とある飛空士への召喚録   作:篠乃丸@綾香

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第2章《ロウリア王国編》
第10話〜動乱〜


レヴァームと天ツ上が転移してきてから二カ月が経とうとしていた。その二ヶ月は、クワ・トイネにとってこれまでの歴史上最も発展した二ヶ月であったとされている。

 

レヴァームと天ツ上はクワ・トイネ公国ならびに、隣国のクイラ王国とも接触し、双方と国交を結んで安全保障条約──実質的な同盟──が結ばれた。

 

その同盟は「4カ国同盟」と呼ばれ、もしクワ・トイネ公国もしくはクイラ王国のどちらかが危機に瀕した場合、レヴァームと天ツ上が戦争に加わる形になる。実質的な軍事同盟だった。もちろんこれは隣国のロウリア王国を警戒しての措置である。

 

一方で、レヴァームと天ツ上はこれらを輸入する代わりにあらゆるものを輸出した。

 

大都市間を結ぶつなぎ目のない道路。天ツ上本土にあったような鉄道と呼ばれる大規模輸送機能。さらには飛空艦たちが発着可能な湾岸設備が整えられた。

 

そして、一番大きかったのは電気の存在だ。これはクワ・トイネ公国、クイラ王国の生活様式を根本から変えるものであった。夜でも昼のごとく明るく辺りを照らせる事によって、夜でも外出でき治安も改善した。

 

これらの電力は港の湾岸施設に並行して作られた水素電池発電施設の恩恵がある。水素電池は海水から電力を無限に生み出す、いくら大規模な発電施設を建てようが燃料費はタダだ。

 

このレヴァームと天ツ上に第二の産業革命をもたらした偉大すぎる発明は、クワ・トイネ公国とクイラ王国の魔導師たちを失神させ、救急搬送させるほどの衝撃があった。首相のカナタも初めて聞いた時には目玉が飛び出るかのような凄まじい発明品だと感じた。この水素電池のサンプルを見た経済部の担当者は放心状態でこう言った。「国がとてつもなく豊かになる」と。

 

 

「すごいものだな、レヴァームも天ツ上も。明らかに三大文明圏を超えている。もしかしたら我が国の生活基準も、三大文明圏を超えるやもしれぬぞ」

 

 

カナタは興奮冷めやらぬ語気で秘書に語りかける。使節団として戻って以来、彼はずっとこの調子で興奮しっぱなしだ。

 

その分、かなり仕事が増えて多忙な毎日を送っているがそれでも満足そうだ。それだけ、レヴァームと天ツ上は凄まじいということだろう。

 

 

「辺境国家が文明圏内国を超える生活基準を手に入れるなど、世界の常識からすれば考えられないことですが、使節団からの報告書……何度読んでも信じられません。もしも、これが全て本当なら国の豊かさは本当に文明圏を凌駕すると私も思います」

 

 

カナタと秘書は、この国の行く末を見据えて期待に胸を躍らせていた。彼女もまた、レヴァーム製の質の高い化粧品に身を包んでその美しさに磨きをかけている。

 

 

「しかし、彼らが平和主義で助かりました……彼らの技術、国力で亜人廃絶を唱えられていたかと思うとゾッとします」

 

 

その言葉にカナタは少しだけ顎を抱えると、怪訝そうな顔をする。

 

 

「いや、そうでもないぞ」

「え?どういうことですか?」

「……なんでもレヴァームと天ツ上は数年前まではお互いに敵同士で、共に差別をし合っていたらしい」

「え!?そうなのですか!?二国はかなり仲が良いように見えますが……」

「それはレヴァームのトップのファナ・レヴァーム殿の努力のお陰であり、数年前まではお互いを『猿』や『豚』とよんで人間以下として差別をしていたらしい。そして、それは果てには戦争にまで発展したらしいのだ」

 

 

カナタの口から語られる昔のレヴァームと天ツ上の関係は、とても今の関係からは想像できない壮絶なものだった。

 

他人を人間以下と勝手に区別して、差別して迫害する。やっていたことはロウリア王国と同じであった。そんな事をかの二つの国々は行なっていたのだろうか。

 

 

「彼らはその戦争を『中央海戦争』と呼んでいるらしい。その戦争で、今まで見下されてきた天ツ上人は自分たちが猿ではなく『サムライ』だとレヴァームに知らしめたのだ」

「サムライ……?」

「天ツ上における騎士のようなものだそうだ。ともかく、彼らはその戦争を経てお互いを認め合い、差別をやめて歩み寄っているのだよ……」

 

 

語られる壮絶な真実。あれほどの強大な力を持つ国同士がぶつかり合う様子など、秘書にはとても想像できなかった。

 

 

「ロウリアとも、それくらい仲良くできれば良いのだがな……」

 

 

美しい夕日が、穀倉地帯の広がる地平線に落ちて行く。その向こうにはロウリア王国があった。彼の国とも、レヴァームと天ツ上が歩み寄ったように仲良くできないだろうか?カナタは叶えられない平和な願いをその夕日に込めた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ロウリア王国 王都ジン・ハーク

ハーク城 御前会議

 

 

「ロウリア王、準備は全て整いました」

 

 

ロウリア王国にとっては世界最大の都市ジン・ハーク。これからも、この先もロデニウス大陸最大の都市として栄えるであろうその都市で、この国の行く末を決める会議が行われていた。

 

その中枢たるハーク城の中で筋肉が鎧の上からでも確認出来るほどのマッチョで黒髭を生やした30代くらいの男、将軍パタジンはそう報告した。威厳を持つ34代ロウリア王国大王、ハーク・ロウリア34世に対して頭を下げる。

 

 

「うむ、皆の者。これまでの準備期間、ある者は厳しい訓練に耐え、ある者は財源確保に寝る間を惜しんで背走し、またある者は命をかけて敵国の情報を掴んできた。皆大儀であった。亜人……害獣どもをロデニウス大陸から駆逐することは、先代からの大願である」

 

 

亜人を駆逐するのが夢、全くとんでもなく迷惑な大願である。が、それを何年もロウリアは本気で取り組んできた。王の言う通り、大変なことであった。

 

 

「その遺志を継ぐ為、諸君らは必死で取り組んでくれた。まずは諸君らの働きに礼を言おう」

 

 

列強のパーパルディア皇国に頭を下げ、屈辱的な要求ですら飲み、六年間でここまでの戦力を揃えた。そのことに対して、ロウリア王は礼を言いたかった。

 

 

「おお……」

「なんと恐れ多い」

 

 

皆が恐縮する中、王は続ける。

 

 

「では諸君……会議を始めよう」

 

 

会議場を静寂が満たす。これまでの戦争とは一味違う、初めて開始した侵略戦争のような極度の緊張に包まれる。

 

 

「まず質問ですが将軍、二国を同時に敵に回して、勝てる見込みはありますか?」

 

 

宰相マオスは今回の作戦の全責任者であるパタジン将軍に向かって話し始めた。

 

 

「一国は、農民の集まりであり、もう一国は不毛の地に住まう者、どちらも亜人比率が多い国などに、負けることはありませぬ」

「わかりました、ありがとうございます」

 

 

自信満々の将軍パタジンとは逆に、宰相マオスに懸念事項を確認する。

 

 

「宰相よ、1ヶ月ほど前接触してきたレヴァームと天ツ上とか言う国の情報はあるか?」

 

 

宰相は外交のトップでもある。レヴァームと天ツ上は先んじてクワ・トイネ公国と国交を結んでいた為、敵性勢力として門前払いしてきた。

 

 

「二国とも、ロデニウス大陸のクワ・トイネ公国から北東に約1000kmの所にある、新興国家です。クワ・トイネとクイラとの4カ国で同盟を結んでいるようですが、1000kmも離れていることから軍事的に影響があるとは考えられません。また、奴らは我が部隊のワイバーンを見て『初めて見た』と驚いていました。竜騎士の存在しない蛮族の国と思われます。情報はあまりありませんが」

 

 

ワイバーンはこの世界における唯一と言っていいほど差し違いない軍隊の航空戦力だ。そのワイバーンがいないとなれば、地上、洋上における火力支援が受けられず不利になる。そのためロウリア王国はレヴァームと天ツ上の事をワイバーンのない弱小国家と見下していた。

 

 

「そうですか。では万が一、クワ・トイネ公国がその二国に助けを求めたとしても、大したことないでしょうな」

 

 

パタジンは口の端の片方を釣り上げてそう言った。

 

 

「しかし、我が代でついにこのロデニウス大陸が統一され、忌々しい亜人どもを根絶やしにできると思うと、余は嬉しいぞ!!」

 

 

ハーク・ロウリア34世が嬉しそうに発言する。それを遮るようにわざとらしい気持ちの悪い声が王の耳に入った。

 

 

「大王様〜?統一の暁にはあの約束もお忘れなくですよ〜?クックックッ〜」

 

 

この真っ黒のローブを被った男が、今回の作戦会議に参加させるようにと、パーパルディア皇国から念を押されていた使者だった。声の主は、特に気味の悪い男で王の神経を逆なでる。

 

 

「わかっておるわ!!」

 

 

王の怒気をはらんだ声が会議室に響く。

 

 

(ちっ……三大文明圏外の蛮地と馬鹿にしおって……!ロデニウスを統一したら、国力をつけておまえらにも攻め込んでやるわ!!)

 

 

本来の王の性格であれば、この気味の悪い男をその場で切り捨てるところだ。しかし本作戦はパーパルディア皇国の軍事支援を受けているため、使者をそんな風に無下に扱うことはできない。

 

 

「コホン……将軍、作戦概要の説明を頼みます」

「はっ、説明いたします」

 

 

マオスが場の空気を変えようと咳払いを挟んだ。席を立ったパタジンは会議室の中央に進み出ると、一段低くなった床に置いてあるロデニウス大陸の地図が広げてあるテーブルに駒を並べる。

 

 

「今回の作戦用総兵力は50万人、本作戦では、クワ・トイネ公国に差し向ける兵力は、40万、残りは本土防衛用兵力となります。クワ・トイネについては国境から近い人口10万人の都市、ギムを強襲制圧します」

 

 

ロウリアの領土に置いた騎士団を表す五つの大きな駒。そのうちの4つをギムへと移すパタジン。クワ・トイネ側にも同じような駒はあるが、どれも一回り小さい。

 

 

「ギム制圧後、その東方55キロの位置にある城塞都市エジェイを全力攻撃します。540キロ離れた首都クワ・トイネは我が国のような町ごと壁で覆うといった城壁を持ちません、せいぜい町の中に建てられた城程度です。籠城されたとしても、包囲するだけで干上がります。クワ・トイネ公国で最も堅牢なエジェイを攻略さえすれば、あとは町や村を落としつつ、進軍するだけで終わります」

 

 

ギムに置いた駒で首都を包囲すると、クワ・トイネ側の駒を片付けて倒す。ちなみに兵站については、あの国はどこもかしこも畑であり、家畜でさえ旨い飯を食べているため現地調達する。次に、串で高さをつけた駒と船の駒を動かしながら説明を続ける。

 

 

「かれらの航空兵力は、我が方のワイバーンで数的にも十分対応可能です。それと平行して、海からは、艦船4400隻の大艦隊にて、北方向を迂回。マイハーク北岸に上陸し経済都市を制圧します。食料を完全に輸入に頼っているクイラ王国は、この時点で干上がりますので脅威ではなくなります」

 

 

パタジンは駒の一つを半分に割り、クイラ国境へと置いた。

 

 

「クワ・トイネの兵力ですが、彼らは全部で5万人程度しか兵力がありません。即応兵力は1万にも満たないと考えられます。今回準備してきた我が方の兵力を一気にぶつければ、小賢しい作戦も圧倒的物量の前では意味をなしません。この6年間の準備が実を結ぶことでしょう」

「そうか……」

 

 

王は先代からの悲願が達成されると信じ、高揚のあまり歯を見せた。

 

 

「今宵は我が人生最良の日だ!!クワ・トイネ公国、並びにクイラ王国に対する戦争を許可する!!!決行は一週間後、各人の検討を祈る!!!!」

「ははーっ!!」

 

 

ロウリア王国の御前会議場は、王の戦争開始の許可とともに終了した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「……と、言うわけで。我が国とロウリア王国との国境付近で軍事演習を行い、ロウリア王国にレヴァームと天ツ上の実力を示してもらいたいのです」

 

 

神聖レヴァーム皇国皇都エスメラルダ、そこで開催されていた4カ国同盟の会議にてカナタ首相はそう発言した。レヴァームと天ツ上、そしてクワ・トイネとクイラの4カ国が同盟を組んだ今、対ロウリア王国への対策として4カ国のトップが一堂に会して話し合いをする場だった。

 

 

「なるほど、ロウリアとの戦争を避けるにはそれが一番の方法かもしれませんね」

 

 

四等分された丸いテーブルを挟んで出席していた天ツ上外務省キャリアの田中もその案に賛成であった。クワ・トイネ公国はレヴァームと天ツ上との同盟があるものの、やはりロウリア王国との全面戦争は避けて仲良くしたかった。

 

レヴァームと天ツ上はロウリアに門前払いされた今、二国の実力を示すには国境付近のギムという都市の近くで大規模な軍事演習を行い、ロウリア王国を警戒させる。これでロウリア王国が警戒してくれれば、戦争をせずに済む。さらにこれは、軍事同盟の結束力強化にもつながる良い案であると皆が思った。

 

 

「軍を駆使して威嚇するのは誠に遺憾ですが、我がレヴァーム皇国もその案に賛成です。戦争をあらかじめ止めるには、わざと威嚇する方法も行うしか無いでしょう」

 

 

ファナもロウリア王国との戦争は望んでいない。そのために軍を使うのは遺憾であったが、それでロウリア王国を止められるのであれば致し方ないと考えていた。

 

かくして、4カ国同盟のすべての国が参加してギムの近くで軍事演習を行うことが決定された。ロウリア王国による宣戦布告まで、あと4日を残しての決行だった。

 

 

「ありがとうございます。決行は3日後を考えております。レヴァーム、天ツ上がどんな国かを知らしめてやりましょう

 

 




『ギムでの軍事演習』
対ロウリア王国用に威嚇をすることにしました、この世界ではレヴァームと天ツ上はじゃんじゃんやらせます。
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