とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

13 / 106
第9話〜クイラ王国接触〜

クワ・トイネとの外交成功はレヴァームと天ツ上にとって、この世界で生きていく上での大きな一歩となった。

 

クワ・トイネはレヴァームで言う所の中世レベルほどの文明しか持っていないが、レヴァームによる開発が進めば、いずれは生活基準が追いつくだろうと言われている。

 

神聖レヴァーム皇国、皇都エスメラルダの宮殿の会議室では国のトップたちが一同に介し、会議を行っていた。全員を見渡せる位置にいるのはレヴァームのナンバーワン、ファナ・レヴァーム執政長官である。

 

 

「……以上により、帝政天ツ上もクワ・トイネ公国との友好関係を模索することに成功し、近いうちには同盟も結ぶ可能性が出てきました」

「おお……」

「これで、レヴァームも天ツ上もしばらくは安泰ですな」

 

 

会議室の面々が、笑顔に包まれて安心に囲まれる。レヴァームにとってこの新しい世界で生きていく以上、新たな親愛なる友人は必須であった。その彼らとレヴァームが友好関係を結べたことはそれだけ良い影響が大きかったのだ。

 

 

「はい。先ず、質のいい食料を手に入れられたことによって皇国民もうれしい限りでしょう。今後は二カ国の他に文明圏の国家、中央世界と呼ばれる列強国家との繋がりも、私としては模索しております」

 

 

ファナは今後の方針を模索するために、中央世界との接触も視野に入れていた。この世界ではレヴァームと天ツ上は新参者、この世界で生きて行くためにとにかく手探りで探って行くしかない。

 

 

「文明圏に中央世界ですか……大それた名前ですな……」

「ええ、さすがは異世界です」

「長官、その接触に関してなのですが……」

「ナミッツ司令。どういたしましたか?」

「はい。実はその使節団の接触に飛空艦を使おうと思っているのです」

「飛空艦を?空軍の戦力を使ってですか?」

 

 

ファナが疑問の声を投げかける。使節団の派遣に、飛空艦を使うなんてことは今までなかった用途だ。しかも、軍が協力をするのだからなおさら気になる。

 

 

「はい。この世界でも飛空艦は水素電池を使えば航続距離は実質無限です。そのため、やろうと思えばこの惑星を世界一周する事もできます。その航続距離を生かしてこの世界の国々と早めの接触を行おうと思っています」

「だが、それでは砲艦外交になるのではないかね?」

 

 

それに対して反論したのはマクセル大臣だった。またも、ナミッツに対していちゃもんでもつけようとしているのだろうか?懲りない人物である。

 

 

「…………いえ、むしろ我々の実力を知ってもらうためにも必要なことかと。この世界では我々の常識は通用しません」

 

 

ナミッツは一呼吸置いて続ける。

 

 

「そもそも、我々はこのような多数の国が集まる国際社会に対して無知です。実際、クワ・トイネ公国の隣国で緊張の高まっていると言われていたロウリア王国へ使節団を派遣したところ、クワ・トイネ公国との国交を開いていたという理由だけで服従を要求してきました。この世界では我々の常識は通用しないのなら、我々のことを知ってもらうしかありません」

 

 

ナミッツが言っているのは、ロウリア王国との接触の際に起きた事件のことだ。その時レヴァームと天ツ上の使節団は陸路で行ったのだが、ロウリアは緊張の高まるクワ・トイネ公国と国交を開設していたというだけで服従を要求されるというとんでもない対応をされていた。その教訓として、このような野蛮な対応をする国に対して砲艦外交を行い実力を知ってもらおうという寸法をナミッツは建てていた。

 

 

「それが砲艦外交と言うのだ、君はペリルが過去にやった天ツ上への砲艦外交の繰り返しをしたいのかね?」

 

 

マクセルが言っているのは100年以上前、当時まだレヴァームと天ツ上が互いの存在を大瀑布によって知らなかった時のことの話だ。時の艦隊司令ペリルは当時の天ツ上幕府に大瀑布を超えて飛空艦で砲艦外交をし、警戒させてしまった。

 

 

「…………マクセル大臣の言うことも一理あるでしょう」

「ちょ、長官!?」

「しかし、早期的な接触が必要なことには間違いありません。飛空艦を使った使節団の派遣は、とりあえずはクワ・トイネ公国と隣国のクイラ王国との同盟が締結し、ほとぼりが冷めてからにいたしましょう」

「わ、分かりました。ありがとうございます」

 

 

こうして会議は順調に進んでいった。そのうちで現在洋上の港の整備が整い始めており、数ヶ月後にはこの球面惑星に対応できることも明らかにされた。

 

その派生で、現在飛空艦しか使えない状況から、洋上艦を改造しての飛空艦の増強が提案された。なんでも、洋上艦と飛空艦の二つの違う艦艇戦力を抱えていることは非効率的であると研究結果が出たとのこと。

 

後に使節団の派遣を行うのであれば、なおさら飛空艦は必要になるであろうことを見越しての決断でもあった。飛空艦は強力な分水素電池や揚力装置などが重なるため建造コストが高いが、その件はとある国との国交開設で解決しそうだった。

 

その国の名はクイラ王国。先ほどの話題で上がったクワ・トイネの隣国であり友好国である国だ。なんでも、クワ・トイネ公国の使節団から面白い話を聞けた。そこでは、価値もなく使い物にならない屑鉱石が大量に取れるとのことだった。

 

その屑鉱石とは、水素電池の触媒に使われるレアメタルの事だったのだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

クイラ王国 王都バルラート

 

乾いた土地、乾いた風、周りを見渡しても森は見当たらない。あたりは砂漠だらけで都市も、街も、村も全てが砂漠に閉ざされている。もちろん、農業なんて起こるはずがない。

 

クイラ王国は貧しい国だ。他国からは蛮国の通称だけでなく「貧国」だなんて比喩されている。人々はあまりの貧しさで日々の暮らしに絶望し、生きることに必死である。「今日より明日を良くするために頑張って働こう」などとは微塵も思わない。それは、どこかの戦艦島を思わせる。

 

この国に生まれたものは隣国のクワ・トイネ公国に出稼ぎに出る。国家を挙げての一大人材派遣、それで外貨を得てなんとか食料を輸入している状況だった。

 

クイラ王国の外交を司る王宮貴族メツサルは、『急な要件』ということで会談を希望してきたクワ・トイネ公国の大使を部屋で待つ。

 

 

(急な案件とは何なのだろうか?まさかロウリア王国に異変が?)

 

 

ロウリア王国は、人間種以外の種を亜人と蔑む人類至上主義の国である。特に最近はクワ・トイネを含めて国境線で緊張状態が続いている。

 

メツサル自身もドワーフと呼ばれる種なので、もしロウリア王国の支配に陥ればどうなるかわかったものではない。なので、ロウリアの動向には気を配っていた。

 

会談内容について思いを巡らせていると、部屋の扉が開いた。クワ・トイネ公国の外交官ペインが清々しい趣で入室してくる。二人は挨拶を交わすと、会談に入った。

 

 

「急な案件とは一体何でしょうか?」

「実は『神聖レヴァーム皇国』と『帝政天ツ上』という新興国家が我が国へ来訪し、我々は使節団を派遣しました」

「ほう」

 

 

彼の言ってきたのは新興国の解説の話であった。それは別段珍しいことではなく、急な案件になるとは思えない。

 

 

「質問なのですが、その二国が一体どうしたのですか?」

「はい、我が国はレヴァームと天ツ上と国交を結びました」

「なるほど……」

「そのレヴァームと天ツ上ですが、クイラ王国とも国交を結びたいらしく、我が国に仲介してほしいと頼んで来たので参りました」

 

 

 まだ『急な要件』とは言えず、それが引っかかっていたメツサルが切り出した。

 

 

「して、当初お急ぎのお話だったようですが……何か特異な事態ですか?」

「実は、その二国は我が国との同盟に非常に前向きな姿勢で協議してくれました」

「なんと!?と言うことは同盟を締結すると言うことですか!?」

 

 

ロウリア王国との緊張状態が続く中、味方が一人でも増えるのは嬉しい事だ。そんな二つの国がさらにクイラ王国とも国交を結びたいと言っている。それならば、急な案件と申すのも納得が行く。

 

 

「はい。現在協議中ですが、同盟締結は確実だそうです。それと、その国家は少し異常なのですよ」

「と、言うと?」

 

 

ペインは突如飛来したレヴァーム所属の飛行物体と、大使を乗せてやってきた超大型船の存在を話した。曰く、前者は羽ばたかずに時速600kmで飛行し、後者は全長260mほどもある鋼鉄製の飛空船だったと言う。

 

メツサルはにわかに信じられず、目を剥いた。それが本当ならば、その国は相当な軍事力と技術力を持っている筈だ。そんな国がクイラのような貧しい国と国交を結びたいとは一体どう言う事だろうか?

 

 

「信じられません。その話が本当だとすると、文明圏内国家……いや、列強国と同等……もしかしたらそれすら超える国ということになる。そんな国が今まで知られなかったはずがない!!」

「その通りです。しかし彼らは『突如、異世界から国ごと転移してきた』と申し立てているようです。が、彼らの実力は本物です。使節団は実際にかの国々の実力が事実であることを確認しました」

「そうなのですか……ありがとうございます。しかし新たな脅威ですな、レヴァームと天ツ上の種族構成はどのようになっているのかはご存じでしょうか?」

 

 

メッサルは思わず聞いてみる。種族構成については亜人を迫害しているロウリアの件もあるので要注意な案件だ。人間種の比率が多い国の場合、他種を迫害している可能性も考慮する必要があるからだ。

 

 

「はい。レヴァームと天ツ上は両国とも人間種のみで構成されているようです」

「な……なんと!!ではドワーフや獣人族、エルフは存在しないというのでしょうか?」

「はい」

「もしかしたらロウリア王国のように人間種以外は迫害しているのか、もしくは攻め滅ぼしたのかもしれません。そんな国とは関わりたくないものです!!」

 

 

メツサルの強まった語気を、ペインは穏やかに制する。それは、レヴァームと天ツ上を信頼しているかのような自信に満ち溢れた言葉だった。

 

 

「ご安心を、彼らの国々には初めから亜人が存在しなかったそうです。亜人に対する差別意識もありません。そして彼らは我々に興味を示しているという事実があります。ロウリア王国とレヴァーム、天ツ上、3つの国と敵対したら、国は持ちませんよ」

「む……少々熱くなりすぎたようです。では私どもも、レヴァームと天ツ上の使者を受け入れ、まずは話だけでも聞いてみようと思います。ありがとうございます」

 

 

後日レヴァームと天ツ上はクイラ王国とのファーストコンタクトとして、会談の場が設けられることとなった。一週間後、レヴァームと天ツ上の使者がやってきた。両国は事前にクイラ王国に許可を取って船で上陸してきた。それは、空を飛ぶ舟で巨大でかつ魔導船のように離陸滑走が必要ないものだった。

 

 

「な、なんと……」

「飛空船……!?にしては大きすぎる!!」

 

 

クイラ王国の軍民たちは初めてみる飛空艦の大きさに驚き、驚愕に包まれる。それを見下ろすかのように重巡空艦と呼ばれる艦種の船はクイラ王国の砂漠に垂直に降り立っていった。場所をクイラ外務局の応接室に移し、レヴァーム外務局と天ツ上外務省の担当者と正式に挨拶を交わして、会談が始まった。

 

 

「改めまして、神聖レヴァーム皇国外務局のアメルと申します」

「帝政天ツ上外務省の宇田です。このたび貴国との国交開設を目的とした事前協議に参りました」

 

 

いまだ警戒心を解かないメツサルは、人間種を相手に片眉を軽く吊り上げる。

 

 

「クワ・トイネ公国から、あなた方は技術力の高い国だと聞きました。我々のような貧しい国に何を望むのでしょうか?」

 

 

 二国が「生贄のための人的資源がほしい」や、「政治体制に対する介入」もしくは「領土的野心」があれば、お引き取り願うつもりでいた。一番先に口を開いたのは、アメルという中性的な外見を持つ男性からだった。

 

 

「まず第一に、我々は友人に貧しさや豊かさを求めていません。とにかく多くの国々と国交を開設しておきたいのです」

「ほほう、国交をですか?」

「はい、その上でお伺いいたします。クワ・トイネ公国からお伺いしたのですが、あなた方の国には貴国には使用価値のない『屑鉱石』が大量にあふれているそうですね」

「はい。なにぶん、ダイヤのような値打ちのないものなので使い道に困っています。それが一体どういたしましたか?」

「はい、単刀直入に申し上げますと我々神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上はその鉱石を求めております」

 

 

その要求は、あまりにも単刀直入で清々しいくらいだった。これは、先手譲歩と呼ばれる交渉手段で、相手に自分の要求を包み隠さず言うことで相手の信頼を得ようとする手段だった。

 

 

「もちろんタダではとは言いません。その条件として、我々は貴国に『インフラ』を輸出いたします」

「条件はこちらでいかがでしょうか?」

 

 

そう言って宇田と言う外交官が上質な紙を差し出した。一枚はメツサルが読めない字で書かれていたが、もう一枚は大陸共通言語のいくつかが記載された対訳表らしく、レヴァームと天ツ上は本来言語が違うのだと初めて気づく。

 

対訳に沿って読み進めると、その条件はクイラ王国にとって苦痛の種であった各種インフラの整備内容が書かれ、にわかには信じられないような好条件の内容だった。

 

 

(これは……使えない屑鉱石の鉱山を数個差し出すだけで、国が相当に豊かになる……)

 

 

メッサルはただただ驚愕の一言であった。電気、水道、ガス、さらには交通関係など。彼らの輸出しようとしているインフラはそれほどクイラ王国を豊かにするものであった。

 

 

「この好条件は本当なのですか?あの屑鉱石にそれほどの価値があるようには思えませんが……」

 

 

メッサルはついに疑問に思っていたことを質問する。

 

 

「…………そうですね。結論から言えば、その屑鉱石はあるものを作るのに必要なのです」

「あるもの?」

「はい、我々がここにやってくるときに乗ってきた飛空艦は見ましたか?」

「はい……あれほどの規模の飛空船が存在しているとは驚きでしたが……」

 

 

アメルは続ける。

 

 

「実は、あれらの飛空艦を作るには水素電池と呼ばれる機械が必要なのですが、その水素電池には値段の高い触媒金属が必要になります」

「なるほど……」

「その触媒というのが、貴国の持つ屑鉱石なのです」

 

 

そこまで説明されて、メッサルはやっと納得した。彼らの使っている飛空艦は特別なものではなく、量産されているものだという。しかし、それを作るには高い触媒が必要。それが、クイラ王国に溢れているとなれば欲しがるのも納得が行く。

 

 

「それで我が国にこれほどの好条件を……」

「はい、我が帝政天ツ上も要求は一緒です。今回、その鉱山はレヴァームと天ツ上で分け合って採掘いたします」

「つまり、その採掘権を条件にインフラを輸出すると?」

「はい、その通りです」

 

 

メッサルはその内容に彼らが驚くほど譲歩をしていることが分かった。自分たちの要求を包み隠さず伝えてくるのはとても信用できる。ここまできて、メッサルはいよいよ彼らのことを信用し始めた。

 

 

「ここに、レヴァームと天ツ上についての資料をお持ちいたしました。ご参照ください」

 

 

そう言って彼らはいくつかの魔写(魔法を使った写真の事)を見せてくれた。そこに写っていたのは、天を貫く摩天楼の都市たち、多数の飛空艦や鉄竜、そして豊かな自然たちであった。

 

どれもこれも見たこともないような風景、技術であり、『レヴァーム』と『天ツ上』という国が、世界の列強国に匹敵するほどの国だと理解するに至る。

 

人間種以外の種族は元々国内におらず、差別が原因ではないと知って、メツサルはようやくクイラ王への上申を決めた。

 

後日、クイラ王国はレヴァーム、天ツ上と国交を結び、有り余るほどの支援を得て、クイラ王国史始まって以来の豊かさを手にした。世界の貧国だった同国はクワ・トイネ公国に並ぶレヴァームと天ツ上の友好国として、世界に名を轟かせることとなる。

 

そして、クイラ王国にも同盟締結の波がやってきた。

 




『クイラ王国から水素電池の触媒が出る』
化石燃料がいらないレヴァームと天ツ上にとって、一番必要なのは水素電池の素材だと思いました。今後も軍事的資源国として重宝されるでしょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。