とある飛空士への召喚録   作:篠乃丸@綾香

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今回は長めです。


閑章第20話〜真実と友人と苦労人〜

ノバールボ区 ジルベニク家

 

 

バルザスは何も言わずに、ラボーレオ区の前に停めてあった馬車に四人を乗せる。向かった先はジルベニク宅。道中、バルザスは何も話してくれずにいたので何か深いわけがあると、岡とセイは察していた。

 

 

「いいですか、決して慌てずに、落ち着いてください」

「本当に何があるんです? オカ君に武装までさせて、こちらにも事情を知る権利がある」

 

 

オカはバルザスが持ってきたコブラマグナムを所持しており、何故渡して来たのかは話してくれなかった。ますます疑問が満ちる。

 

 

「そうですね……とにかく、着いて来てくれれば分かります」

 

 

バルザスに続いて家に入り、地下室に降りる。その場所は、黒騎士の生け捕りを捕らえて治療していた場所で、厳重に閉じられている。バルザスが扉を開けると、その奥に一人の真っ黒な生き物が立っていた。

 

 

「──!!」

「オカ! セイ様! 私の後ろに!!」

 

 

バルザスとサフィーネがパニック気味に叫ぶ。サフィーネも武装をしており、その手に短弓を所持していた。岡もその影に向かってマグナムを突きつける。

 

 

「伏せろ! 両手を頭の後ろに回せ!!」

 

 

しかし、真っ黒な生き物は慌てたように両手を上げた。

 

 

〈ま、待ってくれぬか! 武器を下ろして欲しい!〉

 

 

サフィーネとバルザスにはその言葉がわからない様子だったが、岡には分かった。そこでマグナムを下ろし、バルザスとサフィーネを制して進み出た。

 

 

〈やあ、目が覚められたのですね。武器を突きつけてしまって申し訳ないです、私の言葉はわかりますか?〉

 

 

できるだけ平静を保ちつつ、その黒騎士に話しかける。

 

 

〈うむ……後ろの者の言っていることは分からんが〉

〈自分は岡真司と申します。あなたの名前は?〉

〈オカと言うのか、よろしくな。私はヤンネ、『景星のヤンネ』と呼ばれている。ところで……ここは何処だ?〉

 

 

と、二人が会話している時もバルザスやセイ達はポカンとしていた。それもそのはず、いきなり岡が訳のわからない言語で黒騎士と話し始めたからだ。

 

 

「お、オカ殿……その者の言葉が分かるのか?」

「はい。彼はヤンネさんとおっしゃるようです」

「これは驚いた……まさか意思疎通が取れるとは」

 

 

レヴァーム人と天ツ上人にはどういうわけか、この世界の人々との間に自動翻訳の力が働いている。初めて接触したクワ・トイネ公国以来公然のこととして広まり、レヴァームも天ツ上も新世界の人々との意思疎通に障害がない。だからこそ、この黒騎士とも会話ができるのだろう。

 

 

〈ヤンネさん、ここはエスペラント王国と言います。ヤンネさんの国はどちらに?〉

〈私の国は鬼人の国、ヘイスカネンだ。エスペラント……ということは、ここは人類の国か?〉

〈そうです。グラメウス大陸のやや南側ですね〉

〈なるほど……南か……〉

〈ヤンネさん。お聞きしたいのですが、ヤンネさんの国──ヘイスカネンはこの国と敵対関係にあるんですか?〉

〈敵対……? いや、常闇の世界にあるヘイスカネンと人類の国の間に、現在接点はない……うぅ……頭が痛い……そうか! 思い出したぞ! ダクジルドが……奴が我が国を……!!〉

 

 

ヤンネが苦しんでいるのは不完全な魔族制御装置の副作用だ。脳に直接作用して、思考や言語を強制的に書き換えるため、脳にとても強い負荷がかかる。

 

それが壊れたことにより、負荷から解放された脳が頭痛を引き起こしている。ヤンネはこれまで気を失い、脳の機能が停止していた。しかし、活動を再開すると同時に副作用が発生しているのだ。

 

 

「バルザスさん、彼の体構造は人類に近いと言っていましたよね?」

「あ、ああ。血液は紫色で体表面も黒いが、どうもヒトに近いようだ」

「そうですね……なら、水を持ってきてもらえますか? 彼の気分が良くなる薬があります」

 

 

岡は掲げていた鞄から、天法薬(天ツ上で古くから作られている医薬品)の頭痛薬、『|半夏白朮天麻湯エキス顆粒《はんげびゃくじゅつてんまとうえきすかりゅう》』の袋を取り出す。

 

 

〈頭痛の薬です、楽になると思いますよ〉

〈すまぬ……〉

 

 

ヤンネに顆粒を飲ませ、ヤンネを寝かせて気分を落ち着かせる。彼の気分が良くなるまで時間をおくことにし、5人は地下室から出た。

 

 

「オカ君、君はどこまでもエキサイティングだな! 科学知識が豊富なだけでなく、聞いたことのない言語で会話するとはね!」

「まあちょっと色々ありまして……それよりも、ヘイスカネンという国はご存知ですか? 彼らは自分たちを鬼人と言っていますが」

「鬼人……ヘイスカネン……どちらも聞いたことがない。しかし魔族ではなかったとは」

 

 

セイは深刻そうな表情で唸る。

 

 

「ということは、ダクジルドとか言う人物が今回の黒幕ですね」

「それも彼が言っていたのか?」

「はい。彼の国、そして彼らは魔王軍ではなくダクジルドによって何らかの干渉を受けたと思われます」

 

 

そう話していると、地下からヤンネが上がってきた。まだ頭痛は治まっていないようで、冷や汗をかいて具合が悪そうに見える。

 

 

〈すまないオカ……話の途中で……〉

〈自分のことは気にしないでください。それよりもあなたの具合が……〉

〈いい……それより、其方に大事なことを伝えたい。この国に危害を加えているのは我々だが、我々は初めダクジルドという男に操られていた……奴は頭に奇妙なサークレットを嵌めて、私たちを操り人形にするのだ〉

〈サークレット?〉

〈私が嵌めていた、魔石を埋め込んだ黒いサークレットだ。頼む……! 我ら鬼人族を救ってくれ……!〉

〈どうすればいいんですか!?〉

〈きっと……きっと操っているサークレットを破壊すれば洗脳が解けるはずだ、私のように……そして、我が国の姫を……〉

 

 

黒いサークレット、岡はそれに心当たりがあった。黒騎士もといヤンネを初めて倒した時に、マグナムで破壊した奇妙な黒いサークレットだ。あれが彼らを苦しめる正体だったのだ。

 

 

〈わかりました。ヤンネさん、回復するまでこの家で休んで行ってください。きっとあなたたちを助けますから〉

 

 

再び気を失ったヤンネを、男女五人で抱えて地下室に運んだ。そして、岡は聞いたことを全てバルザス達に話した。

 

 

「──なんと……彼らは操られていたのか……」

「はい、そうなります。黒騎士はみんな黒いサークレットをつけていますよね?」

「ああ、確かに付けていたが、あれは魔法具の一種だったのか」

「バルザスさん、申し訳ないですがもうしばらくここに置いてあげて下さい。自分はこの事を城に戻って報告します」

「私も同行しよう、ここは一人でも多くの証言があった方がいいからな」

 

 

セイの申し出をありがたく受け、二人でラスティーネ城へ戻った。二人は黒騎士の正体を王達に報告し、ザメンホフ王もその正体に驚いていた。元は敵という事で、救わずにサークレットを破壊するだけに止めようとする意見もあったが、後の事も考えて鬼人族は助ける事で話が纏まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

中央暦1639年12月13日 ノバールボ区

 

 

ラボーレオ区での研究が始まり、しばらくは火薬の製造調合と、新銃器の試行錯誤にどれだけ急いでも数日間かかるため、岡は顔を出しつつ別の仕事に取り掛かる事にした。

 

その仕事の一つに、墜落した『向日葵』の物資の中にある部品や、『向日葵』自体の通信機器を使った長距離無線機の組み立てだ。

 

天ツ上海軍では『海軍90式無線電話機改4』という電話機と、『海軍97式特受信機改4』という受信機がある。これらは両方とも元々潜水艦用の無線機だったが、動作、使い勝手が良好であった為、中央海戦争を通し海軍の全艦艇及びで使用された。制定以後、周波数の安定を改善するため幾度となく改良されている。

 

しかし、駆逐艦『向日葵』に積んであったこれらの通信機器は、墜落の衝撃で大部分が壊れている。なんとか部品を調達して組み立てたものの、精度や通信状態、通信距離共に不安が残る代物になってしまった。

 

 

「早く使節団艦隊と連絡が取りたいが……たとえ連絡がついたとしても……どれくらいで見つけてくれるか……」

 

 

艦隊と連絡が取れれば、『向日葵』の墜落と岡の現状を伝えられる。しかし、これでは正確な位置を特定してもらえるかは分からない。艦載機を飛ばしてくれるなら別だが、エスペラント王国は緯度が高い事もあってしばしば吹雪が吹く。それが心配だった。

 

 

──いや、仲間を信じよう。それに、もしダメなら俺が何とかしなくちゃ……

 

 

弱気になってしまうが、それを正して心を奮い立たせる。ここまで頼られた以上、一卒兵だとかは言い訳できない。自分からもやると言った。しかし、自分の意見が波及してどんどん大きくなり、人々を動かす。この得体の知れない恐ろしさは、思い描いていた未来にきちんと届くのかと不安に駆られる。

 

特に、昨日ニトログレセリンの作り方を教えた。一歩間違えれば危険な事故が起こりかねない物質を、忠告したとは言え今作っているだろう。もしそれご……爆発でもしてしまったら……

 

 

「あ、あのう……」

「うわっ!」

 

 

岡が不安に駆られながらエクセルゴ区に向かっていると、急に背後から声をかけられた。そこに立っていたのは、昨日工房にいたゼリムだった。

 

 

「ごっ、ごめんなさい。そんなにびっくりするとは思わなくて」

「あ、いえ、こちらこそすみません。どうかしましたか?」

「セイ様にオカ様の方を手伝ってこいと言われまして……今日は何かやる予定かと」

「ああ、なるほどね。いろいろな人に銃を試してもらおうと思っていますので、一緒についてきてください」

 

 

岡とゼリムは連れ立って歩く事にした。と、ふとゼリムの頭にあるサークレットが目に映る。

 

 

──あれ? あのサークレットは……

 

 

しかし、黒騎士のサークレットとはデザインが違うし金色だったので、「まさか」と思いつつそのままにした。しばらく会話もなく歩いており、無言が続く状況は岡に気まずさを与えていた。

 

 

「あのう……オカ様は誰かにここへ来るように言われたんですか?」

「へ?」

 

 

質問の意図がわからず、おもわず首を傾げる岡。広い意味でなら確かに、これは上官からの命令だ。元々はグラメウス大陸を調査する任務部隊の艦隊に乗り込み、陸戦隊として『向日葵』に乗り合わせていた。たが、意図した場所にたどり着いたわけではない。

 

 

「いえ、自分は自分の計画に沿って動いています。ここでは誰の指示ももらえませんからね」

 

 

技術はセイやランザルのような天才がいる。岡は必要な知識とアイデアを分け与えただけで、ほとんど何もしていない。だが、現代戦の知識は違う。こちらは一人一人に教え込んで、しっかりと力を付けさせる必要がある。岡の仕事は、その戦術を教える事だ。

 

 

「そうですか……俺は次に何をすればいいのか分からなくて。見てこい、探せとは言われるんですが」

 

 

ゼリムの言う「見てこい、探せ」という言葉を聞いて、岡は昔の天ツ上を思い出した。昔のレヴァームや天ツ上では、仕事は見て覚えるもの、探してするものというのが当たり前だった。

 

それが非効率で新人が育たないと分かったのは最近の事で、レヴァームや天ツ上ではようやくその古い体質を改めつつあるが、このエスペラント王国でもそんな古い感覚で動いているのかもしれない。岡はそんなゼリムを気の毒に思う。

 

 

「ゼリムさんは、戦うことは怖いですか?」

「いや……戦うだけなら何も考えなくて良いので楽です」

「では自分と一緒にいる時は、言われた通りにやってください。人によって向き不向きがありますから、辛かったら言ってください」

「はい……」

 

 

そんな事を言っている間に、彼らはエクセルゴ区の門を潜った。エクセルゴ区は全体が演習場になっており、アルブレクタ大競技場の他にも新兵兵舎や予備武器庫、軍馬厩舎など、騎士団管理下の施設があちこちに建っている。

 

そんな区の一角に、白兵戦訓練を行う練兵場がある。何百人単位での模擬戦を行うので、とてつもなく広い。約3万平方メートルという面積は、数ある闘技場の中でも最大だ。

 

 

「オカ! 遅いじゃないか!」

 

 

サフィーネが声をかける。練兵場には大量に積み上げれた武器弾薬、軍用馬が用意されていた。さらには1000人ほどの兵士も集まっており、岡からの応募通りに集まった事を示していた。

 

 

「すみません、お待たせしてしてしまって。始めましょう」

 

 

これから始まるのは銃器に関する訓練だ。今まで銃士しか触ることの許されていなかった銃だが、岡は王国の全ての兵士に銃を装備させる事を考えていた。

 

そのため、銃に関する基本的な訓練を始めるべく、エクセルゴ区の全ての闘技場を借りて、射撃訓練をする事にしたのだ。と言っても、まだ新型銃器は作れていないため、それぞれの銃器による簡単な射撃訓練に過ぎない。

 

兵科も新たに新設する必要がある。突撃兵、援護兵、工兵、衛生兵、狙撃兵、そして遊撃兵。突撃兵は基本的な武装で、兵士の大半を担う。援護兵には『向日葵』の中にあった機関銃や九式小銃などを持たせての中距離での援護。工兵、衛生兵は後方支援。狙撃兵は狙撃兵を。そして、遊撃兵は偵察や敵軍の動きを撹乱する戦術を教える。

 

それぞれの兵士には、それぞれに合った兵科にさせる。射撃テストをさせて、一番良い結果が出た銃器を使わせる。

 

他にも、魔導士や後方支援にいたものは工兵や衛生兵に、銃士は狙撃兵に、遊撃隊はそのまま遊撃兵にする予定だ。彼らは銃を持たせるだけであり、戦い方は基本的に変えない。

 

ちなみに、軍用馬を集めたのは至近距離での発砲音に慣れさせるためだ。徐々に近づけて、銃声に驚かないように教育しなければならない。

 

 

「では10人ずつ並んで、銃の使い方や注意点を教えます! 射撃の基本も教えますので、他の方は客席で自分の番を待ったてください!」

「ではまず番号札1〜50番の方! 訓練を開始します!」

 

 

兵士一人ひとりに銃器の基本と、注意事項を説明させる。銃にも慣れてもらわねばならないので、銃士たちは手厳しく教え込んでいる。

 

 

「お手伝いいただけて感謝してます、ザビルさん」

 

 

この場にはザビルも来ていた。戦闘時に行動を共にしたいというのは聞いていたが、ここまで協力的になってくれるとは、初めは思っていなかった。てっきり、彼はプライドが高いと勘違いしていたからである。

 

 

「なに、我々も王国の危機を前に貴族の誇りがどうのと言っていられないからね。私がいれば、オカも働きやすくなるだろう?」

「はい、感謝しています」

 

 

銃士たちは当初の時は、平民の出でも銃を持たせる事に反感を抱いていた。しかし、王国最強のザビルが彼らをなんとか説得し、『向日葵』の物資にある四式短小銃を狙撃銃として使わせると約束すると、態度を一変させた。

 

 

「しかし……貴殿も人が悪い。そのような高性能銃があれば、王国の銃士に勝つことは当たり前じゃないか」

 

 

ザビルは岡が肩から掲げている九式自動小銃に視線を送る。岡は黒騎士の一件以来、マグナム拳銃と小銃をいつも携帯している。いつどのようなタイミングで必要になるか、分からないからである。

 

 

「すみません、信頼を得るにはこれが一番手っ取り早かったんです」

「ふふ、少し意地が悪かったね。私も貴殿の技量や銃の性能には懐疑的だったんだ。それに、これで王国が救われるのなら、感謝しているよ」

「ですが、ザビルさんの自信を壊してしまったのは確かです。そこで、これが終わったら余興をやりましょう」

「余興?」

 

 

岡はこの訓練が終わった後、同じ九式自動小銃を使って的当て勝負をすると約束した。それは後に、ザビルの勝利に終わったことで信頼回復にも繋がり、岡の誠実さを裏付けるものとなる。

 

 

「ひっ!!」

 

 

と、訓練会場での発砲の瞬間、一際大きな悲鳴を上げた男がいた。

 

 

「何でしょう?」

「分からない、行ってみよう」

 

 

岡は観客席にて訓練の様子を見ていたが、何か事故やトラブルでも起こったかもしれないと、岡は走った。

 

 

「どうしましたか?」

「今の悲鳴ですか? オカ様が連れてきた方ですよ」

 

 

岡は誰かを連れて来た覚えがうろ覚えだったが、訓練場の真ん中辺りに注目を浴びている人が一人いた。

 

 

「ゼリムさん! 大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」

「お、オカ様……こいつはダメです、こんなものを撃ってたら身体がぶっ壊れちまいます……」

 

 

極端に怯えるゼリム、2発目以降も撃てそうにない。これ以上無理させるわけにもいかないので、彼を慰めて工房に戻るように勧めた。

 

 

「大丈夫かい?」

「ええ、ゼリムさんが少し怯えていたようです」

「彼がかい? 彼は工房で働いていると言うあの……」

「そう、彼です」

「おかしいな……彼は騎士団の所属じゃないが、他の非騎士団出身者でもあそこまで怯えたりはしない……」

「まあ、人によって向き不向きはありますし、仕方ありませんよ」

「だな」

 

 

一応他の非騎士団出身者にも話を聞いたが、どうやら彼らは予備役だったらしい。火縄銃が誕生した当時、国中で話題になったので、憧れがあったらしい。

 

と言うことは、ゼリムは騎士団に所属していた経験がないのだろう。怖がらせてしまって申し訳ないと思い、今度謝る事にした。

 

 

「ふぅ……終わった終わった……」

「あ、サフィーネさん」

「ああ岡、私の訓練は終わったぞ」

 

 

少し疲れた表情のサフィーネが、岡に話しかけてくる。

 

 

「なあオカ、銃って意外と重いんだな。反動もすごいし、煙も目に痛いし、私は何だか弓矢でいい気がするよ」

「いやいや、銃は弓矢と違って貫通力に優れますし、風の影響をほとんど受けません。そして銃は、なんと言っても手軽ですから」

「手軽? 装填に時間が掛かるのに?」

「銃の改良が進めばそれも解決しますし、煙も立たなくなりますよ。いずれは連射もできますし、弓矢より何十発も持ち歩けます」

「そうか……命中率が高くて何発も持ち運べて、簡単に装填できるなら確かに強いな」

 

 

ちなみにサフィーネは試験の結果、ショットガンなどの近接銃器が得意だと判定がついた。元々の戦い方が遊撃隊である事を考えれば、妥当な試験結果だろう。

 

彼女がショットガンを持って遊撃隊長になれば、かなり高度な戦い方ができるだろう。陣形などを組まずにチームで敵に当たる遊撃部隊は、元々現代戦の戦闘方法に近い。

 

 

「さて、試験も訓練もまだまだ始まったばかりだ。明日も頑張らなくちゃ」

 

 

今日1日で訓練できたのは、まだ2万人程度である。使った弾薬などはラボーレオ区が生産してくれるらしいが、彼らが過労しないかどうかが唯一の心配だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

マルノーボ区

 

 

セントゥーロ区の北側フォンノルボ区とを隔てるこのマルノーボ区は、ノーバルボ区に比べて建築物が古びており、人口は多いもののあまり裕福ではない。

 

いわゆる「スラム」と化しており、最近では難民も押し寄せて空気がピリピリしている。この市街地は夜中、ジメジメとして暗闇に包まれるが、現在は厳戒態勢であるためあちこちに魔石松明が焚かれていた。

 

 

「──はい、そうです……あの銃というのは危険です。あんなものを扱うこの国の下等種族どもは、もはや──」

『貴様はどこまで愚かなのだ!……下等種族の銃の性能など知っておるわ!!』

「えっ、えぇ……」

 

 

古民家には地下室があり、古く涸れた下水道が近くに通っている。この下水道からフォンノルボ区に向かってトンネルが掘ってあり、それはノルミストミノ区にまで続いていた。

 

トンネルにはやや太く黒い線がいくつか走っており、片方には魔道通信機が、ノルミストミノ区側は地上の魔導力機とアンテナへと繋がっている。

 

 

「で、ですがダクシルド様……」

『くそっ……! ようやく連絡をよこしたと思ったらそんな事か……ビーコンの位置は? 敵の戦力は予測できたのか?

「いえ……どちらもまだです……」

『〜〜……つくづく使えない奴だな……! とっとと下等種族の国を滅ぼさなければ私の命が危ないのに……!』

「そ、そう仰ってもら兵士たちの宿舎や王城の周辺には衛兵がいたんです。簡単には近づけません……それに、何故だか常備軍が少なくなっている気がします……」

 

 

これは岡のスパイ対策だった。こちらが戦力を強化している事をなるべく知られないため、総兵力を誤魔化しているのである。元々、エスペラントで総兵力を知っているのは一部の関係者だけなので、それが助かった。

 

 

『何故そんな簡単な潜入もできんのだ! 相手は未開の地の猿だぞ! ……ああ、貴様も未開の地から出てきたんだったな』

「…………」

『よく聞けゼルスマリム。3日後に鉱山区の隣、北の水源区を攻める。北の水源から貴様の仮住まいのある旧市街を隔て、王城のある区まで一直線だ。前回と同じ戦力しか出さんが、さすがに下等種族共も本気で抵抗してくるだろう。その時に、敵の総兵力を探るのだ』

「承知しました……」

『それと、例の空からの闖入者というのは一体何者だ? 素性は分かったのか?」

「彼は帝政天ツ上陸軍と言う組織の人間だそうです……」

『天ツ上だと? 確かか?』

「間違いありません。的当て勝負でも、そう自己紹介していました」

『……分かった、この事はノスグーラにも伝えておく。もし妙な事をするなら、すぐに連絡しろ』

「はい」

 

 

無線通信が切られる。

 

 

「腹……減った……」

 

 

闇の中、まるで昼間のように動き回る男は、貯蔵庫から何かを取り出し、調理もせずにかぶりつく。

 

 

「食料、また集めないと……」

 

 

それはオキストミノ区、ノルミストミノ区の戦いで戦死し、回収や埋葬もされなかった王国兵の遺体だった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

バグラ山

 

 

ゼルスマリムへの指示を終え、無線機を切るダクシルド。通信室から出て会議室へと向かう。夜も更けていたが、部下たちはゼルスマリムから通信があったと聞いて集まっていた。

 

 

「ダクシルドさん。ゼルスマリムはなんと?」

「ビーコンについても偵察についても何も進展なし、これは予想通りだったが……」

「まずいですね……魔王からエスペラント攻略を催促されています、これ以上遅れると……」

「くそっ……あの無能魔族め……」

 

 

ダクシルドらは悪態をつく。

 

 

「ホッホッホ……たかが下等生物如きに随分と苦労しているようですなぁ?」

 

 

と、会議室にいつの間にかお呼びでない人物の声が響いた。

 

 

「!? お前はマラストラス……!」

「何を手間取っているんですかぁ? 相手は高々下等生物、魔帝様の末裔である貴方たちなら、簡単に落とせるはずではぁ?」

「ぐっ……」

 

 

──この場に小銃の一つでもあれば、今こいつを殺してやっていると言うのに……

 

 

アニュンリールから持ち込んだ武器は、ノスグーラによって全て破壊されていた。そのため、彼らにマラストラスやノスグーラに対抗する術が無かったのだ。

 

 

「まあ、援軍を与えてやっているんですから墜ちるのは確実でしょうが、随分と遅れているみたいですねぇ?」

「……不確定要素があったからな」

「不確定?」

「……空から闖入者が出たと言う話だ。奴によって、南門に行かせた威力偵察部隊の鬼人族が一人倒されている」

 

 

ダクシルドは嘘は言っていない。ゼルスマリムからの報告は信じられないが、鬼人族がやられた事は事実だからだ。

 

 

「ホッホッホ……そんな下等生物の不確定要素に怯えていているようでは、やはり魔帝様の末裔を名乗るほどでもありませぬなぁ……」

「なんだと……?」

「まあいいでしょう。魔王様はそろそろ我慢の限界です、せいぜい早めに攻略する事ですね」

「ぐっ……」

 

 

ダクシルドは何も言い返せず、マラストラスが扉から去っていくのを見ていくだけであった。監視役である以上、奴には逆らえない。

 

 

「釘を刺されましたね……」

「……とにかく3日後、北側の水源区にもう一度威力偵察を送るぞ。数を増やせる余裕はないが、それで鬼人族を倒した奴が何者なのか、判別できよう」

 

 

ダクシルド達は話を終え、翌日に備えて休む事にした。

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