とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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100話行きました……

今回は化学やら銃の構造やらを調べるのが大変で、かなり時間がかかってしまいました。原作とは違った視点から王国を強化していくので、ご期待ください。


閑章第19話〜王国の為の会議〜

岡はこの会議の場で緊張していた。ただの的当て勝負で不似合いな身分になってしまったが、この国の将来と自身の命に関する事案だ。決してミスは許されないと言い聞かせる。

 

人間は他人のため、そして自分のための二つの信念が合わさった時初めて本気になれる。岡は今まで覚悟が足りなかったことを反省しつつ、改めてその責任を感じていた。

 

 

「私は情報統括を担当している軍務長官ザンザスと申します。昨日帰還した密偵の情報を精査しましたので、共有いたします」

 

 

ザンザスが円卓に地図を広げる。地図には王国とその周辺の状況が記されており、当然岡には読めなかったので、岡はメモを取り始める。

 

 

「休火山の火口……今ではカルデラと化していますが、そこに魔獣の集落のような物が形成されているのはご存知の通りです。そして、先日の調査でその南側に物資を集結させつつあることが確認できました」

 

 

やはり、誰かが指揮をして戦闘準備を整えていることは間違いなさそうである。

 

 

「ちなみに、オカ殿のために補足をすると、カルデラはノバールボ区が丸々収まるほどの面積があります」

「だいぶ大きいですね」

 

 

火山のカルデラ、つまりは噴火による火口付近の崩落によって出来た窪地がそこまで大きいとなれば、噴火の威力も多大であろう。火口の大きさは地質と噴火の威力による。

 

カルデラが直径2キロともなると、万が一噴火した際は町も無事では済まない。王国から数十キロ離れた場所にあるので、火砕流の心配も少ないだろうが、生きた心地はしない。

 

 

「集落に集結する魔獣の数は膨れ上がり、今や10万の規模に達する見込みです」

「じゅ、十万だと!?」

「三ヶ月前からどれだけ増えているのだ!! 何かの間違いではないのか!?」

「いえ……どうやら各地から増援として運び込まれているようでして、増殖速度も加速的に増えています」

「内訳はどうなっておる?」

「大多数はゴブリンが占め、8万程度と推測されます。ゴブリンロードが8000、オーク1万、オークキングが1500で、黒騎士も500に倍増しています」

「ぬぅぅぅぅ……」

「なんという戦力か……!!」

「ええ、これは想像以上に厳しいですぞ……」

 

 

エスペラント王国の総兵力は、予備役を全て収集して15万程。しかし、相手は人間より数倍も力やスタミナがある魔王軍。黒騎士のような強力な個体もいる以上、数で優ってても損害を覚悟しなければならない。

 

 

「そして……何より問題なのがら魔獣ゴウルアスを5体、確認した事です」

「な……なんだと!? ゴウルアス!? あの魔帝の遺産にして禁忌の魔獣が確認されただと!?」

「はい……あれを使役できるのは魔王くらいのものです。やはり、オカ殿の予測通り魔王が復活していると見ていいでしょう」

 

 

ゴウルアス、と聞いて岡は話について行けなさそうだった。今後の戦略のために、知らない敵の情報も知っておかなければならない。敵を知り、己を知れば、百戦危うからずだ。

 

 

「すみません。ゴウルアスとは一体なんでしょうか?」

「ん? オカ君は知らないのか?」

「はい、おそらく自分の国だけでしょう。何しろこの世界に元々あった国ではありませんから」

 

 

岡は聖アルディスタの事を知っているので、聖アルディスタの使者であると信じられている。そのため、レヴァームと天ツ上が転移国家である事もいつのまにかすんなりと受け入れられていた。

 

 

「ゴウルアスは、簡単に言うと古の魔法帝国の陸軍で使役されていたとされる魔獣です。魔帝の国土転移直前時期には、別の兵器にとって代わられたらしいのですが……全長が5メートル、全高ら2メートルの比較的小柄な魔獣で、恐ろしいのはその放出する魔力です」

「魔法帝国って1万年以上前の話ですよね? そんなに脅威なんですか?」

 

 

岡のいた西方大陸や東方大陸の歴史で見れば、1万年前というのは古代文明の時代だ。ようやく文明の原型が登場する頃で、技術の進歩的なものは比較的この世界も一緒だと考えていた。

 

 

「魔法帝国を侮っていけません。あれは当時、どの国よりも高度な文明を提げて現れ、世界中の全人類を支配下に置き、弾圧し、空を支配して神をも殺すと豪語した恐怖の帝国です」

 

 

岡の疑問には、ザンザスが話してくれた。続けて王が捕捉をする。

 

 

「世界で最も繁栄していたインフィドラグーンを、空飛ぶ島で滅ぼした最強最悪の大帝国だ。ノスグーラなどの合成魔獣の改良技術は、魔法帝国を作った光翼人の持つ力の一端だよ」

 

 

そういえば、この北の大地に来る際資料に魔法帝国の事も書いてあった。初めは1万年前の常識に合わせて、あまり信じていなかった。

 

しかし、風竜がレヴァームの主力戦空機『アイレスシリーズ』の第2形態である『アイレスⅡ』と、ほぼ同格の空戦性能を持っていることは調査で明らかになっている。

 

それと互角以上に戦えるということは、今のレヴァームと天ツ上と同じくらいの技術力を持つ国と言えよう。何故そんな国が1万年以上前に存在していたのかは不明だが、とにかく魔法帝国が危険な存在であることは理解できた。

 

 

「ゴウルアスはノスグーラやオーガ同様、針金のような体毛に覆われていて、剣などの刃物は通じません。魔法帝国の技術で魔力が無尽蔵に溢れ続けていて、疲れも知りません」

「何ですかそれ……本当に生物なんですか?」

「それが合成魔獣の恐ろしさですよ。使用する魔法は二種類で、一つ目は角から連射する雷の爆裂魔法。これは銃弾を連射されるようなもので、鎧であっても物ともしません」

 

 

つまりは機関銃のような物か、と岡は納得する。

 

 

「二つ目であり、最も恐ろしいのが口から放たれる球状の炎の爆裂魔法。こちらの破壊力は岩盤の巨岩も破壊するそうです」

「なるほど……となると我が国の『戦車』のような物でしょうね……」

「『センシャ』とは……岡が聖アルディスタの使いの鉄の地竜の正体だと予測したアレか?」

「はい、戦車は硬い装甲と大砲を持ち、馬が引かずとも自分で走る能力を備えた兵器のことです」

 

 

レヴァーム天ツ上間の戦車の歴史は古い。「陸上に戦艦を浮かべる」という構想のもと、レヴァームで生まれたのをきっかけに、天ツ上でも遅ればせながら開発が進んだのが40年前だ。

 

 

「確か……神話には魔王軍のゴウルアスと、聖アルディスタの使いの鉄の地竜の戦いも記録されていて、鉄の地竜ですらも炎の爆裂魔法によって数騎が怪我をして走れなくなったと書かれていました」

「となると……戦車をそのまま相手にするようなものか……こちらの武器で戦車に対抗できるのは、噴進砲くらいしかないな」

 

 

向日葵の装備の中に入っていた『九式七糎噴進砲』は、天ツ上の対戦車ロケット発射器だ。安いコストと僅かな訓練で敵の戦車を破壊できるため、本土防衛の要とされていた兵器である。ゴウルアスの性能を聞く限り、相手は戦車そのものと言っても過言ではない。それを撃破するには、噴進砲しか無いであろう。

 

 

「幸い、相手にはまだ動く気配がありません。これが何故だか分かりませんが……沈黙を保っております」

「うーむ……何かを警戒しているのか……? あるいはまだ戦力が万全では無いのか……?」

「何かを警戒しているのだとしたら……国内にスパイがいる可能性がありますね」

「それは本当か!?」

 

 

岡の憶測に、王を含めた全員が狼狽する。

 

 

「はい。前回、確か既に占拠されている北西部ではなく、南門に攻めて来ましたよね?」

「ああ……完全に意表を突かれる形となったが……」

「強力な敵を一体だけ使って襲撃してきたのは、こちらの出方を伺うためです。10万を超す敵が既にいるのなら、西門や南門、あるいは全方向から攻めてくるでしょう。ですが、そうしないのは何かの不安要素を知って、警戒しているからと考えられます」

「まさかオカ殿達か?」

 

 

『向日葵』が墜落してきたのは、魔王軍にとってはイレギュラーな事態だ。その中に人間が乗っていて、生存者がいるとなると、王国にどう影響を及ぼすのか様子を見るのが自然だ。

 

 

「前回の襲撃は威力偵察と考えるのが妥当です。そして、その効果を何処かで情報収集している者がいる……ここでいう効果とは、攻撃の成果みたいなものです」

「となると……やはり人類に化けた魔族がいて、なんらかの方法で情報を収集している、という事だな」

「陛下、これは好機ですぞ! もし敵がオカ君を脅威だと認めれば、相手は迂闊に手出しは出来ません! という事は、その間に万全の準備ができるということです!」

 

 

平和という戦争までの準備期間が長ければ長いほど、戦力の増強や技術の発展に力を注げる。こちらから攻めないのであれば、こちらは防衛に徹して戦力強化を望むべきだ。

 

 

「うむ、ならばその間に準備を整えた方がいいな。院長、先ほど伝えたように、これから武器の改良と量産をオカ殿に手伝ってもらう。敵が動き出す前に、なんとかやってくれるか?」

 

 

王の命令に、王宮科学院院長のトルビヨン・バーグマンが頷く。

 

 

「では本日より、早速作業に入りましょう。私は全体指揮、調整役に徹し、現場監督にはセイ様をお任せしようと思います」

 

 

その後、フォンノルボ区の防衛とノルストミノ区の奪還作戦については騎士団が進める事とし、積極的な奪還よりも戦力温存に努める方針にした。敵には守るのが精一杯という姿を見せつつ、こちらの動きを悟られないよう万全の準備を整え、本隊よ侵攻に合わせて全力でぶつかるのだ。

 

無理に奪還しようとすると、戦力を消耗してしまう。相手より戦力に劣るのであれば、こちらは有利な防衛で決戦をするのが、用兵家の防衛戦術の基本である。

 

その他にも、黒騎士対策で西門と南門に2組づつの早期警戒部隊を展開し、黒騎士が来た場合のみ岡に戦闘要請をしようと言うことになった。そして、オカの配下に銃士を10人つける約束も果たすことになる。

 

初めは銃器の選抜テストをする予定だったのでザビルは別の部隊でも良いと言ったが、ザビルの方からオカと協力して行動したいと申し出ていた。そこで、オカとザビルは同じ部隊で活動することになった。

 

王国が管理していた『向日葵』の物資の全てを岡に返却するものとし、今後は岡に管理権限、使用権限、委託権限があるものとしてザメンホフ王に認められた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ラボレーオ区 王宮科学院 装備開発室 

通称『工房』

 

 

会議が終わって解散した後、岡は王宮科学院院長トルビヨンと共に城から出ると、次は王宮科学院の工房へと案内された。工房があるのはラボレーオ区、ノバールボ区と隣り合う地区で、王政府直轄の特別区である。

 

その敷地の建造物の殆どはだだっ広い作業場を有する工場か、学者や技術者の居住区で、レガステロ区、ケントゥーロ区に次いで安全な場所だ。

 

住民の大半はドワーフ系で、人間種やエルフ系が2割ずつ見られる程度。もう夕方だというのに、あちこちから槌を振るう音が聞こえてきて、職人たちが休む間もなく働いている。

 

 

「ここはなんです?」

 

 

岡の乗った馬車が止まったのは、ラボレーオ区の中でもしっかりとした、屋敷のような建物の前だった。

 

 

「我が王宮科学院の装備開発室、通称『工房』と呼んでいる場所だよ。王国で最新技術が生まれる場所で、セイ様もおられますよ」

 

 

トルビヨンが答えた。要するに研究所か、と岡は納得した。たしかにこの工業地区の中に構えるにふさわしい建物である。中に入ると、白衣を着た薬品を扱う男たちが居たりと、研究所らしい。どこも忙しく働いており、まるで戦場だ。

 

 

「あ、あの……ひょっとしてオカ様、ですか……?」

 

 

と、辺りを見回していた岡とトルビヨンに、一人の男が声をかけてきた。目も髪も黒いエルフ風の男が、おどおどした様子で。彼の身長は割と高めだが猫背で低く見え、その頭には黒いサークレットがはめられている。

 

 

「こらゼリム、お前には硝石の運び込みを命じていただろう? もう終わったのか?」

「はぁ……半分ほどは……」

「半分……まあいい、なるべく早く片付けるんだぞ」

 

 

トルビヨンが手で追い払うジェスチャーをすると、彼はそそくさと奥へ消えていった。彼は何者かも岡が聞くと、彼は「ゼリム」と言って、オキストミノ区の陥落と共に流れてきた住民らしい。

 

 

「彼はエルフとドワーフのハーフらしいのですが、魔法や鉄、宝石の加工まで苦手でしてね。雑用くらいならできるから、ここに置いております」

 

 

「普通はどちらかの技能は持ち合わせているはずなんですがね」と、トルビヨンは不思議そうに言った。何故だかはわからないが、彼はエルフの技能もドワーフの技能も苦手らしい。

 

 

「おおオカ君! ようこそ我が台所へ!!」

 

 

と、そこまで紹介してもらった所で、セイに出会った。彼は目を輝かせて声を張り上げている。セイの言葉に気づいた学者たちも、その手を止めて岡に期待の視線を向ける。岡はそれに苦笑いしながらも、セイに近づく。

 

 

「お邪魔します。自分の知識がどれだけ役立つか分かりませんが、できる限り協力させて頂きます」

「何をいう、君の知識で多くの人が助かるんだ。もっと胸を張りたまえ!」

 

 

セイの考えを見て、岡は前に合同訓練をしたレヴァーム兵士のようなポジティブさであると感じていた。そう、彼は王国の技術体系や文化の発展度と比較すると非常に先進的である。自分に対して肯定的なので、こういう味方がいると人生が楽しそうだと嬉しくなる。

 

 

「そうですね、出来る限りのことを頑張りたいと思います」

「その意気だ! さあオカ君、何から始めるんだい?」

 

 

セイに尋ねられ、岡はしばらく考え込む。

 

 

「……一番重要なのは改良と量産ですね。銃を誰にでも扱える武器にしましょう」

 

 

岡はまず、製鉄や火薬製造、更には金属加工を担当する部署の責任者を集め、職人長オスクやランザルをはじめとした面々を大会議室に招いた。会議は岡とセイの対話形式で会議を始める。

 

 

「お忙しい中集まっていただき、ありがとうございます。この国の武器を鍛えるために、いろいろ確認した事があります。まず皆さんは、銃の火薬には何を使っていますか?」

 

 

岡が切り出したのは、まず火薬の種類だった。実は現代の銃の火薬と古の銃の火薬は少し違う。

 

 

「それは火薬の調合についてか?」

「はい、今現在の銃に使っている火薬の調合方法を教えていただければと」

「えっと確か……木炭と硫黄、酸化剤として硝石を混ぜて作っているな」

 

 

それを聞いて、岡は確信した。この火薬は黒色火薬という、初期の火薬の調合法である。天ツ上におけるその始まりは、戦国時代の英雄ノブヤスの時代。彼の国が初めて黒色火薬を作り、鉄砲を大量生産したから彼は天ツ上のあるる東方大陸を統一寸前まで行ったのだ。

 

 

「それは、我々の国では黒色火薬と呼ばれている古い火薬に当たります。まずは、これを改良して無煙火薬という火薬にしていく必要があります」

「今の火薬ではダメなのかね?」

 

 

セイが質問する。

 

 

「無煙火薬は燃焼後の銃身に滓がこびりつく頻度が減るので、銃の信頼性向上につながります。これから作る銃には必要不可欠な火薬です。煙も少なくなるので、視界の向上にも繋がります」

「なるほどね……調合方法は?」

 

 

岡は無煙火薬の調合方法を語り出す。

 

 

「成分ですが、ニトロセルロースが主な成分です。それと、一応ニトログレセリンという物質も作っておいた方がいいと思います」

「にとろせるろーす?」

「どうやって作るんだ?」

「ニトロセルロースは脱脂綿などの繊維を濃硝酸と濃硫酸の混酸によりニトロ化することで製造できます」

「あー、私も混酸は作った事はあるが、そんな使い方があるとはな……脱脂綿という事は、この火薬は綿火薬だな?」

「ええ、その通りです」

 

 

岡は成分を一つ一つ確認し、全てクリアしていることを確認した。成分がなんとかなるなら、後は無煙火薬も作れるだろう。次はいよいよ、無煙火薬の作り方である。

 

 

「まず、エーテルとアルコールを混合しゼラチン化させた綿火薬を作ります。それから、ローラーに通して薄いシート状に形成したのち、破片状に切断するんです」

「なるほどね……ありがとう、まずはその無煙火薬を作ってみよう」

 

 

そして次に、ニトログレセリンを作ることにした。これは、爆薬として必要な成分である。

 

 

「次にニトログレセリンに関して。これを作るには、グリセリンという物質が必要なのですが……ご存知ありませんか?」

 

 

グリセリンの発見は割と新しい。レヴァームでは今から二百年前ほどであり、この国にはあるかどうか不安であった。

 

 

「あれじゃないか? セイがマツ科の木から出る油や、石鹸を作る過程の中から発見したっていう、エステルの一種じゃ……」

「ああアレか! かなり可燃性が高いから、何かに使えないかと論文を書いていたんだった!」

 

 

どうやらセイ本人が見つけていたらしい。エステルとは、有機酸または無機酸のオキソ酸とアルコールまたはフェノールのようなヒドロキシ基を含む化合物との縮合反応で得られる化合物である。

 

グリセリンがあるなら、調達の手は沢山ある。生物の油脂には大量のトリアシルグリセロールが含まれている。これは脂肪酸とグリセリンのエステルであり、加水分解によりグリセリンと脂肪酸を生じる。

 

この国では、例えば石鹸を生産する際に副産物として大量のグリセリンが得られことが分かった。丁度固形石鹸を作る工房が今生産中であることから、それを分けてもらうことを模索することにした。

 

 

「そのグリセリンを、硝酸と硫酸の混酸で硝酸エステル化するとニトログリセリンになります」

 

 

硝酸エステルは危険度が高い、自然分解の際に自然発火するため、扱いには注意が必要だ。それだけではない、ニトログレセリン自体も危険度が高い。

 

 

「ニトログリセリンは爆発性が高すぎるので、扱いに十分注意してください。特に、火薬にする前の原液の時は特に」

「分かってる、安心してくれ。ここの職人たちは危険物の扱いにも長けている、方法を間違えなければ爆発事故は起こさない。絶対に」

「分かりました。扱いについてはマニュアルを整備しておきます」

 

 

ニトログレセリンは危険すぎる爆薬で有名だ。わずかな衝撃で爆発する為、事故を起こさせるわけにはいかない。

 

 

「爆薬か……しかし危険ではないのかね? その物質はただでさえ爆発性が高のだろう?」

「危険性を減らしつつ、爆発の威力を損なわない方法があります。クッション用としての珪藻土とニトロを混同させ粘土状にしたもので、その火薬を包むんです」

 

 

これは完全にダイナマイトの作り方だ。ニトログレセリンを作ればダイナマイトも作れる。これは、兵器だけでなく鉱山での採掘作業にも使えるので、鉱山区を奪還したあとに役に立つだろう。

 

 

「なるほどな! よし、まずはその火薬に変えることから始めよう! オカ君、他にはあるかい?」

「はい。それともう一つ質問ですが、ここには蒸気機関はありますよね? なら、水圧プレス機はありますか?」

 

 

プレス機械とは、対となった工具の間に素材をはさみ、工具によって強い力を加えることで、素材を工具の形に成形する工程だ。銃を大量に生産するには、この機械があった方が効率がいい。

 

プレス加工は、一度始動しはじめれば次第にコストを抑えることが出来る。しかし、最初にプレス金型や動かすシステムを作らなければいけないため、新しい製造ラインをはじめる前の準備としてはコストや期間がかかるのがデメリットと言える。

 

さらにはプレス圧力には数百トン以上もの力が必要になることもあり、ある程度の設備投資をしなければならない。しかし、それを差し引いてもプレス加工のメリットは高い。

 

どんな手法や流れのプレス加工にするかで費用は変動するが、大量製造をしていく際にプレス加工を選ぶことで総合的なコストや生産ラインを抑えることができる。生産性もアップするため、岡はプレス加工を望んでいた。

 

 

「それなら、蒸気機関を使った水圧プレス機がつい最近発明されたばかりだ。鎧の鉄板を作るのに使うからね」

「おお、ありましたか! 実はその機械を使って作りたい弾があるんです」

 

 

岡は設計図を紙とペンで描いていく。

 

 

「これは……」

「真鍮の薬莢です。雷管という部品のカップに、アンビルという部品が必要になります」

 

 

岡が提示したのは薬莢と、その底にはめる雷管、つまり起爆役の受け皿と発火金だ。大きさにして直径数ミリ程の皿に点火薬とアンビルを入れ、銃のハンマーで叩くと発火金と当たって火花が散り、点火薬が激しく燃える。すると、火薬が爆発して弾丸を押し出す。これが現代銃の仕組みだ。

 

 

「薬莢というのは火薬と弾を入れておくケースです。これを作ると、装填作業を大きく短縮できます。これをプレス機で作りたいんです」

 

 

岡は作り方として薬莢とカップを一枚の真鍮板こら押し出して切り抜き、エッジを鑢がけして仕上げることを教えた。その際、蒸気機関で鑢をベルトで回し、鑢がけをする方法を思いついた。

 

作る弾は二種類、ライフル弾と拳銃弾だ。ライフル弾の直径は7.62ミリ、薬莢の大きさは51ミリとした。これは反動の強いことで有名なレヴァーム天ツ上連合の共通規格弾薬と一緒だ。

 

しかし、多少反動が強くても、この国には重い得物を持って戦う者が多いため問題ないだろうという理由で採用した。

 

 

「おお! これならわざわざ火薬と弾を詰めなくてもいいな! 装填作業を短縮できる!!」

「はい、それを使ってこれらの銃を作りたいんです」

 

 

岡は予めペンで書いたいくつかの設計図を見せた。三面図で描かれたその銃は、リボルバー拳銃、ボルトアクション式ライフル、マガジンが横に刺さったサブマシンガンの三種類だ。

 

 

「これは?」

「私が数日かけて徹夜で設計した銃たちです。リボルバー拳銃、ボルトアクション式ライフル、そしてサブマシンガンと呼ばれる銃たちです」

 

 

岡はコブラマグナムなどのリボルバー拳銃を、自費で買うほどのガンマニアである。そのため、趣味と軍人職で役立てるために、ガンスミスの資格を持っているのだ。これくらいの設計や構造などはかなり理解している。

 

 

「まずはリボルバー拳銃、これは私の持っている『コブラマグナム』を参考に、9×19ミリ弾の拳銃弾を使う拳銃にしました」

「リボルバーといえば……お飾りの銃で実際にはあまり使えないぞ?」

 

 

岡はこの反応を予測していた。初めて登場したリボルバー拳銃は、マルチロック式で全て手で動かさなければならなかったからだ。だが岡の絵を見たセイとランザルが唸る、何かに気付いているようだ。

 

 

「さすがはセイさんとランザルさん、もう気づかれましたか」

「あの薬莢と無煙火薬があれば……つまり……」

「フリントロックの撃鉄で直接薬莢の尻を叩く! そういうことだなオカ君!」

「正解です。このボルトアクションもサブマシンガンも、構造は違えど発火の方法は同じです」

 

 

岡は次にボルトアクションの説明に入る。

 

 

「これはボルトアクションライフルと呼ばれる銃です。ボルトアクション方式とは、ボルトを手動で操作することで弾薬の装填、排出を行う機構を有する銃の総称です」

「ボルトを手動で操作……なるほど、無駄な機構が少なそうだから短時間で量産できそうだ」

「はい。これだけなら、さっきのリボルバー拳銃より構造が簡単です」

 

 

このボルトアクション式ライフルは、『向日葵』物資にあった狙撃銃「四式短小銃」と呼ばれる小銃のコピーである。四式短小銃は長らく天ツ上の主力ライフル銃として使われており、今では九式があるので一線を退いているが、いまだに現役で使っている部隊もある小銃だ。

 

 

「最後にこれが1番の問題です。これはサブマシンガン、トリガーを引くと戻すまで絶え間なく連射して撃つことのできる『短機関銃』と呼ばれる銃です」

「と、トリガーを引いて戻すまで絶え間なく!?」

「そんなこと出来るのか!?」

「ええ、できます。ただし構造も機構もいちばん複雑です」

 

 

これでもこの銃は、構造がなるべく簡単で短略化かつコストも安く済むように色々省いている。全体的な銃としての性能では劣ってしまうだろうが、致し方ない。

 

 

「この銃の構造はオープンボルト式。これは、あらかじめボルトを後退させておき、引き金を引くとボルトが解放されて前進し、弾薬を薬室へ送り込んで撃発を行う方式です」

「なるほど! 撃った時の反動を利用してボルトを下げ、新しい弾を装填するんだな!」

 

 

セイがまたしても大正解を言う。相変わらず彼の洞察力と考察力には舌を巻いてしまう。

 

 

「そうです。トリガーを引いている間、バネを使ってボルトを押し戻し、新しい弾を装填するんです」

「なるほど……しかし、弾の装填はどうする? これだと常に薬莢の弾を装填し続けないといけないが……」

「そこで、この横につけている箱です。これはマガジンと言いまして、この中に弾を詰め込んでバネの力で弾を押し上げるんです」

 

 

マガジンとは、銃砲に弾薬を最初に装填する時や、火器が一発の弾薬を発射し終えたあと、弾倉の中の弾薬が自動または手動で薬室に送り込ませる装置である。

 

弾薬は送り板を底面としてばねの力で押し上げられており、開口部には勝手に飛び出さないように留め金が付けられているか、開口部側面が曲げ加工されている。いくつかの種類の弾倉は、クリップで簡単に装填することができるのが特徴だ。

 

 

「凄いぞ……君が今日教えてくれた事があれば、これらを実現できる! それだけじゃない……王国をより強くする事ができるぞ!」

「はい、まずは無煙火薬と薬莢、そしてこの三種の銃の試作をお願いいたします」

 

 

その後、会議は夜通しまで続いた。その途中でもセイの技量に感心し、説明をスムーズにさせていった。エスペラント王国が多民族国家である背景を考え、それぞれの銃は拳銃以外は大、中、小の違った大きさを用意することも決まった。

 

 

「はぁ……流石に疲れたな……」

 

 

会議に続く会議、流石の岡も疲れ切っていた。今日はゆっくり休もうと決心し、ジルベニク家に向かおうとする。

 

 

「ああ、オカ君。会議は終わったのか? 今いいかい?」

 

 

と、外ではバルザスが迎えに来ていた。その隣にはサフィーネとサーシャの姿もある。

 

 

「どうしたんですか?」

「ここでは話せない。とにかく来てくれないか?」

「え、ええと……」

 

 

岡は気まずそうにセイを見る。

 

 

「ちょうどいい、セイ様にもお越しいただきたい」

「「?」」

 

 

流石に二人は訳がわからず、バルザスに着いていくことにした。その様子を、影から覗き見する黒い人物に気づかずに。




前に「エスペラントでプレス機って作れるんですかね?」と質問しましたが、原作読み返したら水圧プレス機がありました……なんたる不覚……

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