錬side〜
「お前は、誰だ?」
どーも皆さん、輝晶 錬だ。今、俺は新しい敵さんに話しかけている。どこにいるかって?木の上だよ。
「ああ、名乗るのを忘れていましたね」
樹上の影は、勿体ぶるようなセリフとともに枝を降りた。影の正体は、緑がかった黒い軍服姿の20代ほどの青年。短く切りそろえられた髪の色は黒く、幼さの残る顔立ちには似つかわしくない吊り気味の目を鋭くしている。
「僕の名前は
直後、何処からか取り出したナイフを俺に投げつけてきた。って危ねえな!細工などは施されてないごく普通のナイフだったので傷を負うことは無かったが、今のであいつの言いたいことがハッキリ分かった。が、ここは挑発も兼ねて、
「…何のつもりだ?」
「わかっている癖に、白々しいですよ」
「お前の口から聞かせて欲しいな」
「やれやれ。分かりきっていることを言うのは嫌いなんですが、まあいいか…貴方は、此処で殺します。障害は手早く排除しなければなりませんからね」
目の前の男…跳とやらは声をトーンを落として、俺の殺害を宣言した。本気だな…コイツ。ま、そう簡単に殺されてやるつもりも無いけどな。
「自惚れるつもりはないが、俺は小さいとはいえアンタらの先兵隊を2度壊滅させている」
「ええ、知ってますよ。1回はこの目で見ましたから。その実力も理解しています。それが必ず僕等の邪魔になることも」
そして、奴は懐から何かの器具を取り出した。見た目は拳銃のグリップのような形状をしていて、人差し指のくるところにはトリガーがついている。上の方には円錐形の太めの針のようなものがある。
「新兵器だそうです、僕専用のね。まだ完全に完成した訳じゃ無いようですけど、起動実験ということで」
奴はそう言って、腰のホルスターから何かのカプセルを出し、グリップのような器具に差し込んだ。
『Grasshopper!』
直後、電子音のような音楽を引き連れ、何かが落ちてきた。土煙が払われる。その先にいたのは、巨大なバッタだった。
「何じゃ、これ…」
「節足動物型金属生命体メタリカ。同じく新兵器とだけ言っておきましょう。これ以上話すと上から怒られかねませんし」
跳は呟きながら左手を胸の前に出し、右手の器具を左手にあてがう。
「融合」
トリガーを引く。
『Injectioooon!』チュ- コポコポコポ…
やけにテンションが高い電子音声とともに液体が注入されるような音が響く。その後すぐに跳の体表に昆虫の羽を思わせる模様が浮かび上がる。と、さっきまで周囲を跳ね回っていたバッタがいきなり跳の上に落ちてきて、跳を押しつぶした。って、えぇぇェェェェェェ⁈
「うげぇ…」
確かに敵は全員殺すつもりだし、そのためならどんな手段も辞さないつもりだけど!だからって目の前でスプラッタ繰り広げられても困るわ!つーか、絶対あの下ロクなことになってないよ…と思っていたらバッタの体に波紋のようなものが走り、バッタが
「は?」
液体になったバッタは、体の中心に向かうようにより集まる。凝集が終わったそこには、
「バッタ…人間…?」
全身がバッタのような金属の装甲で覆われている人間だった。その正体は、て、1人しかいないか。
「潰されてなかったのね」
「?何を言っているのですか?」
俺の独り言に手甲に器具を取り付けながら問い返してくる跳。別に気にしなくていいんだが…
「あーいや、こっちのことだから気にすんな。それよりも、さっさとおっ始めようぜ」
「…わかりました。全力でいかせていただきます」
ボクサーのような構えをとる跳。合わせて俺も構える。
風が吹く。それと同時に互いに向けて走り出す。
「ハァァァァッ!」
右手のヴィブロ・ブレードを跳の頭に向けて勢いよく突き出す。そのまま当たれば奴の頭は左右に泣き別れだが、そう簡単に事は運ばない。
「見えてますよ」
跳は呟くと、体を左に傾けて突きを避け、
「胴がガラ空きです!」
追撃として腹に拳を叩き込もうとした。
「分かってんだよ、んなこたァよォ!」
跳の拳が当たる前に、右足を軸にしてヴィブロ・ブレードをなぎ払う。そしてその動きのまま左手のフォトン・グラディエーターを突き出す。なぎ払いを避けられたときの保険だ。
「⁈」
とっさに屈んでなぎ払いを回避した跳は、左手の突きには気がついているか左手と両足をバネに後ろに10mほど飛び退いた。ま、これくらいは分かるだろうな。
「驚いたな。なんだその跳躍力は、普通のバッタでもんなことできねーぞ?」
「普通のバッタがこんなことしたら、それこそ怪奇現象ですよ。ま、超強化された身体能力だと思ってください」
跳はそういうと右手を払い、バッタの意匠があるナイフをどこからか取り出した。
『Locus edge!』
ナイフー ローカスエッジを逆手に構え、俺に向かって突撃する跳。
「たぁぁぁぁあ!」
「オラァァァァ!」
ギィィィィィィィィンッッ!
右手に逆手持ちしたヴィブロ・ブレードとローカスエッジが激突し、火花を散らす。
「ッ、まさかヴィブロ・ブレードで切断できないものがあるとは…いや、当たり前か。元はコレもあっちの技術だし」
「そういえば、何故あなたがヴィブロ・ブレードを所持しているのですか?それは僕達が製造できる装備の中でも上位のもの、この世界の見たところの技術力では作れるはずがないのに…それにその鎧、あのメタル・ドラゴンによく似ている。アレは確か、プロトタイプの1機と10機のナンバリング機のみが製作されて、その全てが
なるほど。もう存在しないはずの兵器を何故持っているのか、ってことか。ま、その疑問は当たり前だよな。
「悪いが、それに関しては企業秘密ってことで」
「へぇ。なら、力づくで聞き出させてもらいますよ!」
刃を弾いて飛び退き、また近づいて切り結ぶ。これを何度も繰り返すうちに、地面はボロボロに削れていた。
「テェヤァッ!」
「!!」
何度も斬り合っているうちに握る力が抜けていたか、右手のヴィブロ・ブレードをローカスエッジで弾き飛ばされてしまった。さらに間髪入れずに放たれた回し蹴りによってフォトン・グラディエーターを遠くに飛ばされる。そのまま勢いを落とすことなく突撃して来た跳をバックステップで避ける。
「お返しだァ!」
着地と同時に左脚で回し蹴りを繰り出す。咄嗟にガードの体勢をとる跳。俺は脚に内蔵されたブースターを起動して蹴りを加速し、
「ぶっ壊れろ」
跳の手首に叩き込む。
「ッぐ…」
衝撃で跳の手の力が抜け、ローカスエッジを取り落とす。
「痛っててて…容赦ないなぁ。もう少し加減してくださいよ」
「敵にんなこと言って、はいそうですかと応じてくれるとでも?」
「思ってませんよ。でも今のは結構痛かった」
「そうかい、そいつはすまなかったな(笑)」
右手を痛そうにさすって恨めしげにこっちを睨んだ後、さっきとは違う構えをとる。
「武器なしでの格闘戦か…乗ってやるよ」
「フフッ、ありがとうございます。実は、僕の本来のバトルスタイルはこっちなんですよ」
No side〜
構えをとり、錬は開始の一歩を踏み出す。ボロボロの地面に追い討ちをかけるように削り取りながら跳に拳を当てる。が、それほど効いていないのか平気そうな様子で弾き飛ばし、錬に蹴りを喰らわせる。そこからは単純。互いに殴り、蹴り、取っ組み合う。生身ならズタボロになる程の応酬は、しかし金属の外骨格に小さな凹みを入れるだけだ。
「ぐ、ラァッ!」
「つ、ハァッ!」
同時に突き出した拳が2人の頬を抉る。モロにクロスカウンターが決まった2人はよろめき、離れる。
「が…ぐ…」
「く…うぁ…」
よろめきながらも構えを取り直す。見ると、相手も同じようだ。そろそろ体力も限界に近づいている。だから…
((だから次で…決める!!))
錬は腰のソケットからDフォンを抜き、側面のボタンを押す。
『Full charge!!』
Dフォンをソケットに戻し、全身を循環するエネルギーを両足に集中させる。
『Critical attack!Photon smash!』
跳はグリップーインジェクトリガーを自身の左腿に当て、引き金を引く。
『Over Injection!』
インジェクトリガーを左の手甲に戻し、右足にエネルギーと装甲を集中させる。
『High Wind Strike!』
そして、必殺の一撃が激突する。
「デェヤァァァァ!』
宙へと飛び、空中で両足を揃えるように構えた錬は、背中のブースターで加速しながら光子の螺旋とともに突撃する。
「…ハッ!」
跳は迫りくる錬の蹴りに対し背を向けるように立ち、旋風を纏った左上段回し蹴りを繰り出し、錬を迎え撃つ。
激突の瞬間、辺りに閃光が走る。
「ウォォォォォォァァァ!」
「テェァァァァァァァァァ!」
2人の戦士の魂を燃やしてかのいるような咆哮。そして、決着の時が来た。
「ウワァッ⁈」
「グハッ⁈」
閃光は爆発へと変わり、爆風と衝撃が戦士たちを襲う。吹き飛ばされ地を転げた2人は、同時に起き上がる。そして、
「ぐ、あァァァァァァァァァ⁈」バチバチバチバチィ!
錬の全身に電流が走り、変身が解かれる。生身の姿に戻り、力なく地面に倒れる錬にトドメを刺すべく歩み寄った跳は、
「う、ぐぅゥゥゥゥウ⁈」
錬と同じように電流が走り、流体金属の装甲が溶け落ち、元のバッタに戻る。ダメージのあまり膝を突く跳。視界の先には、気力を振り絞って立とうとする錬。しかし、双方ともに戦えるだけの体力はない。
「…どうやら、引き分け…みたいですね…」
「あぁ…そう…なるな…」
短い会話を交わし、跳は小さな箱のようなものを取り出す。
「使い捨てのコンパクト・ポータル。まさか使うことになるとは…」
「⁈待て…」
「今回は撤退させてもらいます。また会う機会を楽しみにしていますよ」
天板を押してポータルを起動させる。阻止しようと手を伸ばす錬。しかし一歩遅く、跳の姿が消える。
「…クソッ」
取り逃した。
「錬!錬、大丈夫⁈」
錬の近くに目玉だらけの空間が開き、中から女性が現れる。八雲 紫だ。敵襲については知らせていないので、自分で見てたか、クロノスから連絡をもらったのだろう。
「…ゆ…かり…」
「錬⁈なにこれ、ボロボロじゃない!」
「すまん…少し、寝かせてくれ…」
「ちょっと錬⁈なに言ってるの、ダメ、目を開け…」
紫の言葉を聞き終わる前に、錬の意識は闇に溶けていった。
What's the next episode…?
ということで、第7話でした。
さ〜て錬くんはどうなっちゃうことやら(棒)