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中央暦1639年12月29日
オキンパーロ区
あれから数日後。岡はゼリムの件をザメンホフ王や宰相たちに話し、セイ達と共に最後の作戦会議を行った。
30日辺りに敵の総攻撃があることの根拠としてゼリムの件を話した時、さすがに宰相からスパイ疑惑を疑われたが、ザメンホフ王に全ての経緯を話すことでなんとか納得してもらえた。
そして現在のエスペラント軍の戦力もかなり増強している。来る戦いの時には予備役を動員し総兵力で迎え撃つ命令を既に出しており、新兵器となる救国者シリーズもバランス良く量産配備されている。
そして……偵察隊の第一報が届いたのは29日の事であった。エスペラント側は道中や山岳に張り巡らせた偵察部隊のラインを設定しており、リレー配置で伝達を早めていた。
情報が届き、いよいよ決戦が始まると分かってからの行動は速かった。敵軍は西側の区壁に向かって真っ直ぐ進軍しており、区壁の外に障害物を設置したり、固定式重砲の設置を行っている。
「いよいよですね、岡殿」
「敵軍は総兵力18万……こちらも14万人はいますが、能力的には相手の方が上です。油断はできません」
城壁の上で双眼鏡を覗く岡は、モルテスと共に敵軍を確認してそう呟く。
「他の方面からの連絡は?」
「今のところはないが……奇襲が怖いな。あれだけの兵力を正面に展開されては、こちらに出せる余剰戦力は無いからな……」
そう言いながら、岡は晴れたことによってやっと繋がった通信機を起動した。故障していた部分はなんとか直している。
「通信完了……」
足の速い飛空艦なら、なんとかこの戦いに間に合うだろうか? 恐らく来れるのは足の速い巡空艦や駆逐艦が中心だろう、打撃力に欠けるのが心配だ。
「戦士の祈りは届きましたか?」
「ええ、後は助けに来るのを待つだけです」
「では、その間天ツ上にも我々の実力を見せるとしましょう」
岡の進言モルテスの指揮下の下、エスペラント軍は決戦の火蓋を切る。
──不思議なものだ。突如現れた国外の青年が、あれほどまでに心強い存在となり、隣にいるだけでここまで心強いとはな。
モルテスは思う。彼のような若い青年がいるだけで安心する。彼は突然現れ、いつのまにかエスペラントの民全員の心の拠り所となっている。その事実を不思議に思うと同時に、モルテスは緊張など吹っ切れていた。
「オカ、みんなに一言演説してやってくれ」
「分かりました」
これから戦場へ向かうサフィーネから魔導通信のマイクを渡される。岡は演説などした事は一度もないが、自然と言葉は決まっているようなものだ。
『エスペラントの皆さん、岡真司です。自分の仕事をしながらでいいので聞いてください』
今のエスペラントは完全に戦闘状態に突入している。国民全員が老若男女問わず、国のためにそれぞれの仕事をしている。その彼らに対して岡は声をかける。
『まず皆さんに感謝を伝えたいです。空から落ちてきた私を信頼してくれて、なおかつ大きな手も貸してくれたのには本当に感謝してもしきれません』
岡は今までのことを振り返りながら、その感謝を伝える。
『今私たちの目の前に1万年の宿敵である魔王軍がいます。因縁である魔王軍と共に……』
岡は区壁の上から魔王軍を見渡す。その魔王軍の布陣は密集した美しい隊形を作っており、彼らが強大に見えてくる。
『しかし、私たちは負けません。神話にもあります。王国は太陽に照らされ、長きにわたる負の時代は去り、心にかかる影は拭われ、光の時代が始まる……私はその神話を現実にしたいです。
やりましょう! そして守り抜きましょう! 新たな時代を迎えるエスペラントを、自分の目で確かめましょう!!』
そう締めくくると、兵士たちの雄叫びと歓声が返ってくる。台本もなくセンスもない演説は自分で言っていてものすごく恥ずかしかったが、なんだか吹っ切れた気がする。
「オカさん、サフィーネさん」
「サーシャさん」
「頑張ってください! そして生きて返ってきてください! 私……後方で治療していることしかできませんが……それでも皆さんのこと、支えますので!」
「ええ、共に生き残りましょう!」
「ああ」
これは故郷よりも彼女らの笑顔のために帰らなければいけないなと思いつつ、その決意を胸に抱いて岡は前線へ向かう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
エスペラント軍の雄叫びと歓声はノスグーラにも聞こえていた。
「哀れな奴らだ。今から踏み潰されるのを恐れないために声で士気を上げるなど……」
魔王は明らかイライラしているのは目に見えていた。人間の勇気ある叫びは魔王の耳を逆撫し、機嫌を悪くさせるのだ。それを見た周りの重役達はブルブル震えている。
「バハーラ、マラストラスはあの役立たずを倒せたか?」
「は、はハァ……マラストラス様は今さっき向かいました。ダクシルド様は何処かへ消えていたそうで、今探しているそうです」
「……ほう、貴様らには監視を頼んだのにもかかわらず逃げられたのか?」
ノスグーラは穏やかな口調を保ちつつもバハーラに向けてわざと細くした目を向ける。
「い、いえ! まだ逃げたとしてもそう遠くまでは行っていないはずです!! マラストラス様には私の部下を道案内させているので、必ずや……かなら」
ノスグーラはバハーラが言葉を言い終わる前に口を掴み、そのまま力を強める。いくら人間よりも強力な鬼人族といえど、魔帝の遺産である魔王に捕まれて握り潰されようとされればひとたまりもない。
「ぐ……がぁ……お許しを……」
「たわけが!!」
ノスグーラはそのままバハーラを握り潰し、砕けた肉片を一つ一つ地団駄を踏むように潰し続ける。
「あの家畜どもをぶち殺せ!! 一人残らず殲滅するぞ!!」
魔王はすでに冷静さを失っている。戦う前からすでに負けているようなものだ。事実、人間如きに頭に血が上っている時点で「人間以下」と呼ぶしか評価が見当たらない。
◇◆◇◆◇◆◇◆
戦いの火蓋は爆炎によって開かれた。
狭く広がる山谷の草原に響き渡る砲声と爆音。風に乗って硝煙が舞い上がって鼻腔を突く。草原の緑が爆裂によって砕かれ、跡には穴と死体しか残らない。
戦闘開始の合図は両軍の砲撃戦だ。岡は現代の大砲を元に、エスペラントで簡易的な野砲を既に作り上げていた。射程、威力共にゴウルアスの爆裂魔法と同レベルにまで届いており、こうして本格的な戦闘が始まるまで撃ち続けている。
「撃ち続けろ! 相手は確実に弱まっているぞ!!」
モルテスは叫ぶ。砲撃戦ではリチャージに時間のかかるゴウルアスよりも、薬莢を排出するエスペラント軍の方が遥かに撃つテンポが早かった。口径55ミリの榴弾砲が魔王軍の布陣へ向けて次々と放たれ、ゴウルアスおも多数撃破している。
やがて魔王軍のゴウルアスはほぼ全て死亡し、焦ったのか後方に下げられた。魔王軍の方は混乱が発生しているのか、若干の僥倖状態だ。チャンスは今しかない。
「今だ! 全軍、前進!」
区壁上にいるモルテスの号令一下、13万のエスペラント兵達が歩み始める。彼らの手には新しい救国者の証が握られており、2列に並んで戦列歩兵として前進する。
戦術として戦列歩兵を選んたのは岡である。ゴウルアスの連射魔法の射程が短い事を知っていた岡は、あえて機関銃に対して脆弱な戦列歩兵戦術を選んだ。
2列に広がる事で救国者シリーズの火力を最大限に斉射、再装填の時間は2列目が稼ぐ。例え接近されようとも拳銃や銃剣も生産している為、乱戦も可能だ。
『騎兵部隊前へ!!』
「行きますよサフィーネさん!」
「ああ!!」
エスペラント側から見て右翼に配置された騎兵隊の先陣を切るのは、岡と岡の教えを受けた兵士が乗ったサイドカー。王や指揮官の代わりに英雄が前に出る。
指揮系統も壊れない上、兵士たちの士気も上がる。やはり一番前に出て戦うべきなのは英雄なのだ。それは中央海戦争の空で証明されている。
サイドカーのアクセルを全開に、一気に突撃をする騎兵隊達。その後ろをエスペラントの馬達が土煙を上げて走ってくる。真正面には魔王軍の騎兵、およそ500騎。
「十分引きつけて!」
ここで撃ったとしても、敵との距離が離れすぎていてまともに当たらない。バイクも馬も、銃の照準の天敵である「揺れ」が大きいのだ。
「「「グロロロロロォ!!」」」
敵の騎兵部隊はヤギのような大きな角を持った黒い馬であり、ロバとの交配を重ねたエスペラントの馬よりもさらに強そうに見える。
「まだだ……」
まだ、距離が離れている。手で掴んで掴み取れる距離にまで近づかない限り、有効打は与えられない。
「まだ……」
まだ飛んで行かないと届かない距離、まだ手ではつかめない。しかし距離は詰まる!
「今だぁぁぁぁぁ!!!」
大きく叫び、騎兵隊から銃弾の雨霰が降り注ぐ。先頭のバイク集団から放たれた機関銃弾、弾丸が魔王軍に突き刺さり、よろけたゴブリンライダーが蜂の巣にされる。
バイク集団はそのまま突っ込まず、左右に分かれて騎兵集団を両翼から挟み込む。あるいはわざと囮になって撹乱し、本命の馬の突入を支援する。
「全騎突撃!!」
騎兵を率いるのは、あのジャスティード。サーベルを腰から引き抜き、僥倖状態の敵の懐に入る。敵のウヨウヨいる先頭集団に突っ込むのは、騎兵隊に選ばれた特権。今までなんでこの素晴らしく立派に戦える仕事をしてなかったのかと、ジャスティードはニヤリと笑う。
すれ違いざまにゴブリンライダーの首を切り、よろけたゴブリンを馬で轢き、最後に馬上のゴブリンとの鍔迫り合いになる。すかさずサーベルの角度を変えて刃を滑らせ、鎧の隙間を縫って切り込みを入れた。
「グギャ!」
怯んだところを腕ごと切り落とし、馬から突き落として落馬させる。
「まだまだ! オカに追いつくんだ!」
しかしその時、視界の端で爆炎と轟音が鳴り響いた。エスペラント側から見て左翼、その方向から雷鳴のような轟音が聞こえたかと思うと、巨大な影が動いていた。
「モルテスさん! 状況は!?」
バイクの岡はすぐさまモルテスに連絡を取る。
『まずい事になった! 魔王軍は左翼にゴーレム部隊が展開した! 左翼が集中攻撃されて食い破られようとしている!!』
「分かりました! 手筈通りに予備戦力を展開してください!」
『分かった!』
◇◆◇◆◇◆◇◆
モルテスは岡の指示を元に兵士達に命令を打ち出し、兵達はそれに従って迅速に展開を始める。予備兵は三つに分かれて素早く展開。軽野砲を引き連れてすぐさま展開を完了した。
魔王軍のゴーレム部隊はその大腕を振るってエスペラント重装歩兵を蹴散らし、地面を殴って魔法まで発動している。とても近づけたものではない。
軽めの37ミリ砲は一番早く展開が完了し、すぐさま撃つ準備を整えた。安全装置を解除し、照準器を覗いて真正面にいるゴーレムを狙う。
「展開完了!」
「よし軽砲、撃てっ!!」
分隊長が叫ぶと同時に砲声が轟く。37ミリ徹甲弾はゴーレムの足元に着弾し、技術力の低さによる命中精度の低さを表してしまった。
「やはりこの国の技術では一発目では当たらんか……二発目!」
空薬莢を排出し、二発目を装填する。その隙にゴーレム部隊は野砲を見つけ、脅威とみなしたのか一気に駆け出して突破を図る。
「装填完了!」
「撃てぇ!!」
二斉射目は先ほどよりも上を狙って撃ち、その数撃が弾幕を張る形となってゴーレム部隊に突き刺さる。
「グォォォォォ!!」
放たれた槍がゴーレムを突き破って爆裂し、内部でその威力を発揮する。魔力回路もズタズタに引き裂かれ、ボロボロの岩に崩れ去る。5回目の斉射をする頃にはゴーレム部隊は全滅していた。
「やったぞ!」
「うぉぉぉぉぉ!!!」
その歓声によってさらに士気が上がるエスペラント兵達、魔王軍に対しての反撃が始まろうとしていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
『オカ殿! ゴーレム部隊を破りました!』
「今です! 私たちが右翼を破って回り込みます! 皆さんは前進を!!」
オカは出せる最後の指示を出して通信を切る。そして走り回りながらサフィーネと共に短機関銃を乱射する。
「サフィーネさん、活路を開きます! アレを!!」
「分かった!」
サフィーネは岡からの指示を聞いて大きな筒を取り出した。それは九式七糎噴進砲そのもので、サイドカーの荷台に二脚を立てる。
「撃つよ!」
「分かりました!」
岡はサイドカーを操作して、なるべく遠くに一旦離れる。他の騎兵部隊の皆も一斉に離れていき、一瞬だけ一団がちょうど良い間隔に間が空いた。
その騎兵の一団に向かってサイドカー軍団が一斉に方向転換。向かい合うように相対速度が上がっていく。
「全員撃てぇ!!」
一列に並んだサイドカー軍団から噴進弾達が放たれ、それが魔王軍騎兵隊に向かっていく。すぐに爆裂が魔王軍から打ち上がり、よろけたゴブリンと馬が手足を失って苦しみ悶えている。
「今だ! 突破するぞ!!」
騎兵部隊はさらに速度を上げ、サイドカーと馬の出せる限界速度まで加速する。
「いっけぇ!!」
もはや自分たちを止める者は魔王軍にいない。このまま右翼を突っ切って魔王軍の後方に回り込むのだ。
疾風の如き騎兵隊達は魔王軍の騎兵を次々と突破していき、ゴブリンを蹴り上げ、屍を踏み倒して前へと進む。
「はっ!」
ジャスティードも続くように遅れぬようにサーベルを振るい、ゴブリンの首を次々と切り裂いていく。
加速したジャスティードの馬が岡とサフィーネの乗るサイドカーと並走し、ジャスティードは不敵に笑っている。岡もそれに応えるよう不適に笑った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「魔王様……! 左翼の奴らが突破されました……! 人間共が裏に回り込んできます……!!」
「分かっておるわ!」
そんな事はノスグーラの視力で百も承知、頭を抱えて急いで対策を立てる。舐め切っていた人間の軍隊は予想よりもはるかに強く、そして折れなかった。
まずい、今の状況は非常にまずい。魔王軍はゴーレムを展開した右翼側を好機と見て、全軍をこっそり右翼側に向かわせて一点突破しようとしていたのだ。
今魔王軍は右翼側に偏っており、エスペラント側に陣形を反時計回りに迂回されたら完全に包囲される。敵騎兵の突破はこれが狙いか。
「クソっ! 右翼に予備兵団を投入しろ! さっさとせんかマヌケが!」
ノスグーラは指揮官として指示を出す。しかしその指示は半端怒鳴りに近く、とてもじゃないがパワハラに近い。
しかし、そんなノスグーラの願いなど聞く気もなく、エスペラント軍は魔王軍を包囲しようと動き始めた。魔王軍から見て左翼側、そこの兵士達が一気に突撃を開始したのだ。反時計回りに迂回してこちらを囲んでくる。
「クソがっ!!」
そこらへんのオークに八つ当たりをしながら必死に指揮をとる。指示とも呼べないハラスメントを唾と共に飛ばし、とにかくこの屈辱的な状況を打開しようとする。
「こうなれば……」
しかし明らかにならない状況、それはより悪化してノスグーラを苦しめる。こちらの方が数も強さも精強なはずなのに、たかが人間如きにやられっぱなしでいるこの屈辱がノスグーラには耐えられなかった。
ならば……奥の手を使うまで!
「出でよ……」
土がめくり上がり、大地がゆるぎ始める。その破片が固まる粘土細工のように凝縮し、その形を形成していく。それを見た魔王軍の魔物達も、エスペラントの兵士たちも、その姿を見て凝固する。
「カイザーゴーレム!!」
まさしく神話の時代の産物。
第25話のエピソードに関してなのですが、ラクスタルが原作と一緒の性格なのはどうなのかとこの数ヶ月で考えまして。修正前のエピソードでは、ラクスタルは妻をパンガダに殺され復讐鬼みたいになっていました。その設定を復活させようかと思うのです。その方が物語のフレーバーになるかもしれないと思いまして。
ですが、この件に関しては賛否あると思いますので皆さまの意見も募りたいです。