とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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アデムさんってナンバーズらしいですが、ロウリア戦で殺しちゃって良いんですかね……?ご意見があればお願いいたします。


第12話〜軍事演習〜

 

ギムの空に異空の音調が鳴り響く。

 

異界より来たりし鉄竜達が空を支配していた。流れるDCモーターの駆動音とプロベラの風切り音を空に響かせながら、レヴァームのアイレスVと天ツ上の真電改がそれぞれ入り混じるかのように交差して行く。

 

アイレスVが真電改の背後を取った。四門の20ミリ機銃が一斉に火を噴く。統一された口径の機関砲は、安定した火力を誇る。

 

機関砲の弾が真電改に突き刺さる。しかし、炎が照りつけることはない。弾丸は翼に当たった瞬間砕け散り、ピンク色の塗料を撒き散らすだけであった。撃墜判定、真電改はそのまま空戦空域を離脱して行く。

 

天ツ上の飛空士達も、このままやられはしないと戦術を柔軟に変えて対応してくる。その中で一人、アイレスVに乗る狩乃シャルルは空を傍観するかのように悠々と飛行を続けていた。

 

前方を見れば、三機の真電改が前方から高度を下げながら上から奇襲してくる。さらに後方をみれば4機の真電改がアイレスVを追い立てる。

 

 

「前と後ろから挟み撃ちか」

 

 

そう呟いた途端、シャルル機に向かって閃光の嵐が一気にほとばしる。シャルルは驚くこともなく、そのまま機体を翻し、急横転を打って悠々と回避する。

 

そして、二つの編隊がすれ違うとその隙を狙って急横転のまま下方へと一気に降下する。4機がそれを追い立て、3機は上昇してから体勢を立て直そうとしている。

 

しかし、それはブラフだ。

 

シャルルは急降下すると見せかけて一気に操縦桿を引く。するとアイレスVはスッと真電改達の視界から消えてしまった。

 

その隙に、シャルル機は急上昇をしてそのまま宙返りの体制に入る。その途中で、先程上昇体制に入った三機の真電改の大きな背中が目に映る。

 

上昇中で、しかもご丁寧にも被弾面積が大きい背面体勢に入っている。シャルルの腕前で外すものなどいない。

 

瞬間、シャルル機の四門の20ミリ機銃が一気に火を吹き、ペイント弾がほとばしる。端にいた一気を撃ち落とすと、フットバーを右に蹴りつけて背面飛行のまま撃ち落とす。さすれば、あっという間に3機ともペイント弾に汚れてピンク色に光っていた。

 

 

「どうしたの?僕はまだ自動空戦フラップを使ってないよ」

 

 

シャルルは人殺しをしないで済む空戦に胸を躍らせながら、彼らを少々煽ってみた。それで頭に血がのぼる人間は天ツ上の飛空士にはいないが、通信からは驚きと驚嘆の声が騒ぎ始めていた。

 

その後も空はシャルルの独壇場となり、天ツ上の真電改は全て撃墜判定をもらって退散していった。

 

 

「シャルルさん凄いです!15機も撃墜しましたよ!」

 

 

列機として付いてきていたメリエルが通信越しに興奮鳴り止まない声根でシャルルを煽てる。

 

 

「ありがとう。でも列機である君の援護のおかげだよ」

「いえいえ!それよりあの挟まれた時の回避行動は凄かったです!まるでひらひら舞い落ちる木の葉のような機動で……」

 

 

シャルルの褒め言葉を聞き流しながら、メリエルは興奮鳴り止まない。

 

ギムの周辺でレヴァームと天ツ上、そしてクワ・トイネとクイラの4カ国合同演習が始まっていた。地上での訓練と空中での戦空機達の模擬空戦が幕を開けていた。

 

この訓練は、4カ国の連携を密にすることを目的としているがそれは表向き。本当はこの訓練でレヴァームと天ツ上の実力を証明して、ロウリア王国を警戒させることを目的としていたのはアントニオ大佐から聞いていた。

 

訓練場となったギムの平原には、地上車両が多数ひしめき合い、レヴァームの戦車が砲撃訓練を行っている。そして空ではレヴァームと天ツ上の戦空機達が模擬空戦を行っていた。

 

しかも、ギムの向こう側にあるロウリア王国との国境線近くに布陣させ、まじまじと見せつけている。

 

ここまでくると、ロウリア王国側の反応がいささか心配になってくる。恐怖やトラウマを植え付けられてシェルショックみたいな事になったら少し哀れだと思う。レヴァームと天ツ上にとってはそれが一番いい展開なのだろうけど。

 

今回の演習の目的はロウリア王国を警戒させて、戦争をあらかじめ抑止する効果を期待している。こいつらと戦争をしたら自分たちが痛手を請うぞ、というのをロウリアに教え込むのだ。

 

すると、空に異形の音調が鳴り響き始めた。アイレスVのプロペラの轟とも違う、もっと力強く強力な空気を震わせる音調であった。

 

振り向けば、雲の波間が逃げ惑うようにして黒がこちらへ向かっていた。ギムの方向、かなり遠目の方角に巨影が空を支配していた。

 

 

「エル・バステルだ」

 

 

飛空戦艦エル・バステル、それがかの船の名前だ。5基の揚力装置を轟かせ、空を震わせてギムの周辺を悠々と飛行している。

 

やがて、エル・バステルの4基の主砲塔がギムの国境線付近の方向を向く。地上、空の上にいる演習に参加した全員がそれをまじまじと見てエル・バステルの轟を待っていた。

 

そして、空が明るく爆ぜた。

 

4基12門の46センチ主砲が火を吹いた。その場にいた全員が思わず耳を塞ぐほどの轟だ。46センチ砲の主砲弾12発が国境線に向かって飛翔して行く。

 

そして、砲弾が地面に突き刺さる。

 

瞬間突き刺さる手前で信管が作動し、通常より質量が重い炸薬が炸裂した。火山の噴火のように地面を砕き、着弾点を更地に変える。噴火の爆煙と炎が標的となった案山子達を煤煙に変え、帰らぬものとする。

 

砲弾は明らかに命中し、そして着弾する前に炸裂した。エル・バステルの砲弾には近接信管が内蔵されており、地面につく前に照射された電波で距離を測って適切な距離で信管が作動するようになっていた。今回はその新型砲弾のテストを兼ねていた。

 

 

「凄い衝撃だ……」

「はい、さすがは戦艦です」

「うん、ちゃんとコリオリ力も計算に入れられているみたいだね」

 

 

今回、エル・バステルがわざわざ砲撃訓練をしていたのには訳があった。

 

転移現象でレヴァームと天ツ上が球面惑星に転移したことにより、以前の惑星では無かったコリオリ力が観測されるようになったのだ。

 

コリオリ力は戦艦の砲撃にも影響を与える。今までコリオリ力を視野に入れていなかった為にレヴァームと天ツ上の戦艦はこの世界での環境で砲撃戦が出来なくなってしまっていたのだ。

 

そこでコリオリ力を数値化し、再訓練をこの二ヶ月で行い、その真価をこの場で試すためにエル・バステルはこの軍事演習で砲撃訓練を行ったのだ。

 

 

「これで、エル・バステルも戦える」

 

 

新たに戦艦が使えるようになり、レヴァームと天ツ上は着々とこの世界での環境に慣れ始めている。このまま平和が続けばそれが一番なのだが……

 

 

「さてどうするのかな?ロウリアは」

 

 

これで戦争が起きるかどうかはロウリア王国の決断にかかっていた。願わくば、ロウリアの王様が懸命な判断をしてくれることを願うばかりだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ななな、なんなのですかぁ!あれは!」

 

 

ギムの近くに陣取っているロウリア軍先遣隊、副将アデムは双眼鏡を片手に部下に問いただしていた。それも血気溢れんばかりの顔つきで。

 

彼の目線の先には、謎の爆裂魔法によってまっさらに破壊されたギムの国境線付近の標的が写っていた。そのさらに先には、爆裂魔法を放ったと思わしき巨影が空を飛んでいた。

 

ありえない。

 

そんな言葉がパンドールの心の底から飛び出してくる。あの巨影は見たところ全長が200メートルはあろう巨大な船だ。それが空を飛んでいるだけでもあり得ないのに、これ見よがしに爆裂魔法を次々と放ってきている。

 

一体あれはなんなのか?一体どこの船なのか?まさか古の魔法帝国の物ではないか?

 

先遣隊の面々は恐怖に駆られて騒ぎ出している。そんな中で冷静を保っていられるのは彼ら指揮官だけであった。

 

 

「わ、分かりません!げ、現在調査中でございます!あの空飛ぶ船が何なのか、依然情報が錯綜しておりまして……」

「具体的どのような方法で調査しているのですかぁ!!!!!」

 

 

騒ぎ始めたアデムの声が聞こえている。さらにその飛行船の周りには得体の知れないワイバーンの様な飛行物が、空を鳥の様に飛び回っている。

 

パンドールの疑問は尽きない。一体、あれほどの爆裂魔法を投射するには一体何万人規模もの魔道士が必要なのだろうか?いや、例えその規模の魔導師を集めてもあんな威力の魔法は放てない。そもそも魔導師の情報によれば周りに魔力は全く感じられないというではないか。

 

では、一体何者なのだ?どうやって船を空に飛ばして爆裂魔法を放っている?

 

その時、船に付いた棒状のものが一斉に火を噴くと、しばらくの金切り音と共に地面に爆裂魔法が炸裂した。

 

 

「ひっ!!!!」

 

 

恐怖の副将アデムの顔が、恐怖に歪む。今の一撃はこれ見よがしに国境線ギリギリのところに放たれた。つまり、奴らはやろうと思えば国境線に配置されたこちらを爆破する事が可能という事だ。それを知ったアデムの顔がさらに歪む。

 

 

「今すぐこの事を本国に連絡するのだ!魔信だけでは足りん、魔写も撮って王都に直接伝令しろ!」

 

 

その号令一下、パンドールの周りの部下達が一斉に動き出す。一方で、アデムは恐怖に歪んで立ちすくむだけであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「一体なんなのですかこれは!?」

「どこの勢力のものだ!?クワの蛮族共がこんなものを作れるはずがないだろう!!」

 

 

ロウリア王都ジン・ハーク。そのハーク城の一室にて、先遣隊からの伝令で届いた魔写の画像を見た重役達が野次を飛ばしながら騒ぎ始めた。

 

原因は言わずともがな、送られてきた魔写の画像だ。そこには、200メートルクラスの巨大な鉄の船が空を飛び、強力な爆裂魔法を放って地面を更地に変えている魔写であった。

 

対クワ・トイネ戦を間近に控えたロウリア王国に、先遣隊から直接伝令が駆け込んで来た。慌てたような口ぶりと、支離滅裂な表現しかしない伝令に対し、何が起こったのかと問いただしたら、この魔写を持ってきたのだった。

 

魔写の内容のありえなさに対し、ロウリア王国の重役達が一堂に会して緊急会議を行うことになったのだ。魔写の内容を見た幹部達の反応は、この通りである。

 

 

「200メートルを超える鉄の船が空を飛ぶなどありえん!何かの間違いだ!!」

 

 

運営責任者である将軍パタジンが怒号を上げて魔写の内容を全力で否定する。

 

彼のいうことは正しいと思える。いくら技術が高くても200メートルを超える船などまず作れるはずがないし、それが鉄で出来ているなど信じられない。まず浮かぶはずがないからだ。

 

しかも、そんなものが空を飛んでいるだと?あり得るはずがない、天地がひっくり返っても鉄で出来た船を空に浮かべる事など不可能。パタジンはそう思っていた。

 

 

「しかし、魔写に写っているこの巨大船は事実ですぞ!それに、先遣隊からわざわざ伝令が駆け込んで来たのですぞ!」

 

 

比較的冷静なマオスがパタジンの意見を否定する。

 

 

「もしや何処かの国が支援をしているのでは!?列強国のどこかがクワ・トイネを支援しているに違いない!」

「ならパーパルディア皇国か!?使者殿!貴様我々を支援するといいつつ、クワ・トイネにも支援を行っていたのか!?」

「い、いえ……我が国にとっては知らぬ事でございまして……」

 

 

問い詰められたパーパルディアの使者は、たじろいでごにょごにょと冷や汗をかいているだけであった。

 

先日のハーク・ロウリア34世に向かって無礼な態度をとった時とは一転、疑いの念をかけられてローブの下を汗だくにすることしか出来ないでいる。実に無様だった。

 

 

「だとしたら、これらは一体どこの勢力のものなのです……?」

「ほ、報告では船のマストの上に剣と盾の国旗が掲げられていたとの事です……」

「剣と盾?」

 

 

マオスが思わず復唱する、彼にはその剣と盾の国旗に心当たりがあった。何週間か前にジン・ハークの外務局の門を叩いたとある国の使者達。

 

クワ・トイネと国交を開いていたため、外交権を与えられていた自分が直々に追い返したあの国の使者は、剣と盾の国旗を携えていた。ハッと思い出した。

 

 

「レヴァーム!!!!!!」

 

 

その名が大きく会議場に轟いた。

 

 

「そうです!これは神聖レヴァーム皇国の飛空船なのです!!」

「レヴァームだと!?あのワイバーンすら知らない蛮族がか!?」

「あの国はワイバーンなど必要ないから、見たことがないのですぞ!事実!この船は空を飛んで爆裂魔法を投射したのです!ワイバーンなど必要ありますか!?」

 

 

各人から野次が飛ぶが、マオスはレヴァームの実力を思い知ったかのように引き下がらなかった。

 

 

「……それよりヤミレイ殿。これほどの船を空に浮かべて、なおかつ強烈な爆裂魔法を投射するとなれば、どれ程の魔力が必要となりますかな……?」

「…………はっきり言って不可能です、船を浮かべるだけでも天文学的数字の魔力が必要でありまして、なおかつ爆裂魔法ともなればどれほどの魔力が必要になるのか見当もつきませ…………はっ!!もしや」

「もしや、なんです!?」

 

 

手元の資料をにらんでいたヤミレイが、何かに気づいたかのように目を見開く。ヤミレイは冷や汗をぬぐい、慎重に言葉を進める。

 

 

「この空を飛ぶ巨大船……もしや、レヴァームという国は古の魔法帝国なのでは!!??」

 

 

その言葉に、会議場に衝撃が轟く。

 

この世界で知らぬ者はいないと言われる、伝説の超大国『古の魔法帝国』。

 

人間の上位種達の国であり、自らの種族以外を家畜同然に扱い、その優れた技術にものを言わせて神にすら弓を引いたと言われている。

 

それに激怒した神は、魔法帝国のある大陸に対して隕石を落とし、これを沈めんとした。勝てないと判断した魔法帝国は大陸ごと時間転移魔法で転移し、未来へと消えていった。

 

『復活の刻来たりし時、世界は再び我らにひれ伏す』という絶対に壊れない石碑を残して……

 

その古の魔法帝国でなければ、こんな空飛ぶ兵器を生み出すことは不可能だろう。古の魔法帝国には『天の箱舟』と呼ばれる巨大な飛行兵器が存在していたというではないか、これはその天の箱舟ではないのか?

 

 

「だ、だとしたら勝ち目がないですぞ!奴らはクワ・トイネと同盟を組んでいる!攻め込めば必ず援軍を送って来ますぞ!!」

「いや!古の魔法帝国ならば、周辺国と同盟を結ぶことなどしない!!何かの間違いだ!!」

「そもそもなんでこんな国家が急に現れた!!マオス殿、貴様が門前払いをしなければ奴らの情報が手に入ったはずなのに、どうしてくれる!!!」

 

 

会議場はまたも怒号に包まれた、もう荒れに荒れて手がつけられていない。新興国であったはずのレヴァームと天ツ上がまさかこんな兵器を生み出して私役している事に、彼らはこのまま戦争を仕掛けて良いのかはっきりとしなかった。

 

戦争をすればレヴァームが援軍を送って来ることを危惧する者、古の魔法帝国である事を否定する者、門前払いをしたマオスの責任を問う者。

 

会議場はもはや阿鼻叫喚、地獄のような怒号で壁も耳もはちきれそうであった。しかし、そんな中で一人微動だにしない佇まいを持つ人物がいた。ハーク・ロウリア34世であった。

 

 

「皆の者!!」

 

 

今まで何も喋らずに傍観していただけに見えたハーク・ロウリアが立ち上がって怒号をあげた。

 

 

「ここで怒号を撒き散らして何になる!?我々が苦渋を飲んで行ってきた準備はなんだ!?たとえ古の魔法帝国であろうが、そうでなかろうが、今の王国ならば全てを打ち倒せようぞ!!ここで戦争を止めようなどと、貴様らは敗北主義者なのか!?このたわけ供が!!!」

 

 

ハーク・ロウリアは声に怒気をはらんで声を上げる。

 

6年間、6年間も準備を重ねてきた。パーパルディアに頭を下げて支援を受け、ロデニウス大陸を支配できるほどの戦力を整えた。ここまできて戦争を止めるなどと弱腰の対応をしようとする重役達が、ハークにとっては許せなかった。

 

思わず、重役達が一斉に頭を下げて許しをこう。彼のいう通り、ここまできてのこのこと戦争を止める気などまっさらない。

 

 

「クワ・トイネとの戦争は明日決行する!!相手が古の魔法帝国であろうと殲滅せよ!!亜人供をこのロデニウス大陸から駆逐するのだ!!!!!」

「はっ、ははあ!!」

 

 

一度は戦争をしない方向に傾いたが、ハーク・ロウリア王の演説の一言によって、結局無理やり戦争が継続されてしまった。

 

ああ、現実は何と無情であろうか。

 

 




『結局戦争は起こった』
やっぱり今回もダメだったよ…………

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