせますか!」
錬は地面に跪き、銃身を斜め下に向けて構える。スコープのレンズをグリグリと弄り、そのまま基地正面の砲台の少し後ろにある壁を狙い、撃ち抜いた。
「あの、どこ狙ってるんです?」
「まーこの距離からじゃ見えないわな…ちょっとこれ覗いてみ?」
「はぁ…」
言われたままにスコープを覗いた跳は、すぐさま壁を狙撃した理由を理解した。
「配電盤が壁の中に…しかも、めちゃくちゃ巧妙に隠されてますね」
「だろ?可変スコープと一緒に搭載されたサーモスコープがなかったら俺も分かんなかった」
錬は続けて、左手側にあるネットランチャーに繋がっている配電盤を撃ち抜き停止させる。そのまま右手側の砲台の配電盤を撃ち抜こうとしたが、壁が一枚遮蔽となっている事に気づく。
(おっと、このままじゃ一発でブチ抜くのは無理そうだな。一発で破壊し損ねると警報に引っ掛かっちまう)
ま、だったら威力を上げりゃいい話なんだけどね、と口だけで呟く錬。ブラスターの側面に付いているダイヤルを回して引き金を引くが、すぐに離さず5秒ほど引いたままにする。
「…ファイヤー」
気の抜けるような掛け声とともに引き金から指が離れ、先の2発よりもより強い光を放つ光弾が壁を貫き配電盤を破壊した。
「よし、これで防衛機構は軒並み無力化…っと。おし跳、今からあそこに潜入すっぞ」
「分かりました。では今度は僕が行ってきます」
「あれ、俺は行かなくていいの?」
「僕は一度ここに侵入しています。だから、大体の構造は分かってます。それに、錬は隠れるのとか下手そうですし」
「おい今聞き捨てならねぇこと言ったな?誰がスニーキングドヘタクソだって?」
「そこまでは言ってませんよ。あなたは正面から殴り込むタイプじゃないですか、コソコソ隠れて潜入するのは性に合わないんじゃないんですか?」
「……わかった。行ってこい」
「了解」
そう言って跳は崖を飛び降りた、生身で。重ねていうが彼はまだただの人間のはずである。
跳side〜
ズダンッ!ビィィィィン…!
「んんんんんん⁈」
崖から飛び降りながら前腕と関節とにメタリカでできたプロテクターを装着し、左手・左膝・右足で3点着地。しかし衝撃を逃すことはできず痺れてしまいました。
「あ"ぁぁぁぁ…くぅッ!行きます!」
基地の左手側の門を飛び越え、物陰に隠れながら基地の全域を探索する。今探しているのは兵器庫と通信室。兵器庫は残っているかもしれない未稼働の自律武装の捜索と破壊、通信室は基地掌握が終わった後に残った非戦闘員への通達に使います。
「兵器庫はこの先と、ここを右に曲がった向こうのようですね」
僕は1番近いところにある建物に登り、そこから屋根伝いに距離が近いまっすぐ先の兵器庫まで跳び進む。目的の屋根までたどり着き、通気口を壊して侵入。そして今から、非稼働の兵器群を残らず破壊して…
ピピピピッ…
『侵入者を確認、スキャン開始…
「させるか」
ズギャン!ドガン!ベキャッ!
部屋に仕掛けられていた監視システムを蹴り砕き、そして動き出そうとしていた全ての無人兵器を破壊。そしてまた屋根の通気口を通って兵器庫を脱出し、今度は左手…さっきの通路から見た場合は右手…のほうにある兵器庫へと跳び、今度は派手に屋根を蹴り破ってダイナミックに侵入、無人兵器と監視システムを残らず破壊しました。
「ふう、これで後は通信室を制圧するだけ…よっ!」
蹴破った屋根の穴から兵器庫を出た僕は、基地の中央にある施設、通信室…正しくは通信棟の中央制御室…を目指す。というか、仮の前線基地なのにやけに気合入ってますね。防衛システムしかり置いてあった武装しかり。
「お邪魔しまーす」
建物の真っ正面のドアにドロップキックをかまして突入、中にいた人たちをメタリカで形成した鎖で縛り上げます。思った通りに動いてくれるので、かなり便利ですよこれ。
「えーっと制御室は…こっちだな」
通りすがった人たちをメタリカでぐるぐる巻きにしながら制御室まで進む。
「ここですね…おりゃ(バキッ)、開いてますね、ヨシ!」
制御室の前についた僕は認証装置を殴って破壊し、ちょうど開いていた(お前が開けたんだろとか言わないでください)ドアをスライドさせて部屋に入る。
「はーい皆さんこんにちは、そして動かないでくださいねー」
そう言いながら鎖で制御室にいた全員を拘束する。
「単刀直入に言いましょう、ここの責任者は誰ですか?」
あまり怖がらせないよう、笑顔で一番近くにいた女性に問いかけると、彼女は震えながら椅子ごと拘束された男を指差した。
「ありがとうございます」
女性に礼を言い、男の元に向かう。椅子ごと縛り上げられた小太りの男が、苦悶とも憤怒ともつかない表情で暴れていた。
「こんにちは。あなたが責任者で間違いないんですね?」
「き、貴様ぁ!私に何をしているのか分かっているのかぁ!早くこの鎖を解けぇ!」
僕の問いかけに対し、唾を飛ばしながら拘束を解けと騒ぎ立てる男。
「質問に答えてくれたら考えますよ。それで、あなたが責任者で間違いないんですよね?」
「ああそうだ!クソッ、護衛の奴らは何をしている⁈」
「護衛?たった6人の兵とガラクタで護衛とは、随分舐められたものですね」
「何⁈…そうか貴様、例の裏切り者か!」
「ええ、例の裏切り者ですとも。それが何か?」
いけしゃあしゃあと答える僕を見て、男の歯噛みが歯軋りに変わりました。
「グッ…こんな若造1人も潰せんなどとは…使えん奴らめ。補給員もだ!こんな奴をみすみす侵入させて、見回りの一つもできんのか!やはり移民など使えもせんクズばかりか」
「…おい、今何と言った」
「何?」
「『今、何と言った?』と聞いたんだ」
「チッ…私達の役にも立たんものをクズと言って何が…グブゥッ⁈」
目の前で喚き散らす豚、ああ、これでは豚に失礼か。であれば、豚未満のカスの顔面に、怒りのままに右ストレートを叩き込む。尋問のために生かしておくという考えは、既に頭からは抜け落ちていた。
「…お前らは変わらないなァ、特権階級であることに驕って、俺達を痛ぶって、奪い取って、嬲り殺して…」
「な、な…」
「俺はなァ、お前らみたいな生まれや地位の違いで他人を見下す奴が大嫌いなんだよ!」
ああ、見ているだけでイライラする。すぐにでも首を捻じ切ってやりたい位だ…!
「そうか、貴様移民の出か⁈グググッ、裏切り者、それも移民風情が私に傷をつけるなど…許さん、許さんぞォ!必ず貴様を潰してやる!私の総力を持って貴様の一族、仲間も全て葬ってゲボォ⁈」
吠え声がうるさかったからカスの腹を思いっきり蹴りつけたら、縛られていた椅子ごと吹っ飛んでいた。いつの間にかカスを縛っていた鎖が消えて脚にメタリカが装着されていたけど、どうでもいいか。
「ゴボッ、オゴッ、オゴェェェ…」
「…汚ねェな」
床に血混じりのゲロを吐き苦悶するカスの頭を蹴り飛ばす。首を蹴り折ることもできたが、もう少し痛めつけたかったので少し加減した。
「ヒッ、ヒ、ヒィィィィ…」
3回も思い切りぶちのめされたのが効いたか、カスの顔が恐怖に彩られ股間はじっとりと濡れている。
「無様な姿だなァ…死ね」
トドメを刺そうと脚を振り上げようとしたそのとき、
「ま、待ってくれ!いや、待ってください!もう貴方に手を出すようなことは致しません!発言の全ても撤回します!だからどうか、命だけは、命だけは助けてください!」
カスが無様を通り越して滑稽ささえ感じさせるような命乞いをしてきた。ここまでされてまだ助命して貰えると思うなんて、呆れるほどおめでたい頭をしているな。思わず爆笑してしまったよ。
「フ、フフフハハハハハ、アハハハハハハ!」
「い…?」
「いやー笑った笑った。こんなに笑ったのは久しぶりですねぇ。そうだ、貴方の処遇ですが…一息に殺すのはやめにします」
「!た、助けてくださるのですか⁈」
一瞬の希望を見たような顔で僕を見る男に優しく微笑み、その両手足を杭状に変形させたメタリカで壁に縫い止める。
「代わりに……5回削ってやるよ」
「いぎ…?ぎ、ギャアァァァァァ⁈」
壁に磔にされたカスが絶叫しながら暴れる。耳障りだなァ…まあ、すぐに消えるけど。
「静かに」
右脚の装甲を正八面体が複数組み合わさったような複雑な突起に覆われた回転円錐に変化させ、それを振り抜いてカスの右腕を削り取る。そしてもう一度脚を振り今度は左腕を切断する。3回目、左脚を削り、体重を支えきれずカスの右脚が折れる。4回目、右脚を削って達磨にする。身体を支えるものがなくなったカスが床に転がった。
「これで最後、何か言い残すことは?」
「わ、私は…」
「まあ,聞かないけど」
高く上げていた脚を振り下ろし、螺旋錐がカスを肉塊に変える。血の混じったミンチ肉が辺りに飛び散る光景を見ながら、僕は息を吐く。
「ふーっ。さて、あとは向こうとの通信を切って…」
カスが座っていたところにある操作盤をいじり、時空間通信システム、座標データの送信を停止させる。
「さて、次は…そうだ、錬にここの制圧が終わったことを伝えないと。1番手っ取り早いのは…ここで放送しちゃえばいいか」
先程の蹂躙、というか殺戮を見て気絶した人達の横を通り過ぎ、マイクのついた操作盤の前に立つ。
「えーっとここをこうして…あーあーマイクテストマイクテスト、みなさん聞こえてますかー?」
操作盤をいじって範囲を基地全体に設定、マイクテストのために一言喋る。
「まあ返事なんて来るわけないか。じゃあ、聞こえているということで手短にいきますよ。この基地の予備戦力は残さず破壊済み、通信棟の中央制御室は完全に僕が掌握しています。信じられないなら武器庫をどうぞ、全部使い物にならないと思いますので」
錬side〜
跳が崖から飛び降りて数分、俺はスコープ越しに基地の様子を見ていた。というか、あいつ生身で飛び降りてったけど大丈夫なのか?
「んんんんんん⁈」
あ、やっぱりダメだった。まあ、あいつのことだからクッション…は持ってなかったから、確かメタリカとかいう流体金属なりなんなりで衝撃吸収はしてるだろうな。
(さて、基地側の様子は…アイツ早っ!もう中にいるんだが⁈)
再度スコープを覗き込むと、その中にはすでに基地の施設内で物陰に隠れながら移動している跳の姿があった。さっき悶絶する声が聞こえたばかりだというのにである。
(えーっと、屋根伝いにまっすぐ進んで…あ、止まった。で、屋根についてる通気口っぽい穴を蹴り壊して入ってったな)
1分か2分経ったところで屋根の穴から跳が飛び出し、左に大ジャンプ。その勢いのまま建物の屋根を蹴りで貫いて突入、また2分程で屋根から脱出した。
(んで、今度は基地の中央にある建物、多分通信棟とか情報室とかに真っ正面から侵入。さっきの突撃で余剰戦力全部片付けたにしても、これは大胆過ぎないか?)
何か大ポカやらかすんじゃないかと心配になりながら待つこと15分。基地の方から聞こえてきた放送を聞いて、俺のこの心配は杞憂となった。放送の内容は余剰戦力の壊滅と中央制御室の制圧完了。放送の声の様子からして、ポカをやらかしての負傷はなさそうだ。
『これから現在この基地にいる人員の確認をしたいので、今この基地にいる全員通信棟の前に集合してください。繰り返します、今この基地にいる全員は通信棟の前に集合してください』
さて、俺も行くかな。
NO side〜
森の一角に展開された仮設基地、その中でも一際大きな建物…錬達が通信棟と呼んでいたもの…の前に老若男女様々な人が集まっている。この基地に残っている人員の大半だ。皆不安そうに話し合っている。
「はい、とりあえずそこに並んでください。手荒なことをしてすみません、どうしても抵抗されたくなかったので」
跳が鎖で縛られた男女を連れてくる。彼らは全員が彼のことを怯えた視線で見ていることに跳は気がついた…が、無視して話を進める。
「はーい皆さん、集まってくださってありがとうございます。それでは早速一つ質問を、この中に戦闘員及びここに配備されていた兵器を扱える方はいますか?」
自分が連れてきた人が集団に入ったのを確認した跳は、挨拶がわりと言わんばかりに質問を繰り出した。当てはまる人がいるなら挙手をお願いします、と彼が呼びかけるも誰も手を挙げることはなかった。
「あれ、誰も挙げませんね。ほんとに非戦闘員しか残って無いんですか?」
「…ああ、ここにはもう戦える奴はいないよ。嘘なんかじゃないさ。ここで嘘を言ったって意味は無いだろ?」
跳の問に答える形で、年配の男が諦めたように呟く。跳は男に見覚えがあった。自分が最初に基地に侵入したときに気絶させた男だった。
「貴方は、あのときの……」
「…アンタだったのか、あの時のは」
「すみません。姿を見られたくなかったからといって、いきなり首を絞めたりなんてして」
「いいよ、今こうやって生きてるんだから。アンタも殺す気がなかったんだろ?『少し眠っててくれ』って言ったんだからさ」
自らの行いを謝罪する跳に対し、男は気にしていないという風に彼の行動を許した。
「お、全員揃ってる感じかな?」
「錬、やっと来ましたね」
集団の後ろから声が響き、錬が跳と合流した。
「さて、これから貴方達の処遇を決めたいのですが…錬、どうしますか?」
「俺?俺は全員生かす気だが、お前は?」
「僕も同じですよ。ただ、生かすとは言ってもどうやって元の世界に返すか、という話になりますね」
「ああ、それなら知り合いに便利なのが…」
(殺せ)
錬が送還の方法を提案しようとしたその瞬間、彼の頭に低く、憎しみに満ちた声が鳴り響いた。
「?…跳、今なんか言ったか?」
「いえ、何も言ってませんが。どうかしましたか?」
「いや、何でもない。多分気のせい…」
(殺せ)
(⁈…気のせいじゃない!)
困惑する錬を他所に、脳裏の声はより強い憎しみの合唱を続ける。
(
(くぅっ…なんなんだこの声は⁈「殺せ」だの「憎い」だの連呼して、頭がおかしくなりそうだ…!)
声を聞くまいと両手で耳を塞ぐ錬。しかしそんな彼の行動に反して、声はどんどん強く、大きくなってゆく。
(
(ぐぅ…うる、さい……)
「誰だか知らないが、さっきからうるさいんだよ!ちょっと黙ってろォ!」
怒りの一喝に、錬の脳に響いていた声が勢いを失う。ようやく終わりか、と安堵する錬の耳に別の声が響く。
「分かった、今は静かにしててやる。だが、俺はいつでもお前を見ているぞ…?」
その声と共に、錬から憎しみの合唱が消えていく。声が完全に消えると同時に、彼は膝から崩れ落ちた。
「ッ、大丈夫ですか⁈」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ…だ、大丈夫だ…」
地面に倒れ伏す前に跳に支えられ、何とか立ち直る錬。そんな彼に向けられるのは、群衆の怪訝な視線だった。無理もない。目の前で見知らぬ人がいきなり耳を塞いで、大声で叫べば誰だって困惑するだろう。
「…悪かったな、話を切って。それで、アンタらを向こうに帰す手段だが、ちょっと待ってて…
おーーい紫ーー!聞ーこーえーてーまーすーかー!
」
「そんな大声で呼ばなくても聞こえてるわよ」
「あ、いた」
虚空に向かって誰か呼んだ錬、その隣の空間が突然裂け、そこから女性、八雲紫が現れた。その光景を何度も見ている錬は特にリアクションを示さなかったが、跳を含めた全員は唖然としていた。
「…あ〜、これは説明がいるな。彼女は八雲紫、ここの創造者、というか管理人?そんな感じ。ちなみに人間じゃないらしいぞ、妖怪なんだとさ」
「全部言っちゃったわね…まあいいわ。改めて、私は八雲紫。この幻想郷を管理をしている妖怪よ」
錬に自己紹介のチャンスを取られ、嘆息しながらも自己紹介を済ませる紫。
「妖…怪…?まあ、人間に近い存在って考えればいいんですかね?それで、彼女には何が?」
「んー、詳しく話すと難しくなるからなー。端折って言うと、別世界同士を繋げられるってところかな」
「端折り過ぎよ。正しくは、私の能力の応用でそういうことができる、ってことよ」
「世界を繋げる…?あっちの技術でも大規模な装置を使わなければ不可能なことが、たった1人で…?」
「ま、この世界は向こうの常識が一切通じないらしいからな。てか、あのポータルがそんな馬鹿デカイ装置に繋がってんのか?」
「…ええ、大規模な転送を行うものならね。出口は四足歩行戦車一台がやっとの大きさですが、入り口はプラント丸々一つを占めるほどの装置の中ですよ」
「…それを稼働させるエネルギーとか絶対馬鹿にならない筈なのに、よく何度も動かしたな」
「それだけ、この世界が魅力的なんでしょうね」
2人だけで話を進める錬と跳に、僅かにイラつきながら紫が声をかける。
「…それで?私を呼び出した要件は?」
「ああそうだった。そこにいる人達を、向こうの世界に送れないか?」
「それは出来るけど、大丈夫なの?そこの人間達って敵側なんでしょう?帰しちゃったら戦力の増強にならないかしら。寧ろ、ここで弱い妖怪の餌に…いや、もっといい方法があったわね」
「ホントか⁈」
群衆を敵に送り返すことへの懸念を示す紫、何かを思いついたようだった。
「ここにいる全員を人里に住まわせるのはどうかしら?ざっと見た感じ25人かしら、このくらいならまだ住めるわよ」
「よし、それなら…あ、その前に確認。この中に家族がいる人、手挙げて」
錬の問いかけに、全員が手を挙げる。
「全員か…なら、家族が1人の人、手を下げて」
その問いかけに半数が手を下げ、2人、3人の質問には残りの3分の1、その4分の3が手を下げる。そして、2人が手を挙げていた。
「2人残ったか…人数は?」
「4人。両親と、弟が2人」
「6人です。兄と姉と弟がが1人ずつ、妹が2人です。両親は早くに死にました」
「…さっきの3倍くらいになったな。さすがに厳しいか?」
「…50人でギリギリね」
「そうか…ん?そうか…そうだ、そうしよう!」
紫の返答に少し落胆した錬。周囲を見渡した彼は、何かを思い付いたようだった。
「何か思い浮かんだの?」
「ああ。どうせならここを使ってやろうか、って」
「ここ、ですか?…ひょっとしてこの基地の跡を?」
「その通り。ちょうどいいくらいに居住区があるし、さっき壊しちゃったけど防衛設備も複数ある。防衛設備については少し改造するとして、それらを使えば残りの20数人くらいは軽く住めるはずだ」
「森を切り拓く時間がいらなくなるぶん、かなり効率的ね」
錬の提案に、跳は驚き、紫は感心する。そうして、群衆の方を向いて彼は一言。
「おっと、一番の当事者達に聞くのを忘れていた。とりあえず、こっちに住まわせるためのプランなら決まったけど、アンタ方はどうしたい?別に無理してここに残る必要はない、向こうに帰りたいならそうしてもらって構わない。全部そっちの自由だ」
群衆は沈黙する。その多くが未だ迷っているようだった。そんな中から、1人の声があがる。年配の男、跳が気絶させた男の声だ。
「…俺は、俺と家内はここで過ごそうと思う。どうせ向こうに戻ったって理不尽に虐げられるだけなんだ、こっちで暮らしてる方が幾分もマシだよ」
彼の言葉に続くように、他の人々も口々に家族と共に幻想郷で暮らすことを宣言した。向こうの世界で意味もなく傷つけられるくらいならいっそのこと逃げてやろう、そんな感情が彼らの目にはあった。
「分かった。住居はここのものと後で案内する集落のものを使ってくれ。壊れた防衛機構の修理とパトロールの為に、何日かに1回俺がここを見に行くが、何か不都合はあるか?」
「いや、ない。むしろ、我々が平穏に暮らせるよう手助けしてくれることを感謝しているくらいだ。そうだろう?」
男の呼びかけに群衆が肯定の声を上げる。
「分かった。というわけだ、紫、一気にやってくれ」
「分かったわ。まったく、人使いの荒い…」
愚痴を吐きながら、紫は先程自分が出てきたものの10倍ほどのスキマを開く。程なくしてスキマの中から20数人の人間が出てきた。紫が記憶の境界をいじって群衆の家族の情報と住居の場所を読み取り、それぞれの場所に一斉にスキマを開いたのだ。突然見知らぬ場所に飛ばされ不安がる彼らに、各々の家族が状況を説明し、再会 ーもしかしたらそんなに間が空いてはいないかもしれないがー を喜んでいた。
「ハイハイ。喜ぶのはいいけど、これから住む場所に移動するぞ。とりあえず1世帯の人数が多いところは優先的に向こうの集落の方に連れて行く。50人が限界だそうなので、余ったほうはここの居住施設を使ってもらう」
そう言って錬は人数の増えた群衆を世帯の人数ごとに分けていく。
「それじゃ、この50人にこれから住む集落を案内する。跳、残りは頼んだぞ」
「頼まれました。では皆さん、ついてきてください」
そうして跳は基地内の居住区域に群衆を連れて行く。複数並んだ仮設住宅の前に並んだ彼らに、カードキーのような物を渡す跳。
「この建物の鍵です。1世帯に1つ渡しておきますね。もし改築したくなった時には僕かさっきの彼に連絡してください。後で通信棟の設備を改造して僕らに通じるようにしておきますので固定電話から掛けてください。番号は…」
青年番号配布中…
番号を教え終わり、全員が各々の住宅内に入っていったのを確認した跳はその足で通信棟に向かい、中央制御室へと向かう。中央制御室には機能が生きたままの端末と跳の怒りを買った男の無残な死体以外、何も残っていなかった。
(…どの端末もこの施設に関連するものばかり。向こうと連絡を取るための端末はどこに……)
「!この壁、ドアになってますね。この先は…地下ですか」
室内をしらみつぶしに調べていた跳は、大きなモニターの右隣に、地下へと続く階段を見つけた。その向こうからは何かの駆動音が聞こえる。
「この先に、目当てのものがあるか…………見つけた」
トラップの危険性を考えることなく ーまあ、あったとしても無理矢理破壊して進むわけだがー 階段を降り、その先にある部屋に入る。その中にはコンピュータのサーバーが所狭しと並べられ、いくつかの制御盤が一番奥に鎮座していた。
「サーバールームか」
サーバールームへと侵入した跳は、並び立つコンピュータの間をくぐり抜けながら奥へと進み、制御盤が並ぶ場所まで辿り着く。
「これはコンピュータの統括、これは冷却水や電力供給の制御…あった、向こうとのデータ通信」
目当ての制御盤を見つけた跳は、素早く基地の座標データ送信を止め、偽のデータを送りつけた。そしてデータの送信がされていないかの確認を始める。
「ええっと…映像通信、周辺地域の観測データは無し。まぁ、見た感じ今日来たばかりそうなので当たり前ですかね」
他にも不都合なデータが送られていないかの確認を終わらせた跳は、制御盤を何度も蹴り飛ばして破壊する。もし誰かに見つかっても再度通信されないようにする為だ。
「さて、これで仕事は終わり。地上に戻りますか」
ーーーーーーーーーーーーー
「おう跳、やることは全部やった感じか?」
地下室を出て、通信棟の出入り口をくぐった跳に、ちょうど通信棟を通りかかった錬が声をかける。
「ええ」
「そうか。それで、だ。お前はこれからどうするんだ?」
「どうする、とは?」
「住むところだよ。お前最近この辺を放浪してたんだって?お前の実力なら獣には負けないだろうけど、飯の調達に困るんだったら人里辺りに住んだほうがいいんじゃないか?」
いつの間に、という表情を浮かべる跳。確かにここ最近は木の上や山に出来た洞穴を寝床にしていた上、食べ物に困っていた。しかし、これらは錬の知る余地もないはずの情報なのだ。
「…どうしてそれを?」
「紫に聞いた。妖怪の山付近で人間がウロウロしているってさ。あいつ幻想郷の全域を見れるから、見慣れないものは分かるってさ。まさかお前とは思わなかったよ」
「そうですか……生憎ですが、それについては遠慮させていただきます」
「ほ〜ん、そりゃなんでだ?」
「今は敵対しているとはいえ、元はここに迷惑をかける輩の仲間。そんな奴が人里に出入りしてたら、周りの方も気分が悪いでしょう?」
「いや、顔は知られてないから大丈夫だと思うけど…」
「だとしても、僕自身がやりたくないんです。迷惑をかけたくせに、平気な面して生活するなんてことは。それに、一人暮らしは慣れてますから」
そう語る跳の目は、どこか寂しそうだった。
「…そうか。分かった、好きにしてくれ。無理強いはしない。でも、気が変わったら教えてくれ」
「……変わりませんよ」
そう呟き、跳は去っていった。
What's the next episode…?
はい、14話でした。これで、第1章が終わりました。投稿が遅いのにも程がありますよね、ホント。ただ次回、というか次章からは多少投稿ペースが上がる…かもしれません。ここで確約するべきなんでしょうけどね…
それでは、また次回。